脳の機能解剖と画像診断

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脳の基本構造と主たる神経機能系伝導路をCT、MRIの基準断面に投影して、シェーマと色図で図示、解説した参考書。各スライス面に対応したCT、MRIの画像を収載。脳動脈支配領域では、3次元表示コンピュータグラフィック画像も加わった。「臨床へのヒント」として神経機能系の病変部位とその主症状について記載が充実し、さらに神経伝達物質・神経調節因子に関する記載もup-dateされた。
真柳 佳昭
発行 2008年04月判型:A4変頁:484
ISBN 978-4-260-00047-5
定価 22,000円 (本体20,000円+税)
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訳者の序

 Hans-Joachim Kretschmann, Wolfgang Weinrich著“Neuroanatomie der kranielle Computertomographie(1984)”「日本語訳:CT診断のための脳解剖と機能系(1986)」と,“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(1991)”「日本語訳:画像診断のための脳解剖と機能系(1995)」は,国際的に名著として高い評価を受け,本邦でも多くの読者に支持された。本書は,その第3版“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(2003)”の邦訳である。CT診断のための図譜を中心に出発した本書は大きく成長し,脳の構造・機能・血流分布・臨床症状など内容も豊富になったので,訳書のタイトルは原著に近い「脳の機能解剖と画像診断」とした。MR画像,CT画像の読影のために最高の教科書であることに変わりはない。
 著者の基本的な構想は,脳および頭部の解剖学的構造を,前額断・矢状断・軸位断(外眼角耳孔面)という3つの平行切片の連続図譜として提示し,その中に神経機能系の位置を明示することであった。第2版からは,これに脳幹横断シリーズが加えられたが,この4つの平行切片の図譜シリーズは第3版でも継承されている。
 第2版では,いずれのシリーズでも,1つの切片は,それぞれ「脳と神経」および「骨構造,筋肉と血管」を示す2枚の図譜に描かれ,それに小さなMR画像あるいはCT画像が付されていた。新しい第3版では,1つの切片は上記の2枚の図譜に加えて,同じ大きさの2枚のMR画像,CT画像(MRI-T1, T2強調画像,あるいはMRI-T1強調画像とCT画像)を加えた計4枚セットで構成されている。図譜と画像が同じ大きさになったので,視覚的に自然でページを繰っていて心地よく,医師が患者の画像を読影する際に大いに役立つと思われる。また,本書を通読するだけでも,MR画像,CT画像読影の訓練にも有用であろう。脳幹シリーズでは,MRI-T1,T2強調画像は小さ目であるが,脳幹の美しい拡大図譜は本書の長所の一つである。
 今回の改訂で著者が最も力を入れたのは,恐らく,脳幹と小脳の脳動脈分布域を示す図譜とコンピュータ・グラフィックによる脳血管分布図ではないだろうか。MR技術の進歩によって,微小脳梗塞の急性期診断が可能になり,早期血栓溶解術という新しい治療法が発達してきたことを考慮しての企画であったに相違ない。また,微小脳腫瘍や微小血管奇形に対する定位的放射線治療の際にも,本書が大きく貢献するであろう。
 ドイツ語のテキストは基本的に第2版を踏襲しているので,翻訳は第2版の邦訳を底本にして始めたが,「臨床へのヒント」が大きく加筆され,また,ほとんど全章にわたって細かな修正が加えられているので油断がならない。本書に対する著者の並々ならぬ愛着が感じられたが,それは訳者とて同じ心である。校正の段階で英訳本が出版されたので,これも参照したが,英訳本にはかなり大胆な加筆と修正が見られた。邦訳はドイツ語の原文に従うことを原則としたが,明らかに読みやすい部分は英訳を取り入れた。文献に関しては,英訳本では原本の文献に最新の英語論文を追加して作成されているので,これを採用した。
 解剖用語に関しては,原著のテキストではラテン語とドイツ語が使われており,図譜はラテン語で統一されている。国際解剖学会における用語統一の問題については,第1章4節を参照されたい。英訳本では,テキスト・図譜ともに主として英語が用いられている。本訳書では,図譜は英訳本を採用し,日本語の解剖学用語は,新著の解剖学用語,改訂13版(医学書院,2007)に従った。疾患名や症候名については,岩田 誠著:神経症候学を学ぶ人のために(医学書院,1994),神経学用語集,改訂第2版(文光堂,1993),脳神経外科用語集,改訂第2版(南江堂,2006),放射線診療用語集,改訂第3版(金原出版,2002)などを参照した。
 本書の初版と第2版を共訳させて頂いた久留 裕先生のご逝去によって,今回の翻訳は孤独な作業となった。しかし,先生を偲び,多くの教えに感謝を新たにする時間でもあった。24年前に初版本を前にして,久留先生と「誰かが書くべき本が,遂に生まれた」と話し合ったのが,昨日のことのように思われる。医学書院の方々には,すべての工程にわたって,激励と尽力を頂いた。ここに,心からの感謝を表したい。
 本書が毎日の臨床の現場で,ボロボロになるまで使われることを願う。また,医学生や研修医の諸君に,「脳の形態と機能」という玄妙なテーマに関心を持つ契機になってほしいとも思う。
 2008年2月
 真柳佳昭

