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看護実践に役立つ放射線の基礎知識
患者と自分をまもる15章

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「放射線はこわいもの」という先入観で、放射線診断・治療のメリットを活かせないのはもったいない! それは、患者さんの疑問に看護師がどう答えるかにかかっている。「放射線とは」から「核医学検査を受けた患者のオムツはどう扱う?」まで、看護実践に役立つ放射線看護の知識をやさしく解説。
編集 草間 朋子
発行 2007年09月判型:A5頁:184
ISBN 978-4-260-00321-6
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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刊行にあたって
編者 草間 朋子(大分県立看護科学大学学長)

 皆さんは「国民線量」って聞いたことがありますか.一般の人々が,日常的に,さまざまな放射線源から受ける放射線の量を,「国民線量」という量で表します.地球上に生活するすべての人が,どこで生活をしていても四六時中受け続けている自然放射線からの被ばく線量がもっとも高いのですが,人工放射線源の中で,国民線量のもっとも大きな割合を占めているのは何だと思いますか? それは,医療被ばくといわれる,放射線診療,特に放射線診断に伴う被ばくです.先進諸国の中でも,日本の医療被ばくの線量は,他の国々に比べて高いのが実態です.
 にもかかわらず,看護職者を含めた医療従事者の放射線被ばくや放射線の健康リスクに関する知識は不足しているといわざるをえない現状があります.安全で,安心な医療の提供が求められている折,患者さんや家族に寄り添い,心配や不安に応えていかなければならない看護職者の放射線に関する知識がかなり不足していることは,患者さんも気づいています.患者さんたちの放射線被ばくに対する関心は高く,自分自身で情報を集め,さらに医療従事者に対しても,自分の受けた放射線医療について積極的に情報を求めてくる患者さんの増加は目を見張るものがあります.
 放射線被ばくなどに対して不安を抱いている患者さんや家族は,最初に対応した看護職者の皆さんの対応の仕方によってかなり影響を受けることを常日頃感じています.また,患者さんの不安に応える立場にある看護職者自身が,放射線利用に伴う自分の放射線被ばくに対して誤解があることも痛感しています.そこでこのたび,放射線診療を円滑に進めるために看護職者の皆さんに知っておいてほしい,最小限の基本的な事項をまとめることとし,本書を刊行しました.
 放射線利用に対する技術的なことは,医師,診療放射線技師,放射線防護の専門家などが責任をもって行いますので,看護職者に求められることは,看護職者自身の防護の手段を理解し実行すること,患者さんに自信をもって説明できるように放射線被ばくや放射線の健康リスクに関する知識を理解すること,です.かつては,「看護婦・士」の基礎教育の中で「放射線看護」を履修するようになっていましたが,現在は,放射線被ばくや放射線リスクに関する系統的な教育を受ける機会は,制度的にはありません.しかし,放射線診断やIVRは日常診療の中で不可欠な手段となっています.患者さんにとって負担の少ない放射線治療は,今後,もっともっと普及していく必要があります.そのためにも,看護職者が放射線に対する正しい知識をもつことが求められているのです.
 すべての看護職者の皆さんに,日常診療にとって不可欠な放射線診療を支える重要な一翼となっていただきたいというのが,現在,看護教育に携わり,また長年,放射線防護の仕事に関わってきた私たち著者の願いです.
 医学書院の北原拓也さんから,たくさんのアイディアとコメントをいただきました.看護職者にとっては,もともと関心が低く,とっつきにくい放射線に関する知識を,できるだけわかりやすく記述する努力をしたつもりです.

 タイトルに「看護」とありますが,医師をはじめとする多くの医療従事者の方々が本書を手にし,放射線利用に伴う放射線被ばくや健康影響に関心と理解をもっていただければ幸いです.
 2007年 8月

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第1部 なぜ,いま放射線看護なの?
   -放射線医療と看護職者
 1章 放射線医療の進歩と看護職者の役割
 2章 医療で利用される放射線とその性質
第2部 わかれば「こわい」ことはない!
   -知っておきたい放射線と放射線防護の基礎知識
 3章 自然放射線について知っておこう
 4章 人体への放射線の影響を理解するために
 5章 低線量の放射線による人体への影響
 6章 放射線傷害とはどのようなものか
第3部 患者・家族・自分をまもりながら効果をもたらすために
   -放射線診療と看護の実際
 7章 放射線診断と看護職者の役割
 8章 放射線治療と看護職者の役割
 9章 核医学診療と看護職者の役割
 10章 患者の放射線防護の原則と注意点
 11章 看護職者の放射線防護の原則と注意点
 12章 医療放射線施設・設備と安全管理
第4部 広がる放射線利用と看護職者の役割
 13章 産業,研究,教育領域での放射線利用
 14章 産業看護師・保健師と放射線施設
 15章 放射線事故と事故時の看護職者の役割
参考文献
索引

