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外科基本手技とエビデンスからときほぐす
レジデントのためのヘルニア手術

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手洗い・術野の消毒に始まり、立ち位置、メスや鉗子などの手術器具の扱い方、糸の選択や結紮法、正しい膜構造の理解、そしてヘルニアの詳細な手術手技……。鼠径ヘルニアに対する代表的手術であるLichtenstein法を通して、外科の基本中の基本の知識や手技を、多数の大判イラストと読みやすい文章で解説。すらすら読めてきっちり身につく、わかりやすくて面白い外科基本手技の指南書かつ精緻なヘルニアの手術書です!
三毛 牧夫
発行 2020年10月判型:A4頁:172
ISBN 978-4-260-04316-8
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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(三毛牧夫)/はじめに




 本書は,鼠径ヘルニアに対する前方からの手術手技(前方アプローチ)の1つであるLichtenstein手術を借りて,手術手技における基本事項を伝えるためのものである。
 私は,2014年にヘルニアの総論的著書として『正しい膜構造の理解からとらえなおす ヘルニア手術のエッセンス』(医学書院)を上梓した。そこで,鼠径ヘルニアの概念とその手術方法の概略を十分に記載できた。しかし,臨床の場で伝えなくてはならない多くのことがまだ残されていると感じた。そこで,超実践的な著書とは何かと考えたときに,手術における一挙手一投足を理論的に説明し尽くすことと考えた。すぐ読め,すぐ取り入れられはするが,すぐにできるとは限らない手技も含まれる。外科医の手技の基礎の基礎である。
 そして,本書で鼠径ヘルニアについてあらためて取り組む過程で,まだまだ鼠径部解剖の全容が解明されていないことを感じ,その解決の糸口を1995年のCondonの著書に求めた。これによって,鼠径部解剖はほとんどすべてが,筋膜構成により理解できることになった。愉しんでいただきたい。
 さらに,女性の鼠径ヘルニアに関する論文,書籍がほとんどないこと,ましてや手術手技についての記載がほとんどないことをあらためて感じた。そこで,本書に,女性の鼠径ヘルニアの前方アプローチを盛り込んだ。参考文献のない世界であったが,McVay の解剖学書がその道案内となってくれた。
 こんなことを考えながら本書を出版したいとの意向を医学書院 医学書籍編集部の飯村祐二さんに伝えたところ,出版できる運びとなった。ひとえに飯村さんのおかげである。
 いつも私のつたない鉛筆画をわかりやすいイラストに変えてくれる青木出版工房の青木 勉さんには頭が上がらない。もともと兄 巧の親友であったが,今ではその兄も天国である。だから,青木さんには兄の分も健康で長生きしていただきたい。
 最後に,仕事をしながら私を応援してくれている妻 千津子にも感謝の言葉を贈る。

 2020年9月 初秋の阿武隈山地の峯を望みながら
 総合南東北病院 総合医療センター
 三毛牧夫


はじめに

 本書は,鼠径ヘルニア手術を借りて,手術手技における基本事項を伝えるための著書である。
 外科研修1年目,2年目と,目まぐるしい日々に研修中の外科専攻医は,やっとヘルニアの手術をできる自分を感じているかもしれない。「(手術が)できる」ことで自信につながり,「できる」ということだけで喜びを感じる。私自身もそうであった。「できる」ことの背後にあるものを知ろうとしだしたのは,いつからであろう。すでに「できる」のであっても,教育者として専攻医に対して説明ができるであろうか。説明は,「わかる」から始めないとできない。自らが立つ「できる」だけの位置から前進しないかぎり教育・指導はできない。さらに,手術手技の一挙手一投足の基本は恣意的であってはいけないと考えるようになった。そして,現実に即して,実践的でなければならないと考えた。
 外科医になりたいと考えた者であれば,手術がうまくなりたいと考えるのは当然である。そして,指導者の指導の下で手術を完遂できたときの喜びは格別である。しかし,その手術を本当に自分ひとりで完遂したのか,指導医にほとんど奪われながら遂行したのかでは全く意味が違う。自分ひとりの力でできない手術の術者となってはいけない。「きず」として終生残る。また,そうしたことを指導者も支持してはいけない。このためには,指導者が言葉でもって適切な指導を行わなければならない。術者としての専攻医は指導者の言葉に反応できなければならないし,それがCooper剪刀の先に伝わらなければならない。術者と助手の役割は,言葉,すなわち発生学,解剖学,生理学の知識なくしては成り立たない。
 専攻医の先生たちが楽しく鼠径ヘルニアを学ぶことができ,手術器機をうまく操作できるようになることを祈念する。
 それでは,基本中の基本の授業を始めましょう。

