子ども保護のためのワーキング・トゥギャザー
児童虐待対応のイギリス政府ガイドライン
関係者必読! 子どもを虐待から守れ
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虐待から子どもをどのように保護するか。1989年児童法に基づき先進的な制度を確立してきたイギリスにおける「児童虐待対応の公的ガイドライン」。保護の柔軟な仕組み,多機関連携,当事者の参加を3本の柱に,子ども保護のための「ワーキング・トゥギャザー」を提唱。児童虐待問題に本格的な取り組みを模索する関係者必読の書。
著 | イギリス保健省・内務省・教育雇用省 |
---|---|
訳 | 松本 伊智朗 / 屋代 通子 |
発行 | 2002年06月判型:B5頁:184 |
ISBN | 978-4-260-33216-3 |
定価 | 2,640円 (本体2,400円+税) |
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訳者による解説:イギリスにおける子ども保護制度と「ワーキング・トゥギャザー」
はじめに
1. 子どもと家族を支援するための機関連携について
2. 調査研究と経験からわかってきたこと
3. 関係機関の役割と責任
4. 地域子ども保護委員会
5. 個別事例の扱い-その具体的手順
6. 特別な条件下での子ども保護
7. 重要な基本原則
8. 事例の「見直し調査」
9. 機関合同研修と能力開発
付録1. 援助の必要な子どもとその家族の判定枠組み
2. 軍隊の子ども保護体制の連絡先(略)
3. 1999年児童保護法
4. 情報共有の協定を策定するにあたっての個人情報保護登録官が確認すべき事項リスト(縮訳版)
5. ケース対応フローチャート
6. 参考文献
はじめに
1. 子どもと家族を支援するための機関連携について
2. 調査研究と経験からわかってきたこと
3. 関係機関の役割と責任
4. 地域子ども保護委員会
5. 個別事例の扱い-その具体的手順
6. 特別な条件下での子ども保護
7. 重要な基本原則
8. 事例の「見直し調査」
9. 機関合同研修と能力開発
付録1. 援助の必要な子どもとその家族の判定枠組み
2. 軍隊の子ども保護体制の連絡先(略)
3. 1999年児童保護法
4. 情報共有の協定を策定するにあたっての個人情報保護登録官が確認すべき事項リスト(縮訳版)
5. ケース対応フローチャート
6. 参考文献
書評
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待望の出版,激増する児童虐待対応のバイブル
書評者: 柳川 敏彦 (和歌山医大・小児科)
◆児童虐待対応先進国(イギリス)の政府ガイドラインの全訳
本書は,児童虐待対応の先進国であるイギリスの1999年政府ガイドラインの全訳である。1991年政府ガイドラインは,イギリスで子どもの虐待問題に関係している人々のバイブルとし広く活用されており,「ワーキング・トゥギャザー(Working Together)」という呼称は,説明がいらないほど浸透している。イギリスの児童虐待問題の関係者が,他国からの研究者に対しても,通読しておくべき参考リストとして必ず本書の存在をあげる入門書で,1999年改訂版日本語訳の出版は,まさしく待望の書である。
原本訳としては,異例の長文の解説で始まる。この解説こそ,本書を有効に活用するために不可欠な指針が盛り込まれている。松本先生のすばらしい人柄を感じさせる文体で,一気に25頁が過ぎるとともに,虐待対応制度の概要がつかめる。時間のない方は,この前文の解説を熟読するだけでもよいかと思えるほどである。小生は,1998年11月から半年間イギリスに留学する機会を得たが,松本先生から留学前に貴重なアドバイスをいただいた。1991年初版の本書の存在とともに,政府刊行物が手に入る書店を教えていただき,ロンドン到着後,真っ先に地下鉄ホルボーン駅のすぐ前にあるStationery Office Bookshopにいったことが思い出される。また,留学中先生がイギリスに聞き取り調査にこられた際,学校などの教育機関の何か所かをご一緒させていただいたが,それぞれの現場での専門家が自信を持って取り組んでいる姿を強く感じた。つまり,機関連携が有機的に働くためには,それぞれの分野で専門性の基礎があってこそ成り立つことを認識した。本書は,政府ガイドラインとしての位置づけであるが,単なるマニュアル,あるいはハウツー本でなく虐待に対する理念がきっちりと書き込まれている。この特徴こそ,イギリスにおいてバイブルとして利用されている理由であるし,日本の専門家も分野を問わず,ぜひ通読していただきたいポイントである。
