病院ファイナンス

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医療に専念していれば病院経営は安泰であった時代は、すでに過去の話。病院淘汰が進みつつある今、医業維持発展のための設備投資や質の高い医療提供には資金調達は不可欠で、医療機関の経営者にも会計・財務知識がもはや必須の時代となった。本書は、病院の資金調達のイロハから徹底解説、読めば“?”が“!”に必ず変わる。
福永 肇
発行 2007年03月判型:A5頁:416
ISBN 978-4-260-00448-0
定価 4,400円 (本体4,000円+税)
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まえがき

福永 肇



 資金調達の実務に関する本は,書店の書棚を探してみてもほとんど見当たりません。各々の金融機関には調査部や関連シンクタンクがあり,優秀な金融プロの方がたくさんおられます。しかし,論文や本を書くことはきっと金融機関のビジネスではないのでしょう。

 一方,経済学での「金融論」や経営学での「ファイナンス論」は確立した学問分野でもあり,たくさんの専門書が出版されています。しかし著者の方々は,ご自身が貸付をしたり銀行に融資を申し込んだ経験がないように見受けられ,資金調達の現場の実務の参考書には適していないようです。

 資金調達の実務書は現在このような状況のようです。そのため,病院に焦点を絞ったファイナンスの書籍はほとんど期待できません。しかし利用価値のある病院ファイナンスの教科書,解説書が病院経営には必要ではないかと思います。



 筆者はかつて銀行で医療機関との取引推進の担当として,日々病院の現場・現実・現物を見ていました。病院の経営改善に対する見方・考え方を醸成していくには,まず次世代を担う学生の育成であろうと考え,医療経営の専門大学に派遣して頂き,教壇に立ちます。医療経営管理学科の学生に4年間,病院経営について基本から教えてきました。その間に医学書院の月刊誌『病院』に「病院ファイナンスの現状」という連載を執筆する機会がありました。

 今回,これまで続いた31回分の連載を改めて再度見直し,紙面の都合上書き尽くせなかった情報や解説を書き加え,まとめ直したものが本書です。

 残念ながら日本の大学には“病院財政学”とか“病院財政論”,“病院ファイナンス論”といった医療の財政・金融に関する講座はいまだない模様です(私自身も大学では病院ファイナンスそのものの講義は行っておりません)。そういった意味で本書は,病院経営学での「ヒト・モノ・カネ」の3つのうち,結果としてカネに関する草分け的な書籍となります。



 本書では病院の多様な資金調達方法についても紹介します。しかし今日の病院にとってまず大切なのは,民間銀行からの資金調達枠を確保・拡大することです。これは病院に限らず,診療所,介護福祉施設でも同様です。そのために必要なノウハウをわかりやすくまとめました。



 本書は学術論文ではなく,実務面に軸足を置いて病院のファイナンスの解説をしています。民間病院の理事長,病院長,事務長など経営層の方々はもちろん,病院のスタッフをはじめ,診療所・介護福祉施設などの医療福祉関係の方々,金融機関,会計・税務事務所,医業経営コンサルティング会社,ヘルスケア関連ビジネス会社,行政,医療・福祉系学校関係の教員・学生の方にも,医療機関のファイナンスを理解する教科書として活用できる内容にしています。ファイナンスでの考え方や知識,用語についても解説を行い,参考書や金融の専門辞書なしで理解できるように配慮しました。



 もっと研究を深めて内容を検証する箇所や,試行錯誤中の課題がたくさんあるのは筆者自身がもちろん十分に認識し反省しております。どうか本書を踏み台に,読者の皆さんの手で,この国の病院のファイナンスを発展させていただければと思います。



