脳動脈瘤とくも膜下出血

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働き盛りを襲う病態、突然死の代表として医学的・社会的関心が高いくも膜下出血。本書はくも膜下出血の知見から脳動脈瘤に関連したものにしぼり、診断・治療の歴史的考察から最新エビデンスまで、これまでの研究を広範にレビュー。今や切り離すことのできない医療訴訟・法的側面についても、その争点および裁判所がいかに判断したかを明示。明日からの診断・診療に深みを与える1冊!
編集 山浦 晶
執筆 山浦 晶 / 小林 英一 / 宮田 昭宏 / 早川 睦
発行 2013年04月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-01647-6
定価 8,800円 (本体8,000円+税)
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 本書初版にあたる『くも膜下出血』を上梓したのが昭和60年であったから,以来四半世紀におよぶ年月が経過したことになる.この間,くも膜下出血に関する知見も進み,一方では,医療に対する社会の対応も急速に変化した.しかしながら,これまでに収録した知見のなかには,現在でも輝き続ける洞察があり,また著しく進化をとげたテクノロジーのかげに,我々が忘れかけた先人の教えも少なくないことに気づく.
 テクノロジーの発展は患者のみならず医療側にも大きな福音をもたらしたが,医療訴訟の急増など社会の変化も著しく,脳神経外科医も「社会のなかの医学・医療」を強く意識するようになり,この趨勢は学会運営にも反映されている.

 脳神経外科領域における医療訴訟を見ると,未破裂脳動脈瘤に続き,破裂脳動脈瘤が最も多く,脳動脈瘤関連の訴訟は約40%を占めている.
 改訂版となる今回の『脳動脈瘤とくも膜下出血』では訴訟例について新たに記載し,さらに法医学からみたくも膜下出血の章(第16章)を加えた.

 本書は『くも膜下出血』初版の時代より,いわゆる成書に必ず記載されている項目より,臨床面で注目すべき事柄をつとめて採用してきた.その流れは今回もかわらない.今回は,くも膜下出血の知見のうちから脳動脈瘤に関するものに限りまとめた.当然ながら最新の知見を十分に盛り込み,そのために著者を脳神経外科医として新進気鋭の小林英一,宮田昭宏の両氏に,また法医学より早川 睦氏に共著者として加わっていただいた.これによりいっそう充実した『脳動脈瘤とくも膜下出血』をお届けできると期待している.

 『くも膜下出血』(昭和60年),同改訂第2版(平成元年)は篠原出版からの出版であったが,『脳動脈瘤とくも膜下出血』は医学書院からとなった.本書の発行を快く承諾された医学書院に,また担当の志澤真理子氏らのたゆまぬ支援に,こころより感謝する次第である.

 平成25年2月1日
 編集・著者代表  山浦 晶

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主な分類・スケール
 1 Hunt & Hess分類
 2 Hunt & Kosnik分類
 3 グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale;GCS)
 4 World Federation of Neurological Surgeons(WFNS) Grading Scale
 5 Modified NIH Scale(NIHSS)(2001)
 6 Fisher grading
 7 Allen, et al. によるくも膜下出血量に関するグレーディング
 8 Grading of vasospasm
 9 グラスゴー・アウトカム・スケール(Glasgow Outcome Scale;GOS)
 10 日本版modefied Rankin Scale(mRS)判定基準
 11 Barthel Index

