腰痛に対するモーターコントロールアプローチ
腰椎骨盤の安定性のための運動療法
最新のエビデンスに基づいた腰痛治療と予防の新しいアプローチ
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腰椎骨盤領域の深部筋には関節損傷や腰痛による機能障害を予防する機能があることを示し、筋のモーターコントロール理論に注目した科学的なトレーニング方法を確立した著者による、腰痛治療従事者の必携書。最新の研究結果とエビデンスに基づき、腰痛治療と予防の新しいアプローチを詳述。明日からの診療のヒントが満載。
訳 | 齋藤 昭彦 |
---|---|
発行 | 2008年05月判型:B5頁:260 |
ISBN | 978-4-260-00312-4 |
定価 | 6,160円 (本体5,600円+税) |
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序文
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訳者の序/序
訳者の序
本書の初版である“Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain”を翻訳した『脊椎の分節的安定性のための運動療法-腰痛治療の科学的基礎と臨床』(エンタプライズ,2002)が出版されてから6年が経過しようとしている。初版を翻訳してから数年して,オーストラリアのQueensland大学を訪れた際,著者のひとりであるCarolyn Richardsonに会うことができた。ちょうど,今回,翻訳することとなった第2版を執筆している最中であった。本書が完成したら,再び翻訳することを約束して帰国した。
それから1年ほどして,本書を入手することができた。原書のタイトルは“Therapeutic Exercise for Lumbopelvic Stabilization: A Motor Control Approach for the Treatment and Prevention of Low Back Pain”となっており,初版のタイトルとは大きく異なっていた。さっそく,本を開いてみると,解剖学的な記載以外は,全く異なった内容といっても過言ではなかった。このような内容の違いは,初版が出版されて以来,この分野の研究や臨床実践がいかに進歩したかを物語るものであった。本書は,ほぼ全面的に改訂されており,初版を「マイナーチェンジ」した第2版として捉えるよりも,むしろ,「フルモデルチェンジ」した第2版,あるいは全く別の書籍として捉えたほうがよい内容であった。
初版の翻訳以来,わが国でも,深部筋に対する注目が高まり,超音波診断装置や圧バイオフィードバックを用いた深部筋に対する研究が盛んに行われるようになった。本書には,間違いなく,この分野の最新の情報がすべて網羅されている。したがって,これらからこの分野を学習,研究しようとする者にとって必読の書であると言える。
本書は,腰椎骨盤領域の安定性の向上のための理論と実践がバランスよく構成されている。初版までの知識,技術に加え,その後の研究成果と臨床経験を統合し,さらに発展させた内容となっている。本書に記載された方法をもとにアプローチすることにより,多様な身体運動中に,関節をコントロールし,保護するために必要とされる最適な筋群の相互作用を確立することが可能となる。また,治療的なアプローチだけでなく,予防的なアプローチが可能であり,理学療法士だけでなく,セラピストを目指す学生,スポーツレベルのトレーナー,コーチなど多くの健康管理職にとって有用な書となるに違いない。
最後になりましたが,本書の翻訳企画から出版に至るまで,いろいろとご尽力をいただいた医学書院医学書籍編集部の坂口順一氏に深く感謝いたします。
2008年3月
齋藤 昭彦
序
ここ10年ほどで,リハビリテーションにおいて腰椎と骨盤の安定性を改善するためのエクササイズが注目されるようになってきた。この領域では多くの臨床的,研究的な選択があり,臨床および健康産業領域において多くの方法が用いられるようになっている。本書は研究および臨床実践を基礎としたこの領域の解釈の概要を示すものである。初版では新しいエクササイズモデルと,そのときの知識を示したものであったが,この第2版ではこの領域でめざましく発展した研究と臨床的な発展を統合する最新の考え方を示している。
