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ウォーモルド内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術

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内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術の世界標準ともいえる術式を開発した原著者Wormaldが、その手技を詳細に解説している書の原書第4版。1000を超えるカダバー写真やイラストと約70の手術動画を収載しており、世界最先端の内容をアップデートしている。原著者の意図を汲んだ訳文は平易でわかりやすく、本術式に関する読者のより深い理解への一助となるだろう。すべてのESS術者にとって待望の翻訳書、堂々の刊行!
原著 Peter-John Wormald
監訳 本間 明宏 / 中丸 裕爾
訳者代表 鈴木 正宣
発行 2020年09月判型:A4頁:328
ISBN 978-4-260-04200-0
定価 22,000円 (本体20,000円+税)

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日本語版の序(本間明宏・中丸裕爾・鈴木正宣)/日本語版に寄せて(Foreword 訳)(Peter-John Wormald)/(Peter-John Wormald)


日本語版の序

 本書は,P.J.Wormald著“Endoscopic Sinus Surgery”の最新第4版を翻訳したものです。原著は世界的なベストセラーとなっており,初版は英国医師会のBest ENT Book 2005に選出されました。その影響力は大きく,ここに記載された内容は世界標準術式の1つといえるでしょう。内容はbuilding blockや内視鏡下Draf III,内視鏡下頭蓋底手術など,いずれも経鼻内視鏡手術にパラダイムシフトをもたらしたものです。術式はすべて査読付きの医学雑誌に受理されたもので,その術後成績と併せて掲載されています。また,1,000を超える写真やイラストと約70の手術動画が付属されており,非常にわかりやすく解説されています。今回,日本語版を上梓できることを大変嬉しく思います。

 翻訳にあたっては正確性はもちろんのこと,日本語として読みやすい文章になることを心がけました。原著が世界中でベストセラーになったのは,充実した内容はもちろんのこと,読みやすさもその一助となっています。訳文の正確性を担保するために,それぞれの翻訳者には章ごとの精訳を依頼しました。また,1冊を通じた統一性を得るために,監訳者と訳者代表がそれぞれ300頁にわたり,一文一文,何度も何度も推敲を重ねました。

 この本には,これまで日本ではあまりなじみのなかった手術の背景,用語,術式が多数掲載されており,これから内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を始める方はもちろん,経験豊富なベテランの先生方にもご満足いただける内容となっています。また,頭蓋底,翼口蓋窩,下垂体,斜台,頭蓋頸椎移行部と,副鼻腔を超えた領域(beyond the sinus)も取り扱っていますので,脳神経外科や整形外科の先生方にもお手にとっていただきたいと思います。著者は術中の環境も重要視しており,本書の第1章,第2章にそれが表れています。ぜひ,手術の際にお世話になる麻酔科医や“スクラブナース”をはじめとしたメディカルスタッフとも共有していただければと思います。記載は,いずれも具体的かつ実践的ですので,読んだ次の日から日常臨床にお役立ていただけるはずです。

 出版にあたっては医学書院の渡辺一さん,鶴淵友子さん,岡田幸子さんに大変お世話になりました。慣れぬ翻訳出版を実現できたのはお三方のおかげです。また,翻訳者・翻訳協力者の先生方には,日常臨床でお忙しい中ご協力いただいたことに感謝しています。そして,北海道大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科名誉教授の福田諭先生,手稲渓仁会病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の古田康先生のお名前を忘れるわけにはいきません。10年前にWormald教授を札幌に招聘してくださったことが,その後のアデレード留学や今回の翻訳出版の発端となりました。あの日,お二人が蒔いてくださった種がこのような形で花開いたことを嬉しく思います。

