左アプローチによるTRI

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心カテーテル術で全国有数の症例数を誇る仙台厚生病院のインターベンショニストたちが積み上げた“左アプローチTRIのコツ”を1冊に凝縮。手技時間の短縮,患者への低侵襲といった左アプローチのメリットのみならず,その欠点の克服法についても数々の提案を行なっている。右アプローチで苦手意識を持ってしまった人も,またすでに右アプローチに習熟した人も,「TRIは左から」。
編集 目黒 泰一郎
発行 2006年08月判型:B5頁:120
ISBN 978-4-260-00292-9
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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  • 目次
  • 書評

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1. なぜ左アプローチか
2. 左アプローチに必要なシステムとデバイス
3. 冠動脈造影のコツ
4. 穿刺法と止血法
5. 左アプローチによるPCIの適応
6. ガイディングカテーテルの選択と操作のコツ
7. シースレスガイディングカテーテル
8. DCA
9. ロータブレーター
10. 複雑病変に対するPCI
11. 急性心筋梗塞
12. 経尺骨動脈法
13. 合併症とその対策
14. 放射線被曝とその対策
15. トラブルシューティング
索引

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TRIのメリットを活かし、デメリットを除く方法を提示
書評者: 光藤 和明 (倉敷中央病院副院長・循環器内科)
 右上肢からCAG(Coronary Angiography;冠動脈血管造影)あるいはPCI(Percutaneous Coronary Intervention;経皮的冠動脈形成術)を行ったことのある術者は,右上肢からの冠動脈造影ではカテーテルのエンゲージの困難な例を少なからず経験しているはずである。腕頭動脈が蛇行しカテーテルが上行大動脈に折り返すように進んでいくときなどはその極みである。それらは左上肢からのアプローチが解決してくれることも,また多くの術者が感じていると思われる。なぜなら,大腿からのアプローチと左上肢からのアプローチは,大動脈弓を超えた後の走行が類似しているからである。さらに橈骨動脈アプローチでは,上腕動脈アプローチに比較して穿刺点は術者からそれほど遠いわけではなく,比較的左大腿動脈アプローチに近くすることが可能である。にもかかわらず,多くの術者は右橈骨動脈アプローチを好んで用いている。理由はいくつかあるであろう。(1)慣れていないのでコツがあるとしてもそれがわからない,(2)不測の不都合が起こり得ることが心配である,(3)いくつかの予測し得るデメリットが考えられる,(4)現状で満足して“食わず嫌い”になっている――などである。

 PCIの術者は他者が行っている方法を取り入れるべきかどうかを考慮するとき,しばしば自らが長年行ってきた方法を擁護するような論理を展開して,新しい方法を排除しようとする。時としてその手技の理念にかかわることなので,新しい方法がそれまでの自分の行ってきた方法の価値をおとしめることになってしまうのが大きな理由であるように思われる。しかし実際に新しい方法を取り入れてみるとそのメリットが初めて理解できるし,新たな展開の手段にも考え至ることが多いのである。また取り入れてみないとそのよさが永遠に理解できない部分がある。

 本書は左橈骨動脈アプローチのメリットとデメリットとを論理的に明らかにして,メリットを活かす方法とデメリットをキャンセルする方法とを具体的に示している。そしてそれらは独自の工夫に満ちたものである。著者らの施設における左橈骨動脈アプローチのシステムは一朝一夕ででき上がったものではなく,現在の完成された形に成長するために多くの努力が傾注されたものである。論理的背景と手技の実際の記述はその手技を知らない術者にもそのメリットがきわめてよく理解でき,左橈骨動脈アプローチを取り入れることを躊躇させないであろう。

 また本書は,左橈骨動脈アプローチをすでに行っている術者にとってもその質を高めるための具体的な方法が数多く記述されているし,橈骨動脈アプローチ一般に関して有益な情報もあわせて記載されている。さらに本書は,実際に日々左橈骨動脈アプローチを数多く行っている比較的若い術者が執筆しており,現場からの生の情報という新鮮さがあると同時に,マスターといわれる目黒泰一郎先生のような人でなくても質の高いTRI(Trans-Radial Coronary Intervention;経橈骨動脈冠動脈形成術)ができるという勇気を与えてくれるものである。多くのカテ室で座右の書物となる価値がある。

左アプローチの利点から術中・術後の要所を詳細に記載
書評者: 延吉 正清 (小倉記念病院長)
 冠動脈インターベンションを世界で最初に行ったのは,Gruentzigである。彼は1977年にスイスのチューリッヒで右股動脈穿刺に細いカテーテルを用い,前下行枝の高度狭窄の拡張に成功した。そしてこの手技を,Percutaneous Transluminal Coronary AngioplastyすなわちPTCAと命名した。

 その後,ステントやロータブレーター,DCAなどの出現によりPTCAをPCI(Percutaneous Coronary Intervention)と呼ぶようになった。歴史的には股動脈穿刺の後,Stertzerらにより右前腕穿刺で行うPTCAも普及した。

 1992年8月14日 アムステルダムのKiemeneij(kimney)によって,初めて経橈骨動脈冠動脈インターベンションが行われた。当時,Campeauにより経橈骨動脈冠動脈造影(TRA)が紹介され,さらに1990年代初めにステント植え込みは十分な後拡張なしで行われていたため,ステント血栓症を防ぐ強力な抗凝固療法が必要であった。そこで,出血の合併症を減少させるために,工夫されたのがTRIなのである。

 わが国においても,齋藤滋先生が右経橈骨動脈よりのTRIを普及させておられるが,左アプローチによるTRIは目黒泰一郎先生によって初めて行われたのである。当時左からのアプローチは一般的ではなかったが,目黒先生を中心とするグループがカテーテルシース,圧迫帯などを研究し,現在ではradial approachは左経橈骨動脈からになってきている。

 目黒先生編集の『左アプローチによるTRI』には,何千例と行われた症例の結果が平易にまとめられている。

 まずは,なぜ左アプローチなのかに始まり,左アプローチに必要なデバイス,穿刺法,ガイディングカテーテルの選択や操作のコツ,ご自分たちで開発されたシースレスガイディングカテーテルの用い方,DCAやロータブレーターの場合の使用方法とコツ,複雑病変に対するPCIや急性心筋梗塞に対する左アプローチの考察,合併症とその対策など,手技のすべてについて非常に詳細に,しかも初心者が気をつけなければならない点をも含めて書かれている。例えば,左経橈骨動脈のTRIでは,カテーテル操作時に右手が遠くなるが,特別なアームレストを使用されており,術者と左経橈骨穿刺部位が離れない工夫をされておられる。このような目黒グループの独特な工夫は,他の追随を許さない一流の仕事であると考える。

 PCIを行う初心者の方にはぜひともお薦めしたい1冊である。

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