見逃さない・見落とさない
スタンダード 胃内視鏡検査

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見ているつもりで意外に見えていないのが内視鏡検査。病変を見落とさない、癌を見逃さない安全・安心な内視鏡検査をするにはどうしたらよいか。内視鏡検査の利点とピットフォールを知り尽くした著者らが、ダブルチェックやカンファレンスでの見直しにも耐える内視鏡像を得るための標準撮影法を提唱。また残胃の撮影法、各部位ごとの撮影の注意点を含め、内視鏡検査の基本から懇切に解説。
編集 細井 董三
執筆 東京都多摩がん検診センター消化器科
発行 2009年10月判型:A5頁:168
ISBN 978-4-260-00964-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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はじめに

 本書は,これから胃内視鏡検査を始めようとしている医師,または始めたばかりで更に上達を望んでいる医師,さらに,すでにある程度,内視鏡の経験は積んでいるものの,ほとんど自己流で行ってきたため腕に自信が持てない医師,などを主な対象に,どうすれば安全で見逃しのない,見落としのない検査ができるのかを示したマニュアルである.
 内視鏡検査の利点は,スコープを通して目的とする部位の粘膜面の様子をありのままの色調で観察でき,病変を直接確認できることにある.そして病変が確認された場合は,必要ならその場で直ちに生検を行うことによって良悪性の鑑別ができる点も大きな魅力である.さらに近年,内視鏡による治療法が発達し,止血処置,ポリープ切除,粘膜切除,鏡視下手術なども積極的に行われるようになり,低侵襲性の治療法の普及に大いに貢献している.
 しかしこれらの内視鏡検査の利点を生かすためには,まずスコープを体内の目的部位まで挿入しなければならない.最近のスコープはフレキシブルで細径になったとはいえ,棒状のスコープを飲み込むのは,たとえ咽頭麻酔が施されていても,被検者の側からみれば,相当の不安と苦痛を伴う.被検者の不安や苦痛をいかに軽減し,検査を円滑に済ませるかが検者側の課題である.
 被検者に内視鏡検査の目的と安全性を十分に説明し,納得してもらうことがその第一歩である.更に,検査が安全かつ十分に行えるように,スコープの挿入・操作技術の習熟に務める一方,いたわりと声掛けによって被検者の不安と苦痛を軽減するための配慮が重要である.
 これから内視鏡検査を始めようとする人は,他人に対して行う前に,自分自身が一度内視鏡検査を受けてみるのが,被検者の心理状態や肉体的苦痛の程度を理解するのに最も早道であり,是非試みていただきたい.
 もう一つ内視鏡検査に取り組む前に心得ておくべきことは,内視鏡にも盲点があり,必ずしも万能ではないということである.
 内視鏡は直接胃の中を覗けるのだから,病変を見逃すはずがないと思いがちであるが,実際には胃の内面には胃液や泡状の唾液が付着していたり,ひだが蛇行状に重なり合って走行していたり,内腔が屈曲していたりで,観察しにくい部位もあり病変の早期発見が難しいことも少なくない.
 消化管に関心を抱く若い医師たちが胃X線検査から離れて,内視鏡検査へと一斉に向かい始めて約20年になる.その間,編者は色々な施設の内視鏡検査の実態を見聞きしてきたが,観察・撮影法が次第に安易な方向に流されている点に危惧を抱いている.きちんとした指導者の下で指導を受けずに,ほとんど自己流で検査を始め,それが盲点だらけの検査法であることに気づかずにいる内視鏡医が少なくない.こうした内視鏡検査の現状に警鐘を鳴らし,改善のための具体的な技術指導書があってもよいのではないか.そんな思いから少しずつ原稿を書きとめて準備を進めていたところ,幸運にも,この度,医学書院の窪田宏氏から出版の誘いを頂き,多摩がん検診センター消化器科の医師一同と構想を練り直し,書き上げたものが本書である.
 これまでの内視鏡入門書といえば,そのほとんどは内視鏡医によって書かれたもので,内視鏡の有用性は強調されていても,そのピットホールに触れたものは少ない.その点,編者は内視鏡検査と同時にX線検査にも長年取り組んできた経験から,内視鏡検査の利点とともに弱点も客観的に把握しているつもりである.本書はX線検査との対比の立場にたって内視鏡検査を眺め,より安全で,かつ見落とし・見逃しの少ない内視鏡検査を行うための要点を,初心者にも理解しやすいようにできるだけ多くの写真を用いて解説している.
 本書が多くの内視鏡医に愛読され,少しでも内視鏡技術の向上に貢献できれば幸いである.

 2009年9月
 細井董三

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1.どのような準備をすればよいか
 1.内視鏡検査の適応と禁忌
 2.インフォームドコンセント
 3.検査前
 4.検査当日
2.どのようなスコープを使用するか
 1.前方直視鏡
 2.側視鏡
 3.前方斜視鏡
 4.十二指腸鏡
3.どのようにスコープを挿入するか
 1.被検者の体位
 2.スコープ挿入のコツと注意点
 3.スコープの操作
4.正常なときはどのように見えるか
 1.喉頭部
 2.食道
 3.胃
 4.十二指腸
5.どのような順序で観察・撮影をすすめていくか
 1.観察不良となりやすい部位
 2.スタンダード撮影法
 3.喉頭反射の強い人の撮影法(変法1)
 4.簡便法(変法2)
 5.Billroth-I法術後胃の撮影法
 6.Billroth-II法術後胃の撮影法
6.各部位の撮影上の注意点
 1.喉頭部
 2.食道
 3.下部食道~噴門部
 4.胃
 5.十二指腸
 6.病変を見つけた場合
7.色素内視鏡はどのようにしたらよいか
 1.食道
 2.胃
 3.十二指腸
8.生検のコツ
 1.食道
 2.胃
 3.十二指腸
 4.生検で偽陰性になりやすい病変
 5.生検を行う必要がない病変
 6.生検の同意書
 7.生検後出血
 8.生検後の注意
9.検査後はどのような注意が必要か
 1.検査後の安静について
 2.検査後の食事における注意点
 3.検査後の生活上の注意
10.どのような偶発症を起こしやすいか
 1.前処置による偶発症
 2.検査手技による偶発症
 3.検査後の偶発症
 4.偶発症への備え
 5.偶発症が発生したときの対応
11.内視鏡検査の精度
12.胃疾患の鑑別診断
13.覚えておきたい内視鏡像
 食道
 胃
 十二指腸