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はじめに

男性鼠径ヘルニア手術
 1 術野をつくる
 2 皮膚切開を行う
 3 外腹斜筋腱膜に到達する
 4 外腹斜筋腱膜を切開する
 5 精索をテーピングする
 6 鼠径床を点検する
 7 精索に対する手技
 8 ヘルニア囊を処理する
 9 滑脱ヘルニアの対処方法
 10 嵌頓ヘルニアの対処方法
 11 メッシュを敷く範囲を剝離する
 12 メッシュによる鼠径床補強
 13 閉創
 14 大腿ヘルニアの修復術
 15 術直後
 16 術後外来

附:女性鼠径ヘルニア手術
 1 女性鼠径ヘルニアの現状
 2 女性鼠径ヘルニアの解剖
 3 女性鼠径ヘルニアの手術

おわりに
人物解説
参考文献
索引

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外科全般の基礎を学ぶことのできる貴重な指南書
書評者:三澤 健之(日本ヘルニア学会理事/帝京大教授・外科学)

 本書は『正しい膜構造の理解からとらえなおす ヘルニア手術のエッセンス』(医学書院,2014)に続く,著者のヘルニアに関するテキストブックの第二弾である。といっても,本書は著者自身が述べているように,前著で得たヘルニアに関する知識を基に,明日,明後日に予定された手術を成功させるための実践的解説書である(著者は「超実践的」と表現している)。

 男性鼠径ヘルニア16章,女性鼠径ヘルニア3章,計19章からなる本書には,手洗い,術野の消毒,ドレーピング,術者の立ち位置,皮膚切開の考え方,手術器具の持ち方・使い方,手術糸の選択,などの基本的事項から,ヘルニア手術のための膜構造や実際の手術手技まで豊富な内容が含まれている。また,著者からのコメント(著者の似顔絵に吹き出しで記載されている)として,一般的な教科書には書かれていない,ちょっとした工夫や注意点がふんだんに盛り込まれている。外科専攻医を対象とした本書ではあるが,われわれ指導医にとっても,たくさんの「気付き」や「その通り!」があり,読み進みながら,ついつい大きくうなずいたり,相づちを打ったりしてしまった。前著同様,簡潔明瞭,ふんだんに盛り込まれたシェーマは大変わかりやすい。これだけ盛りだくさんでありながら,全172ページとコンパクトにまとめられているため,あっという間に,そして何より楽しく読み終えることができた。余談だが,第1章の「術野をつくる」では,剪刀(鋏)やメスの持ち方が丁寧に解説されている。その昔,私が研修医のころ,バイト病院に外科医仲間から鋏使いの名手とうたわれる大先輩がいた。技を盗むべく,いつも筋鈎を引きながら目を丸くして見入っていた私は,ある日,ふとその先生のCooper剪刀の持ち方の特徴に気付いた。本書にも記載されている通り,通常,剪刀の指環には第1指と第4指を通すが,先輩外科医は第4指の代わりに第3指を使っていたのだ。つまり一般人が家庭用ハサミを使うのと同じ。これこそ名人の秘訣に違いない,と思って,恐る恐る尋ねてみると,師曰く「え,そうなの? 知らなかったよ」の一言。そんな出来事を思い出した。

 ところで,本書ではLichtenstein法を前提とした解説が記されている。2018年に発表された国際ガイドラインでは,前方アプローチによるメッシュ法として,唯一Lichtenstein法を推奨している。このことを考えても,本書はより実用的かつスタンダードな解説書であるといえよう。