◆虐待に対する本書の理念とは
根底は1989年,「子どもは単なる保護」の対象ではなく,「権利を行使する主体である」ということを高らかに謳った国連「子どもの権利条約」であり,1989年イギリスの児童法(Children Act 1989)である。「傷つきやすい子ども」を保護するための虐待防止の手順は,広く「援助を必要とする子ども(Children in Need)」に向けられ,「子ども保護(Child Protection)」という総合的概念が理念の1つになっている。
第1章の「子どもと家族を支援するための機関連携」では,家族への介入は,子どもと家族への援助とサービスが目的であること,第5章の「個別事例の扱い―その具体的手順」では,子どもと家族の総合的で,継続的なアセスメントを重視している。そのための裁判所による調査命令や保護命令について,また保護ケース会議に子どもと家族が参加するパートナーシップなど一連の具体例にも,常に一貫した「子どもの利益に立つ」という理念が感じられる。日本で2000年11月から施行されている児童虐待防止法の,施行3年後の改正にもぜひとも参考にしたい。
9章からなる本書には,本書理解のために本文左欄外に訳注がつけられている。例えば,ガーデアン・アド・リテムは,「子ども保護にかかわる法廷での後見人・代弁者として関わること(後略)」など,日本ではみられない役割を持つ人などについても詳しく説明されている。医療保健サービスのところでは,機関や制度についての説明などもわかりやすく解説されるなど,訳注もまた本書の財産である。
9章すべて本文訳は,非常に受け入れやすい,すばらしい文体であるとともに,日本にない制度や職種などの訳語は,訳注で補われることで,むしろこれからの日本が必要とする制度や職種として理解すると,活用度が広まる。また,付録での,援助の必要な子どもとその家族の判定(アセスメント)枠組み(付録1),ケース対応フローチャート(付録5)は,実用面で役立つものとして,個人的に活用している。
子どもに焦点をあて,家族を中心に置き,地域を基盤にした虐待防止の総合的ガイドラインといったことばがふさわしい本書をぜひお勧めしたい。
虐待から子どもをどのように保護するか,関係者必読
書評者: 小林 美智子 (大阪府立母子保健総合医療センター)
◆英国における児童虐待対応の到達点を集成
英国の児童虐待対応を,過去の経験を科学的に検証して大きく転換した,かの有名な『ワーキング・トゥギャザー』(1991年初版の政府ガイドラインの1999年改訂版)の翻訳本である。
この課題の日本の始動に貢献した英国人D.ゴフ氏(心理)から,「child abuseよりもsignificant harmと言う」,「ハイリスクと呼ぶのは不適切で,children in needと呼ぶ」,「関係者カンファレンスに親が参加するのは当たり前」と,10年近く前に聞いた時は,目眩を覚えた。それは,虐待についての社会の理解がまったく異なることを意味し,わが国がそこに到達する道程の遠さに茫然とさせられたからである。
英国は,1974年のマリア・コールウェル事件のように,死亡や社会問題化した事件に調査委員会が報告書を出し,それに基づいて法律や制度を臨機応変に充実していった。その到達点がこの政府ガイドラインである。
1991年に批准した「子どもの権利条約」を反映して,「すべての子どもはその可能性を最大限に発揮する機会を与えられる権利を有する」のを保障することを基本理念としている。対象は,狭義の虐待だけでなく,「援助の必要な子ども」を含み,社会的排斥を受ける人(ホームレス,10代妊娠,怠学中退,貧困,施設で暮らす子ども,マイノリティ,犯罪者など),夫婦間暴力,親の精神疾患や薬物・酒の濫用を,重要視している。