 本書を翻訳している間に元号は令和に変わり,2020年代が幕を開けました。時代の移り変わりとともに,医療を取り巻く環境も大きく変わりつつあります。もちろん鼻科学もその例外ではなく,常に在るべき姿と進むべき道を模索し,変化を続けていかなければなりません。ただ,時代や環境がいくら変化しても,本書で取り扱った鼻副鼻腔・頭蓋底の解剖が変わることはなく,その多様性を熟知したうえで手術に臨むという本書のコンセプトが朽ちることもありません。また,多少の揺り戻しがあったとしても,この領域に生じる疾患の多彩さと,経鼻アプローチによる侵襲の少なさを考えると,『内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術』はこれからも発展の一途をたどるでしょう。原著初版の発行から15年の時を経て世界で広く受け入れられた本書が,日本でも長きにわたり愛読され,日常診療の一助となることを期待しています。

 2020年8月
 監訳 本間明宏・中丸裕爾
 訳者代表 鈴木正宣


日本語版に寄せて(Foreword 訳)

 内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術はこの30 年で大きな進歩を遂げた。マイクロデブリッダーやドリルなど,新しい手術器具の開発は,新しい術式を生み出した。これまでに鼻科学や慢性副鼻腔炎を扱った教科書は数多く出版されているが,鼻副鼻腔・頭蓋底の内視鏡手術に必要な解剖とその手技に焦点を絞った本はほとんど存在しなかった。この本では手術に必要な手技をできるだけ単純なステップに分け,rhinologistを志す医師が一歩ずつ確実に理解・修得できるように構成した。術式の中にはなじみがないものもあるかもしれないが,いずれも試行錯誤して生み出され,査読のある雑誌で評価を受けたものばかりである。

 ここで,翻訳に協力してくれた日本の仲間への感謝を述べたい。特に鈴木正宣医師はこの手術書の日本語訳に数百時間を捧げてくれた。Masaは熱意あふれる学修者で常に新知見を渇望している。本書を日本に広く伝えたいという彼の熱い願いが,今回の共同作業,翻訳出版へと導いた。彼とはアデレードで1年以上を共にしたが,すぐれた研究者でもあった。今でもわれわれの教室の親しい友人であり,彼のおかげで北海道大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室とは親密に共同研究を続けることができている。

 今回,新しく日本語に翻訳されたこの手術書が日本の読者にとって内視鏡解剖を理解するための一助となり,詳細な術前プランニングが日本でも習慣化されることを私たちは強く期待している。手術においては「トレーニング」に勝るものはない。日本の読者がこの本をもとに「トレーニング」を重ね,その結果,修得した手術技能によって日本の患者が多く救われれば,原著者として望外の喜びである。

 アデレードより

 ピーター・ジョン ウォーモルド
 Peter-John Wormald
 (訳 鈴木 正宣)




 ここに『Endoscopic Sinus Surgery』を上梓できることをうれしく思う。この最新版(訳注:原著第4版,日本語初版)は,2004年の初版以来,改良に改良を重ねてきた術式をわかりやすいイラストとともに1冊にまとめたものである。
 発刊にあたってはテキスト全体を見直し,一部の章は大幅に改訂した。特に,前頭洞の章は前頭陥凹の新しい分類を反映するためほぼ新しく書き直した。この分類は世界中のトップサージャンによる議論を経て,国際的な合意のもとに発表したものである。シンプルかつ合理的な分類となっており,今後,新しい世界標準となるであろう。また,今回の改訂では前頭洞手術を表す用語・分類も整理した。これまでは,例えばDraf IIb 1つをとっても,術者によりその意図するところは微妙に異なっており混乱のもととなっていた。今回提唱した用語・分類は前頭陥凹のセルと同じくシンプルかつ合理的で,これも新しい世界標準になると期待される。他にも,上顎洞の章にはmega-antrostomyとprelacrimal approachを加え,拡大前頭洞手術の章ではEFSS grade 6(frontal drillout)での前方茎の使用法を修正した。他の章にも多くの新しい術式を追加した。
 本書の特色の1つに高品質の解剖写真があげられる。これはRowan Valentineが故Albert L. Rhoton Jr. の指導のもと,Florida州Gainesvilleにある解剖室で撮影したものである。すばらしい写真を提供してくれたことに感謝している。
 本書は他の教科書と異なり解剖と手術に特化しており,疾患の病態や薬物治療を網羅するものではない。これらに関しては他の多くのすばらしい教科書で学んでほしい。また,掲載した術式はいずれも専門家による査読を受け,学術論文として発表されたものである。読者が解剖や術式を十分に理解し,日常臨床で役立ててくれることを願ってやまない。本文中には理解の助けになるよう,多くのイラスト,CT,MRI,内視鏡写真を掲載した。また,実際の手術動画もビデオとして付属した。テキストと併せることで副鼻腔の解剖をさらに深く理解できるであろう。
 日常臨床の中では,時として解剖が複雑で再発を繰り返す難治例の診療にあたることもあるだろう。しかし本書は,どんな症例を前にしても困らないだけの自信を読者にもたらしてくれるはずだ。『内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術』に必要なすべてとともに。

