臨床研究の教科書 第2版
研究デザインとデータ処理のポイント

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な~るほど、そういうことか! トップジャーナル(NEJM、Lancet、JAMA、BMJ)への論文掲載実績をもつ著者による「臨床研究の考え方とコツ」を満載。研究デザイン、データ解析方法、論文の書き方等、初学者でもポイントがわかる。第2版では「レジストリの作り方」「データの電子入力(EDC)」を追加し、研究倫理についても大幅に更新。京大の臨床研究者養成コースのハイライト授業を再現!
川村 孝
発行 2020年05月判型:B5頁:286
ISBN 978-4-260-04237-6
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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第2版の序

 『臨床研究の教科書』を上梓して4年が経過した.この間に,健康・医療戦略法や臨床研究法があらたに制定され,ビッグ・データが国策で整備されるなど,研究の法的環境に大きな変化が生じた.また,方法論の面でも,観察研究で治療の有効性を評価するための傾向スコアや手段変数が普通に利用されるようになり,コホートを効率よく用いるケース・コホート研究や世界の知見をもっと大きく束ねるネットワーク・メタアナリシスが普及するなど,研究も進化している.
 本改訂版では,上記の諸点について補強するとともに,初版の記述全体を見直した.それでも「臨床や公衆衛生の現場からエビデンスを発信してもらうために」という目的や,「ちょっと難しいことをわかりやすく」という記述方針に変わりはない.本書が文字通り「教科書」となって,諸兄の研究のお役に立てることを願っている.私事で恐縮だが,2020年3月に勤務する京都大学を退職した.長年にわたるマネジメントのくびきから逃れ,これからはフリーランスの立場で臨床研究を支援していきたい.
 本書には,私の授業を受講する大学院生(研究者の卵でもある)から研究を遂行する上でぶち当たっているいくつかの課題について解説や解決策を求められ,あれこれ思索をめぐらしたことが随所に反映されている.受講生らに謝意を表したい.

 2020年5月吉日
 京都大学名誉教授 川村 孝

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 序章
  1.なぜ臨床研究が必要か
  2.足らないエビデンスは自分でつくる
  3.プライマリ・ケアの現場でもエビデンスはつくれる
  4.臨床研究の分類
  5.疫学・統計学のセンスを持つ

第1部 研究の立案
 1章 研究の構想
  1.診療上の疑問の定式化
  2.先行研究の成果の確認
 2章 研究のデザイン
  1.疫学とは何か
  2.実態を要約する記述疫学研究
  3.予後を調べるコホート研究
  4.原因を遡及する症例対照研究
  5.治療・予防の有効性を検証する介入研究
  6.診断性能を検証する診断研究
  7.研究の趨勢を知る系統的レビュー(メタアナリシスを含む)
  8.医療の効率を評価する費用効果分析
  9.ビッグ・データから知見を見出すデータ・マイニング
  10.探査と精査のための叙述研究
 3章 倫理的配慮
  1.倫理規範
  2.『人を対象とした医学系研究に関する倫理指針』の主な規制点
 4章 研究体制の整備
  1.研究の公正な運営に必要な組織
  2.科学研究費などの申請に必要な組織
 5章 研究計画書の作成
  1.研究計画書の内容
  2.現場マニュアル
  3.対象者への説明文書および同意書
  4.パイロット研究

第2部 研究の運営
 6章 研究の運営
  1.事前の準備
  2.研究の開始と維持
  3.データの収集
  4.対象者の登録・追跡の終了
 7章 研究費の確保と経理
  1.研究費の種類
  2.研究費の経理

第3部 データの整理と解析
 8章 データベースの構築
  1.データベースの構築
  2.バイアスと交絡
 9章 統計解析
  1.統計解析の考え方
  2.基本的な統計技法
  3.生存曲線
  4.交絡を調整する多変量解析
  5.個人の転帰を占う―臨床予測モデル
  6.基準値の作成
  7.観察研究で行う疑似的ランダム化試験
  8.サンプル・サイズの算定
  9.不確実さへの対応

第4部 研究成果の公表と活用
 10章 論文の執筆
  1.成果公表の義務
  2.論文の構成
  3.執筆の手順
  4.作文のポイント
  5.日常のトレーニング
  6.投稿と査読対応
  7.臨床現場への還元