1章 疫学
 1 発生頻度
2章 自然歴
 1 破裂脳動脈瘤はいつ再出血するか
 2 自然歴における死亡率・後遺症と手術の効果
3章 病因とリスクファクター
4章 診断
 1 脳動脈瘤の破裂前診断
 2 警告小出血について
 3 グレーディングについて
  a.臨床症状のグレーディング
  b.くも膜下出血量に関するグレーディング
  c.脳血管攣縮の形態的分類とグレーディング
 4 脳血管撮影
  a.脳血管撮影中の再破裂
  b.破裂後の脳動脈瘤の大きさの変化
  c.ネガティブ脳血管撮影
 5 Computed tomography(CT)
  a.くも膜下血腫の局在的意義
  b.脳内血腫の局在的意義
  c.後頭蓋窩破裂脳動脈瘤のCT像
  d.CT所見と予後
 6 Magnetic resonance imaging(MRI)
 7 眼底出血
 8 髄液検査
 9 脳循環代謝・虚血変化
5章 術前管理
 1 くも膜下出血における生理学的反応
  a.心電図異常
  b.脱水
  c.低ナトリウム血症
  d.高ナトリウム血症
  e.低血圧
  f.白血球増多
  g.ストレス・インデックス
 2 抗線維素溶解薬は再出血予防に効果があるか
 3 術前の症候性脳血管攣縮にどう対処するか
 4 術前の水頭症
6章 手術のタイミング-早期手術か晩期手術か
 1 早期手術と晩期手術のそれぞれの利点
 2 早期手術
 3 全経過での死亡率,後遺症
 4 いつ手術すべきか
7章 手術と術中管理
 1 術中の低血圧,マンニトール投与など
 2 脳血管攣縮予防のための術中操作
  a.くも膜下血腫の除去は脳血管攣縮を予防するか
  b.薬剤の局所塗布
 3 クリッピング以外の脳動脈瘤処置について
  a.コーティング,包埋術
  b.親動脈の結紮
 4 術中モニタリング
 5 その他
8章 術後管理
 1 脳血管攣縮
  a.キーとなる考え方
  b.病因
  c.病態,診断,検査
  d.治療
 2 てんかん発作
 3 水頭症
 4 術後高血糖
 5 術後脳腫脹に対する低体温療法
9章 各部位における脳動脈瘤の特殊性
 1 内頸動脈瘤
  a.錐体骨部の内頸動脈瘤
  b.海綿静脈洞部の内頸動脈瘤
  c.内頸動脈-眼動脈分岐部動脈瘤,眼動脈瘤
  d.腹側傍前床突起部動脈瘤
  e.内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤,後交通動脈瘤
  f.内頸動脈-前脈絡叢動脈分岐部動脈瘤
 2 前交通動脈瘤,前大脳動脈瘤
 3 中大脳動脈瘤
 4 椎骨脳底動脈
 5 後大脳動脈瘤
10章 特殊な脳動脈瘤
 1 巨大脳動脈瘤
 2 解離性脳動脈瘤
 3 紡錘状脳動脈瘤
 4 動脈硬化性脳動脈瘤
 5 外傷性脳動脈瘤
 6 細菌性脳動脈瘤
 7 腫瘍性脳動脈瘤
 8 もやもや病に合併した脳動脈瘤
 9 脳梗塞に合併した脳動脈瘤
 10 母斑症に合併した脳動脈瘤
 11 線維筋性形成異常症と脳動脈瘤
 12 脳腫瘍に合併した脳動脈瘤
 13 大動脈炎症候群に合併した脳動脈瘤
 14 小児の脳動脈瘤
 15 高齢者の破裂脳動脈瘤
 16 その他
11章 未破裂脳動脈瘤
 1 発生頻度
 2 破裂する確率
 3 破裂の危険因子
 4 手術適応
 5 手術成績
 6 費用対効果(無症候性未破裂脳動脈瘤の治療)
12章 再手術
 1 不完全な動脈瘤クリッピング
 2 クリッピング後の部分的残存について
 3 クリップの締挾力
 4 動脈瘤クリップによる血管損傷
 5 動脈瘤クリップの破損
 6 脳動脈瘤の新生
13章 追跡調査
 1 早期調査
 2 慢性期調査
14章 血管内治療総論
 1 ISAT以前の論文
  a.安全性
  b.有効性
  c.治療選択
 2 ISATとそれに対する反応
  a.ISATの論文の概要
  b.ISATの反響と批判
 3 ISAT(2002)以降
  a.ISAT続報(2005)
  b.その他の治療成績
 4 わが国の血管内治療の現状
  a.RESAT-1~7
  b.RESAT-RB(再出血に関して)
15章 血管内治療各論
 1 長期成績,追跡方法,再開通と再出血
 2 脳神経麻痺に対する塞栓術の効果
 3 術中破裂
 4 血栓塞栓性合併症
16章 くも膜下出血と法医学
 1 異状死体の届け出義務
 2 警察医による検案
 3 解剖とCT
 4 司法解剖
 5 くも膜下出血が外因性か内因性か
17章 くも膜下出血(脳動脈瘤)にかかわる医療訴訟

資料-1 日本脳神経外科学会よりホームページ上に公表された
    ランセットISAT論文に関する新聞報道等に対する見解
資料-2 日本脳神経外科学会よりホームページ上に公表された
    ランセットISAT論文の紹介と解説
資料-3 日本脳神経血管内治療学会のホームページ上に掲載された解説と
    学会としての意見
資料-4 RESAT-1