腰痛の治療エクササイズに関して,我々は理学療法士および他の健康専門職によるエクササイズ介入の焦点が,多様な機能的な身体運動中に,関節をコントロールし,保護するために必要とされる最適な筋群の相互作用を確立することを目的とすべきであると考えている。
初版では,我々の研究および臨床的エビデンスにおいて腰椎分節コントロールに不可欠であることが示唆された深部筋群システム(多裂筋,腹横筋,横隔膜,骨盤底筋群)に焦点を当てた。ここ5年間で我々の研究はかなり進んだ。たとえば,今では初版で記載した介入が腰痛の発生率を低下させることを示す長期フォローアップデータを得ることができた。また,生体力学研究により,深部筋システムが腰椎だけでなく,骨盤のコントロールにも関与していることを確かめることができた。さらに,臨床研究では,骨盤痛症候群における深部筋システムを含む筋機能異常の存在を確かめることができた。他の進歩としては,深部筋システムのコントロールと協調性メカニズム,および免荷・疼痛・損傷が及ぼす影響を詳細に解明することができた点が挙げられる。微小重力環境を含む我々の最近の研究では,地球上の機能的環境に衝撃を与えるであろう極端な環境の影響を評価する機会を得ている。腰椎骨盤痛における筋コントロールの評価においても発展がみられている。
腰痛に対する治療エクササイズの領域を研究する理学療法士として,我々はまず第一に,腰椎骨盤領域の関節保護に関与する神経生理学的メカニズムと起こりうる機能異常を調べることを選択した。多くの考えおよび仮説はいまなお厳格な科学的検査が必要であるが,治療エクササイズに関する本書で,エクササイズ処方の新たな方法の詳細と,理学療法士によって従来から用いられてきたエクササイズを効果的にする仮説を提供する義務があると感じている。
したがって,本書では,効果的な治療エクササイズテクニックを洞察するために,研究結果に加え,論議された仮説が用いられている。また,関節保護に関係する問題を反映する非侵襲的測定を発展させるためにも用いられている。
我々の過去および将来の研究の主要な目的の1つは,処方された治療エクササイズが関節保護システムの改善をもたらすことを示し,これらのメカニズムの変化が疼痛症候群の解決および予防にも密接に関係することを示すことである。
最後に,我々は治療エクササイズが問題が起こった後の治療として用いられるだけでなく,予防的な手段として用いられ,ライフスタイルの変化を促すことの重要性も強調したい。このことが現在進行中の我々の仕事の大きなテーマである。
この第2版を読むことにより,いろいろと考え,楽しんでいただくことを希望する。我々は仕事が新しい方向に発展し,成長しつづけることに興奮を覚えている。本書が,セラピスト,学生,研究者に有用であり,最終的に腰椎骨盤痛患者を支援する新たな考えを刺激することとなることを願っている。
訳者の序
本書の初版である“Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain”を翻訳した『脊椎の分節的安定性のための運動療法-腰痛治療の科学的基礎と臨床』(エンタプライズ,2002)が出版されてから6年が経過しようとしている。初版を翻訳してから数年して,オーストラリアのQueensland大学を訪れた際,著者のひとりであるCarolyn Richardsonに会うことができた。ちょうど,今回,翻訳することとなった第2版を執筆している最中であった。本書が完成したら,再び翻訳することを約束して帰国した。
それから1年ほどして,本書を入手することができた。原書のタイトルは“Therapeutic Exercise for Lumbopelvic Stabilization: A Motor Control Approach for the Treatment and Prevention of Low Back Pain”となっており,初版のタイトルとは大きく異なっていた。さっそく,本を開いてみると,解剖学的な記載以外は,全く異なった内容といっても過言ではなかった。このような内容の違いは,初版が出版されて以来,この分野の研究や臨床実践がいかに進歩したかを物語るものであった。本書は,ほぼ全面的に改訂されており,初版を「マイナーチェンジ」した第2版として捉えるよりも,むしろ,「フルモデルチェンジ」した第2版,あるいは全く別の書籍として捉えたほうがよい内容であった。
