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イラストレイテッド泌尿器科手術
図脳で覚える術式とチェックポイント

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エジプトにおける多数の手術経験により、泌尿器科手術のテクニック上達の秘訣は、そのプロセスと手順の、イメージによる徹底した「暗記」であるとして「図脳」のコンセプトに到達。1000点を超すオリジナルイラストにより、その手技のディティールまで懇切丁寧に徹底解説。ビギナーからベテランまで、すべての泌尿器科医におくる画期的手術アトラス。
加藤 晴朗
発行 2007年10月判型:A4頁:400
ISBN 978-4-260-00398-8
定価 18,700円 (本体17,000円+税)

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推薦の序(西澤 理)/はじめに(加藤 晴朗)

推薦の序
 1996年の信州大学への着任の2~3年前に加藤晴朗先生からマンスーラ大学への留学について,意見を求められたことがあった。その際私は,マンスーラ大学ではなくて,アメリカやカナダ,あるいはヨーロッパの大学への留学を勧めたことを記憶している。一番大きな理由は,私の留学先であったモントリオールのマッギル大学で当時付き合う機会のあった,エジプトから留学していた複数の泌尿器科医から感じられた強烈すぎる個性であった。エジプトでの強烈な個性のある泌尿器科医たちの人間関係は厳しそうであり,優しそうな人柄の加藤先生には難しいと感じられたからであった。しかし,実際には加藤先生はマンスーラ大学に1994年から1995年まで留学し,マンスーラ大学での留学生活を良好な人間関係のもとに十分にエンジョイしてこられた。とくにHassan先生と出会い,serous-lined tunnel法などの手術を学び,習得してきたことが本書の出版にもつながった訳であり,加藤先生の芯の強い人間性とわが道を行く姿勢に敬意を表するところである。
 本書の構成は1膀胱の手術,2泌尿器科手術に必要な各種アプローチ,3前立腺手術,4陰茎・陰嚢・尿道の手術,5女性および小児泌尿器科の手術,6尿路再建術,付録 マンスーラからなっている。加藤先生の自筆による立体感あふれるイラストを頭に入れることは手術を円滑に進める際に有用なことを確信している。読者の先生方には,本書を一読するだけではなく,手術を担当する前に,本書の相当する箇所に繰り返し目を通すことをお勧めする次第である。
 2007年 盛夏
 信州大学医学部泌尿器科 西澤 理

