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認知行動療法トレーニングブック[DVD付]

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近年ますます注目が高まっている認知行動療法の実践的テキスト。基本概念から実際の技法までバランスよく丁寧に書かれており、これから認知行動療法を学ぶ初心者はもちろん、すでに実践されている方にもお薦め。付属DVD(137分)に収録された19の具体的なセッションは出色の出来で、手軽に自学自習が始められる映像教材となっている。
大野 裕
Jesse H. Wright / Monica R. Basco / Michael E. Thase
発行 2007年05月判型:A5頁:360
ISBN 978-4-260-00426-8
定価 13,200円 (本体12,000円+税)
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訳者の序

大野 裕



 本書は,米国精神医学会の出版局による認知行動療法の教科書的著作である,J.H. Wright, M.R. Basco, M.E. Thase “Learning Coginitive-Behavior Therapy, An Illustrated Guide”の日本語訳である.

 認知行動療法の有効性はさまざまな実証的研究で明らかにされてきており,すでに欧米ではその臨床的評価は定着したものとなっている.その結果,認知行動療法が最初に使われたうつ病性障害はもちろんのこと,パニック障害や強迫性障害,社会不安障害などの不安障害,外傷後ストレス障害,パーソナリティ障害,さらには双極性障害や統合失調症などの精神病性の障害まで治療効果に関するエビデンスが蓄積され,その対象が大きな広がりを見せている.

 わが国でも,認知行動療法の臨床効果に関するエビデンスの報告はまだ少ないとはいえ,その効果研究は着実に積み重ねられている(厚生労働科学研究「精神療法の実施方法と治療効果に関する研究」,主任研究者:大野裕).また,このような精神疾患の治療法としての認知行動療法の効果が広く知られるようになるにつれて,患者さんやご家族から認知行動療法を受けたいという希望が多く寄せられるようになってきており,そうした要望に応えて認知行動療法を取り入れて臨床場面を改善したいと考える専門家も増えてきている.

 しかし,残念なことに,わが国ではまだ認知行動療法を実践できる専門家は多くないのが現状である.そうした状況の中で,日本認知療法学会や日本精神神経学会の学術総会の中で,また個別の施設で研修のためのワークショップが開催されてはいるが,認知行動療法の専門家を育てるシステムはまだまだ不十分である.

 しかし,これは新しい精神療法を広めていくときには避けて通れない問題でもある.実際に,認知行動療法先進国の米国や英国でも,専門家はまだまだ不足しているとされている.そうした状況を改善する目的もあって米国精神医学会の出版局が出版したのが,この『認知行動療法トレーニングブック』である.こうした背景があることからも,本書には,認知行動療法を身につけようとする専門家が学ばなくてはならない具体的な内容がきちんと組み込まれている.

 しかも,本書は,面接場面を描写したDVDがついていることで,単に文字を通してだけでなく,視聴覚的に認知行動療法の実際を勉強することができる点が特徴になっている.認知行動療法に限らず,精神療法は,単なる言葉のやりとりではなく,声のトーンや姿勢,その場の雰囲気など,多くの要素が複合的に作用しあって治療的な効果が現れると考えられている.そのことを考えると,文章を通して理解した内容をDVDで確認したり,逆に文章を読むことでDVDの理解を深めたりすることができるというのは,認知行動療法を学習する際に大きな力になるはずである.

 また,面接の進め方は治療者によってさまざまである.本書の中でも指摘されているように,いわゆるエキスパートの面接が必ずしもパーフェクトではない.認知行動療法的な立場から言えば,パーフェクトな面接を期待すること自体が認知の歪みでもある.したがって,DVDで提示された面接場面をもとに自分の面接を振り返ったり,仲間で面接のあり方について議論したりすることも,認知行動療法のスキルを高めるためにきわめて有用な方法である.

 このように本書は,テキストとDVDの二つを通して,初心者はもちろん,経験を積んだ専門家にも十分に役に立つ優れた内容の本になっている.今回,こうした貴重な本のテキストとDVDの日本語版をお届けできるのは,私にとっても非常に嬉しく光栄である.ぜひ,多くの方に手に取っていただき,わが国の精神科医療の発展に役立てていただきたいと願っている.