初版の翻訳以来,わが国でも,深部筋に対する注目が高まり,超音波診断装置や圧バイオフィードバックを用いた深部筋に対する研究が盛んに行われるようになった。本書には,間違いなく,この分野の最新の情報がすべて網羅されている。したがって,これらからこの分野を学習,研究しようとする者にとって必読の書であると言える。
本書は,腰椎骨盤領域の安定性の向上のための理論と実践がバランスよく構成されている。初版までの知識,技術に加え,その後の研究成果と臨床経験を統合し,さらに発展させた内容となっている。本書に記載された方法をもとにアプローチすることにより,多様な身体運動中に,関節をコントロールし,保護するために必要とされる最適な筋群の相互作用を確立することが可能となる。また,治療的なアプローチだけでなく,予防的なアプローチが可能であり,理学療法士だけでなく,セラピストを目指す学生,スポーツレベルのトレーナー,コーチなど多くの健康管理職にとって有用な書となるに違いない。
最後になりましたが,本書の翻訳企画から出版に至るまで,いろいろとご尽力をいただいた医学書院医学書籍編集部の坂口順一氏に深く感謝いたします。
2008年3月
齋藤 昭彦
序
ここ10年ほどで,リハビリテーションにおいて腰椎と骨盤の安定性を改善するためのエクササイズが注目されるようになってきた。この領域では多くの臨床的,研究的な選択があり,臨床および健康産業領域において多くの方法が用いられるようになっている。本書は研究および臨床実践を基礎としたこの領域の解釈の概要を示すものである。初版では新しいエクササイズモデルと,そのときの知識を示したものであったが,この第2版ではこの領域でめざましく発展した研究と臨床的な発展を統合する最新の考え方を示している。
腰痛の治療エクササイズに関して,我々は理学療法士および他の健康専門職によるエクササイズ介入の焦点が,多様な機能的な身体運動中に,関節をコントロールし,保護するために必要とされる最適な筋群の相互作用を確立することを目的とすべきであると考えている。
初版では,我々の研究および臨床的エビデンスにおいて腰椎分節コントロールに不可欠であることが示唆された深部筋群システム(多裂筋,腹横筋,横隔膜,骨盤底筋群)に焦点を当てた。ここ5年間で我々の研究はかなり進んだ。たとえば,今では初版で記載した介入が腰痛の発生率を低下させることを示す長期フォローアップデータを得ることができた。また,生体力学研究により,深部筋システムが腰椎だけでなく,骨盤のコントロールにも関与していることを確かめることができた。さらに,臨床研究では,骨盤痛症候群における深部筋システムを含む筋機能異常の存在を確かめることができた。他の進歩としては,深部筋システムのコントロールと協調性メカニズム,および免荷・疼痛・損傷が及ぼす影響を詳細に解明することができた点が挙げられる。微小重力環境を含む我々の最近の研究では,地球上の機能的環境に衝撃を与えるであろう極端な環境の影響を評価する機会を得ている。腰椎骨盤痛における筋コントロールの評価においても発展がみられている。
腰痛に対する治療エクササイズの領域を研究する理学療法士として,我々はまず第一に,腰椎骨盤領域の関節保護に関与する神経生理学的メカニズムと起こりうる機能異常を調べることを選択した。多くの考えおよび仮説はいまなお厳格な科学的検査が必要であるが,治療エクササイズに関する本書で,エクササイズ処方の新たな方法の詳細と,理学療法士によって従来から用いられてきたエクササイズを効果的にする仮説を提供する義務があると感じている。
したがって,本書では,効果的な治療エクササイズテクニックを洞察するために,研究結果に加え,論議された仮説が用いられている。また,関節保護に関係する問題を反映する非侵襲的測定を発展させるためにも用いられている。
我々の過去および将来の研究の主要な目的の1つは,処方された治療エクササイズが関節保護システムの改善をもたらすことを示し,これらのメカニズムの変化が疼痛症候群の解決および予防にも密接に関係することを示すことである。
最後に,我々は治療エクササイズが問題が起こった後の治療として用いられるだけでなく,予防的な手段として用いられ,ライフスタイルの変化を促すことの重要性も強調したい。このことが現在進行中の我々の仕事の大きなテーマである。
この第2版を読むことにより,いろいろと考え,楽しんでいただくことを希望する。我々は仕事が新しい方向に発展し,成長しつづけることに興奮を覚えている。本書が,セラピスト,学生,研究者に有用であり,最終的に腰椎骨盤痛患者を支援する新たな考えを刺激することとなることを願っている。