索引

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盲点のない内視鏡検査の指南書
書評者: 浜田 勉 (東京都東部地域病院副院長)
 編者には食道癌と胃癌のX線および内視鏡の形態診断に携わった膨大な実績がある。その豊富な経験から,内視鏡検査で早期癌を見落としてほしくないという熱意のもとに本書は生まれた。日常臨床で検査を実際に行う内視鏡医の立場に立って,見ている内視鏡像の理解がより進む内容で構成され,狙い通りの盲点のない内視鏡検査の指南書に仕上がっている。掲載されている内視鏡画像は正常症例であれ疾患症例であれ,すべて明瞭で的確である。

 第5章「どのような順序で観察・撮影をすすめていくか」では,写真と図を多用し,胃全体から見てどの部分を観察しているのかがわかりやすく示され,X線像との対比を視野に入れようとする意図がにじみ出ている。

 また,第8章「生検のコツ」では,正確な内視鏡操作をする上での微細な手の動きが表現されており,まさに著者らの検査時の息使いが感じられる。なるほど指摘されれば一行一句が検査時そのように操作していると実感できる。

 簡潔ながら読み進めば進むほど,本書が「スタンダード」と冠しているものの,実はかなりのテクニック本であることがわかる。自動車運転に例えるなら,教習所の教官が教える基本操作ではなく,タクシードライバーが教える一般道での運転テクニックといえるだろう。

 第13章「覚えておきたい内視鏡像」では,各症例の厳選されたベストショットが掲げられているので,それぞれの形態的特徴を目で確認できる。著者らの蓄えた豊富な症例の内視鏡像をもっと多く,またそれぞれの症例のとらえどころなど解説していただきたかった感が残るが,紙面の制約上やむを得なかったのであろう。

 内視鏡検査を教える人にとっても教えられる人にとっても,その技術が明解に整理されている本書を手元に置かれることをお勧めしたい。
より盲点の少ない,見逃し,見落としの少ない撮影法を提唱
書評者: 細川 治 (国家公務員共済連合会・横浜栄共済病院院長)
 一度の胃内視鏡検査で極めて多くの画像情報が得られるようになった。白色光画像以外に色素散布,酢酸散布,拡大,構造強調,NBI,AFI,FICEとあふれるような情報が供給される。しかもファイリング装置で撮影コマ数に制限がない。内視鏡医は手元スイッチを切り替え,処理しきれないほど多くの画像情報を得て,見落とし,見逃しの危険などないと思いがちである。しかし,その画像情報の収集過程に問題がある。胃内腔の構造は複雑で,噴門,胃体部の皺襞,胃角,偽幽門輪などの部位ごとの形態的な違いがあり,さらに胃底腺領域,幽門線領域,萎縮領域といった粘膜腺も異なり,一筋縄ではいかない。

 本書前書きに述べられているように,編者の細井先生は消化管のX線検査に長く携わってきた。その技量は達人の域であろう。卓越した撮影技術を有することにとどまらず,胃X線標準撮影法を確立し,この数年はその普及と精度管理に尽力している。本書では,X線検査で実現された標準化や精度管理が胃内視鏡で遅れていることに対する苛立ちが表れている。

 A5判168ページの本書で多くのページを割いているのは,もちろん観察・撮影順序の項である。最近一般的に行われている幽門まで一気に進み,引き抜きながら撮り上げてくる観察法は編者の賛同を得られない。胃体部の皺襞が重なりあったままで噴門部も観察が不十分になりやすいことが理由である。自己流の撮り方をやめ,より盲点の少ない,見逃し・見落としの少ない撮影法を提唱している。咽頭から始まり,食道,食道胃接合部へと進み,胃内では胃体上部から幽門部に順に撮り下げていき,十二指腸は2コマのみ,次いで角裏から体部Jターン,穹窿部Uターンと進み,全体で45コマの記録が推奨される。咽頭反射の強い場合やより簡便に施行する方法も追記されている。

 さらに,残胃の観察撮影に12ページが割かれ,Billroth I法とII法に分けて要点が記載されている。その項で描かれている図では残胃小彎の向きがI法とII法で異なっており,多数の残胃X線検査に携わった編者の面目躍如である。

 部位ごとの撮影上の注意,色素内視鏡の手順,生検のコツ,覚えておきたい内視鏡画像と,初学者にとって必須の内容が記載されている。類書との違いは,編者がX線検査から得た手法を用いている点である。ストマップという模擬図を用い,検査医が観察している箇所を容易に頭に描くことができる手法を取っており,胃透視を行う放射線技師が広く用いている。また7ページに被検者身体の軸方向,12ページに食道と胃内腔の軸方向が記載されており,身体と臓器の軸の認識は,X線検査で体外から胃を透かし見た編者ならではと思われた。

 内視鏡医は種々の特殊画像を弄ぶ前に,スタンダード胃内視鏡検査に通じることが必要であり,本書は大いにその力添えをしてくれるであろう。

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