はじめに
 如何にして優れた執刀医になるか,あるいは如何にして優れた執刀医を育てるか。外科医によって,時期によって,あるいは環境によってさまざまな考えがあるであろう。多くの手術を経験すること,できるだけ上手な手術を多くみること,手術解剖を熟知すること,あるいは手術書や解剖書をよく読んで,あるいはビデオをよく見てイメージトレーニングをしておくことなど。また技術的なことを言えば,糸結びや腹腔鏡であればトレーニングボックスを利用して,常日頃の練習を怠らない。もっと高度なことは,とっさのときに適切にトラブルを処置する判断力や冷静さ。あるいは困難な状況を打開するような想像力や創造力が要求されるような場面もあろう。もっと観念的なことを言えば,チームワークを守れるとか,常に心が安定しているとかトレーニングしようにも,できそうもない要素まで入ってくる。
 もちろん,これらの要素はすべて,優秀な外科医にとっては,必要なことであろう。あるいは優秀な外科医であれば,もっと多くのことを身につけているであろう。若い泌尿器科医のほとんどは,優れた執刀医になることを願いトレーニングに励んでいる。しかし一人あたりの症例数の少ない日本においては,如何にしてこれらの能力を身につけたらよいのであろうか。あるいは本当にとっさのトラブルに対応できるトレーニングがあるのであろうか。
 これらの要求をすべて身につける究極の方法は,手術の手順と方法をすべて暗記することである。本書ではすべての手術は,ひとつひとつの手技の連続で成り立ち,その手技を合理的な順序に従って完遂すれば,手術を滞りなく終了するようになっている。その順序にしたがって拙いイラストで説明することを試みた。例えば膀胱全摘術が,AからZまでの手技で成り立っているとすれば,A,B,C…と一つずつ暗記した手技を順番にZまで行えば,きれいに膀胱は摘出できるようになっている。一つの手技に関しては,左手の使い方まで決まっていたり,結紮の順序までわたしの場合には決まっている。これについては各指導医や施設によって多少なりとも相違があるので,あまり厳格には決めないが,私なりの方法をイラストにしてみた。残念ながらトラブル・シューテイングについては手が回らなかったが,極論すればトラブルの対処も,対処の手順と仕方を暗記するのである。実際に暗記したとおりにやってみて,実際の感覚を掴み,自信をつければ判断力や冷静さ,しいては術中の感情の安定まで得られるようになる。くどいようだが,“手術は暗記である”。
 本書執筆中の苦しみでもあり,楽しみでもあるのは,いかに頭の中にあるイメージや手術のコツをわかりやすく,一発で表現するにはどんな絵を描いたらよいかだ。実際の手術野はあっちを見たりこっちを見たりして,頭の中にひとつのイメージとしてまとめることができるが,イラストにするとそれを一平面上でわからせるようにしなければならない。これは多くの手術書においても実際の手術野に比べて,立体感に欠けるのはそのためと思われる。したがって本書のイラストにおいても,解剖や写実感よりも,やはり実際の手技や手順を重視した。しかしながら,イラストを描きながら実感するのは,手術の絵を描くこと自体,手術のトレーニングになるということである。実際の手術と違って,出血することもなく,何度でもやり直すことができるのが利点である。しかし,一枚の絵を描くことによって,解剖に矛盾がないか調べたり,手技や手順を改めて反芻することにより,より理解が深まるのである。絵を描く暇がないほど症例数が多い外科医は別として,絵を描くことは,手順や手技を暗記するための助けになることを疑わない。
 この手術書を執筆するにあたり多くの方のお世話とご援助を賜ったのでこの場を借りて深謝したい。西澤 理教授はじめ信州大学医学部泌尿器科学教室の医局員一同には術中多くの要求に応えていただき感謝しています。特に西澤教授は術中写真を撮るのに苦労していた私をみて,デジカメとともに消毒可能なカメラカバー(水中写真撮影用)をプレゼントしていただき大変感謝しています。以後愛用させていただき,私のイラストの質は一段と向上したのではないか?と思っている。また多くの貴重な手術例を見せてくれた小諸厚生総合病院医長・清河英雄先生(現・諏訪赤十字病院医長),長野松代病院医長・中川龍男先生,国立長野病院医長・小宮山斎先生(現・国立松本病院医長)および水沢弘哉先生には感謝いたします。最後に初めて手術書を執筆する私を,長期にわたり多くの助言やアイデアで励まし続けて下さった,医学書院編集部の伊東隼一氏および,大小不揃いで無計画に描いたイラストをさらに私のわがままを受け入れていただき,きれいにレイアウトして下さった制作部の玉森政次氏に深謝いたします。
 2007年8月
 加藤晴朗

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1. 膀胱の手術
 A. 根治的膀胱全摘術(単純膀胱摘除術を含む)
 B. 腹膜外アプローチによる膀胱手術
 C. その他の膀胱の手術
2. 泌尿器手術に必要な各種アプローチ
 A. 腎・副腎へのアプローチ
 B. 後腹膜リンパ節郭清術
 C. 傍腹直筋切開によるアプローチ
 D. 小切開手術
3. 前立腺手術
 A. 根治的前立腺全摘術
 B. 前立腺肥大症の手術
4. 陰茎・陰嚢・尿道の手術
 A. 陰茎の手術
 B. 陰嚢の手術
 C. 尿道の手術
5. 女性および小児泌尿器の手術
 A. 婦人泌尿器の手術
 B. 小児泌尿器の手術
6. 尿路再建術
 A. 失禁型尿路変向術
 B. 新膀胱の作成
 C. 禁制尿路変向術
 D. その他の尿路再建術
付録 マンスーラ~エジプトの泌尿器疾患と手術~
参考文献
おわりに(泌尿器科手術の秘訣)
索引