 最後になるが,本書の出版に当たって細やかな配慮をいただいた医学書院の方々に心から感謝したい.

 2007年4月

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1 認知行動療法の基本原則
2 治療関係-治療における協同的経験主義
3 アセスメントと定式化
4 構造化と教育
5 自動思考に取り組む
6 行動的手法I-活力向上,課題遂行および問題解決
7 行動的手法II-不安の抑制および回避パターンの打破
8 スキーマの修正
9 よくある問題と落とし穴-治療における問題から学ぶ
10 重度,慢性または複合的な障害を治療する
11 CBTにおけるコンピテンシーの向上

付録1 ワークシートおよびチェックリスト
付録2 認知行動療法のリソース
付録3 付属DVDについて
索引

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理論や治療の全体像を理解しすぐに臨床応用できる実践書
書評者: 坪井 康次 (東邦大教授・心療内科)
 何事も技術を習得しようとするときには,多くの努力を必要とし,なにがしかの困難が伴うものである。時には,とてつもなく長い時間を必要とする場合もある。いろいろな技術をいかにわかりやすく効果的に,しかも確実に伝えていくかは非常に重要な課題である。いろいろな目的でトレーニングブックが考案されているが,実際に手に取ってみるとがっかりさせられるものも少なくない。

 その点,このトレーニングブックは,米国精神医学会からの出版であることもあり,種々の点で非常によく考えられている。理論や治療の実際の全体像が理解しやすくなっているばかりでなく実用的である。
 最初に,本書の使い方や認知行動療法の理論の背景が簡単に紹介されている。そして各章ごとに必要に応じてDVDによるVideo Illustrationが用意されている。これを見ると治療者のとるべき態度,治療的な雰囲気が手に取るようにわかる。

 また,各章に学習者が自ら行うLearning Exerciseが的確に挿入されていて,学習内容を確認しやすく工夫されている。巻末には,患者用に用いる各種ワークシートが載せられているが,そればかりでなくスーパービジョンのためのチェックリスト,治療者のコンピテンシー・チェックリストなどが用意されており,日々の臨床やロールプレイなどのトレーニングに活用できるようになっている。まさに学習者中心の構成である。

 さらに本書の特徴は,治療関係の構築についてかなりのページ数をさいて,Video Illustrationを2つ用意しているところである。治療関係をいかに構築するかという問題は,心理療法では,往々にして,あるいは常にといっていいほど重要な部分である。2章で,「共感性,温かさ,そして誠実さ」,「協同的経験主義」の中で治療者の活動レベル,教師―コーチとしての治療者,ユーモアの活用,柔軟性と感受性などが取り上げられていて,しかもこの辺の様子が,ビデオによく反映されている。「転移」「逆転移」への対応の仕方についても触れられている。

 この本で取り上げられている認知行動療法は,うつ病性障害の治療方法としてBeckらにより開発された精神療法として有名であるが,無作為比較対照試験による豊富なエビデンスにより心理学や精神医学の領域に大きなインパクトを与えた。

 そして,いまやうつ病性障害の治療ばかりでなく,パニック障害や社会不安障害,強迫性障害,PTSDなどの不安障害の治療には欠かせない標準的な治療技法として評価されている。また,最近ではパーソナリティ障害や統合失調症の治療,あるいは生活習慣病の治療にまで適応範囲を広げている。こうした背景から,米国では,精神科レジデントがぜひ取り組まなければならない必須のコンピテンシーとなっているという。

 わが国においても精神科医,心療内科医はもちろんのこと,メンタルヘルスや行動面への介入に興味を持つ人には必読のテキストであるといえる。
DVDを併用することで関係性の重要性を理解する
書評者: 尾崎 紀夫 (名大大学院教授・精神医学)
 認知行動療法に対する関心は,精神科医,臨床心理士のみならず,一般にも広がっており,新患患者から「認知行動療法を受けたい」と言われる場合もまれではない。気分障害,不安障害さらには統合失調症など多様な精神障害に対する治療効果が示され,患者のニーズにも適っているとなれば,認知行動療法をできるだけ臨床場面で活用したい。また,教育を使命としている大学に在籍する以上,認知行動療法を実践できる臨床家を養成することが求められる。そこで,何かよい認知行動療法のテキストはないかと探してきた。
 認知行動療法に限らず,精神療法一般に,書物で治療の細部を伝えることは難しい。成田善弘氏は,自著『精神療法の第一歩』(診療新社)で,「精神療法が人と人との出会いであるからには,普遍的に妥当となる精神療法などというものは存在しない」と,精神療法について伝えることの困難さを述べている。しかし,同氏は「自分と患者のかかわり合いの一回性,独自性を尊重しつつ,一方他者の経験との共通性,一般性をも追求しなければならない」と言葉を継ぎ,精神療法に関わる著書を世に問う意気込みを表明していた。