 2007年 3月

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第1部 病院ファイナンスの現状
 第1章 現在の銀行審査
 第2章 病院の資金調達の歴史(1):過去
 第3章 病院の資金調達の歴史(2):現在
 第4章 病院の資金調達の歴史(3):今後の展望
    (療養病床転換と既存借入金返済の問題)
 第5章 病院ファイナンスの構造的課題
    「情報の非対称性」と「低い売上高水準」
 第6章 病院ファイナンスの鳥瞰図
第2部 間接金融
 A. 福祉医療機構
 第7章 福祉医療機構からの資金調達
 第8章 福祉医療機構利用のメリット
 第9章 福祉医療機構利用における注意点
 B. 民間銀行
 1. 格付,担保,保証
 第10章 銀行の信用格付制度
 第11章 病院の担保
 第12章 理事長・病院長の連帯保証
 2. 銀行借入のプロセス
 第13章 銀行借入手続
 第14章 銀行の融資審査プロセス
 3. 短期・長期資金借入の基礎知識
 第15章 病院の短期資金調達の基礎知識
 第16章 病院の長期資金調達の基礎知識
 第17章 長期借入金の返済原資:減価償却費
 4. 銀行審査のポイント
 第18章 銀行審査のポイント(1):病院経営状況
 第19章 銀行審査のポイント(2):財務諸表
 第20章 銀行審査のポイント(3):資金計画書
 C. その他間接金融
 第21章 信用保証協会
 第22章 国民生活金融公庫(国金)
 第23章 間接金融によるその他の資金調達手段
    (医師会提携融資,公的融資,制度融資など)
 第24章 ファイナンス・リース
第3部 新しい資金調達と直接金融
 第25章 診療報酬債権流動化スキーム
 第26章 不動産流動化(REIT),病院全事業証券化,PFI
 第27章 病院債(1):債券発行による資金調達と地域医療振興債
 第28章 病院債(2):医療機関債・社会医療法人債/病院債発行の背景
 第29章 病院債(3):病院債の課題と発展
 第30章 病院の自己資本-発展段階とファイナンス手法
あとがき
索引

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病院に必須の資金調達ノウハウを提示
書評者: 松原 由美 (明治安田生活福祉研究所主任研究員)
 病院の資金調達多様化が議論されるようになってから久しく,さまざまな手法がメディアを賑わしている。病院経営者の中には,銀行借入だけに頼っていては,不当に高いコストで資金調達をしているのではないかと疑心暗鬼になっている方もいらっしゃるかもしれない。

 本書はこうした巷間指摘されている病院の資金調達多様化手法を紹介しながらも,今日の病院にとって最も大切なのは銀行からの調達ルートを確保することであるとし,それに必要なノウハウをわかりやすくまとめた良書である。

 本書の著者は元銀行員であることから,病院の資金調達の歴史・構造的課題,病院ファイナンスの鳥瞰図など,病院のファイナンスを学ぶにあたって基本的事項を整理したうえで,銀行借入のプロセスや,融資する立場に立って,銀行審査のポイントを大変細かくていねいに解説している。

 そのためファイナンス初心者にとっても,非常に理解しやすい内容となっている。また,プロの金融機関にとっても,資金調達面における病院の特徴を知る貴重な1冊といえよう。

 ただ,融資する側(銀行側)に立った病院の資金調達論にウェイトがかかりすぎたキライがある。病院の立場に立った資金調達のあり方(病院にとってメリットのある資金調達のあり方)はどうあるべきか,そのためにどのような具体策が望まれるかの議論が乏しかったのはやや残念である。また,最後に株式発行による自己資本増強策の必要性が突然指摘されているが,これは医療提供体制のあり方に関わる問題であり,病院にとっては理念を実現する手段にすぎない資金調達の問題だけから議論するには十分とは言えず,医療の非営利性を否定してまでなぜ病院の株式化が必要なのか,読者にわかる議論が欲しかった。なお,資金調達面からみた病院株導入の必要性の検討について関心のある読者には,同著者による月刊誌『病院』2007年3月号(vol. 66 No. 3)に掲載の連載を参照されることをお勧めする。

 しかしこれらは本著全体の意義を考えれば小さな課題といえよう。本書は病院の資金調達で何が最も必要なのか,銀行からの資金調達枠を確保・拡大するにはどうすればよいのかを指南し,病院経営者層をはじめ,金融機関,会計・税務事務所,医業経営コンサルティング会社,ヘルスケア関連ビジネス会社,学生など,病院ファイナンスを学ぶ者にとり必読の書である。
病院の役職員と病院ファイナンスに携わる金融マンに必携の書
書評者: 坪井 清 (株式会社日本格付研究所・取締役)
 本書は,月刊誌『病院』に連載された「病院ファイナンスの現状」を大幅に加筆修正し内容を一新したものである。

 本書は,「病院の資金調達」に関するわが国初の体系的な実務書といえ,そのパイオニア的存在意義は高く評価される。これまで類書が見られなかったのは,「病院(医療)」と「ファイナンス(資金調達)」という高度に専門的な両分野にわたり,その理論と実務に真に通暁する者が存しなかったからであろう。

 この点,著者は経済学者であるうえに銀行で病院融資を担当し,さらに医療・福祉系の大学で長く医療現場に密着しつつ医療経営の教育・研究に携ってきた。その集大成が本書にほかならない。著者の大学での熱血指導には定評があるが,本書で変化の著しい医療とファイナンスについてこれほど広く深く追究しているのは,まさにその熱血漢の面目躍如たるところである。

