暴力被害者と出会うあなたへ
DVと看護

もっと見る

ドメスティックバイオレンス(DV)とは何か、DVが心身の健康に及ぼす影響、またDV被害者をどのように発見し、どのような社会資源に結びつけるか。暴力被害者援助の前提となる知識と情報、介入の基本を体系的に解説。多忙な臨床の場でも実践可能な援助を考える書。
友田 尋子
発行 2006年03月判型:A5頁:156
ISBN 978-4-260-00217-2
定価 2,200円 (本体2,000円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

はじめに DVを学ぶあなたへ
1 DVとは何か 定義と実態
2 DVが健康に及ぼす影響
3 DVにからめとられる被害者
4 ケア提供の障害となるもの
5 日常ケアのなかで被害に気づく
6 DVの援助過程
7 医療機関にできること
8 事例検討をケアへ活かす
9 看護師が暴力と向き合うとき
あとがき

開く

暴力被害者を援助するとき,知っておかなければならないこと (雑誌『看護管理』より)
書評者: 福井 トシ子 (杏林大学医学部付属病院看護部長)
◆現場でこそ行なわれなければならない被害者への取り組み

 暴力を受けている患者さんを担当した経験をもつ看護者はどれくらいいるでしょうか?
 著者は本書の中で,看護者の3人に1人はDV(ドメスティック・バイオレンス)の暴力体験被害者に遭遇しているが,臨床現場では暴力被害者への対応が十分ではないということを指摘しています。そして,臨床現場でこそ行なわれなければならない暴力被害者への対応について書いています。

 本書を読み進めていくうちに,ある妊婦さんのことをパァーッと想い出しました。妊娠20週で破水して搬送されてきた妊婦さんです。妊娠週数は,生まれた赤ちゃんのインタクトサバイバル(後遺症のない生存)が難しい週数です。それでもできうる限りのことをしたいと,妊婦さんは妊娠の継続を望みました。そのためには安静が必要です。もちろん床上安静です。しかし,妊婦さんは安静にしようとしません。そのうえ,その理由を看護者に話そうとしないのです。「パートナーとはけんかをしているので,会いたくない。話したくない」と言います。パートナーは面会を求めて,連日来院します。看護者は妊婦の意向を伝え,面会をお断りするということが続き,とうとう看護者とパートナーの間でトラブルになってしまいました。このトラブルで看護者は,パートナーが面会に来るのを恐れるようになり,妊婦さんに対して憎しみの感情をもつようにさえなりました。

 一方で妊婦さんは,パートナーに「会いたくない。話したくない」と言っているのに,看護者に内緒でパートナーに電話をしたり,手紙を書いたりし始めました。看護者は,妊婦さんの矛盾した行動に翻弄されながら,妊婦さんの感情に巻き込まれていくのを感じずにはいられませんでした。

 私たちは妊婦さんへのケアの方向性を見出せずにいたので,私たちの状況を妊婦さんに伝えるという方法をとりました。妊婦さんの状況に戸惑っていること,この状況は私たちを非常に困らせていること,妊婦さんと共有すべき目標が何かを図りかねていることを伝えました。するとこれを機に,妊婦さんの看護者への接し方に変化がみられたのです。看護者の誰とも話をしようとしなかったのに,堰を切ったように話し始めたのです。入院から2週間経っていました。

 パートナーにお腹を蹴られて破水したこと。入院の日数が増えていくうちにパートナーが気がかりになって,会いたくなってきたこと。パートナーが謝るのならば,許してもいいと思えること。これまでも暴力があったこと,など。

◆看護者のおかれている状況と援護者としての在りよう

 この事例がなぜこのような経過を辿ったのか,本書を読み進めていけば「なるほど!」と膝を打ちたくなるほど,容易に理解することができます。そして,本書はこの妊婦さんに看護者のどのような援助が必要だったかも教えてくれます。当時,この本が身近にあったなら,この妊婦さんへのケアはもう少し違っていたとさえ思います。そして,看護者は傷つかずに済んだかもしれません。

 著者は,暴力被害者へのケアには正しい知識と認識,高い倫理をもつことが欠かせないと書き,「第9章 看護師が暴力と向き合うとき」で「看護師もまた,社会的権力構造のなかで暴力を受けてきた被害者です」と看護者のおかれている状況と援助者としての在りようを端的に述べています。特にこの章は,たくさんの方に読んでいただきたいと思います。

 著者の文体は,一貫して「……です」と迷いがありません。そして「……してはなりません」と随所に書かれていて,思わず「はい!」と言わずにはいられない本です。

(『看護管理』2006年8月号掲載)
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 高田 昌代 (神戸市看護大学看護学部教授)
 夫や恋人から受けた外傷で受診してきた患者や,パートナーの避妊への非協力により繰り返す妊娠・中絶で受診した女性に出会ったことはありませんか? きっと3割くらいの看護職があるはずです。妻のことはすべて決めるという権威的な男性の支配下におかれた女性もその被害者です。「ひどい夫」「度のすぎた夫婦喧嘩」「理解のない彼」と理解していたものが,「ドメスティック・バイオレンス(DV)」です。