福祉・保健・医療・教育・司法などの機関が,連携して,多面的に,責任を共有して,親と子どもに援助を行なう。子どもや親の意見を取入れるのは当然で,子どもへの重大な侵害(significant harm)が危惧される場合にのみ,行政が家族に介入しうる。「援助を求める親を,子育てにつまずいたとみなすのでなく,親としての責任を果たそうとしていると考えるべき」と,社会の意識変革をうながし,社会全体で子育てを支援しようとしている。これを実行するための組織や手続きも明確にしている。地域子ども保護委員会を設け,初期評価会議で調査計画を作成し,緊急保護や調査を行ない,コアアセスメントとして子どもを守るには何が必要か,親に必要な支援は何かを評価し,親を含む関係者が協議して援助計画を作成する。そして3か月後と6か月ごとに再検討会議を行ない,援助計画を変えていく。そのために,ソーシャルワーカー(SW)を中心とする組織を設け,連携や会議の手続きを明確にし,子どもや家族の評価基準を発展させている。関係者の相互認識で不可欠とされる職種は,SW92%,警察58%,教師34%,保健師53%,養護教諭27%,小児科医65%,GP33%,心理12%,精神科医12%,法律家22%で(峯本耕治『子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題』,明石書店),今のわが国で必要と見なされる職種とはずいぶん異なる。小児科医やGP,保健師が非常に活躍している。
◆方針選択せまられる児童虐待防止の今後
1994年第1回日本子どもの虐待防止研究会で,国際虐待防止学会長のR.クルーグマンが「日本は米国型か欧州型かを選べるので,慎重に考えるべき」と,貴重な助言を残した。法が強い力を持ち,通告とその調査に追われて,援助しきれていないでいる米国型を追うのか,専門職を育てて地域システムを作る欧州型(専門職を信じるシステムと彼は呼んだ)を追うのかという意味である。わが国に米国の情報が流入し,米国を追おうと焦り始めていた時期の,児童虐待を初めて報告したH.ケンプの後継者にあたる米国小児科医の言葉は,深く心に残った。子どもをめぐる保健医療福祉制度が充実しているわが国では,欧州型で取組む基盤が存在するとも言える。
社会から虐待がなくなるには,人類の未来を担う子どもを育てることにすべての大人が責任を感じ,親にとっての育児負担を他の人が分け持ち,親を支援することが自然に成り立つ社会になった時であろう。でもそれは夢物語と思っていた。法の力で親に介入し,通告しない専門職を罰するのは,力が支配する虐待親子の人間関係を,そのまま発展させる制度である。幼少時の経験から,自分は尊重されるはずはないと思い,人を信じられず,援助を求めるなど思いもせず,相手のみならず自分の感情も思いやれない子どもや親は,援助者に尊重され大切にされ,人は信じられる存在であることを体験することを通してしか変われない。子どもや親の治療は,狭義の心理治療だけではなしえず,生活を構造化する生活治療が必要とされている。英国はそれを国のシステムにまで広げようとしているようにみえる。
わが国でも児童虐待防止法が2000年11月に施行され,3年後に改正が約束されている。虐待対策は,子どもが大人になる20―30年先を見据えて立てられなければならない。クルーグマンの助言を吟味すべきこの時期に,この翻訳本が出た意義は大きい。ちなみに翻訳者松本伊智朗氏は,北海道子どもの虐待防止協会事務局長である。先に引用した峯本氏の著書や,鈴木敦子・他訳『児童虐待防止ハンドブック』(医学書院)と併読されることを勧めたい。
書評者: 柳川 敏彦 (和歌山医大・小児科)
◆児童虐待対応先進国(イギリス)の政府ガイドラインの全訳
本書は,児童虐待対応の先進国であるイギリスの1999年政府ガイドラインの全訳である。1991年政府ガイドラインは,イギリスで子どもの虐待問題に関係している人々のバイブルとし広く活用されており,「ワーキング・トゥギャザー(Working Together)」という呼称は,説明がいらないほど浸透している。イギリスの児童虐待問題の関係者が,他国からの研究者に対しても,通読しておくべき参考リストとして必ず本書の存在をあげる入門書で,1999年改訂版日本語訳の出版は,まさしく待望の書である。