和文索引
欧文・その他索引

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くも膜下出血と脳動脈瘤に特化した力作
書評者: 村山 雄一 (慈恵医大教授・脳神経外科学)
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳神経外科医にとってその診断から治療,術後管理に至るまで,脳神経外科診療の基礎が詰まっている病態である。本書は脳動脈瘤手術のパイオニアである山浦晶先生を代表とした初版から四半世紀を経て,歴史的考察から現代の最新の知見までをまとめた書である。この間,くも膜下出血の治療は大きく変貌を遂げたが,その背景にはEvidence based medicineの普及,クリッピング技術の改良,脳血管内治療の発展などがあり,また社会的には医療訴訟の増加などわれわれ医師を取り巻く状況も大きく変わりつつある。

 医学書院よりタイムリーに出版された本書は脳動脈瘤によるくも膜下出血に焦点を絞り,また少数の筆者による執筆であるため,各章の統一性が高くevidenceがはっきりしている事例のみならずcontroversialな事例に関しても筆者の考え方がよく伝わっている。また豊富なmemoにより関連する知識の肉付けもなされており,教科書としてだけでなく読み物としても興味深い書である。

 本書が最もユニークな点はくも膜下出血に関連した法医学と医療訴訟を独立した章として設けてある点であろう。くも膜下出血の可能性のある異状死の際,医師として適切な警察への届け出などのlegal actionをどうすべきか,われわれが避けることのできない法的義務に関し詳細に記述されている。さらに脳神経外科医として知っておくべき医療訴訟関連知識も具体例を挙げながら解説されており,万が一の事態に遭遇しない,あるいは遭遇した際にも適切な判断ができるよう明示されている。これまでここまでくも膜下出血に特化した教科書であらゆる知識を網羅したものはなかったであろう。

 若手脳神経外科医のみならず熟練したベテランにも知識の整理とともに広く役立つ書である。
理解しやすく整理された初心者から達人までお薦めの一冊
書評者: 橋本 信夫 (国立循環器病研究センター理事長・総長)
 本書を手にすると,山浦晶先生が脳動脈瘤手術の達人として,また学会のリーダーとして私達後進の頭上に燦然と輝いておられた頃がありありと思い出される。本書をめくると,学会の座長席での先生の的確かつ無駄のないご発言を思い出す。

 一般に教科書はencyclopediaの要素を否定できず,さまざまな現象や病態,治療法などの羅列となりがちである。教科書を読んで,その内容を自分の中で概念化,あるいはイメージ化できるかと言えばいささか怪しくなる。すなわち,読んで理解し,記憶したはずの内容を,他者にうまく説明できるか,という視点でみれば多くの教科書は難しいと言わざるを得ない。

 本書には,例えば,「破裂後の脳動脈瘤の大きさの変化」という項目があるが,通常は,ああいうデータもあり,こういうデータもあるという解説に終わり,読んでわかった気になったものの,説明しようと思うと,さて?となってしまうのが常である。本書では,その項目の下位に,「脳動脈瘤は破裂後小さくなるか」という赤字の小項目で解説があり,次に,「脳動脈瘤は破裂後大きくなるか」という項目で解説がある。このようにまとめるためには相当の労力がいるが,読む側には,極めて整理された理解,すなわち事象の概念化,結果として記憶としての定着が可能となる。

 「本書は,昭和60年初版の改訂版であり,くも膜下出血に関する知見もこの四半世紀で大いに進んだが,収録した知見のなかには,現在も輝き続ける洞察があり,逆に,われわれが忘れかけた先人の教えも少なくない」と序文に書かれている。英知の積み重ねとはまさにこのようなプロセスを言うのだと思う。本書はそのような山浦先生の編集方針に執筆の先生方がみごとに応えられた結果だと思う。この類の教科書にしては異例に多い参考文献のリストもacademic surgeonとしての山浦先生の思いの具現化と理解した。

 また,脳神経外科を学ぶ上での「社会の中の医学・医療」の視点が重要視されている。ここには山浦先生の千葉大学医学部附属病院長としてのご経験,また医療訴訟の問題とその解決に深くかかわってこられたご経験から,後進に伝えるべき今日の重要な視点として特段の思いが込められているのだと思う。

 脳動脈瘤治療の初心者から達人まで,ご一読をお勧めします。

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