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医療現場における調査研究倫理ハンドブック

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人を対象とすることの多い医療関連の研究において、今や必須とされる倫理的な配慮。「研究倫理」というと難しげだが、実際には「自分がしてほしい配慮を人にもしたい」という視点が大切だと考える著者らが、研究の流れに沿ってコンパクトに整理したハンドブック。研究方法ごとに留意する点、対象者に応じた配慮、取り扱う材料ごとの対応などを具体的に紹介し、課題解決に向けた実践的なヒントをわかりやすく提供する。
玉腰 暁子 / 武藤 香織
執筆協力 大久保 功子
発行 2011年02月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-01077-1
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 実習,研修,卒業研究,卒業論文,学会発表,学位論文……。大学や大学院で研究していたらもちろん,病院や保健所,福祉施設で働いていても,調べたことをまとめて発表する調査や研究は,身近なものではないだろうか。「倫理委員会が審査する」という話もよく聞くようになった。
 でも,調査や研究を進めなくてはいけなくなったとき,そして,「倫理委員会」に通してもらう必要が出てきたとき,はたしてどうしたらよいのだろう。そもそも,調査や研究は,どんなことに気をつけて進めていけばいいのだろう。この本は,そんなことを思ってたたずんでいる人たちのためにまとめたものである。
 調査や研究を進めていくうえで,倫理面から考えておかねばならないことはたくさんある。その見通しを立てるには,結局のところ,研究の流れ全体の見通しも立てておかないと難しい。そのため,この本は,通読してもらえれば,研究を始めてから終わるまでの流れがひととおりわかるようになっている。必要な段階にきたら,そのページだけめくってもらってもいい。

 この本が生まれるきっかけになったのは,志を同じくする仲間で1998年に始めた,疫学研究のインフォームド・コンセントに関する研究班である。実態調査・意識調査を行うとともに諸外国の状況を調べ,研究者の立場,研究対象者の立場,また法や倫理,社会との関係などさまざまな面から熱く議論した。その成果として,「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドライン」を公表した。まだ国の定める倫理指針もなかった当時,疫学研究者自身が異分野の専門家たちと問題を発見し,自主的なガイドラインを編み出そうという取り組みは,いま思い出しても画期的であった。この場を借りて,当時の仲間全員に深謝したい。この本の随所に,仲間たちと検討した結果や,筆者それぞれの経験を込めたつもりであるが,不備不足があるとすれば,著者2人の責任である。

 この本には,いくつかコラムを含んでいる。大久保功子さん(東京医科歯科大学大学院教授)は,ご多忙のなか,看護職の人たちの心に沁みる魅力的なコラムを書き下ろしてくださった。心から御礼申し上げたい。
 最後に,この本は,医学書院の北原拓也さんの,辛抱強い支えと折々の励ましがなければ,生まれることはなかった。言葉に尽くせない感謝の気持ちを伝えたい。

 2011年1月
 玉腰暁子
 武藤香織

※2005年度末メンバー(所属は当時):石川鎮清氏(自治医科大学),大神英一氏(早良病院),太田薫里氏(千葉大学医学部),尾島俊之氏(自治医科大学),小橋元氏(北海道大学大学院医学研究科),酒井未知氏(京都大学大学院医学研究科),佐藤恵子氏(京都大学大学院医学研究),杉森裕樹氏(聖マリアンナ医科大学),鈴木美香氏(独立行政法人理化学研究所),内藤真理子氏(名古屋大学大学院医学系研究科),中山健夫氏(京都大学大学院医学研究科),丸山英二氏(神戸大学大学院法学研究科),鷲尾昌一氏(札幌医科大学医学部),山縣然太朗氏(山梨大学大学院医学工学総合研究部)