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1 はじめに
2 断層画像診断と目印構造
3 さまざまな平行断面における顔面頭蓋と腔のトポグラフィー
4 さまざまな平行断面における頭頸移行部のトポグラフィー
5 さまざまな平行断面における神経頭蓋,頭蓋内腔と頭蓋内構造のトポグラフィー
6 神経機能系
7 神経伝達物質と神経調節因子のトピックス
8 研究資料と研究方法
9 文献
10 和文索引
11 欧文索引

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神経解剖学に裏打ちされた画像の書
書評者: 中野 今治 (自治医大教授・神経内科学)
 本書は『脳の機能解剖と画像診断』と命名されている。脳の図譜とそれに対応する脳画像(主としてMRI)が見開き2頁で見やすく提示されている。

 しかし,本書は画像診断のための単なるアトラスではない。「最新の画像診断機器は患者にとって不利益ともなり,危険ともなりうる」(p1)。その通りである。このような記載は脳画像の他書には見られない。「画像診断によって一目瞭然な病的所見が,いつも臨床症状を起こしている原因とは限らない。画像上の病理所見と臨床症状とを関連づけるには,機能局在に関する神経解剖学の知識が必要である」(p1)。全面的に賛成である。本書は画像の書であるが,神経学の基本的考えで裏打ちされている希有な書である。

 とはいえ,本書の命はやはり脳の局所解剖図譜にあると思う。しかも,その図譜が,取り出された脳を元にしたのではなく,生前の形態が保存されるin situ固定脳標本を用い,定位脳手術などで用いられる直行座標軸や座標枠にのっとった切面にしたがって作成されたという点に本書の真骨頂があると思う。

 第8章「研究資料と研究方法」を読むと,本書の図譜が実に丁寧に作成されたものであることがわかる。本書には4シリーズ(前額断,矢状断,外眼角耳孔面,脳幹)の脳図譜が納められている。図譜作成のために献体された4個体をそれぞれのシリーズ作成に用いている。まず全身固定した後にマイナス26℃で6日間凍結し,帯鋸を用いて脳を含む10mm厚さ(脳幹シリーズは5mm厚さ)の頭部切片を作成,次に各切片の等倍撮影写真上にセロファン紙を置き,常に実物切片を参照しながらトレースして仕上げられたものである。

 脳切(brain cutting)後に脳回を同定することは至難の業である。Brain cuttingでは,切面での同定が必要な脳回には墨汁等であらかじめマークを付け,それを頼りに切面での同定を行う。本書の図譜ではこれはもちろん使えない。著者は「大脳半球の個々の回と脳溝は,大脳の1:1のモデルを作り,合成樹脂板で再構築し,また他のいくつかの脳と頭部の連続切片標本とを比較することによって,初めて命名」している。また,各動脈の同定も本書の手法の限界をわきまえて標本に忠実に行われており,推測で記入・命名するようなことはせず,信頼できる図譜となっている。

 このように精緻に作成された図譜の上に記入された機能画像は,われわれ神経疾患診療に携わる者に実に貴重な知識を与えてくれる。例えば,図145⑤―⑬,146⑦―⑪に示されたBroca野,Wernicke野,角回,弓状束の関係は失語症とその病巣を考える上で得がたい画像である。角回は前額断では信じがたいほど後方に位置しているのに驚かされる。

