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小児から高齢者までの姿勢保持
工学的視点を臨床に活かす

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日本リハビリテーション工学協会 SIG姿勢保持(Special Interest Group)により、障害児・者、高齢者に対する姿勢保持の基礎と実際をまとめた入門書。姿勢保持の基本的な概念をおさえ、製作時のチェックポイント、現場で役立つ工夫など、経験豊富な執筆陣でまとめられている。福祉・教育関係者にもわかりやすく、おすすめの1冊。
編集 日本リハビリテーション工学協会 SIG姿勢保持
発行 2007年08月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-00501-2
定価 5,170円 (本体4,700円+税)
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はじめに
繁成 剛(SIG姿勢保持代表)

 姿勢は姿に勢いがあると書き表しているように,人体のダイナミックなバランスによって成り立っている.もし日常生活で座位や立位などの基本的な姿勢が保てなかったとしたら,多くの人は社会的な活動が著しく制限されるだろう.先天的あるいは後天的な病気や事故によって座位や立位がとれない人に対して,適切な姿勢で保持することができる装置を適用することにより,日常生活の活動や社会的な参加が可能となる.わが国の姿勢保持の技術は,関係者の努力によってこの四半世紀で大きな進歩を遂げた.特に1970年代の中頃から木製の座位保持装置の製作を始めた工房と,装具の成型技術を応用してモールドシートの生産を始めた義肢装具メーカーが中心となって,姿勢保持装置の製作技術を向上させていった.同時に療育施設やリハビリテーションセンターのリハビリテーション工学技師,理学療法士および作業療法士が,利用者1人ひとりに姿勢保持装置が適合するまでフォローアップすることによって,フィッティング技術も向上した.
 このような背景のなかで1987年に日本リハビリテーション工学協会の専門分科会(SIG:Special Interest Group)として結成されたSIG姿勢保持は,1989年から講習会を全国各地で開催し,姿勢保持に関する知識と技術を普及する活動を続けてきた.本著はこれまでの講習会の資料集およびテキストとして毎年作成してきた「姿勢保持研究」がベースになっているが,長年,姿勢保持装置の製作や適合作業に携わってきたエンジニアとセラピストが中心となって,これらの姿勢保持に関する支援技術を,初心者でも理解しやすい内容に集大成したものである.書籍として編集するにあたってSIG姿勢保持の世話人の中から5名が編集担当となり,できるだけ図や写真を多く掲載し,ポイントを視覚的に理解しやすい形に編集した.これから姿勢保持に取り組もうとしている療育やリハビリテーションの現場のスタッフから,すでに経験を積んでいる製作技術者や教育関係者まで,幅広い現場のニーズに応えられるように情報を整理し,集約したつもりである.本著によって医療,福祉そして教育の現場で姿勢保持の技術が拡がることを祈念している.
 なお本著で使用している用語は,日本標準化機構(JIS)のT9201(2006年改正)とSIG姿勢保持,車いすSIGおよびSIG褥そう防止装置が合同で編集した車いすシーティング用語集(2005年)に準拠している.
 2007年 8月

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基礎編
 I 姿勢保持の基礎知識
  1. 姿勢保持の考え方
  2. 姿勢保持のおさえておきたいポイント
  3. 姿勢保持の医学的基礎知識
  4. 姿勢保持の歴史
  5. 姿勢保持装置の概要
  6. 車いすと姿勢保持
 II 姿勢保持装置製作の実際
  1. 姿勢保持装置提供までの実際
  2. 現場で活きる製作技術の紹介
応用編
 I 小児
  1. 小児期における姿勢保持の問題点とチェックポイント
  2. 小児疾患における姿勢保持の基礎と実際
  3. 障害児教育現場における姿勢保持
 II 高齢者
  1. 高齢者の姿勢保持のポイント
  2. 高齢者用姿勢保持装置と車いす
  3. 高齢者介護施設における姿勢保持
 III 生活支援と姿勢保持
  1. ADLにおける姿勢保持の実際
  2. 遊びを拡げる姿勢保持
  3. コミュニケーションを促す姿勢保持
  4. 水の効果と姿勢保持
  5. 乗馬の効果と姿勢保持
  6. スキーを楽しむ支援機器
  7. 姿勢保持機能付き自転車と改造方法
付録
  姿勢保持装置に関する制度と交付基準
索引

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実践家が専門性と経験を基に具体的かつ臨床的に書かれた書
書評者: 宮田 広善 (姫路市総合福祉通園センター)
 障害のある人たちの自立を「自助具や他人の援助を受けるとしても,自分の行動に責任を負い,自分の能力に合った生活を主体的に選択し実践すること」と定義したのは,60年代に障害者自立生活運動を闘った障害当事者たちであった。この本を読み終わって,今,半世紀前の彼らの想いを感じている。