 本書は,第I部「病院ファイナンスの現状」,第II部「間接金融」,第III部「新しい資金調達と直接金融」の3部から成る。

 第I部では,平成時代に入っての医療制度の変革と資金調達への影響を綿密にかつ的確に分析しているのが圧巻である。この中で,病院ファイナンスの体系や「病院と銀行は永いパートナー」であるべきといった基礎的な点もわかりやすく解説している。第II部では,病院ファイナンスの大宗をなす間接金融について,福祉医療機構と民間銀行からの借入を中心にその借入の注意点に至るまで懇切丁寧に記述している。第III部では,最もトレンディなテーマである「新しい資金調達」として「直接金融」についてチャレンジングな解説をしている。診療報酬債権等の流動化や来年度以降発行が見込まれる社会医療法人債は難解な分野であるが,著者なりの整理とともに資産の流動化についてはいくつかの率直な疑問も提起しているのは興味を引く。

 本書がより深く理解されるよう,著者が随所にふれている部分ではあるが,評者からも改めて以下の2点を指摘しておきたい。

 第一は,資金調達コストを考察する場合,表面上の金利のみならず各種手数料等の調達に付随する費用も含めた「オール・イン・コスト」で分析すること。第二は,具体的な調達手段を選ぶ場合,調達コストだけで決めないこと。即ち,コスト論のほか,調達可能額の多寡,担保提供ないし保証の要否,償還方法(期間,満期一括か分割か),経営の裁量への制約度,調達の機動性等の諸点を総合評価することにご留意願いたい。

 本書は,「銀行と病院との間にある情報の非対称性」を埋めるには最良の書であり,病院の役職員のみならず金融マンにとっても必携の書として推薦したい。
人材+資金をひきつける病院経営の指南書
書評者: 明石 純 (流通科学大学教授・経営学)
 一般的に経営の3大要素として,ヒト・モノ・カネが挙げられている。しかし,病院経営においては,ヒトやモノのマネジメントと比較して,お金のマネジメントにはあまり注目されてこなかったように見受けられる。お金に関係する業務には,大きく分けて,組織体の財政状態や経営成績を測定し記録する「会計(accounting)」と,資金そのものの調達や運用を行う「財務(finance)」があるが,本書は後者の中の資金調達について詳しく解説したものである。

 従来から民間病院の設備資金の主要な調達先であった福祉医療機構などの公的金融機関は縮小傾向にあり,医療費抑制政策によって病院の採算性が低下し,運転資金の必要性が増加している。つまり医療機関は,民間の金融機関からの資金調達に依存する傾向が今後さらに高まっていくことになる。また,このような資金需要をまかなうため,病院債や資産の証券化のような金融市場からの調達も一部始まろうとしている。

 第1部の各章では,バブル経済崩壊後の銀行の変化,医療制度の変化と病院の設備投資,病院の借入の現状と課題など,病院の資金調達に伴う背景が述べられている。第2部の各章では,福祉医療機構など公的金融機関および銀行など民間金融機関からの資金調達について,実務的に詳しく説明されている。第3部の各章では,診療報酬債権や不動産の流動化,病院債などの新しい資金調達の手法についての現況がまとめられている。

 本書は,金融と医療経営の双方に造詣が深い著者によって,病院の資金調達のあらゆる側面についてていねいにまとめられた労作である。全体としての重点は民間銀行からの資金調達にあり,随所に銀行側の見方が散りばめられていることは,借入側である病院関係者にとって参考になるであろう。全30章にわたって,わかりやすく具体的に記述されており,全体を通読すれば病院の資金調達の全体像と詳細が把握できるだろう。

 一点だけ指摘するならば,今後の課題として「病院株」が提唱されているが,これについては疑問が残る。株式の本質は,「返す必要のない夢のような資金」ではなく,「返す必要がないゆえに高いリターンが要求される資金」であり,リターンとは主に経済的リターンである。経済的リターンがあるからこそ社会から資本が集まるのであって,非営利性を担保する(配当や値上り益を期待しない)株式が仮に考案できたとしても,それは医療法人に対する現行の出資金や寄付金と変わりがないのではなかろうか。

 医師や看護師不足の昨今,よい人材を集める病院がマグネットホスピタルと呼ばれて久しいが,これからは資金もいかにマグネットのように集めるかが病院経営の必要条件になるであろう。そのためには資金調達の手法について熟知するとともに,融資する側の論理を理解して外部者にわかりにくい医療経営の特性について十分に説明する必要が出てくる。本書は,それに向けて具体的な行動を進めるための,病院の経営者や事務長,財務担当者などにとって必読の書といえよう。

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