 精神療法を文字で伝えようとした時,最も困難なのは,治療者―患者関係が形成される過程を描写することである。治療関係の構築のためには,「何を話すか」以上に,「どの様な語調で,どの様なタイミングで話すか」に加え,治療者の表情や動作といった非言語的部分が重要であり,まさに行間に漂う面接の雰囲気を文字化することが必要である。関係性の構築を文章化しようとして失敗すると,接客マニュアルの様な陳腐なものになってしまう。さらに,一部の精神科医や臨床心理士の間で流布されている認知行動療法に対する誤解は,「ツールやホームワークを用いて,ゆがんだ考えを正す,ドライな作業である」といったものである。このような誤解は,これまで認知行動療法を紹介した際,治療関係の重要性,さらには治療関係がどの様にして作られていくのかが,十分伝えきれなかったからではないだろうか。

 本書は,認知行動療法の実践における治療関係が,DVDによって臨場感を持って伝わることに特徴がある。この治療関係こそ,認知行動療法の重要な要素である協同的経験主義,すなわち治療者が患者との高い共同性を持って,治療場面の体験(here & now)において,認知の問題を取り上げる治療過程の基盤に他ならない。協同的経験主義に支えられ,心理教育,ツールを用いたやり取り,患者とのロールプレイといった認知行動療法の構造化された過程が,初めて治療的意味を持つ。

 患者との治療場面を余すことなく伝えてくれるDVDを付設することによって,認知行動療法,さらには精神療法に共通する関係性の重要性を学ぶことのできる点こそ本書の特徴であろう。日本語字幕が付いているとはいえ,DVDのやり取りが英語でなされる点が,読者によっては不満とする場合もあろう。一方,Dr. Thaseをはじめとする認知行動療法の専門家のやり取りをそのまま知ることができる利点によって,この不満も相殺されるのではないだろうか?

 精神科医,臨床心理士が,本書を十分に活用し,本邦での認知行動療法,ひいては精神療法が普及することを願う次第である。
適切な治療モデルをDVDをとおして習得
書評者: 伊豫 雅臣 (千葉大教授・精神医学)
 認知行動療法はうつ病や不安障害をはじめとしたさまざまな障害に有効であることが証明されてきている。欧米では一部の精神障害の治療において認知行動療法は第一選択の治療法と位置づけられることもあり,精神科医や臨床心理士が身に付けておくべき,または提供可能な重要な治療法であることが示唆されてきている。実際,わが国の精神医療現場,または心理療法の現場においても近年この治療法は急速に広がってきている。

 さて人は環境や出来事に対して認知し,情動反応や行動が出現する。認知行動療法ではうつ病や不安障害などではこの環境,認知,情動,行動といった基本要素で構成される構造に比較的疾患特有の悪循環する認知行動モデルを過程し,さらに,障害特有のまたはより個人に特化した自動思考を中心とした情報処理過程における非適応的スキーマを明らかとする。さらにそれらを元に具体的な手法,すなわち不安階層表の作成や段階的な暴露など行動分析と行動的治療法を実施し,非適応的スキーマを修正し,悪循環する認知行動モデルを修正する。このような一連の流れを治療者は患者とともに行っていくので,治療者にはモデルやスキーマ,行動分析や行動的治療法の知識と技術が必要であるとともに,個別の患者に対応するための応用力が必要となる。知識は講義や教科書により概念的に理解することは可能であるが,技術は優秀な先人の治療場面に同席するなどの適切な治療モデルに接することがきわめて重要である。