 彼らの運動が育んだノーマライゼーションの世界的潮流は,リハビリテーションの目標を「ADL(生活機能)の改善」から「QOL(障害のある人の生活や人生の質)を豊かにする努力」に変え,「障害による暮らしにくさは社会全体の課題であり都市環境や生活機器の改良によって軽減されるべき」とする国際生活機能分類(ICF)にも繋がった。わが国の医療・福祉・教育がその流れに呼応して自らを変化させてきたかどうかは疑わしいが,本書のテーマである「姿勢保持」の理念は,AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大・代替コミュニケーション)の理念とともに,障害のある人だけでなく高齢者や子どもなど,生活場面で具体的な支援が必要なすべての人に対する支援のあり方や方向性を確実に指し示している。

 本書は数少ないリハビリテーション工学の実践書である。内容は基礎・理論から臨床・応用まで,対象は乳幼児から高齢者まで,そして生活場面からスポーツや遊びの場面まで,さまざまな実践家がその専門性と経験を基に執筆した具体的かつ臨床的な実践の書である。そして,先駆者たちが姿勢保持装置を考案し,遅々として進まぬ制度の枠を押し広げながら,利用者に提供できる制度をつくってきた歴史書としても興味深い。

 また,本書は理論・理念の書でもある。本書から,障害とは何か,障害者の暮らしはどうあるべきか,自立とは何かを考えていただきたい。障害のある子どもの育ちや障害のある人の暮らしを支える執筆者たちの確固とした意志が感じられるはずだ。

 生活上の支援を求める人たちに関わる者には,高い知識・技術とともに高邁な理念が求められる。本書は,その両方を読者に与えてくれる。医療,福祉,教育の現場で障害のある人たちを支援する職員だけでなく,学生や研究者そして当事者や家族の方々にも読んでいただきたい。

 障害福祉制度は近年,措置制度から支援費制度を経て障害者自立支援法へとめまぐるしい変化の中に在り,障害のある人への医療や福祉システム全体が揺れ動いている。本書は,そのような時代にあってもなお,障害のある人に生活の安心と充実を保障しようとしている職員たちに指針のひとつを提供してくれるだろう。
実践的な知識・技術を収載した姿勢保持を理解する
書評者: 伊藤 利之 (横浜市総合リハビリテーションセンター顧問)
 本書は,1987年に日本リハビリテーション工学協会の専門分科会として結成された「SIG姿勢保持」(SIG:Special Interest Group)により,1989年から行ってきた講習会の資料集やテキストを基に編纂されたものである。執筆者は,長年にわたり姿勢保持装置の製作や適合作業に携わってきたエンジニアとセラピストだが,彼らはわが国の姿勢保持装置の技術開発と普及に貢献してきた最前線の有志たちである。

 わが国において座位保持装置が市民権を得たのは,1990年,身体障害者福祉法および児童福祉法が改正され,座位保持装置が補装具の新規種目として取り入れられた時からである。本書の付録「姿勢保持装置に関する制度と交付基準」によれば,そもそも補装具の交付基準を改正しようという動きは1987年頃からであり,大阪で開催された日本義肢装具学会のシンポジウムで,座位保持装置の現状が討論されたことがきっかけになったようである。同じ時期,政府もその必要性に鑑み,国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所(現 国立障害者リハビリテーションセンター研究所)では,厚生科学研究として「座位保持装置の開発と普及に関する研究」を実施,その有効性が明らかにされている。

 その後,本書の執筆者をはじめとする多くの関係者の努力により,小児や高齢者の座位保持装置は,車いすとの合体を含めて今やなくてはならない存在になっており,その給付件数も,とりわけ小児ではうなぎのぼりに増加の一途をたどっている。そのためか,最近では適応範囲を逸脱しているのではないかと疑問を呈したくなる一方で,ご他聞にもれず,地域による格差もまた広がっている。関係する医師やエンジニア,セラピストのいる総合リハビリテーション施設などがある県では給付件数も多く,質も高いが,関心の薄い県では明らかに給付件数が少ないのが特徴的である。

 座位保持装置の処方や適合チェックには,体幹装具以上の適合技術が必要であり,その意味では車いすの比ではない。それだけに,処方に当たっては姿勢保持に対する豊富な知識と技術を有する人材が必要であり,同時に,一人では対応困難なことも多いためチームアプローチの体制が強く求められている。

 本書の構成は,基礎編と応用編に分かれており,基礎編では「姿勢保持の基礎知識」として,その考え方,ポイント,医学的基礎知識,歴史,姿勢保持装置の概要,車いすとの関係などについて,また,「姿勢保持装置製作の実際」では,利用者に姿勢保持装置を提供するまでの実際,臨床現場でできる製作技術など,実践的な知識や技術などが紹介されている。また応用編では,「小児」「高齢者」「生活支援と姿勢保持」に分かれており,それぞれ基本的な知識から最新の姿勢保持具や現場の工夫などが紹介されている。全体として,初心者でも理解しやすいように図や写真が多用され,重要なポイントを視覚的にも理解しやすいように編集されており,大変わかりやすく,姿勢保持に関心を持つ関係者や学生のテキストとしてうってつけの書といえよう。

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