カラーアトラス 神経病理

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Montefiore病院の貴重な症例の記録のアトラス。18年ぶりの改訂。この間の神経病理の発展、知見を盛込み、新規項目として追加。平野朝雄教授とその門下生の入念なる吟味により、神経病理学に対する親しみはもちろん、ものの見方・考え方をも味わうことができる、魅了される良書。『神経病理を学ぶ人のために』は姉妹書。
編著 平野 朝雄
発行 2006年05月判型:A4頁:264
ISBN 978-4-260-00285-1
定価 19,800円 (本体18,000円+税)
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  • 目次
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脳・脊髄の肉眼観察
 頭蓋骨
 硬膜
 脳
 大脳半球切断面
 脳幹と小脳
 脊髄
細胞からみた神経病理学
 神経細胞
 上衣
 星状膠細胞
 乏突起膠細胞
 脈絡叢
 Schwann細胞
 血管
 macrophage
 髄膜
 その他の細胞
局所神経病理学
 トルコ鞍部
 松果体部
 基底核と小脳
 脊髄
 後根神経節
病因からみた神経病理学
 虚血性病変
 感染症
索引

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病変の特徴を美しい写真と的確なコメントで明示
書評者: 柳下 三郎 (神奈川リハビリテーションセンター・病理)
 平野朝雄先生の不朽の名著『神経病理を学ぶ人のために』の第4版「実相観入」のサイン入り書を手にしたのは,2003年5月30日と記載されています。この書を読み返す度に私は胸が熱くなり興奮が今も醒めません。つい先日発刊された思いで,数年前とは想像もできませんでした。

 今年,姉妹編としての『カラーアトラス神経病理』第3版が発刊されました。第2版が出版されてから,18年余が経過したとのことです。初版と第2版の間が約10年ですから,第3版は約2倍の間隔をおいて再版されたことになり,間隔があきすぎた感がありますが,脳腫瘍のWHOのブルーブックやGreenfieldのNeuropathologyなどが相次いで数年前に改版出版されたことを考えるとタイムリーであります。このアトラスには新たに多数のカラー写真が追加されており,執筆された諸先生方のご努力にも敬意を表します。

 このカラーアトラスを3回ほど拝読し,美しい写真を見つめていると,木下利玄の「牡丹花 咲き定まりて静かなり 花の占めたる位置のたしかさ」が脳裏に浮かんできました。表現方法はきわめて平凡ですが,花の占める正確な位置とその重厚さが遺憾なく表現されています。先生の写真説明の言葉は簡明で無駄など一語もなく,長年の研究活動を通して磨き上げられた鋭い洞察力をベースに表現されたもので,一語一語の重さとその位置の確かさは,小生などには評者としての資格がまったくないことを悟らされます。忌憚のない感想を述べて書評に換えさせていただきます。

 「病理学は肉眼で見,顕微鏡で確認した像が基本となって学問が成立している」と先生が言われているように,写真の3分の1以上が肉眼写真であります。神経科学の進んだ現在ではもう見られない貴重な写真も多数掲載されています。図160の橋中心性髄鞘崩壊の説明でも,「橋の中心部に……一見梗塞のように見えるが……細胞体や軸索はよく保たれているのが本症の特徴である」と説明されています。「よく見ると」や,「一見」などの言葉がよく使われています。丁寧にかつ十分病変を観察し,正確に病変の特徴を見抜いてくださいという先生の声が聞こえてきます。加えて,的確で簡明なコメントも付記されておりますが,一語の無駄もありません。これを念頭において所見や説明のコメントを読んでいただきたい。

 ミクロの世界でも,病変を理解するために,適材適所に正常のミクロ像が挿入されており,病変を理解するために大変役立つように考慮されています。終わりの約10ページには最近提唱された疾患概念と新しい染色方法による所見が掲載されています。今までの染色法では見出せなかった所見もあり,方法論の重要性にも言及されています。

 最後に,このカラーアトラスの写真はすべて厳選されたすばらしいものばかりですが,写真の説明を読んで写真を眺めるのではなく,先生の長年の真摯な研究活動がこれらの写真に凝縮されていることを思い,拝読すれば,得るものが倍加されることは間違いないと信じています。

 幸運にも,平野朝雄先生の母国が私と同じ日本であることで,世界に先駆けてこの名著をいち早く座右に置けることの幸せを噛みしめつつ,感想文(書評)とさせていただきます。

神経学の基本的知見を的確・明快に提示
書評者: 日下 博文 (関西医大教授・神経内科学)
 1980年『カラーアトラス神経病理』の第1版が出版された。膨大な数のカラー写真からなる神経病理アトラスはまさに圧巻,そして,他に類を見なかった。ちょうど神経内科の認定医試験をひかえており,早速に購入して平野先生の,もう一つの名著『神経病理を学ぶ人のために』と併せて勉強した覚えがある。同じような経験の方は多数おられると思う。その後,これほど多くの国で翻訳されたアトラスは他にはないということを平野先生に伺ったが,十分うなずける。文字通り神経病理学の世界的なベストセラーである。記念すべきことに今年その改訂第3版が出版された。