目次
開く
第1部 はじめに
第1章 飛躍のとき
第2部 関節保護メカニズム
PART1 はじめに
第2章 腰椎骨盤の安定性:バイオメカニクスとモーターコントロールの機能的モデル
PART2 脊椎分節の関節保護
第3章 腹部メカニズムと腰椎・骨盤の支持
第4章 傍脊柱メカニズムと腰椎の支持
PART3 抗重力筋支持システム
第5章 荷重伝達のための腰椎骨盤領域の剛性
第6章 体重支持筋と非体重支持筋の役割
第3部 関節保護メカニズムの障害:概念
第7章 損傷─免荷モデル
第8章 関節損傷
第9章 疼痛モデル
第4部 腰痛における関節保護メカニズムの障害
第10章 腰痛の腹部メカニズム
第11章 腰痛の傍脊柱メカニズム
第12章 骨盤の方向性および体重負荷をコントロールする筋群の機能障害
第5部 腰痛の治療と予防
第13章 「分節安定性」エクササイズモデルの原理
第14章 局所的な分節コントロール
第15章 閉運動鎖分節コントロール
第16章 開運動鎖分節コントロールと機能への展開
参考文献
索引
第1章 飛躍のとき
第2部 関節保護メカニズム
PART1 はじめに
第2章 腰椎骨盤の安定性:バイオメカニクスとモーターコントロールの機能的モデル
PART2 脊椎分節の関節保護
第3章 腹部メカニズムと腰椎・骨盤の支持
第4章 傍脊柱メカニズムと腰椎の支持
PART3 抗重力筋支持システム
第5章 荷重伝達のための腰椎骨盤領域の剛性
第6章 体重支持筋と非体重支持筋の役割
第3部 関節保護メカニズムの障害:概念
第7章 損傷─免荷モデル
第8章 関節損傷
第9章 疼痛モデル
第4部 腰痛における関節保護メカニズムの障害
第10章 腰痛の腹部メカニズム
第11章 腰痛の傍脊柱メカニズム
第12章 骨盤の方向性および体重負荷をコントロールする筋群の機能障害
第5部 腰痛の治療と予防
第13章 「分節安定性」エクササイズモデルの原理
第14章 局所的な分節コントロール
第15章 閉運動鎖分節コントロール
第16章 開運動鎖分節コントロールと機能への展開
参考文献
索引
書評
開く
図表を含め,文献を丁寧に引用 腰痛治療に役立つ一冊
書評者: 大西 秀明 (新潟医療福祉大教授・理学療法学)
われわれ理学療法士は,臨床現場において腰痛症の治療に携わることが非常に多い。その際,明確な診断名がついている場合もあるが,そうでないことも多々経験する。また,明確な診断がついている場合でも,その痛みを軽減・改善させることは容易ではない。ここ数年,腰痛症患者に対する多裂筋や腹横筋などの深部筋トレーニングの重要性が数多く報告されている。しかし,その効果や機序に関するエビデンスがどのくらいあるのか,常々疑問に感じていた。本書は,多裂筋や腹横筋などの深部筋トレーニングの重要性について非常に多くの文献を引用し,可能な限りのエビデンスを記載している。また,超音波画像装置等を利用した著者自身の研究成果も盛り込まれており,非常に優れた本であると感じる。原著は2004年に出版されており,2003年までの文献が引用されている。可能な限り最新の情報を掲載しているところもうれしいところである。
本書は,Richardson C, Hodges P, Hides J著『Therapeutic Exercise for Lumbopelvic Stabilization: A motor control approach for the treatment and prevention of the low back pain, 2nd edition』の訳本であり,5部・16章から構成されている。第1部は序論である。第2部(2-6章)は「関節保護メカニズム」についてであり,腰椎・骨盤の安定性や支持機構,腰椎・骨盤帯のバイオメカニクス,腰・腹部周囲のモーターコントロールについてまとめられている。第3部(7-9章)では,「関節保護メカニズムの障害の概念」について,損傷や疼痛のモデルについてまとめられている。第4部(10-12章)では,「関節保護メカニズムの障害」について,腰痛の腹部メカニズムや傍脊柱メカニズム,体重支持筋群の機能障害についてまとめられている。第5部(13-16章)は,「腰痛の治療と予防」について,分節安定性のメカニズムや局所的な分節コントロール,閉運動連鎖分節コントロールについて記載されている。