原本訳としては,異例の長文の解説で始まる。この解説こそ,本書を有効に活用するために不可欠な指針が盛り込まれている。松本先生のすばらしい人柄を感じさせる文体で,一気に25頁が過ぎるとともに,虐待対応制度の概要がつかめる。時間のない方は,この前文の解説を熟読するだけでもよいかと思えるほどである。小生は,1998年11月から半年間イギリスに留学する機会を得たが,松本先生から留学前に貴重なアドバイスをいただいた。1991年初版の本書の存在とともに,政府刊行物が手に入る書店を教えていただき,ロンドン到着後,真っ先に地下鉄ホルボーン駅のすぐ前にあるStationery Office Bookshopにいったことが思い出される。また,留学中先生がイギリスに聞き取り調査にこられた際,学校などの教育機関の何か所かをご一緒させていただいたが,それぞれの現場での専門家が自信を持って取り組んでいる姿を強く感じた。つまり,機関連携が有機的に働くためには,それぞれの分野で専門性の基礎があってこそ成り立つことを認識した。本書は,政府ガイドラインとしての位置づけであるが,単なるマニュアル,あるいはハウツー本でなく虐待に対する理念がきっちりと書き込まれている。この特徴こそ,イギリスにおいてバイブルとして利用されている理由であるし,日本の専門家も分野を問わず,ぜひ通読していただきたいポイントである。
◆虐待に対する本書の理念とは
根底は1989年,「子どもは単なる保護」の対象ではなく,「権利を行使する主体である」ということを高らかに謳った国連「子どもの権利条約」であり,1989年イギリスの児童法(Children Act 1989)である。「傷つきやすい子ども」を保護するための虐待防止の手順は,広く「援助を必要とする子ども(Children in Need)」に向けられ,「子ども保護(Child Protection)」という総合的概念が理念の1つになっている。
第1章の「子どもと家族を支援するための機関連携」では,家族への介入は,子どもと家族への援助とサービスが目的であること,第5章の「個別事例の扱い―その具体的手順」では,子どもと家族の総合的で,継続的なアセスメントを重視している。そのための裁判所による調査命令や保護命令について,また保護ケース会議に子どもと家族が参加するパートナーシップなど一連の具体例にも,常に一貫した「子どもの利益に立つ」という理念が感じられる。日本で2000年11月から施行されている児童虐待防止法の,施行3年後の改正にもぜひとも参考にしたい。
9章からなる本書には,本書理解のために本文左欄外に訳注がつけられている。例えば,ガーデアン・アド・リテムは,「子ども保護にかかわる法廷での後見人・代弁者として関わること(後略)」など,日本ではみられない役割を持つ人などについても詳しく説明されている。医療保健サービスのところでは,機関や制度についての説明などもわかりやすく解説されるなど,訳注もまた本書の財産である。
9章すべて本文訳は,非常に受け入れやすい,すばらしい文体であるとともに,日本にない制度や職種などの訳語は,訳注で補われることで,むしろこれからの日本が必要とする制度や職種として理解すると,活用度が広まる。また,付録での,援助の必要な子どもとその家族の判定(アセスメント)枠組み(付録1),ケース対応フローチャート(付録5)は,実用面で役立つものとして,個人的に活用している。
子どもに焦点をあて,家族を中心に置き,地域を基盤にした虐待防止の総合的ガイドラインといったことばがふさわしい本書をぜひお勧めしたい。
虐待から子どもをどのように保護するか,関係者必読
書評者: 小林 美智子 (大阪府立母子保健総合医療センター)
◆英国における児童虐待対応の到達点を集成
英国の児童虐待対応を,過去の経験を科学的に検証して大きく転換した,かの有名な『ワーキング・トゥギャザー』(1991年初版の政府ガイドラインの1999年改訂版)の翻訳本である。
この課題の日本の始動に貢献した英国人D.ゴフ氏(心理)から,「child abuseよりもsignificant harmと言う」,「ハイリスクと呼ぶのは不適切で,children in needと呼ぶ」,「関係者カンファレンスに親が参加するのは当たり前」と,10年近く前に聞いた時は,目眩を覚えた。それは,虐待についての社会の理解がまったく異なることを意味し,わが国がそこに到達する道程の遠さに茫然とさせられたからである。