 わが国においては,1999年に国も重い腰を上げ,初めてその実態調査が行われ,2001年に超党派の女性議員たち(代表・南野智恵子議員)により,「DV防止法」が成立しました。このことが世の中にドメスティック・バイオレンスまたはDVの名称を広めました。いまやDVが犯罪であること,社会の支援が必要であること,医療関係者としては,その発見・治療・支援に努力義務があることは周知の事実となっています。

 著者は,わが国のDV被害者支援活動を早くから開始した日本DV防止・情報センター設立者の一人であり,今も運営の中核的存在として先駆的な活動をしています。活動の発端は,長年子ども虐待の相談をしてきたなかで,その背後にいる女性の声なき声をしっかり聞き取ったことにあります。子ども虐待の背後に潜むDVの解決なくして子ども虐待の解決はありえないというスタンスです。今でこそ,このことは誰もが認めるところですが,当初はこの問題に先駆的なアメリカでさえも,DVは女性の人権問題としてのみ取り組まれ,子どもへの影響はなかなか認められない状況でした。

 著者は,非常に早くから子ども虐待からDVを見るという画期的な視点を持っており,夫婦・子どもをトータルにみる家族病理としてDVを語れる第一人者です。

 20人に1人の女性が「死ぬかもしれない」と思うほどの暴力を受けた経験がある/病院の診察費を夫が出さなくて予約どおりに受診できない人がいる/「早く帰ってこい」と怒鳴るために,患者教育を受けられない人がいる/インシュリンを取り上げられているために糖尿病が悪化している人がいる。病気や怪我の背後にDVがある場合がありますが,そのことを被害者は看護職に「言わない」のではなく「言えない」のです。

 病気を悪化させている本当の原因がDVにある場合,そのことを患者さんから聞くには看護職者はどうすればいいのでしょうか。被害者を早期発見した後,どう対応すればいいのでしょうか。看護師自身がDV被害者だったら……。

 本書は,これらの疑問や質問に応えるために,第5章を中心に具体的な援助方法が詳細に述べられています。また,暴力被害体験者に関わる際には,概論を学んだ上で関わることの重要性についても指摘しています。

 臨床の看護職をはじめ,DV支援の教育を受けなかった教員や学生さんに副読本としてぜひ一読してほしいと思います。

 本の表紙の絵のタイトルは水やりです。この絵から私は,女性がもつ花のような内なる力に対し,水のように有機的で自由に形を変えながら支援していきたいという著者の思いを感じます。

(『看護教育』2006年7月号掲載)
医療現場におけるDV被害者支援の入門書
書評者: 山田 真由美 (前マサチューセッツ総合病院ドメスティックバイオレンスプログラムスタッフ)
 「ドメスティックバイオレンス(以下,DV)は健康問題である」。長年にわたり医療・福祉の現場で,DVと子どもの虐待問題に取り組んできた著者は訴える。『暴力被害者と出会うあなたへ―DVと看護』は,その著者が,医療従事者として,看護教育に携わる教育者として,そして一人の人間として,DV問題を見つめ,教育・啓発活動に取り組み培ってきたその経験と知恵を一冊の書にまとめたものである。

 立ち遅れる医療現場でのDV被害者へのケアが少しずつ問題視されはじめた昨今,本書では,「DVとはなんなのか?」「心身にどんな影響があるのか?」「ではいったい医療の現場ではなにをどうすればいいのか?」そんな疑問や「DV被害者ケアに関する漠然とした不安」などについてていねいに説明されている。さらには,実際のDV被害者援助の過程,具体的な方法,事例検討など,医療現場におけるDV支援について細部にわたって示されており,本書は,DV入門書としてまたDV被害者ケアについてのアドバンスな手引き書として,活用していただきたい内容である。

 本書で特筆すべきなのは,看護に従事するものの視点から書かれているという点であろう。看護師は通常,医師より患者に接する時間が長い。特に日本の医療の特徴として,看護師が患者の心身のケアを統括してマネージしているケースが多い。であるからこそ著者は,「一足とびに具体的な援助を,ではなく(DVの)概念を学ぶ重要性」(頁55)を訴える。DVは社会の複雑な権力構造・文化構造に密接に関連する社会問題であるため,援助者の無理解は問題を悪化させる危険性を,そして,日常ケアのなかで被害に気づき支援する体制の重要性を説いている。さらには,看護師が社会権力構造のなかで被害者であり続けた長い歴史に言及し,日本では立ち遅れている看護者の人権保護,看護者がケアを通じて間接的に受けるトラウマ(二次トラウマ)についても説明している。この「看護者も患者と同じくまた人権をもつ」という概念なしには,DV問題に取り組むうえで大変重要である個人の尊重,被害者・援助者双方のエンパワーメントという真の意味での“被害者支援”は成し遂げられないであろう。

 本書は,たんなるマニュアル本ではない。本書に読み取れる,著者の,DV問題,そして患者・被害者の援助ケアに対する姿勢には,暴力のないよりよい社会の実現へと努力を惜しまない著者のミッション(使命)ともいうべき志が感じられる。本書は,医療従事者としてそして一人の人間として,どのようにDV問題に取り組んでいくべきなのかを読者一人ひとりに問いかけている書でもある。今日もまた,DV被害者に遭遇しているかもしれないより多くの医療に携わる人々が,この書を手に取り,DVへの問題意識を新たにし,よりよい社会実現に向けての一歩を踏み出すことを願ってやまない。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。