精神機能作業療法学

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作業療法の主領域のひとつである精神機能作業療法について、歴史・概念・関連法規などの概論的内容から、個々の代表的疾患における評価・実践方法、そして実際の事例紹介に至るまで、わかりやすく解説。関連法規では障害者自立支援法などの新たな障害者施策についても紹介。実際の作業療法過程(実践事例)を通して、対象者が家庭や学校生活、地域社会生活に適応していく際の援助法を明示する。",,"作業療法の主領域のひとつである精神機能作業療法について、歴史・概念・関連法規などの概論的内容から、個々の代表的疾患における評価・実践方法、実際の事例まで解説。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 小林 夏子
発行 2008年05月判型:B5頁:276
ISBN 978-4-260-00328-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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 『精神機能作業療法学』は,標準作業療法学シリーズ専門分野の一領域の教科書である.精神機能作業療法実践の理解のために,学習者と教育者とが共有する一般教育目標(GIO),行動目標(SBO),修得チェックリスト,各章のキーワードなどを盛り込んだ.
 実際の授業展開は,授業内演習,集団討議,学習課題の設定,資料などを駆使する各現場の創意工夫と熱意に委ねるほかないが,本書が学生中心の臨床実習までの地道な知識・技術の整理や基礎学習に役立つことを願って,内容を構成した.
 序章では,本書における「精神機能作業療法学」の概要と学習の進め方を提示した.
 第1章は,「精神機能作業療法学の基礎」として,歴史と理念,精神領域におけるリハビリテーションの考え方,わが国の実践基盤を取り上げた.職業の歴史や先人の理念をたどり,実践概要とその特徴の把握を意図した.リハビリテーション医学や,精神保健福祉法他の法規や制度などを,現状の作業療法基盤として解説した.
 第2章は,「精神機能作業療法の対象理解と実践方法」として,信頼関係の形成と共同の観点を中心に解説した.また,精神的健康を総合的に判断する概念や評価方法,生活を構築する作業の利用法,および社会参加を促進する支援方法を提示した.
 第3章は,「精神機能作業療法の実践――疾患別の一般的枠組み」として,疾患・障害の理解,評価方法,実践方法と役割から解説した.統合失調症,気分障害,アルコール依存症候群,知的障害,神経症性障害,パーソナリティ障害,症状性および器質性精神障害,てんかんに対する実践の枠組みを提示した.
 第4章は,「精神機能作業療法の実践事例」として,疾患・障害の理解,評価,実践方法と役割などの側面から解説した.前章と同じ8の疾患・障害の事例を取り上げ,その実践過程を詳細に総合的に紹介した.
 終章となる「精神機能作業療法学の発展に向けて」では,作業療法における精神機能領域の展望について,専門職の充実と職業人としての習熟を提案した.
 以上,精神機能領域の対象者に対する理解と実践方法について,真剣な臨場感をもって学習する素材として活用していただければ幸いである.
 2008年3月
 小林 夏子

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序章 精神機能作業療法学を学ぶ皆さんへ
第1章 精神機能作業療法学の基礎
 I 精神機能作業療法の歴史と理念
 II 精神領域におけるリハビリテーションの考え方
 III わが国の実践基盤:精神保健福祉法・関連法規・制度
第2章 精神機能作業療法の対象理解と実践方法
 I 対象理解と評価
 II 実践方法と作業療法過程:信頼関係の形成と共同
第3章 精神機能作業療法の実践――疾患別の一般的枠組み
 I 統合失調症
 II 気分障害(感情障害)
 III アルコール依存症候群
 IV 知的障害(精神遅滞)
 V 神経症性障害
 VI パーソナリティ障害(人格障害)
 VII 症状性および器質性精神障害
 VIII てんかん
第4章 精神機能作業療法の実践事例
 I 統合失調症
 II 気分障害(感情障害)
 III アルコール依存症候群
 IV 知的障害(精神遅滞)
 V 神経症性障害
 VI パーソナリティ障害(人格障害)
 VII 症状性および器質性精神障害
 VIII てんかん
精神機能作業療法学の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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精神科作業療法の最新の臨床的情報が幅広く盛り込まれた書
書評者: 大橋 秀行 (埼玉県立大学教授・作業療法学)
 精神科領域における作業療法士の臨床実践は,大きく変わりつつある。

