診療・研究に活かす
病理診断学
消化管・肝胆膵編

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この1冊で病理診断に強い消化器医といわれよう! 今,現場に必要な消化器検体提出時の注意点・病理診断報告書の読み方から,明日の一歩に差をつける学会・論文発表のコツまで,臨床で共に働く病理医が,病理情報活用の術を丁寧に解説。入門・基礎・応用・資料編の4部構成,豊富なシェーマ・写真が読者個々人に必要な情報を届ける。
編集 福嶋 敬宜
執筆 福嶋 敬宜 / 二村 聡 / 太田 雅弘 / 入江 準二
発行 2004年10月判型:B5頁:272
ISBN 978-4-260-10661-0
定価 7,150円 (本体6,500円+税)
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I. 入門編:病理診断の使い方を知る
 【1】病理診断オーバービュー
 【2】病理・細胞診検査の依頼
 【3】病理・細胞診断レポート
II. 基礎編:病理に強い臨床医といわれる
 【4】臓器・病変別 病理学的アプローチ
 【5】特殊染色の基礎知識
III. 応用編:病理診断を研究に活かす
 【6】研究に活かす病理形態と病理診断学
 【7】学会発表・論文投稿に役立つ病理写真の見せ方
IV. 資料編:いつでも参照
 【8】病理診断関連用語125
 【9】正常組織像アトラス
索引

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臨床医とともに働く病理診断医の視点から書かれた,消化器病理診断学の実践的な解説書
書評者: 角谷 眞澄 (信州大教授・放射線医学)
 福嶋敬宜先生編集による『診療・研究に活かす病理診断学―消化管・肝胆膵編』が医学書院から上梓された。B5版の272ページからなる病理診断学の解説書である。

 「明日から“病理に強い臨床医”と呼ばれるようになる」,そして「臨床医と病理医を強力につなぐ一冊。これで自信をもって患者さんに説明できる!」さらに「これで学会・研究会が楽しくなる!!」と帯には謳われている。医学書院の発刊にしてはずいぶんとノリがいいなあと思いながらページを開いてみた。実は……今,いつでも鞄に入れて持ち歩いている一冊になっている。

 著者は,「病理学の教科書ではなく,病院で他の臨床医とともに働く病理診断医の視点から書かれた病理診断学についての解説書」と記しているが,実際の構成を紹介しよう。本書は入門編,基礎編,応用編,資料編に分かれている。入門編では病理診断を概観したうえで,病理・細胞診検査の依頼の仕方,そして病理・細胞診断レポートの意味するところがわかりやすく解説されている。基礎編では臨床医として知っていれば得する臓器・病変別の病理学的アプローチや特殊染色の基礎知識が,あまねく記載されている。これは読み応えがある。さらに応用編では病理診断を研究に活かす手法や学会発表・論文投稿に役立つ病理写真の見せ方まで伝授してくれている。これだけでも十分なのに,いつでも参照できる資料編として「病理診断関連用語125」や「正常組織像アトラス」まで用意されている。用語の定義や正常組織の基本像を,折に触れ確認するのにとても便利だ。

 コラムの内容も優れものである。「ここがホット」では,NASH/PanIN/MUC/SSBE/MALTなど,最近の消化器病関連のキーワードの解説が随所に配され,なるほどと合点のいく明快な説明がなされている。「Coffee Break」,「FAQ」,「耳より」も読んでいて実におもしろい。

 「病理診断学では肉眼所見を十分に観察し,次に組織所見に入っていくのが基本である。しかも多くの病態はHE染色のみで診断可能であり,特殊染色が必要となるのはむしろ少数例である」と述べられている。これは画像診断の思考過程に通じるものがある。われわれは画像に表現される病変の存在部位や形状から鑑別を絞り,そして画像上の微妙な濃淡から組織所見を類推していく。造影検査を追加し血流情報を得るのは,特殊染色で鑑別を絞り込んでいく組織診断の過程に相当しようか。

 また,病理診断でも依頼する前にもう少し情報を伝えてくれるか直接相談をしてくれれば,より適切な検査法を選ぶことで回り道をしないですむことがあるとも著者は記している。同じ思いをしばしば経験する画像診断医の一人として,我が意を得たりである。いたるところに登場する「側注」もぜひ目を通していただきたい。そこに込められた病理診断医の本音やつぶやきも見逃せない。病理診断学が語られているが,画像診断学へのヒントが満載されている。

 本書の特徴は,著者の狙いが込められた「はじめに」に余すことなく記されている。ぜひ,最初に「はじめに」を一読していただきたい。そのなかで,本書は主に消化器系の診療と研究に携わる臨床医に向けて書かれたものだが,著者は読者として,

・病理研修を受ける臨床研修医

・消化器系の専門医をめざしている人

・臨床病理カンファレンスでの病理医の説明にピンとこないことが多い人

・中堅の外科医でありながら病理検体の扱いなどの指導に自信がない人

・自分の病院の病理医とほとんど話をしたことがない人

をターゲットにしていると述べている。さらに,病理検査に携わる臨床検査技師,一般病理医,そして臨床実習中の医学生など,実践的な消化器病理診断学の知識や手順などを短時間に習得したい人達にも最適としている。

 本書の多彩な内容と気配りの効いた構成は実にユニークで実践的だ。専門が異なれば十人十色の利用法があるに違いないが,本書はどの方にも十分満足のいくものと確信する。ぜひ手にとって本書を開いてみて欲しい。病理診断学の新しい世界との遭遇が待っている。