タイトルに示されているように,本書はモーターコントロールの観点から深部筋を中心とした腰椎・骨盤支持機構の安定性を改善しようとするものである。経験だけに基づいた特殊な手技ではなく,すべての章において図表も含めて丁寧に文献が引用されているため大変有用である。腰痛症の治療にあたり,一読されることをお勧めしたい一冊である。
手垢がつくまで読み込んできた本 フルモデルチェンジ
書評者: 百瀬 公人 (信州大教授・理学療法学)
本書の初版である“Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain”邦題『脊椎の分節的安定性のための運動療法―腰痛治療の科学的基礎と臨床』は,この数年,私の研究グループで手垢がつくまで読み込んできた本である。しかし,手垢がつくまで読み込んだとはいえ,広範な文献に裏付けされたその内容を,まだ完全に理解したわけではなかった。そんな状況で,第2版というべき本書が発行され,うれしいやら悲しいやらそんな心持ちである。訳者の言に,フルモデルチェンジをした第2版,あるいはまったく別の書籍としてとらえたほうがよいとある。まったくもって同感で,夏休みの宿題が終わっていないのに,冬休みの宿題を背負わされたような心境に陥っている。
学生時代に,解剖の先生が「解剖学はこの先ずっと変わらないから,良い本を一冊購入すると一生使えるよ」とおっしゃっていた。本書を初版と比べるとまさにその通りで,解剖学の記載は変化していないが,それ以外の分野では目覚ましい研究と臨床の発展の跡がしのばれる。理学療法士にとって非常に大切な基礎学問としての運動学においても,本書の内容は,筋電図学的および超音波診断装置を用いた研究の成果を用いてその進歩を明示している。特に,超音波診断装置を評価に用い始めた功績は非常に大きい。侵襲を加えることなく深部の筋の活動を目の当たりにできる。触診の技術によって想像していた世界がまさに眼前に現れるようで,驚きと感動を受けた理学療法士は多いのではないか。筋電図学的研究と合わせて,運動学の研究分野にもたらした功績は非常に大きなものがある。
本書の特筆すべき点は,この基礎的研究に裏打ちされた動作の解析だけではなく,同様に臨床研究に裏打ちされた臨床治療の指針を明らかにしている点である。ここでもまた,筋電図や超音波診断装置が活躍している。患者が動作を学習する過程において,解剖学,生理学,運動学の知識がない状態で目的とすることを十分に理解して再現してもらうことに苦労した理学療法士は多いのではないか。患者へのフィードバックとして,今までは筋電フィードバックが主であったが,本書に記載されているような超音波診断装置によるフィードバックも臨床に多く導入される日が近いのではないか。
最後に,本書の素晴らしい点をもう一つ紹介したい。疼痛モデルの章の中に「疼痛が先か? モーターコントロールの変化が先か?」という項目がある。治療においても「鶏が先か卵が先か?」といった命題に当たることはよくある。ここでも,筆者らは研究成果を基に考察を述べているが,同時に「この仮説は検証される必要がある」との一文もある。現段階での可能性と限界を十分客観的に捉え,自分たちのいる位置がわかっているさまは,今後の研究の発展をもたらし,また新たなる改訂版が出ることを示唆しているようである。もっとも,私はそうなる前に夏休みの宿題と冬休みの宿題を終わらせねばならないが…。
書評者: 大西 秀明 (新潟医療福祉大教授・理学療法学)
われわれ理学療法士は,臨床現場において腰痛症の治療に携わることが非常に多い。その際,明確な診断名がついている場合もあるが,そうでないことも多々経験する。また,明確な診断がついている場合でも,その痛みを軽減・改善させることは容易ではない。ここ数年,腰痛症患者に対する多裂筋や腹横筋などの深部筋トレーニングの重要性が数多く報告されている。しかし,その効果や機序に関するエビデンスがどのくらいあるのか,常々疑問に感じていた。本書は,多裂筋や腹横筋などの深部筋トレーニングの重要性について非常に多くの文献を引用し,可能な限りのエビデンスを記載している。また,超音波画像装置等を利用した著者自身の研究成果も盛り込まれており,非常に優れた本であると感じる。原著は2004年に出版されており,2003年までの文献が引用されている。可能な限り最新の情報を掲載しているところもうれしいところである。