第5部 研究の実例とトレーニング
 11章 臨床研究の実例
  1.手作り感覚の多施設共同RCT─感冒に対するNSAIDの有効性
  2.少数でも検出力の高いクロスオーバー・デザインのRCT─肩こりに対する
      鍼治療の有効性
  3.目の前の患者の真実を予測する臨床予測モデル─肺炎における起炎菌の
      薬剤耐性の予測
  4.経年変化を見る症例対照研究─心電図ST-T異常完成までの血圧の推移
  5.着想次第で面白い結果が出る記述疫学研究─働き盛りの突然死の実態
  6.労力と経費を節約するケース・コホート研究―一般住民における
      アディポネクチンと死亡との関係
 12章 京都大学における臨床研究者の養成

文献

索引

Advanced Knowledge
 1 指針は法律より強い?
 2 “ない”ことの証明は難しい
 3 用量反応関係は過小評価される:誤分類と回帰希釈の問題
 4 介入と転帰の繰り返し:急性期医療評価の難しさ
 5 RCTのP値は十分に小さくならない:サンプル・サイズ算定の影響

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初心者を即戦力にするのに必要な「疫学・統計学的センス」が短期間に身につく
書評者: 曽根 博仁 (新潟大大学院教授・血液・内分泌・代謝内科)
 そのものずばりの書名とおりの本である。多くの類書に目を通すが,その中でも本書は,臨床研究をやりたいと教室の門戸を叩いてくれた若い皆さん(臨床医,メディカルスタッフ,非医療系大学新卒生などさまざま)に薦める最初の数冊のうちの一冊となっている。

 当教室にはすでに,多くのタイプやサイズの大規模臨床データベースが存在し,著者の川村孝先生も本書内で同様のことを述べられているように,「世界の臨床現場に役立つエビデンスを自ら創る」という方針の下に,院生は修士・博士にかかわらず,すぐに研究最前線に投入され,先輩院生やスタッフと同じように独立したテーマで,先行研究調査→解析計画立案→データ解析→学会発表→論文作成に取りかかることが求められる。しかし,多くの臨床教室と同様,指導に当たる先輩院生やスタッフも,基礎から手取り足取り教えている時間的余裕は少ない。そのような状況で,初心者を即戦力にする(少なくともわれわれとある程度ディスカッションできるようにする)のに必要な,(川村先生も本書内でおっしゃる)「疫学・統計学的センス」を短期間に身に付けてもらうのに最適の書である。

 改版を機に,愛読していた旧版と並べて再読してみたが,初学者のみならず,長年臨床研究に携わっている者にとっても,知識のブラッシュアップとアップデートに極めて有用とあらためて感じた。新版では,臨床研究現場ではすっかりお馴染みになった「傾向(propensity)スコア」や,「メンデルのランダム化(Mendelian randomization)を含む手段変数法」「ネットワークメタアナリシス」などの記載が強化され,直観的にわかるように要領よく解説されている。全体的に,説明が簡略過ぎず詳し過ぎず,適度なのが心地よい。若い人たちに毎年繰り返し言っているポイントが,私などが言うよりはるかにうまい,絶妙な言い回しで解説されている。したがって,「まずこれを読んどいて」と安心して言えるという点で,大変助かっている本でもある。

 臨床研究,特に臨床疫学,臨床データ解析をやろうとする研究者が必要とする重要概念がカバーされており,さらに,研究を計画すると頻繁に遭遇するさまざまな事象に対して,妥当かつ適切な対処法が簡略に示してある点は,著者の長年の臨床研究教育研究者,コンサルタントとしての学識と経験の深さを伝えて余りある。そういうわけで,本書は,今後ともお薦めの書であり続けるだろう。
「やさしく,丁寧に,読みやすく」が貫かれた教科書
書評者: 福岡 敏雄 (倉敷中央病院副院長)
 この『臨床研究の教科書』は,臨床研究にかかわるどんな人にも必ず役立つところがある,どんな人にも読む価値がある,そんな不思議な本である。

 臨床研究の流れが,しっかり丁寧に順を追って網羅的に書かれている。「統計解析」に飛びつきがちな初心者は第1部で研究の計画の大切さを,さまざまなデータで統計解析を行ってきた中級者は第3部で統計解析の実践的な意義付けを,研究を計画し実行したことがある実践者は第2部でもっと上手に研究チームを動かすスキルを,これから臨床研究論文を書こうとしている執筆者には第4部でその注意点と秘訣を,それぞれ学ぶことができる。