病理の素養を高めたい臨床医や研究者と病理専門家との架け橋
書評者: 小菅 智男 (国立がんセンター中央病院肝胆膵外科)
 臨床医にとって病理診断は診療・研究の基本であり,ある意味では一般常識のように考えられている。しかし,多くの医師にとって,病理の知識は癌取扱い規約や症例報告などから得られた断片的なものの集合体でしかなかったりする。そのため,病理医の言葉を受け売りすることしかできなかったり,病理診断のニュアンスが理解できないで,臨床的な判断に困ったりすることが少なくない。病理に関する系統的な知識の欠如を痛感して教科書を開いてみても,どこから手をつけたらよいのかわからず,途方に暮れる――こんな経験をお持ちの方が少なくはないのではなかろうか。

 本書の編著者は米国へ留学する前の4年間を国立がんセンター中央病院の病理部で過ごした。カンファランスのたびに,私たち外科医の,時には非常識な質問に対してていねいに答えてくれ,はっきりしないことは一緒に考えてくれたりもした。また,国立がんセンター中央病院のレジデントはほとんど全員が病理をローテーションするため,日常的に病理の初心者を指導しなければならない環境にあった。

 本書の特長は,編著者のそうした経験が色濃く反映されているところにある。読者として想定されているのは病理の素養を高めたいと考える臨床医や研究者であり,病理の専門家をめざす医師ではない。こうした人たちが,どんなところに興味を持ち,どんなところで壁にぶつかり,どんな疑問を持つのかといったことに焦点を合わせた書籍はほとんどない。本書は記載内容ばかりでなく構成にも配慮がなされており,読者は自分のレベルにあったところから読み進めていくことができる。また,今さら聞くのは恥ずかしいと考えるようなことでも,前のほうに戻れば大抵は書いてある。何しろ目次の最初のほうにあるのは「病理検査でわかること」とか「病理医はこんなふうに診断している」という項目である。また,最後のほうには「学会発表・論文投稿に役立つ病理写真の見せ方」などという項目まであり,まさに至れり尽くせりの感がある。もちろん,純粋に病理学的な内容についてもきちんと書かれており,最近の疾患概念の変化などについてもよくまとめられている。カラー印刷はわずか3ページにまとめられているため,見た目の派手さはないが,その分価格も抑えられており,入手しやすくなっている。

 病理は臨床や研究の中で重要な位置を占めているにもかかわらず,病理医と「言葉の通じる」臨床医や研究者は意外に少ない。消化器疾患を扱う医師の数は膨大であるにもかかわらず,このような本がなかったことはある意味不思議である。本書が,数多くの「熱意ある素人」のよきガイドとなり,病理専門家との架け橋になってくれることを心から願うものである。

読めば必ず「病理に強い臨床医」になれる
書評者: 多賀須 幸男 (多賀須消化器科・内科クリニック)
 4名の著者はいずれも臨床のレジデントを経て病理学の研修過程を修了し,内外の臨床病院の病理学科で経験を深め,難関と言われる日本の病理専門医・細胞診専門医の資格を取得した新時代の臨床病理医たちである。

 「I.入門編:病理診断の使い方を知る」(42頁),「II.基礎編:病理に強い臨床医といわれる」(157頁),「III.応用編:病理診断を研究に活かす」(17頁),「IV.資料編:いつでも参照」(28頁)という各編のタイトルから想像できるようにユニークな構成であり,しかもわかりやすい文章とシェーマで解説されている。

 病理をはじめて最初に戸惑うのは,「異形成」,「髄様」,「肉芽」などの,わかったようでわからない用語である。ウイルヒョウの病理総論の系譜を継ぐ日本の病理学には,形而上学的な響きを残す用語をかみ砕いて説明する習慣がなく,おいそれと質問しがたい雰囲気が今も漂っている。推測するに著者らも修行時代に体験したこの悩みを次世代にさせたくないというスタンスで編集され,成功している。恥ずかしながら「篩状」,「脱分化」,「オルガノイド・パターン」などの正確な意味を,本書で初めて知った。

 現在の臨床医の多くは,手術材料や生検組織がどのような過程を経て病理報告書が出来上がるのか知らないのではなかろうか。本書では正確な診断を得るための材料の取り扱いや病理医とのコミュニケーションについて,手を取るように説明されている。胆管癌や膵癌の切除材料の正しい処理方法や特殊染色の選び方などを初めて知った。

 「FAQ」,「ここがホット」,「耳より」と題した28のコラムに「EBウイルス関連胃癌」,「パニン」,「MUC蛋白」等々の最新の話題の解説があり,入門書にはないサービス精神が溢れている。「結節内結節」に相当する所見が50年前の剖検レポートで「肝細胞がunruhig」と記載されていたことを懐かしく思い出した。診断名の時代的変遷についても詳しく,とくに肝の病理用語の最近の大きな変化に驚かされた。

  索引が充実し参照ページが完備し,そのうえ裏表紙にその要点を掲載している編集者の気配りが本書の利用価値を倍増している。造本の最終工程に行われるこの作業は手抜きになりやすいものである。カラー写真でなくより技術を要する白黒写真を用いたのも,AFIP(Armed Forces Institute of Pathology)の図譜に迫ろうとする著者たちの心意気とみた。

 国立がんセンター時代に病理の心得をたたき込まれた筆者は,標本を必ず観察し患者にも顕微鏡を覗かせて,そこに拡がる別世界の美を分かつことにしている。本書を読めば必ず「病理に強い臨床医」になって,新しい視界を開いてくれる。

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