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創面がわかりやすく図示された図脳を刺激する
書評者: 中川 昌之 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科尿路系腫瘍学分野教授)
 まずこの本のコンセプトに驚かされた。「手術は暗記である」という。日本では泌尿器科手術に関していえば,泌尿器科の医師一人当たりが経験できる症例数は一般外科医に比較すると十分とはいえない。一般に言われているように,より多くの手術を経験した術者ほど手術は上手と考えられており,これは100%正しいとはいえないが,かなり的を射ていると思われる。患者にしてみれば,一生に1回しか受けない手術で成功を求めることは当然であるが,手術をする側からすると,同じ術式の手術でもやさしい症例もあれば難渋する場合もある。私自身,これまでやってきた手術のうち本当に自分自身満足のできる手術はそう多くないと思っている。もちろん経験を積むほどに目標は高くなるし,患者側の身体的条件も毎回異なるからである。私はこうした理由からいつも良い手術書を求めている。

 良い手術書とはどのようなものであろうか。おそらくそれを読み学習すれば,解剖がよくわかり目的とする対象臓器までのアプローチがスムーズに行え,また予想外のことが起こっても対処法を想起でき,より安全に手術を完遂できることを可能にするような書物であろうか。もちろん1冊の本だけでそう簡単にできることはなく,実際の症例を経験しながら手術書を繰り返し読み,局所解剖の理解を深め正しい膜面での剥離を行い,目的を達成することになる。そうしたことを考えると,本書は手術経験の少ない若手医師にも理解しやすいように,創面が実際にどのように見えるかわかりやすく図示されており,著者がいうところの「図脳」を刺激してくれる。またワンポイントの解説は非常に的を射ており,予想外のハプニングが起こっても対処法の想起につながる。また手術で大事な視野を作る際の左手の使い方もよく示されている。それからどのような症例が困難な症例で,その場合にはどのように対処するのがよいのかも示されており非常に感銘を受けた。

 各術式の解説の途中のコラムの「図脳」のところでは,著者の幅広い知識からのいろいろな逸話や手術に対する心構えなどが紹介されており,豆知識を入れると同時に気分転換にもなる。巻末の「エジプト泌尿器医療事情」は非常に楽しく興味深く読むことができる。ご存知のようにエジプトはビルハルツ住血吸虫症による慢性膀胱炎からの膀胱癌(扁平上皮癌)患者が多い。中でも著者が留学されていたマンスーラ泌尿器疾患・腎臓病センターはGhoneim教授やHassan教授といった著名な手術の名手がおり,毎日のように膀胱全摘除術やその他の泌尿器科疾患に対する手術が行われている。実は当科の医師も現在,同病院に留学中であり,さまざまな泌尿器科疾患の手術の勉強を行っているところである。

 以上,紹介してきたように本書は泌尿器科医師を中心として,これから泌尿器科手術を学ぼうとする人,あるいはすでに手術経験が豊富な方でさらに別の観点から勉強を続けようとしている方には最適の書である。この本がこれらの方々の目的達成に大いに役立つことを願っている。
魅力的なイラストと解説が想像力と立体把握能を養う
書評者: 塚本 泰司 (塚本 泰司)
 「音痴」ということばがあるのであれば「画痴」ということばもあるべきであるというのが私の持論です。そして,私は「画痴」です。そんな訳で,この本の書評を依頼された時,はたと困りました。エビデンスがあるかどうか検証してはいませんが,画の上手な人は手術も上手であると,よく言われます。なるほど,教室でも私と一緒に働いてきた先輩にも,現在働いている後輩にも,このことが当てはまりそうです。しかし,逆は真だろうか? 真であるとすると,そもそも私にはこの本の書評を書く資格はない,ということになります。幸い,この本では「手術は想像力である」と書かれています。画が下手でも想像力があれば手術は上手になれそうです。「画痴」も想像力豊かに思い描いた状況を指で画に表現できないだけのもの,と定義すれば,想像力を駆使すれば「画痴」でも手術は「イケル」ということになります。

 など,など,「自分が書評するのにふさわしい泌尿器科医なのか?」と自問自答しながらこの本をめくりました。私がふさわしい人間かどうかは別にして,この本は見ての通りユニークなイラストで溢れ,そのメッセージはストレートです。しかも,加藤先生自身が経験した手術を,文字どおり(というより,ここでは画どおりといったほうが適切かもしれませんが)4コマ漫画ならず多数コマ漫画で表現されています。それは,あたかも私が小・中学生の頃愛読していた「ちば てつや」のキレのあるタッチ漫画(『ちかいの魔球』,『紫電改のタカ』etc.)の一コマ,一コマを思わせます。