 全体的な流れとしては,ほとんどの諸外国が既にめざしている方向に,日本も遅ればせながら,制度的な改変が進みつつある。つまり,入院中心の医療から地域で生活を支える方向にシフトしようとしている。

 しかし,精神科領域で働く作業療法士の圧倒的多数は,入院患者を対象に病院の作業療法室で作業療法を実践している。上述の変化に対して,病院の作業療法士はうまく対応できるだろうか。長期在院患者の退院促進や新しい入院患者の入院期間短縮への対応,さらには疾患の多様化という状況もある。また,高齢化する入院患者の中には,入院の継続以外に選択肢のない現実もある。

 最近の考え方として評者が重要視したいのは,対象者自身が自分の病気について対処する力を尊重する流れである。「病気のことは専門家が面倒をみる」というスタンスは転換をせまられている。「作業」という,作業療法士が専門的に考えた,しかし,対象者本人にはその療法的およびリハビリテーション上の意味はよくわからない「薬」が提供されてよくなっていく。こうしたイメージの作業療法は,今後,根本的な変更をせまられる場合が増えるだろう。この新しい流れには,対象者との「協業」,「説明と同意」が重要になってくる。

 本書の第1章「精神機能作業療法の基礎」には,リハビリテーションの考え方がこれまでになく大きく取り上げられている。これは現在の変わりつつある方向を照らす理念として,大きな意義がある。また,リハビリテーション過程への「本人の参加」,「エンパワメント」,本人の「希望」の重視などのキーワードが取り上げられている。これらの理念を踏まえた実践は具体的にはどのようなものになるのだろうか。

 第2章「精神機能作業療法の対象理解と実践方法」には,対象者との「共同による課題解決」「説明と同意」について取り上げられている。

 第4章「精神機能作業療法の実践事例」では,疾患別事例の具体的な発言内容がよく紹介されている。本人の言葉の尊重は,上述の理念を具体化する実践には不可欠の態度である。執筆者陣に,臨床経験を十分に持つ人たちが多いからであろうか。どんな実践が展開しているかが具体的に想像できる内容である。執筆者個々人の臨床の論理が展開される部分も多く,興味深い。

 現状では無理な期待であることを承知で,苦言めいたことを述べさせていただければ,第1章の理念と,実践の枠組みを扱った第2章と第3章,そして第4章の実践事例に一貫する論理がもっと明確になるとよいと思う。これは,本書について,というよりは,現在の精神科領域の作業療法の実態であろう。たとえば,作業療法の目標が医学用語で記載されているところもあるが,本人の「希望」や「本人の参加」との関係を焦点化するような観点が全部の章を貫いて展開されていれば,より理念と実践との整合性が得られるのではないかと思う。しかし,実践事例の記述のなかには,提示された理念に方向づけられた具体的実践の紹介もあるのは確かである。

 繰り返しになるが,おおまかに言えば,こういった事情は入院患者に対して作業療法室で展開してきた一方の歴史的現実と,リハビリテーションの理念と実践とがかみ合って展開しようとしているように評者にはみえる最近の「べてるの家」やACT(assertive community treatment)などの実践との間に,引き裂かれている現在の精神科領域の作業療法士がおかれた現実の反映なのだろうと考える。

 今後の臨床実践の在り方に向けて,その内容をどうクリティカルに学生に提示していくかは,教師一人一人の力量が問われるであろう。その際,本書の歴史や制度のポイントを押さえたページは参考になるし,充実したキーワードの説明も助かる。

