ガイドラインをふまえた
成人市中肺炎診療の実際

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日常遭遇することの多い市中肺炎は,生命予後にかかわる重篤な疾患となりうる。本書は2000年に日本呼吸器学会から刊行されたガイドライン「成人市中肺炎診療の基本的考え方」のコンセプトをふまえて,重要なポイント,特徴を整理し,実地診療に役立つよう,より詳細に,より具体的に解説した。
編集 河野 茂
発行 2001年06月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-11979-5
定価 5,060円 (本体4,600円+税)
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  • 目次
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I. Introduction 
II. 胸部X線上急性に陰影をきたす病態と鑑別診断,鑑別法 
III. 市中肺炎の重症度分類 
IV. 初診時の原因菌推定 
V. 原因菌不明時の抗菌薬の選び方 
VI. 培養同定が困難な原因菌の検査法 
VII. 特殊な原因菌の治療法と注意点 
VIII. 特殊病態時の治療法 
IX. 細菌別各論;原因菌確定時の治療 
X. ガイドラインを使用しての市中肺炎治療の実際

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呼吸器感染症のベーシックな知識が自然に身につく
書評者: 杉山 幸比古 (自治医大教授・呼吸器内科)
◆複雑化・難解化してきた感染症

 もはや感染症は重大な脅威ではない,という流れが以前はあったが,現状はまったく異なり,現在では感染症は人類にとってきわめて重要な課題であり,耐性菌の問題などを含めむしろ,さらに複雑化・難解化したと言っても過言ではない。呼吸器の日常診療においても,きわめてありふれた疾患として肺炎は存在し,われわれ臨床家は日々これに直面している。肺炎の特徴は,原因微生物がきわめて多岐にわたり,宿主の状況も多彩であることから,様々なパターンを取り得るということにある。また,時に致命的ともなるきわめて重大な疾患と言える。こういった現状を踏まえ,2000年3月に日本呼吸器学会より市中肺炎のガイドラインが刊行されたわけである。
 本書は,このガイドライン策定に中心的役割を果たされた,長崎大学第2内科の河野茂教授が,呼吸器感染症のメッカである,同教室の一門を結集されて,編まれたものである。

◆市中肺炎診療をきめ細かに解説

 本書では,市中肺炎をきわめて多角的にとりあげ,X線像から始まり,診断・治療に至るまで,きめ細かに解説され,ガイドラインの理解をさらに進める内容となっている。特に診断としての喀痰グラム染色の重要性には力が入れられており,美しいカラー図版が読者の参考となろう。様々な原因微生物の中でも,特徴あるレジオネラ,マイコプラズマ,クラミジア,カリニについては個別に詳しく述べられており,さらにきわめて重要である肺炎球菌をはじめとする細菌類についても,個々に詳述されている。また,今日では,様々な基礎疾患を抱えた人たちが,市中で暮らしており,そういった方々の肺炎にも対処が必要となるが,それに対しては,基礎疾患別の治療が個々に言及されており,大変有用である。特に肺炎の場合,治療が大問題であるが,エンピリックにはじまり,起因微生物が明らかな場合も個別に,きわめて実践的に述べられているのが本書の際立った特徴である。実際に重症度別に,ベストな抗菌薬が商品名で用量・用法とともに明示されており,この部分は即,日常診療に役立つ。
 呼吸器感染症に直面する可能性のある方々すべてに有用の書と考えるが,特に若い世代には通読していただくことにより,市中肺炎のみならず,呼吸器感染症全般へのベーシックな知識が自然に身につくものと考えられ,ぜひ一読をお勧めしたい。

活用できる実地肺炎治療指針
書評者: 河野 修興 (広島大教授・内科学)
◆重要な課題,肺炎の重症度評価

 欧米に習い,わが国でも疾患ガイドラインが,相次いで示されている。2000年3月には,日本呼吸器学会から『呼吸器感染症に関するガイドライン 成人市中肺炎診療の基本的考え方』が出版された。肺炎は,わが国の死因順位の第4位(約8.5%)を占める重要な疾患である。そればかりでなく,第1位の悪性腫瘍,第2位の心疾患,第3位の脳血管疾患の合併症として肺炎は,最重要疾患である。死に至らなくても,QOLや予後を大きく左右する疾患である。したがって,この時期に日本呼吸器学会が成人市中肺炎のガイドラインを出版したことは,時宜にかなっていると言えよう。特に,肺炎の治療方針を考える上でもっとも重要な課題である重症度評価を,一般臨床において普及する効果は抜群のものがあろう。ところが,現状は強力で十分なエビデンスが少ないので,オーソリティの意見の妥協産物による部分が,ガイドラインに含まれることはやむを得ない。このような部分では,言い過ぎを恐れるあまり,明解さに欠けるところがある。また,個々の症例を治療する際の裁量権は主治医に帰属し,あまりに細かい指示を行なうことはガイドラインの使命ではない。したがって,多くの「ガイドライン」にはさらに「ガイドラインのためのガイドライン」が必要になる。

◆価値が高い実地の肺炎診療ガイドライン

 河野茂氏編集の『ガイドラインをふまえた成人市中肺炎診療の実際』では,そのガイドラインのわかりにくいところを明解に解説してある。実際にベッドサイドで必要な胸部単純X線写真の読影法や,グラム染色所見が明瞭な写真で示されており,実地臨床において身近に置いておく価値が高い。また,実際に使用した経験を示し,ガイドラインの問題点を明らかにしている。日本呼吸器学会のガイドラインには,将来計画として発刊3年後に改訂する予定であることがうたってある。編集者は,ガイドラインの作成委員の1人であるため,本書の出版は改訂に向けての作業の一環として当然の作業と言える。
 編集者は,米国のAmerican Thoracic Society(ATS)のガイドラインやInfectious Diseases Society of America(IDSA)のガイドラインを熟知していることが,この書の端々から読み取れる。VI章の「培養同定が困難な原因菌の検査法」とVII章の「特殊な原因菌の治療法と注意点」では,いずれにおいても,レジオネラを真っ先に取り上げている。レジオネラ肺炎は,頻度は低いものの,致死率がきわめて高く,臨床医にとって忘れてはならない肺炎である。このあたりに,編集者の感染症専門医としての力量が表れている。
 本書は,実地の肺炎診療において研修医から専門医まで活用できる良書である。

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