 また,最後に女性の鼠径部ヘルニアに関しての解説が附記されている。精索が無い分,手術手技が容易であると誤解され,結果的にその外科解剖に対する理解が遅れてしまった感がある。本書を精読することにより,あらためて女性のヘルニアに関しては解決すべき問題が多いことを認識した。

 ヘルニア手術には他のさまざまな手術のエッセンスが凝縮されており,一般外科手術の基本であることに言をまたない。したがって,ヘルニアに特化した解説書である本書は,実は外科全般の基礎を学ぶことのできる貴重な指南書でもある。ぜひ,この良書を多くの若手外科医に薦めたい。また,教鞭をとる身として,著者にお許しをいただき,医学生の外科総論の講義で教材として紹介し,一人でも多くの学生に外科学の魅力を伝えたいと考えている。


鼠径ヘルニアを題材に,外科の基本を丁寧に解説
書評者:今村 清隆(手稲渓仁会病院外科)

 2014年4月に前任の外科初期研修担当の指導医から引き継ぐにあたり,当時の外科部長と2人で全国にあるいくつかの有名研修病院の外科研修システムの見学に出かけた。同年1月に亀田総合病院を訪問した際にシミュレーションセンターを見学した。そこに,『Chassin’s Operative Strategy in General Surgery, 4th edition』(Springer,2014)がさりげなく置いてあった。当時Surgeryと名がつく教科書を買い漁っていた自分以外に,“誰かがこの本を読んでいる”ことに驚いた。この本には無影灯の正しい使用法や,手術をする際の姿勢の重要性についてなど手術の基本についての細かい説明があったからだ。本書『外科基本手技とエビデンスからときほぐす レジデントのためのヘルニア手術』著者の三毛牧夫先生が当時,亀田総合病院の外科部長をされていたことを思い出し,本書でも個々の手術手技だけでなくもっと基本的なところから書かれている点が似ていると感じた。

 将来,後輩に外科を教える人は,必ず外科基本手技については一通り勉強してほしい。また,現在に至るまでの外科の歴史についても関心を持ち,後輩に自分の好み(Preference)だけではなく外科の原則(Principle)を教えるようにする必要がある。もちろんそれだけでは不十分で,本田宗一郎が「過去を大事にして,そればっかりにつかまっている人が職人だ。同じ過去でも,それに新しい理論を積み重ねて,日々前進する人が技術屋だ」と話していたように1),われわれも外科医として明日に向けて研鑽を重ねる必要がある。

 本書では鼠径ヘルニアを題材に外科手技の基本から,外科医の姿勢,歴史,そして最近の知見まで余すことなく説明している。初学者に難解とされる鼠径部の解剖についても,他の本からの引用ではなく,著者自らが描いた鉛筆画を基にした多くのカラーイラストを用いて説明している。腹腔鏡手術の流行により,鼠径部切開法についてここまで詳しく教わったことがないという指導医が増えている。女性鼠径ヘルニアについての詳細な記載もある。時間的制約のある手術中には,ここまで丁寧に教えられない。よって,学習者はゆっくりと本書を読みながら外科の基本と鼠径ヘルニアの解剖,そして2018年1月に発刊された鼠径部ヘルニアの国際ガイドライン2)で標準とされたリヒテンシュタイン法について知ってほしい。

 本書の1つの特徴として,本文の間に三毛先生ご自身の似顔絵のついたコラムが数えたら90か所以上あった。読んだら誰かに自慢したくなるようなヘルニアや外科に関するうんちくが山ほど詰まっている。これだけ順番に読んでいても楽しい。

 手術の成功のためには,探究心と,これまでの文献と病態生理に基づく明晰な思考力と,技術力を要する。ヘルニアだけでなく外科の基本について学ぶための,そしてレジデントだけでなく指導医にも,とってもお薦めの一冊だ。

●参考文献
1)岩倉信弥.1分間本田宗一郎――常識を打ち破る人生哲学77.SBクリエイティブ;2013.
2)Hernia. 2018[PMID:29330835]

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