 最新の精神科領域での作業療法士の幅広い実践内容やそれを取り巻く現状が反映された本書を,教科書や教材としてお薦めしたい。
学生や若手作業療法士の力強い味方
書評者: 楜澤 直美 (川崎市精神保健福祉センター)
 作業療法の歴史は,古代ギリシャのヒポクラテス時代からと実に長い。さまざまな変遷を経て現在の日本では4万人強という作業療法士の有資格者が存在する。作業療法士は,その学問体系から,治療対象者についての生物的側面,心理的側面,環境を含む社会的側面をトータルに見立て,日々の生活の営みや生きる力へ付与することのできる職種である。しかしながら,現在,その持てるべき力を医療保健福祉分野で遺憾なく発揮できているかといえば,後続の他職種にもまれ,その輝きがやや薄くなっているようにも感じられる。

 そのような現状のなかで,これから学ぶ諸氏へのメッセージとなる新しい教科書の誕生には,その労に対して深く敬意を表したい。この本は,作業療法の基礎理論から,事例に基づく実践までがコンパクトに分かりやすく記述されて,精神科分野の作業療法学を学ぶ諸氏への編者側の熱い期待が感じられる。作業療法士の活躍が今後期待される地域生活支援における具体的な取り組みについての記述は若干物足りないきらいはあるものの,学生はもちろん,臨床現場に出て間もない作業療法士の方々にとっても,力強い味方となる実践的内容である。

 学習者の理解促進のための工夫が各所にちりばめられているが,そのいくつかをご紹介したい。まず,この本が作業療法学の学問体系の中でどう位置付けられているかの「学習マップ」や自己学習を促進するための「修得チェックリスト」,各章の「キーワード」の存在が目を引く。これらは,学習し始めの諸氏にとっては指標の提示となるであろうし,「受け身ではない学びの姿勢」への編者の思いが伝わってくる。また,作業療法士が臨床現場で出会う主な疾患・障害理解についても,「作業療法士としてどうかかわるか」の目線が明確に記述されており,基本的な学習が促進される構成となっている。しかし,それだけではない。内容的で特筆に価するのは,第2章の「II 実践方法と作業療法過程:信頼関係の形成と共同」の項の存在である。この項には,対象者との向き合い方,チーム医療に関する視点,記録への配慮が分かりやすく記述されている。これらは,臨床家として現場仕事を行っていく上で,基本的な事柄ではあるが,ぜひ押さえておきたい内容である。前述のごとく工夫された構成であるので,臨床現場に携わる者にとっては,必要な個所のみを拾い読みしても知識を得ることが可能である。

 何をやるにも基礎固めは重要だ。机上での学習を現場で実践し,理論を深めてより確実な学問として,自分の中に構築していく,その基礎固めとして本書の活用が若手作業療法士の成長の一助となることを大いに期待したい。

教科書としてだけでなく現場の臨床家にも
書評者: 山崎 郁子 (神戸大教授・身体精神障害作業療法学)
 これまで精神障害作業療法学の講義を行ってきて,苦労してきたことは教科書選びであった。このたび出版された『標準作業療法学 専門分野 精神機能作業療法学』は,まさに教科書として学生に持たせたい一冊である。

 矢谷令子氏監修によるこの「標準作業療法学シリーズ」は,全12巻の全体の枠組みがあり,構成された各巻がシリーズのどの位置に存在するかが一目で分かる仕組みになっており,それぞれの巻の序に続けて掲載されているのがいい。

 小林夏子氏編集による本巻では,序章の学習マップが分かりやすく全体を示し,続けて本シリーズ全12巻の流れが示されている。

 本文に入ると各章のはじめに一般教育目標(GIO),行動目標(SBO),修得チェックリストが記されており,章ごとに学ぶべきこと,学べたことの確認ができるよう配慮されている。このように常に内容が整然と示されていると,学習者にとっても教育者にとっても進行状況が把握しやすい。