英国は,1974年のマリア・コールウェル事件のように,死亡や社会問題化した事件に調査委員会が報告書を出し,それに基づいて法律や制度を臨機応変に充実していった。その到達点がこの政府ガイドラインである。
1991年に批准した「子どもの権利条約」を反映して,「すべての子どもはその可能性を最大限に発揮する機会を与えられる権利を有する」のを保障することを基本理念としている。対象は,狭義の虐待だけでなく,「援助の必要な子ども」を含み,社会的排斥を受ける人(ホームレス,10代妊娠,怠学中退,貧困,施設で暮らす子ども,マイノリティ,犯罪者など),夫婦間暴力,親の精神疾患や薬物・酒の濫用を,重要視している。
福祉・保健・医療・教育・司法などの機関が,連携して,多面的に,責任を共有して,親と子どもに援助を行なう。子どもや親の意見を取入れるのは当然で,子どもへの重大な侵害(significant harm)が危惧される場合にのみ,行政が家族に介入しうる。「援助を求める親を,子育てにつまずいたとみなすのでなく,親としての責任を果たそうとしていると考えるべき」と,社会の意識変革をうながし,社会全体で子育てを支援しようとしている。これを実行するための組織や手続きも明確にしている。地域子ども保護委員会を設け,初期評価会議で調査計画を作成し,緊急保護や調査を行ない,コアアセスメントとして子どもを守るには何が必要か,親に必要な支援は何かを評価し,親を含む関係者が協議して援助計画を作成する。そして3か月後と6か月ごとに再検討会議を行ない,援助計画を変えていく。そのために,ソーシャルワーカー(SW)を中心とする組織を設け,連携や会議の手続きを明確にし,子どもや家族の評価基準を発展させている。関係者の相互認識で不可欠とされる職種は,SW92%,警察58%,教師34%,保健師53%,養護教諭27%,小児科医65%,GP33%,心理12%,精神科医12%,法律家22%で(峯本耕治『子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題』,明石書店),今のわが国で必要と見なされる職種とはずいぶん異なる。小児科医やGP,保健師が非常に活躍している。
◆方針選択せまられる児童虐待防止の今後
1994年第1回日本子どもの虐待防止研究会で,国際虐待防止学会長のR.クルーグマンが「日本は米国型か欧州型かを選べるので,慎重に考えるべき」と,貴重な助言を残した。法が強い力を持ち,通告とその調査に追われて,援助しきれていないでいる米国型を追うのか,専門職を育てて地域システムを作る欧州型(専門職を信じるシステムと彼は呼んだ)を追うのかという意味である。わが国に米国の情報が流入し,米国を追おうと焦り始めていた時期の,児童虐待を初めて報告したH.ケンプの後継者にあたる米国小児科医の言葉は,深く心に残った。子どもをめぐる保健医療福祉制度が充実しているわが国では,欧州型で取組む基盤が存在するとも言える。
社会から虐待がなくなるには,人類の未来を担う子どもを育てることにすべての大人が責任を感じ,親にとっての育児負担を他の人が分け持ち,親を支援することが自然に成り立つ社会になった時であろう。でもそれは夢物語と思っていた。法の力で親に介入し,通告しない専門職を罰するのは,力が支配する虐待親子の人間関係を,そのまま発展させる制度である。幼少時の経験から,自分は尊重されるはずはないと思い,人を信じられず,援助を求めるなど思いもせず,相手のみならず自分の感情も思いやれない子どもや親は,援助者に尊重され大切にされ,人は信じられる存在であることを体験することを通してしか変われない。子どもや親の治療は,狭義の心理治療だけではなしえず,生活を構造化する生活治療が必要とされている。英国はそれを国のシステムにまで広げようとしているようにみえる。
わが国でも児童虐待防止法が2000年11月に施行され,3年後に改正が約束されている。虐待対策は,子どもが大人になる20―30年先を見据えて立てられなければならない。クルーグマンの助言を吟味すべきこの時期に,この翻訳本が出た意義は大きい。ちなみに翻訳者松本伊智朗氏は,北海道子どもの虐待防止協会事務局長である。先に引用した峯本氏の著書や,鈴木敦子・他訳『児童虐待防止ハンドブック』(医学書院)と併読されることを勧めたい。
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