 今回,米国精神医学会より出版されたWrightらによる“Learning Cognitive―Behavior Therapy, An Illustrated Guide”が大野裕先生により翻訳出版された。この本では,認知行動療法を行ううえでの基本的な知識が要領よくまとめられていて,初心者においても熟練した認知行動療法家においても非常に有用である。しかし,この本にはその他にも二つの重要な特徴が盛り込まれている。一つは,DVDにより,適切な治療モデルを見ることができることである。これは具体的な認知行動療法の進め方を学ぶうえにおいて非常に役立つものであり,選択された場面もまさに臨床で遭遇する場面である。そして,もう一つの重要なことは,治療関係,すなわち治療者の共感性や温かさ,誠実さの重要性が強調されており,それをDVDをとおしても感じることができることである。認知行動療法は科学的基盤を有していると考えられている治療法であることから,知識とスキルにどうしても注意が集まる。しかし,われわれ治療者が接するのはまさに悩める人であり,そのような方々を援助するにはよい治療関係を形成できることが大事であり,それを改めて認識し,具体的な治療者の姿勢をDVDをとおして習得することができる。

 わが国で認知行動療法が広がり,成熟していくうえにおいて,この『認知行動療法トレーニングブック』は基本的な知識や技術,さらにそれらを有効に活用するための治療者として本来有すべき基本的姿勢を示した重要な書であり,また認知行動療法を学ぶ者において必携の著である。
対患者アドバイスにも活きるCBTを深く理解する
書評者: 伴 信太郎 (名大附属病院・総合診療部)
 「認知行動療法セミナー」という,何回かのシリーズのセミナーに参加したかのような思いにさせてくれる本である。決して安価な本ではない(定価12,600円)が,その何倍もの価値がある。

 認知行動療法(cognitive―behavior therapy, CBT)はコモンセンス(常識)に基づくアプローチであり,以下の二つの中心的な教えに基盤を置いている。(1)認知は情動と行動に対して支配的影響力をもつ,(2)活動や行動の仕方が思考パターンや情動に強い影響を及ぼす可能性がある。

 例えて言えば「コップの水が半分に減ってしまった」と心配するのではなく,「未だ半分残っている」と安心するような考え方の切り替えや,「眠れない時は,時間を決めて早起きをしましょう。」といった行動へのアドバイスを,体系的な治療法に組み上げたものと言える。

 CBTでは自動思考の同定と修正に焦点を当てる(ここで言う自動思考とは,私たちがある状況に置かれた場合に,心のなかをすばやく通過する認知のこと)。治療者はこうして内々に放置されがちな認知の流れについて患者を教育し,患者が自己内対話できるように支援するのであるが,その支援のための種々のスキルが懇切ていねいに解説される。

 非専門家がCBTを精神療法として使おうとすると「生兵法は大怪我のもと」ということになるかもしれないが,「CBTの基本的技法を患者・家族へのアドバイスに生かす」という観点からの活用は,非常に広い適応範囲を有すると思う。CBTにおける治療関係の基本とされる“協同的経験主義collaborative empiricism”という治療者と患者がともに問題点を明らかにし,解決法を探索していく協同作業は,医療者―患者関係の築き方にもきわめて有用な示唆を与えてくれる。その意味で,本書はメンタルヘルスの専門家以外の医療従事者に広く読んでいただきたい。CBTという精神療法に対する理解が深まるとともに,日常の対患者アドバイスに活かすこともできると思う。

 訳文はよくこなれていて,翻訳本の読み難さはほとんどない。同じ原語に対して時に異なった訳語が当てられていて(【例】認知,思考)評者には少し読みづらかったが,訳者の意図があったのかもしれない。ところで,『良好な治療同盟はきわめて重要な治療の要素である。(中略)認知療法家も有能な治療者に共通の資質である誠実さ,温かさ,肯定的配慮,及び的確な配慮を治療環境で生かそうとする。』とされている。こうなると,どれほどがCBT独特の認知的/行動的アプローチの効果で,どれほどがこの治療同盟の築き方の効果なのだろうかというところが興味深い疑問として残った。

 ちなみに,本書付属のDVDは海外で臨床をしてみたいという希望を持つ人にとっては,英語での医療面接と,心理的臨床技法を一度に学ぶことできる「一粒で二度美味しい」教材であることを付記しておきたい。セミナーに参加して大野裕先生からていねいな指導をしていただいたような大変幸福な読後感が残ったすばらしい本であった。

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