 内容は,まさに教科書としての機能を十分果たすものといえる。第1章では,国内外の歴史と理念,精神領域のリハビリテーションの考え方,わが国の実践基盤である法制度を「精神機能作業療法学の基礎」として位置付けている。第2章では,対象理解と評価,実践方法と作業療法過程を丁寧に説明している。第3章は,精神領域の疾患別実践についてで,疾患,評価,作業療法の実践,作業療法の役割などをわかりやすく解説している。網羅されている疾患は,統合失調症,気分障害(感情障害),アルコール依存症候群,知的障害(精神遅滞),神経症性障害,パーソナリティ障害(人格障害),症状性および器質性精神障害,てんかんの8疾患である。第4章では,前章であげた8疾患の作業療法の実践事例を,評価と治療計画,治療経過および結果,考察という順序で説明している。そしてそれぞれの章の最後には,親切なことにその章で重要と思われるキーワードが解説付きで示されている。

 大学の教員という立場から,第一番に教科書として推薦するが,本書はまた学生ばかりでなく臨床現場で働く作業療法士にとっても大いに役立つ書籍の一つとなること間違いなしと確信するものである。
変動が多い精神医療を学ぶ学生を力強くリードする一冊
書評者: 大場 よし子 (風心堂小原病院)
 標準作業療法学シリーズの1冊として『精神機能作業療法学』が群馬大学の小林夏子先生の編集により出版された。本書がこれから作業療法を学ぶ学生たちを念頭に執筆されたことは,シリーズ刊行の言葉からも明らかであるが,その中で繰り返された「教育改革」という言葉が注目される。「“改革”を“学生主体の教育”としてとらえ,これを全巻に流れる基本姿勢とした」とあり,「学習のしかたに主体性を求める」と連なる。その言葉は,臨床において長い時間を過ごした者の胸に刺さる。果たして私たちは,どれほど主体的に自己研鑽を果たしているだろうか。

 精神機能(精神障害とも精神科とも表記しない編者の視点の鋭さは,臨床家にとって小気味良い。ぜひ序章を読まれたし)を対象とする作業療法の現場は,大きく三つの点において混乱しやすい。

 一つには,精神機能という茫漠とした目に見えないものを対象にしていることがある。そのため,ともすると経験の蓄積からのみ臨床家それぞれが対処法を見出そうとし,実践の客観的評価あるいは理論的背景があいまいなまま過ぎてしまいやすい。「精神科って病院によってずいぶん違うんですね」といまだに学生に言われてしまうのはなぜか。

 二つめは,ほかの疾患に比べ厚生労働省を中心とした精神医療の施策に振り回されやすく,かつ精神医療そのものが社会的施策と切り離せない負の歴史を持つことである。かつて,精神病患者は地域社会から切り離され人権すら脅かされてきた歴史がある。本書に「精神機能作業療法は,昔も今も,人間の生活に欠かせない作業活動を利用して,対象者の人権と精神的な健康および生活の質の向上を目指す実践である」とあるのは,精神医療の歴史的な背景の上に作業療法をとらえているからだろう。若い作業療法士が「生活療法」を知らないとしても,彼や彼女が目の前にしている対象者の生の歴史に,「生活療法」や院内の「下請け内職作業」が刻まれているかもしれないのである。精神機能作業療法は,時代に翻弄されてきた側面を否定できないと思う。

 三つめは,精神疾患の枠組みともいえる診断基準が変化してきたということである。また,社会環境や価値観の変化に伴い,疾病の現れ方そのものが変化するという流動性をもつ。私が作業療法士となった20数年前は精神分裂病(現,統合失調症)の方が作業療法対象の大方を占めていた。いかにして安全で安心できる場を提供し,二者関係を結ぶかに汲々としていた。時が経ち,今目の前に来られる方は発達障害や気分障害など,純粋な統合失調症以外の方が多くなった。それにパーソナリティ障害が加わり,自傷や興奮などにぎやかな場面に対応せざるを得なくなっている。そして抱えている問題も発病直後の混乱から就労までとさまざまである。

 だからこそ全体を網羅する理論的な指標が待たれていた。この本を現場で悪戦苦闘している臨床家にこそ読んでほしいと切に願う。ただし本書に著されていることは研ぎ澄まされた結論としての文章が多い。行間にこぼれ落ちそうにあふれている各筆者の知見や経験,そのバリエーションをより深く理解するためには,各章末についている参考文献や引用文献の一読もお薦めしたい。

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