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誤った知識からの脱却を!(雑誌:『看護教育』より)
書評者: 福井 小紀子 (千葉大学看護学部訪問看護学教育研究分野准教授)
『看護実践に役立つ放射線の基礎知識─患者と自分をまもる15章』が医学書院から刊行された。編集は草間朋子氏,執筆は太田勝正・甲斐倫明・伴信彦氏と,これまで数十年にわたって日本の放射線防護・放射線看護を築き上げてこられたそうそうたる方たちである。私は大学4年生のとき,卒業研究として,看護師を対象とした“放射線防護に関する知識と実態”に関する調査研究に取り組んだ。そのときに,懐深くさまざまなことをご指導いただいた恩師が,この方々である。

■誤解の多い放射線知識

本書を手にしてまず思い出されたのは,まもなく看護職となる私に,放射線防護についての1から10までをわかりやすく教えてくださったのであるが,その一つひとつが,当時の私には驚くことばかりであったことである。

たとえば,CTや胸部レントゲン検査などの代表的な放射線診断に際して患者が受ける放射線量が,放射線障害が生じうる線量(しきい線量)よりはるかに小さい値であることや,ポータブルX線装置は照射野中心から2mも離れれば,線量は無視できるほど小さいものであることなどである。したがって,撮影時に看護師が退室することで残された患者の不安をあおるような行動をとるべきではないなど,本来看護職が知っていなければならない基本的知識をたくさん学んだ。それらは私がもっている放射線防護に対する認識とかなり違っていた。そして,私が卒業研究で約500名の看護師に行った調査結果からも,看護師の多くは知識がないがために不必要に放射線を恐れ,患者・家族の不安をあおるような行動をとる場合が多いことが明らかにされた。看護師が正しい放射線防護に関する知識を身につけなければいけないと,一看護学生の立場で強く思ったものだった。

■必須の内容がわかりやすい

本書は,放射線とその防護に関して本来備えているべき基礎的な知識について,必須といえる内容がボリュームが最小限に抑えられ,わかりやすく書かれており,時間を割かずに,“さらっと”理解できるようなっている。その手腕はさすがと感嘆する。また,病院内に限らず,放射線が利用される広範な領域における看護職の役割についても触れられており,放射線看護の発展の可能性について,大きな視野で考えるヒントとなる。

本書を読めば,誤った知識による不要な不安や行動が解消される。そして,その正しい知識を,患者・家族,事務職を含む医療に従事する者に,発信・教育することが可能となる。そうすることで,放射線診断や放射線治療をより多くの患者が安心して利用できるようになり,ひいては,より質の高い放射線看護を提供できるようになるのではないだろうか。
親しみがわく構成で伝える安全な放射線利用の知識
書評者: 明石 真言 (放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター センター長)
 現代の医療を放射線抜きで語ることはできない。また「患者が受ける線量(医療被ばく線量)に対して,上限値が決められていない」。つまり,医療では放射線が“正義の味方”として利用されている以上,使用する医療スタッフの放射線被ばくに関する責任は大きい。ところが医師や看護師・保健師で,学生時代に放射線の影響に関してある程度系統的な教育を受けた覚えがある人はほとんどいないような気がする。

 医療以外にも「身の回りの製品・技術」「研究用」「工業領域」など広く放射線は利用されている。評者は被ばく医療に関わっており,看護師等の教育の場で「あなたが働いている医療施設に,被ばくもしくは汚染された患者が来たらどうしますか?」という質問をよくする。本書は医療現場で働く看護師のみならず医師にも放射線被ばくに関する知識を与えてくれる。もちろん私の質問に答えるのに十分なことは言うまでもない。つまり本来学校で習うべき基本的なことを学べるのである。

