希望としてのがん看護
マーガレット・ニューマン“健康の理論”がひらくもの

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がんは誰もが知る病気なのに,今なお忌み嫌われ,特別視されている。だとすると,がん患者の体験は絶望でしかないのだろうか。否! 真理とは逆説的なもの。そうであればこそ,希望もまた力強く育つ。著者は,マーガレット・ニューマンの“拡張する意識としての健康の理論”がひらく新しいケアの地平を,自らの実践例をもとに見事に描いている。
遠藤 惠美子
発行 2001年09月判型:A5頁:168
ISBN 978-4-260-33152-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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  • 目次
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第1章 ターニング・ポイントとしての“がん” 
第2章 “がん”で死ぬことの意味 
第3章 自己組織化する“がんを病む家族” 
第4章 マーガレット・ニューマン“健康の理論”をがん看護の実践に活用するナースたち 
付章1. マーガレット・ニューマンの看護理論:拡張する意識としての健康
 2. 文献紹介
 3. 用語解説

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ナースとがん患者をつなぐ本
書評者: 小西 恵美子 (長野県看護大教授)
◆探し求めていたがん看護のバックボーン

 2001年の日本がん看護学会で,遠藤氏はたくさんのナースに囲まれていた。ナースたちの真剣な表情にはある種の焦りの色が読みとれ,それは私が長い教育研究生活から病院の看護婦に転じて間もなく抱き始めたものと重なった。その焦りとは,ナースが患者の病気の部分だけ見て,あるいは見させられていたのでは,看護はいつまでたっても医学の手伝いでしかない,という焦りである。焦る心には,求めがある。看護は,医学とは違う何かであるらしいことはすでに身をもって感じているが,どう違うのかをはっきりとつかみたい,看護としての見方で患者とかかわり,仕事に希望がほしい,そういう求めである。
 本書の著者遠藤氏もかつて,苦悩するがん患者にナースとしての手だてがないことを痛感し,患者の苦悩体験をまるごと支えることができ,同時にナース自身も成長していけるようなケアのバックボーンを探し求めていた。そして出会い,心から共鳴したのがマーガレット・ニューマンの「拡張する意識としての健康」であった。以来一貫して,その理論を柱に日本で実践し研究し,米国で開発されたニューマンの理論が日本のナースの求めに十分応えてくれるものであることを実証している。その集大成が本書である。理論(theory)は,劇場(theater)と語源が同じで,「見ること」,「見方を与えること」と言う原意があり,したがって理論とは,「現象を見るためのレンズ」であると述べ,理論への向き合い方は明快である。

◆ニューマン理論によるがん看護の実践

 ニューマンの理論による著者のがん看護実践では,辛いがん体験の中でも人々は成熟し成長するという事実を見逃さない。「どんなに忌まわしいがん体験も,それを意味ある体験にする力がクライアントの中にある」との信念で,その力にクライアント自身が気づくことを支援するために,ナースはクライアントとパートナーとなって,その人の人生の軌跡をなぞる手助けをする。クライアントが困難な体験の中でその力を認識した時,質的な転換,トランスフォーメーションをとげる。著者はそれを「蛹が蝶になるような」と表現し,その変容を支援するナースの仕事を「なんと光栄な仕事であろう」と讚える。このように意識が拡張していくプロセスが,がんを持つ女性(第1章),死に行く患者とその家族(第2章),患者とともにがんを体験している家族全体(第3章)に光をあてて描かれる。「がんのことよりも,自分の人生にどう向き合うかという問題のほうが,今は大切になってしまった」,「誰にもしゃべったことはありません.…ああすっきりしました」というクライアントたちの告白は感動的であり,また,遠藤氏自身がいかに優れたナースであるかのメッセージでもある。氏が同僚たちと実践するこのような看護インターベンションでは,クライアントとナースは互いに影響を与えあい変化しあうパートナーである。矢印が,ナースから患者に一方向に向かうような関係ではない。したがって,ナースも意識の拡張を経験する。
 最終章は,そのようなナースたちが主題である。付章で概説されるニューマンの理論や用語はわかりやすく,抽象的でとっつきにくいと先入観を持っていた理論,概念が生き生きとこちらに近づいてくるかのようである。本書から,患者,家族,そしてナースへの希望のメッセージを受け取りたい。
 本書を読んでより拡張された意識で,ナースたちは次の学会でもまた遠藤氏を囲むであろう。
(「看護学雑誌」第65巻第12号より再録)

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