看護情報学

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臨床現場のさまざまな情報を看護にどのように活用したらよいかを理解し、実践できるようにするため、看護理論、看護過程、看護記録、看護用語、EBN、倫理、経験知など、さまざまなテーマをわかりやすく解説した看護情報学の決定版。
編集 太田 勝正 / 猫田 泰敏
発行 2008年05月判型:B5頁:192
ISBN 978-4-260-00572-2
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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はじめに

 私たちは,日々,実に多くの情報を集めています。情報がなければ安全で質の高い看護は成り立たず,もっとよい看護を目指して,さらに多くの情報を欲しいと思っています。でもここで,「集めた情報を実際の看護でどれだけ使っているのか」について少し考えてみてください。苦労して集め,時間をかけて記録した情報を他の看護師や医師が見てくれない,うまく自分の看護に活用できない,記録して終わりということが意外に多いのではないでしょうか。情報は活用して初めて価値を生みます。情報をきちんと看護実践に活かす能力が,今日すべての看護職に求められています。
 この本は,その情報の活用,すなわち,看護に情報をどのように活かしたらよいかを皆様にわかってもらい,それを実践できるようになっていただくことを目指しています。まず,情報を集めるとはどのようなことか。集めた情報をどのように記録したら次の看護に活かしやすいか,さらには「根拠(エビデンス)」を導く基礎にできるのか。そのために何が必要か。看護理論を単なる知識に留めることなく,もっと日常看護実践に活かすにはどうしたらよいか。あるいは,日々の経験からどのように経験知が導かれ,他者と共有できるようになるのかなど,皆様が知りたい,あるいは皆様に知っておいてもらいたいテーマを「情報の活用」という視点からわかりやすく示しています。そして,この本を手に取っていただいた皆様を,「多くの中から必要な情報をきちんと絞り込むことのできる看護職」「情報の価値を高めることのできる看護職」そして,「情報が使える看護職」に,やさしく導きます。
 1人でも多くの方が,本書から1つでも多くの情報活用のための手掛かりを学び,実際の看護実践や臨地実習などに役立てていかれることを心から願っております。
 編者を代表して
 太田勝正

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I 看護と情報
第1章 看護の定義
 A.看護の役割と機能
 B.看護の情報依存性
 C.看護の流れと情報
第2章 看護情報学 看護に情報を活かすための専門領域
 A.看護情報学とは
 B.看護情報学を担う看護師の役割
 C.看護情報学を担う人材の育成
第3章 看護における情報
 A.看護における情報の特性
 B.看護におけるデータ・情報・知識
 C.情報の活用
 D.〔もう1つの視点〕データと情報

II 情報からみた看護
第4章 看護理論 情報整理の枠組み
 A.情報の検索
 B.情報の整理─クリティカルシンキング
 C.看護理論は情報整理の枠組み
第5章 看護過程 情報処理のプロセス
 A.看護過程の各段階
 B.看護過程は情報処理のシステム
 C.〔もう1つの視点〕実際の看護における情報の収集と活用例
第6章 看護記録 情報の保存と活用
 A.活用できる看護記録─何を記録するか
 B.情報の記録─どのように記録するか
 C.電子カルテ─活用できる情報を保存する

III 看護情報活用のために
第7章 看護用語の標準化
 A.看護情報標準化の必要性
 B.情報の標準化
 C.看護情報の標準化─世界の動向
 D.標準看護用語集の開発状況
第8章 ナーシングミニマムデータセット(NMDS)
 A.ナーシングミニマムデータセット(NMDS)とは
 B.NMDSへの取り組みの現状と課題
第9章 EBNに活かす看護情報
 A.EBNとは
 B.EBNの歴史的展望と研究利用の現状
 C.EBNの実践
 D.エビデンスの吟味
 E.まとめ
第10章 看護情報のシステム化
 A.システムの定義
 B.システムの分類
 C.システムの例
 D.看護情報のシステム化の目的
 E.システム化の条件
 F.看護情報のシステム化により期待される成果
第11章 看護情報と倫理
 A.患者情報の特質と情報倫理
 B.情報プライバシーと情報共有
 C.個人情報の保護と活用のバランス
第12章 情報としての経験知
 A.経験とは,経験知とは何か
 B.実践を媒介にした知の生成
 C.看護実践に価値をおく
 D.ごくありふれた営みを援助する専門性
 E.『看護覚え書』に見る経験知

あとがき
索引

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「情報」に悩まされている看護師の頭をすっきりさせる一冊 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 井部 俊子 (聖路加看護大学学長)
◆情報依存症の看護師とは

 臨床では,「情報がいのち」というスタッフは経験年数が少ない人たちに共通しており,4年目を過ぎると情報がほしいと言わなくなるようだと私は以前に書いたことがある。

 看護師の,いわゆる「情報依存症」の〈診断〉はこうである。カルテ情報を読み,他の看護師から患者情報を聞かされないとベッドサイドに行けない。特定の患者の引き継ぎの際,あれについてこれについてと,とことん情報を得ないと気が済まない。看護過程とは必ず「情報収集」から始まるものだと思っている。一方,情報収集とは他人に委ねられるものであると信じているため,自分自身で観察したり会話をしたりして情報を得るのは邪道だと思っている。こうして臨床現場では「情報」をめぐる諍いは絶えない。

◆体系的に看護情報学を記述

 本書は,そうした「情報」を中心テーマとして,客観的にクールに「看護情報学」(Nursing Informatics)として体系的に記述されたわが国では最初の著作であろう。

 編者らは,看護情報学の定義の変遷をていねいにレビューしたあと,「看護情報学とは,看護実践に伴うデータ,情報,および知識を管理しコミュニケートするために看護学,コンピュータ科学および情報科学を統合する専門分野である。看護情報学は,患者,看護者およびその他のケア提供者がそれぞれの役割やさまざまな状況のなかで的確に意思決定を行なえるように,看護のデータ,情報,および知識の統合を促す」というアメリカ看護師協会(ANA,2001)の定義を採用している。

 第一部では,看護の定義を述べ,看護に情報を活かすための専門領域を説明し,データ・情報・知識について解説している。第二部では,看護理論を情報整理の枠組みとして位置づけ,情報処理プロセスとしての看護過程を解説し,看護記録のあり方に言及している。

 第三部では,看護用語の標準化のための世界的な取り組みをあげ,さらにナーシング・ミニマム・データセット(NMDS),EBN,そして情報のシステム化について述べ,看護情報と倫理を論じる。最終の第12章では,経験知,知の生成,看護実践の価値について概説し,他の章とは異なった哲学的論考でしめくくっている。

◆看護情報学が専門分野として確立することを期待

 本書は,看護に情報をどのように活かしたらよいかを知らせ,それを実践できるようになってもらうことをめざしている。読者を「多くの中から必要な情報をきちんと絞り込むことのできる看護職」「情報の価値を高めることのできる看護職」,そして「情報が使える看護職」に「やさしく導く」と,編者は述べている。このプロセスがうまくいくと,日常,「情報」に悩まされている看護師の頭はすっきりするであろう。

 近い将来,「看護情報学」という専門分野が確立され,専門看護師が活躍することが期待されるとともに,本書が基礎的文献として活用されることを確信している。

(『看護管理』2008年9月号掲載)

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