 「正常を知らないと異常は分からない」という平野先生の言葉どおりに,それぞれのセクションの冒頭に正常の肉眼所見(大脳の外観と水平断など)と正常の顕微鏡所見が掲げられている。そして,その後に貴重な病理所見が続いている。非常にわかりやすい構成である。血管障害,外傷,発達障害,腫瘍,感染症,脱髄性疾患,種々の変性疾患,代謝異常など多彩な症例が収められている。これらは長年Montefiore Medical Centerで毎週行われているbrain cuttingの膨大な症例の中から,選び抜かれた知見・写真である。それぞれに平野先生の卓越した観察眼に基づいた解説がついている。脳を観察する時の非常に実際的な注意点(例えば高齢者と小児の硬膜の違いなど),顕鏡する時のアドバイスに加えて,実地の臨床に役立つコメントも多数みられる。神経病理を専門にする者だけでなく,神経学を学ぶ人であれば誰でも参考にすべき写真・知見である。

 「脳・脊髄の肉眼所見」,「細胞からみた神経病理学」,「局所神経病理学」,「病因からみた神経病理学」と基本的な構成は以前の版と変わらないが,20年以上の進歩を反映して,第1版では470であった図が,第3版では599に増えており,新しい所見が多数追加されてきている。第3版では特にてんかんの神経病理(Ammon’s sclerosis,dysembryoplastic neuroepithelial tumor,cortical dysplasiaなど),脳腫瘍(desmoplastic infantile ganglioglioma,pseudopsammoma body,central neurocytomaなど),進行性核上性麻痺,多系統萎縮症,筋萎縮性側索硬化症など神経変性疾患におけるGallyas染色やtauやubiquitinの免疫染色所見が追加されている。一方,第1版以来まったく変わらずに掲載されている“なつかしい”写真もたくさんある。私事で恐縮だが,Montefiore Medical Centerで行われたbrain cuttingの光景を,そして平野先生から折りに触れて伺った話が思い出される写真が多数ある。

 平野先生はいつも「真実の形態を写し出した写真は永遠である」といわれる。その言葉通りに,いずれの写真にも神経学を学ぶものにとって最も基本的な知見が,的確に,明快に示されている。簡潔な解説は,長年,透徹された眼で「脳」と対峙されてこられた平野先生ならではである。そして,それらの言葉は,「脳」を診るときに,われわれにいつまでも限りない示唆と「脳」を診る力を与え続けてくれるであろう。

正常と異常を対比観察 病的所見解明の一助に
書評者: 久保田 紀彦 (福井大教授・脳脊髄神経外科)
 神経病理の入門書である『神経病理を学ぶ人のために』の姉妹版として1980年に初出版された『カラーアトラス神経病理』の第3版が,第2版から18年ぶりに改訂され,出版された。本書は,著者の平野朝雄教授が「まえがき」で述べておられる如く,実物を本から学び取れるように,すべて美しいカラー写真で統一されている。改めて最初からつぶさにカラー写真を観察し,所見の解説を読むと,まるで私が25年前のMontefiore病院の剖検室に戻ったような錯覚を起こした。

 まず,頭蓋骨,硬膜,脳,脊髄表面の肉眼病理所見から観察し,脳と脊髄の割断面を観察する。肉眼所見と同じ標本の光学顕微鏡所見を対比しながら読むと,実像が明瞭化し,興味が尽きない。通常,教科書は通読するような構成になっているが,本書は常に異なった頁の関連図を読むように工夫されている。著者が最も強調されている如く,正常構造と異常構造の対比が異常所見を探すのに役立つ。そのため,正常の肉眼および顕微鏡所見を詳細に解説している。さらに,サイズを考慮して病的所見を観察できる工夫がなされており,異常所見がわからない場合には,正常所見と比較しながら観察すると大変わかりやすい。

 本書の特徴の1つとして,疾患単位がわかりやすく比較できるように工夫されており,類似所見や正反対の病的所見が一瞥できるように配置されている。また,部位別に疾患が記載されており,病変部位と疾患単位の関連がよくわかる。所見の解説には主要所見は勿論,人工産物と時間的概念が記載されており,所見の奥深さが読み取れる。時間的記載が明確なためか,どの図にも生き生きとした新鮮さがある。すべての生物所見は,ある瞬間を捉えたものであり,その前に何が起こったか,その後に何が起こるのかを想像することが学問の面白さである。特に通常のHE染色での所見には詳細な解説がなされており,僅かな変化も見逃してはならないことを教えている。このような著者の観察力が「平野小体」(図211)の発見をもたらしたのであろうと,今更ながら敬服する。さらに,HE染色に加え,神経病理で使用される特殊染色や免疫組織染色により所見の実体を詳細に解説している。

 脳神経外科医は,腫瘍,血管障害,外傷,感染,奇形などの疾患を扱うことが多く,神経変性疾患には興味が薄い傾向にある。このアトラスを手にとると,神経変性疾患にも興味を起こさせる。最近は,認知症や脊髄疾患を扱う機会が増加しており,本書は日常臨床や学生教育の参考資料になる。巻末には,最新の重要病理所見が追加されている。

 著者の鋭い観察力と教育者としての比類なき実力が十分に汲み取れる美しいアトラスである。「学問は無味乾燥で,できれば避けて通りたい」と思う怠惰な精神にこのアトラスが学問への興味を呼び戻してくれる。本書は脳脊髄のCT・MR画像診断を日常業務としている医師にとって,病的所見の解明の優れた手ほどきになる。特に,これから神経病理を学ぼうとされる初心者に『神経病理を学ぶ人のために』の姉妹版として,このアトラスの購読をお薦めする。

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