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I 研究のはじめに
 1.研究の第1歩-このテキストの読み方
 2.なぜ人を対象に研究してよいのか
  [インフォームド・コンセントの原点][ヘルシンキ宣言]
 3.科学者の不正行為とは
 4.匿名化と個人情報保護
  [プライバシーとは何か][個人情報の保護][匿名化]
II 研究方法と配慮
 1.研究方法と倫理指針
  [どうしても知りたいのか][研究方法を考えてみよう]
  [国の倫理指針と対象となる研究]
 2.横断研究
  [研究方法の特徴][個人情報の保護][医療機関への問い合わせ調査]
  [患者登録]
 3.聞き取り調査(インタビュー,ヒアリング)
  [研究方法の特徴][聞き取りの際の配慮事項]
  [聞き取りの記録に伴う倫理的な問題]
 4.症例対照研究
  [研究方法の特徴][症例群への配慮][対照群への配慮][個人情報の保護]
 5.コホート研究(縦断研究,長期追跡研究)
  [研究方法の特徴][エンドポイントの把握][個人情報の保護]
 6.介入研究
  [研究方法の特徴][介入の内容][割り付け・介入の際の注意][介入と侵襲性]
 7.参与観察・非参与観察
  [研究方法の特徴][観察行為に伴う倫理的な問題]
  [観察記録に伴う倫理的な問題]
III 研究計画を立てる
 1.研究実施体制の構築
  [人材の確保と分業体制づくり][分業体制と意思疎通][オーサーシップ]
  [研究費の取り扱い][利益相反とは][現場との協力関係の構築]
  [問い合わせ窓口・苦情処理]
 2.研究対象者の決定
  [何人必要なのか][謝礼を支払ってもよいのか][同意能力の疑わしい対象者]
  [当事者団体との共同研究]
 3.研究計画書を書く
  [なぜ研究計画書が必要なのか][実施手順書を用意しよう]
 4.科学的妥当性とピア・レビュー
  [科学的妥当性とは][科学的妥当性の検討方法]
 5.倫理的観点からの検討
  [何を検討すべきか][倫理審査委員会の役割]
  [倫理審査委員会に必要な書類一式]
  [審査をスムーズに進めてもらうためのコツ]
  [倫理審査委員会の付議を要しない研究]
IV 研究を実施する
 1.研究参加者の募集
 2.研究内容に応じたインフォームド・コンセント
  [説明と同意][同意の撤回][今後の研究協力の中止]
  [インフォームド・コンセント要件の緩和]
 3.対象者に応じたインフォームド・コンセント
  [代諾][代諾の要件][インフォームド・アセント]
  [同意がなくても倫理審査委員会が判断できる場合]
 4.取り扱う情報に応じた配慮
  [情報の発生時期と取り扱い][資料の種類と取り扱い]
  [既存統計資料の利活用][調査票情報の取り扱い][生体試料の取り扱い]
  [遺伝学的情報の取り扱い][録音・録画媒体の取り扱い]
V 研究のおわりに
 1.学会報告や論文発表に際して
  [発表の際の留意点][顔写真などの掲載・発表]
 2.研究参加者・調査担当者への報告
 3.社会への報告

おわりに
研究チェックリスト
参考文献・資料
索引

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研究倫理を考えることは研究を精錬すること (雑誌『看護教育』より)
書評者: 坂下 玲子 (兵庫県立大学看護学部)
 ここ10年,研究倫理が社会的に強く求められるようになった。多くの学術雑誌や学会発表においても研究を実施する際の倫理的配慮が求められ,基準を満たさないものは受け付けてもらえなくなった。当初は,「手間が増えたなー」と正直思った。でも所属機関の研究倫理審査会に携わる過程で,研究倫理を考えることは研究を精錬することに他ならないと実感している。本書は,そういった視点で,研究の計画,実施,公表といった進行段階を追いながら,何を大切にし,どのように倫理的な配慮をしていけばよいのかがわかりやすく説明されている。研究は対象者に何らかの負担を強いるものなので,情報や資料の収集は成果が得られる最低限に絞るべきである。何が最低限かを考えることは倫理的であるだけでなく,自分の研究の意義を問い直し,「何がわかればよいのか,何を捨てても大丈夫なのか」を突き詰めることになるのでリサーチクエスチョンの精錬につながる。また著者らが勧めるように研究の実施手順書を作成することは研究の実行可能性を確認する上で役立つ。

 本書の「I 研究のはじめに」では,研究倫理の基本原則を,「II 研究方法と配慮」では,聞き取り調査や症例対照研究などさまざまな研究方法ごとに具体的に配慮しなければならない点が解説される。研究倫理として,インフォームド・コンセントの受領や個人情報の保護などの基本原則は理解していても,それをどのように具現化していくのかに頭を悩ますことは多い。当然,研究方法によって配慮すべき点が異なってくる。本書は著者らが1998年に始めた,疫学研究のインフォームド・コンセントに関する研究班の長年の活動を基に書かれたもので,痒い所に手が届く実践的な内容が散りばめられている。

◆研究倫理の配慮が難しい場合の対応

 実際の研究場面においてはインフォームド・コンセントの受領が難しい場合がある。対象者が乳幼児や認知症の高齢者である場合や,すでに死亡してしまった場合などである。また,国が実施している統計調査や,健診データ,診療記録など既存統計資料を利用したい場合にはどうしたらよいのだろうか? 本書は,そのような場合の考え方や取り扱いについて丁寧に解説してある。

 本書は医療研究者全般を対象に書かれたもので疫学研究に関する倫理的配慮に詳しい。さらに,コラムなど随所に看護研究に役立つコメントがあり,研究倫理を学び,これから研究を実施しようとする看護学生や大学院生,研究者にも役立つと思う。研究の初心者にも十分わかりやすい内容であるが,研究方法の解説書ではないので,研究方法の知識を深めながら読み進めるとより効果的に活用できるだろう。

(『看護教育』2011年11月号掲載)

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