 手術は想像力と立体把握能の合作です。目の前に広がっている術野のその裏には何があるのか,その横はどんな解剖になっているのか? 今,見えていないモノをどうやったら目の前に露出させることができるのか? 想像力と立体把握能は手術を適切に遂行するために欠かせない能力です。 

 これらの能力を獲得するためには,文字と図の2つが必要です。この本の魅力がイラストにあることは疑いの余地のないことですが,イラストに添えられている言葉(文字)も簡潔にして明瞭,示唆に富んでいます。この両者から学ぶものは多いと思います。

 この本は,これから手術を始める泌尿器科後期研修医に有用なことはもちろんですが,ある程度の数の手術を行った専門医・指導医クラスの泌尿器科医のほうがその有用さをより実感するものと思います。なぜなら,この本には泌尿器科手術の現場が描かれているからです。

 著者の加藤先生の勧めにしたがって,この本のイラストを100%暗記しましょう。とっさの時には,十分に身についたことしかできない,というのが現実だからです。

“If I see further than other men, it is because I stand on the shoulders of giants."

―Sir Isaac Newton
絵を描くことが手術トレーニング 加藤流「図脳」を伝える一冊
書評者: 木原 和徳 (東京医科歯科大学大学院泌尿器科学教授)
 加藤晴朗先生の『イラストレイテッド泌尿器科手術――図脳で覚える術式とチェックポイント』が刊行された。以前よりご本人から聞いていた加藤先生自身の1000点以上におよぶイラストで解説した手術書である。本書で言う加藤流の極意は,「手術は暗記」である。「優秀な外科医に求められるものを身につける究極の方法は,暗記である」「くどいようだが,手術は暗記である」。気持ちよく断言している。一人当たりの症例数の少ない日本において,どのようにして優れた執刀医になるか,いつも考え続けた術者が到達した「境地」である。日本とは比較にならないほど多数の膀胱全摘除を経験できるエジプトでの研修体験が大きな基礎となっている。

 加藤先生の言う「図脳」とは,図に基づいた頭脳の働きを指しているようである。手術を説明するには(「暗記」してもらうには),図が最優秀との意であろう。本書は泌尿器科の重要手術をほぼ網羅しており,次の項目から構成されている。(1)膀胱の手術,(2)泌尿器手術に必要な各種アプローチ,(3)前立腺手術,(4)陰茎・陰嚢・尿道の手術,(5)女性および小児泌尿器の手術,(6)尿路再建術,付録)マンスーラ~エジプトの泌尿器疾患と手術,である。先生自身の巧みな,解剖をよく理解した,うまい絵で,「美しい手術が優れた手術」という先生の思いを表しながら,代表的な泌尿器科手術の手順と手技のポイントが詳細に解説されている。膀胱の手術には特に力が込められている。ミニマム創手術にも言及がある(感謝)。絵を描くこと自体が手術のトレーニング(加藤流では暗記の訓練)になることを,無言のうちに伝えている。

 今は,腹腔鏡手術がその口火を切った「手術の革命」の真最中である。年毎に新しい手術の概念が登場するように感じられる。「手術の傷跡もまったくなく,翌日には退院できる大手術」が現実のものになろうとしている。ただ,このような手術に到達するための土台,基本はいつの時代も変わらない。無数の先達が丹精して築き上げてきた開放手術である。「定型的な手術を暗記してしまえば,応用問題も可能であるし,そこから自分の境地も開けてくる」と著者が言うように,本書はこの土台の解説書であるとも言える。十分な土台を身につけることが,手術がうまくなる王道である。その延長上に,新しいテクノロジーと相まって創造的な世界が開けてくる。若い加藤先生が提示してくれたこの優れたテキストで自分の手術を顧みてみることは,泌尿器科医,特に若い泌尿器科医にとって,優れた手術トレーニングになるであろう。

 本書は,「手術とは何だろう」,「どうしたらうまくなるだろう」を加藤流に伝える本である。テクニックの解説から溢れる,手術に対する熱い思いに触れてほしい。患者さんに「手術が益になるか,不利益になるか」,まさに術者にかかっている。外科系の医療崩壊が危惧される今日,「天気晴朗なれども波高し」と士気を鼓舞した有名な海戦の言葉があるが,この本を手に取って晴朗先生に鼓舞される泌尿器科医がひとりでも増えることを願っている。

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