 「自然界同様われわれの体内には,γ線を出す40Kが成人男性の身体の中に120グラムもあること」など身近な例もあり,さらに図表の多さから親しみがわく構成になっている。医療施設で働く看護師として必要な知識も,患者への適切なアドバイスに留まらない。放射線の胎児および遺伝的影響,女性の放射線作業従事者の放射線防護,医療現場での放射線防護の実際など,看護職者自身にも関わるかもしれない問題にも情報が与えられる。ポータブルX線装置による撮影時,「照射野の中心から2mも離れれば,線量は無視できるほど小さい」も重要な知識であるし,また核医学治療を受ける患者のケアに際して「医療従事者はX線診療の際に使用する防護エプロンなどは使用しない」のは,γ線には防護エプロンの防護効果は小さく「防護三原則」に則りケアを行うべきだ,ももっともである。

 医療における放射線利用は,診療科を問わない。医療器材の殺菌,輸血用血液の照射なども含めればさらに拡がる。この本を読めばすぐにわかるのだが,放射性物質は核医学の検査や治療で体内に投与されれば,法令(医療法)上の規制はなくなる。核医学での治療は別にして極端なことを言えば,核医学の検査後に駅のトイレに行ってもいいことになる。レベルから言えば実際は問題になることはないが,どうしてそうなのか等を理解することもできる。放射線は目に見えず臭いも色もない。被ばくしたかどうかもわからない。自然界にも,生活の場にも多くある。放射線とその影響を正しく理解し正しく怖がる。そして実際の医療現場で放射線防護を行うことが,安全な放射線利用を支える。そういう意味では,「刊行にあたって」にも書かれているが,医師をはじめとする医療従事者以外に放射線を利用する研究者にも必要な本である。
医療における放射線について考える際の信頼できる教科書
書評者: 別所 遊子 (神奈川県立保健福祉大学看護学科教授・学科長)
 地球上に住む人は,太古から存在する自然放射線と,人工的な線源から出る放射線に日々さらされている。

 光や音と異なり,ヒトには放射線を知覚する感覚機能がないために,放射線に被曝していることを知覚できない。しかし人は,レントゲンの発見以来,大量に被曝すると命にかかわる放射線を,その便利な性質のために,コントロールしつつ慎重に使おうと工夫してきた。

 自然放射線には,宇宙線,大地の岩石に含まれる放射性物質からの放射線,大気中に気体として放散されるラドンの放射線などがあるが,これらはコントロールが難しい。わが国のように医療が普及した国では,主な人工放射線源として,X線撮影装置,治療用放射線照射装置,核医学で使用する放射性医薬品や密封線源など,医療用のものがあげられる。

◆看護師と患者の両方の視点から

 自然放射線のようにだれもが被曝する放射線のほかに,放射線を利用する職業に就いている人が仕事上受ける被曝がある。その代表が医療職である。

 本書『看護実践に役立つ放射線の基礎知識』は,医療の場での放射線被曝を,看護師が職業上受ける被曝と,一般の人が患者として受ける被曝の両方の視点から考えている。医療の場にはどのような放射線源や放射線があるのか,看護師が患者と自分自身の安全を守りつつケアをするにはどうしたらよいか,患者の放射線に関するさまざまな疑問や不安にどう答えたらよいか,などについて考える際の信頼できる参考書となっている。

◆基礎知識から具体的ケアまで

 本書には,放射線の基礎的な知識から,診療の際の環境中の放射線の量にもとづく具体的なケアの方法まで,根拠にもとづいて丁寧に記述されている。例えば,核医学検査をする患者のケアに使うオムツやシーツはどう扱うか,病室でポータブルX線検査を受ける患者の介助はどうしたらよいかなど,実測値を示して具体的に助言している。

 わが国は他国に比べて医療放射線による被曝線量が多い。高度な医療が普及し,胸部X線検査やCTなどによる画像診断や放射線治療が日常的に行なわれている現状を反映している。放射線は人体や物質の内部を画像するという便利な性質があり,また,がん細胞のような増殖力の強い細胞を正常な細胞よりも強く傷つける性質があるため,医療に不可欠の道具になっている。さらに,毎年のように健診を受ける制度があるので,これも国民全体の被曝線量を高める原因になっている。

 本書の執筆者は,看護の教育・研究に加えて,放射線の安全防護に関する研究者として,一貫して医療被曝の低減を主張し,国際的にも活躍してこられた方たちである。本書は簡単に持ち歩ける大きさであるが,盛られている内容は新しく,充実していて,各項目の内容が精選されている。この一冊を辞書のように手もとに置けば,大抵の疑問には答えられるように構成されている。このような本が出版されたことは放射線に関わる看護職にとって大変心強いことである。

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