本書は,Richardson C, Hodges P, Hides J著『Therapeutic Exercise for Lumbopelvic Stabilization: A motor control approach for the treatment and prevention of the low back pain, 2nd edition』の訳本であり,5部・16章から構成されている。第1部は序論である。第2部(2-6章)は「関節保護メカニズム」についてであり,腰椎・骨盤の安定性や支持機構,腰椎・骨盤帯のバイオメカニクス,腰・腹部周囲のモーターコントロールについてまとめられている。第3部(7-9章)では,「関節保護メカニズムの障害の概念」について,損傷や疼痛のモデルについてまとめられている。第4部(10-12章)では,「関節保護メカニズムの障害」について,腰痛の腹部メカニズムや傍脊柱メカニズム,体重支持筋群の機能障害についてまとめられている。第5部(13-16章)は,「腰痛の治療と予防」について,分節安定性のメカニズムや局所的な分節コントロール,閉運動連鎖分節コントロールについて記載されている。
タイトルに示されているように,本書はモーターコントロールの観点から深部筋を中心とした腰椎・骨盤支持機構の安定性を改善しようとするものである。経験だけに基づいた特殊な手技ではなく,すべての章において図表も含めて丁寧に文献が引用されているため大変有用である。腰痛症の治療にあたり,一読されることをお勧めしたい一冊である。
手垢がつくまで読み込んできた本 フルモデルチェンジ
書評者: 百瀬 公人 (信州大教授・理学療法学)
本書の初版である“Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain”邦題『脊椎の分節的安定性のための運動療法―腰痛治療の科学的基礎と臨床』は,この数年,私の研究グループで手垢がつくまで読み込んできた本である。しかし,手垢がつくまで読み込んだとはいえ,広範な文献に裏付けされたその内容を,まだ完全に理解したわけではなかった。そんな状況で,第2版というべき本書が発行され,うれしいやら悲しいやらそんな心持ちである。訳者の言に,フルモデルチェンジをした第2版,あるいはまったく別の書籍としてとらえたほうがよいとある。まったくもって同感で,夏休みの宿題が終わっていないのに,冬休みの宿題を背負わされたような心境に陥っている。
学生時代に,解剖の先生が「解剖学はこの先ずっと変わらないから,良い本を一冊購入すると一生使えるよ」とおっしゃっていた。本書を初版と比べるとまさにその通りで,解剖学の記載は変化していないが,それ以外の分野では目覚ましい研究と臨床の発展の跡がしのばれる。理学療法士にとって非常に大切な基礎学問としての運動学においても,本書の内容は,筋電図学的および超音波診断装置を用いた研究の成果を用いてその進歩を明示している。特に,超音波診断装置を評価に用い始めた功績は非常に大きい。侵襲を加えることなく深部の筋の活動を目の当たりにできる。触診の技術によって想像していた世界がまさに眼前に現れるようで,驚きと感動を受けた理学療法士は多いのではないか。筋電図学的研究と合わせて,運動学の研究分野にもたらした功績は非常に大きなものがある。
本書の特筆すべき点は,この基礎的研究に裏打ちされた動作の解析だけではなく,同様に臨床研究に裏打ちされた臨床治療の指針を明らかにしている点である。ここでもまた,筋電図や超音波診断装置が活躍している。患者が動作を学習する過程において,解剖学,生理学,運動学の知識がない状態で目的とすることを十分に理解して再現してもらうことに苦労した理学療法士は多いのではないか。患者へのフィードバックとして,今までは筋電フィードバックが主であったが,本書に記載されているような超音波診断装置によるフィードバックも臨床に多く導入される日が近いのではないか。
最後に,本書の素晴らしい点をもう一つ紹介したい。疼痛モデルの章の中に「疼痛が先か? モーターコントロールの変化が先か?」という項目がある。治療においても「鶏が先か卵が先か?」といった命題に当たることはよくある。ここでも,筆者らは研究成果を基に考察を述べているが,同時に「この仮説は検証される必要がある」との一文もある。現段階での可能性と限界を十分客観的に捉え,自分たちのいる位置がわかっているさまは,今後の研究の発展をもたらし,また新たなる改訂版が出ることを示唆しているようである。もっとも,私はそうなる前に夏休みの宿題と冬休みの宿題を終わらせねばならないが…。
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