 第5部では,リサーチクエスチョンから,研究の運営,その結果と反省点,そして発表まで,実際の研究を題材に細かく赤裸々に書かれている。現場で気付いた疑問から研究につなげ出版に至る流れが記されている。ランダム化比較試験だけではなく,臨床予測モデルや記述研究などもあるし,研究が予定通りにいかなかったときの「転んでもただでは起きない」事例もある。

 この本を貫いているのは,丁寧さと読みやすさである。基本概念を誤解なく伝える言い回しや事例も豊富に紹介されている。例えば,観察研究で行う擬似ランダム化試験として傾向スコアを用いた解析法が,不確実さの対応としての感度分析が紹介されている。それぞれIgA腎症やウシ海綿状脳症などの事例を用いて説明されている。経験ある人は丁寧さを冗長さと取るかもしれない。だが教える立場になったらその価値に気付くだろう。本書では統計解析や疫学用語にほぼ全て日本語と英語が併記されている。初心者向けの配慮でもあるだろうが,英語に慣れてしまった上級者が,正しい用語で説明する時に大いに助けられるはずだ。

 本当の初心者から上級者・専門家まで幅広く,やさしく丁寧に根気強く,そして細かな用語に至るまで正しく指導する,そんな著者の姿勢を感じた。脚注の的を射たコンパクトな説明も理解を助ける。また第2版ではAdvanced Knowledgeと題されたコラムが書き加えられている。

 医療や保健の現場ではさまざまな疑問を抱く。そこで少しデータをまとめてみたくなる。それが臨床研究の第一歩である。患者のために住民のために社会のために,自らがもっと役立つように,研究したくなる。そんな視点から研究を始める人,そんな人を支える人にぜひ読んでほしい本である。
推薦文「これは一読の価値がありまっせ」
書評者: 岩田 健太郎 (神戸大教授・感染治療学)
 ぼくは臨床研究そのものの専門家ではなく,臨床研究の専門家の知見から学び,研究をしている一医者にすぎない。車を作ったり直したりする能力はまるでないが,運転はしている次第。だから本書を上から「批評する」資格はなく,本書を活用してきた読者の一人として「これは一読の価値がありまっせ」とオススメすることしかできない。よって,書評ではなく推薦文である。

 2016年に本書初版が出たときは,知人に勧められて買い求めた。内容もさることながら,文体が素晴らしいと思った。こういう比較が適切なのかは知らないが,しかし主観的にそう感じたので仕方がないから書くが,経済学者の森嶋通夫の本を読むようなクリスピーな文体だった。本当にこの領域の世界内を熟知している人が,しかし冗長な説明は全てそぎ落として要諦だけ読ませるような文体だ。今年,新しい第2版を読んでその意を新たにした。

 当時は気付かなかった点もある。長らく学生や研究者を教えていて,学習者がどこでつまずくのかよく熟知している文章だな,と感じたのだ。学習者が知らないのだが,教科書ではさらりと流されて困惑する体験。これを先回りして説明しているから理解しやすい。ROC曲線のreceiver operatorとは一体何のことか,少なくともぼくは本書を読むまで知らないままだった(p.54)。「疫学研究の反対語は質的研究である」(p.16)という一言にハッとさせられるのも(ハッとしません?)本書のエキサイティングなところである。単に臨床研究の種々の方法を解説するのみならず,その手法の強みや特徴を理解した上での活用法も示されている点もオモシロイと思った。傾向スコアの「方法」を解説する本は多々あるが,3000年の歴史を持つ漢方薬の薬効こそ傾向スコアを使うのがよい,という意見などはなるほどなー,と思わせる(p.188)。「(傾向スコアは)研究結果の一般化可能性(外的妥当性)はRCTより高い」(p.同)というシンプルな一文も深い,と思う。通常は,傾向スコアで研究したら,「さらなるRCTが必要だ」で〆るのが通例なのに……。

 本書を読んだ読者は「俺も臨床研究やってみようかな」と思うことだろう。臨床研究実践者は「そうか,この方法も使ってみたいな」と考えるかもしれない。ぼくは今回読了後,手段変数法を活用する研究ができないものか,と考えてみた(p.189)。まだ,思い付かない。なんか,面白い手段変数はないものか。

 勉強すればするほど,わからないことは増えていく。どの文献を当たっても答えが見い出せないことも多い。そこが臨床研究の出発点だ。診療を真面目にやればやるほど,研究をしたくなる。本書がそのとき手元にあれば,それはそれは心強い話なのである。

※森嶋通夫(1923-2004)…ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)名誉教授,阪大名誉教授

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