 訳者は脳の解剖と機能に精通した脳外科医真柳佳昭氏である。訳は滑らかで読みやすい。氏の文章力と脳外科医としての実力に基づくものであり,最適の訳者を得たと思われる。訳者序で触れている本書初版,第2版の共訳者故・久留裕先生は世界的な神経放射線科医であり,私にも学生の頃から多くのことをじかに教えて下さった方である。

 本書は久留先生がおっしゃったように「誰かが書くべき本」である。日々神経疾患患者を診,脳画像を観るわれわれにとって座右に備え,常に紐解くべき書と言える。
「頭部断層画像図譜」「神経解剖学書」「神経機能系解説書」三者の用途を備えた実用書
書評者: 齊藤 延人 (東大大学院教授・脳神経外科学)
 この度,「Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik」が真柳佳昭氏の翻訳で医学書院から出版された。本書は1986年日本語訳発刊の『CT診断のための脳解剖と機能系』と1995年発刊の『画像診断のための脳解剖と機能系』に続く第三版ともいえる最新版である。微妙なタイトルの変化が改訂の要点を的確に表している。本書の性格を要約すると頭部断層画像図譜であり,神経解剖学書であり,神経機能系の解説書である。三者の用途を一冊に備えた実用的な書であると言える。

 第一章では獲得目標などが述べられており,本書を活用する前に目を通しておくとよい。第二章が「断層画像診断と目印構造」と題する本書の中心を成す図譜の部分である。A4版の大きなページに1枚ずつ図が配置され見やすいばかりでなく,見開き2ページの左ページに図譜が,右ページにMRIが配置されていて,図譜とMRIを対比できるようになっている。MRIはT1強調画像とT2強調画像がおおむね交互に採用され,各撮影法での構造を確認できるようになっている。さらに図譜では動脈と静脈,末梢神経がそれぞれ赤,青,黄色に色分けされていてとても見やすいものとなっている。前額断,矢状断,軸位平面の各断面シリーズが記載され今日のニーズに応えており,ページの端は各断面シリーズで色が塗り分けられていて,該当ページの探しやすさにも配慮されている。また,脳幹・小脳は,Meynert軸(正中線で第四脳室の底面を通る軸)に直交する厚さ5mmスライスの断面シリーズとして別に記されている。特に脳幹部分は拡大図も示され,その中にさまざまな神経核や伝導系が色つきで図示されている。近年のMRI画像の進歩は脳幹内部の構造にも迫りつつあるが,時機を得た内容と言える。

 第三章から第五章では,各構造に焦点を絞ってさまざまな平行断面におけるトポグラフィーが解説されており,この部分は肉眼解剖学書の性格を有している。鼻腔と副鼻腔,眼窩,口腔などの顔面頭蓋と腔のトポグラフィー,頭頸移行部のトポグラフィー,頭蓋内髄液腔や脳動脈とその灌流域などの神経頭蓋,頭蓋内腔と頭蓋内構造のトポグラフィーなどが解説されている。

 第六章は『神経機能系』と題した神経機能局在を解説する章である。例えば錐体路や聴覚系などを,普段われわれが目にしている断層像でどこに位置しているのかを具体的に示してくれている。神経機能局在を解説するこれまでの成書でも伝導路などの概念的な説明図はあったが,断層像の中での具体的な位置を示している点は本書の大きな特徴である。一方で,断面のみでは分かりにくい各神経機能の全体像に関しても,統合的なシェーマとテキストを用いて解説しているので理解しやすい。また文中では解剖だけではなく機能局在や臨床への応用について,最近の知見に基づき踏み込んで解説している。全体的に文章が非常にコンパクトにまとまっているので,通読しても面白く,神経機能系を学ぶ手ほどきの書としても役に立つ内容である。

 繰り返しになるが,本書は単なるCTやMRIの図譜ではなく,従来の肉眼解剖図譜を元にした解剖の書に取って代わる,新しいジャンルの神経機能解剖学書に成長していると言える。前半はアトラスとして活用されるであろうし,後半は読んで学ぶことができる。座右の書として日常診療に役立たせたい。

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