 ピーター・ジョン ウォーモルド
 Peter-John Wormald
 (訳 鈴木 正宣)

* Wormald PJ, et al. The International Frontal Sinus Anatomy Classification [IFAC] and Classification of the Extent of Endoscopic Frontal Sinus Surgery [EFSS]. Int Forum Allergy Rhinol 2016; 6[7]7: 677-696

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日本語版の序
Foreword
日本語版に寄せて(Foreword 訳)

謝辞

付録ビデオ目次

1 ESSのセットアップとエルゴノミクス
 はじめに
 手術器具
 患者と術者のポジション
 内視鏡と手術器具の挿入の原則

2 ESSの術野
 はじめに
 局所麻酔と全身麻酔
 ESSの標準的な準備
 ESSの術野を改善させる他の方法
 術野を改善するために

3 ESSの画像診断
 はじめに
 CT
 MRI
 血管造影
 涙囊造影と涙道シンチグラフィ

4 下甲介切除術と内視鏡下鼻中隔矯正術
 はじめに
 内鼻弁
 下甲介切除術
 下甲介ショルダー・オステオトミー(前端切除術)
 術後処置
 下甲介切除術の結果
 内視鏡下鼻中隔矯正術
 術式

5 鈎状突起切除,上顎洞開放,犬歯窩トレフィン
 はじめに
 鈎状突起切除
 swing-doorテクニックの結果
 副口とサーキュレーション
 上顎洞自然口の開大
 重度の上顎洞病変
 従来の犬歯窩穿刺の方法と合併症
 術後管理
 まとめ
 上顎洞への前方からのアプローチ
 キーポイント

6 building blockによる前頭洞の三次元再構成
 はじめに
 前頭陥凹と前頭洞の解剖
 鈎状突起
 ANC(鼻堤蜂巣)
 前頭陥凹のセル
 前頭陥凹の三次元再構成(Building Block Concept)
 前頭陥凹と前頭洞の解剖学的バリエーション
 さまざまなバリエーションでの前頭洞排泄路の同定
 おわりに

7 前頭洞手術
 はじめに
 前頭洞手術の適応
 前頭陥凹と前頭洞の術前評価
 前頭洞手術における手術手技
 前頭洞手術の困難例
 術後ケア

8 篩骨胞,中甲介,後部篩骨洞,蝶形洞手術
 はじめに
 篩骨胞とSBC
 後部篩骨洞の三次元再構成
 後部篩骨洞の術前プランニング
 中甲介
 蝶形洞開放

9 拡大前頭洞手術 frontal drillou(t Draf III)
 はじめに
 frontal drilloutの適応
 frontal drilloutの相対的適応外
 手術手技
 術後のケア
 frontal drillout後の狭窄
 結果
 再手術

10 蝶口蓋動脈結紮とVidian神経切断術
 はじめに
 ESS後の術後出血
 特発性鼻出血症における併存疾患
 蝶口蓋動脈結紮術の適応
 Vidian神経切断術

11 内視鏡下涙囊鼻腔吻合術
 はじめに
 流涙症の術前評価
 手術手技(付録ビデオ参照)
 術後管理
 術後成績
 初回DCR群の成績
 O’Donoghue涙道チューブ挿入の妥当性
 同時手術
 合併症
 キーポイント

12 内視鏡下髄液漏閉鎖術
 はじめに
 髄液漏の原因
 術前評価
 手術手技
 術後処置
 術後成績
 キーポイント

13 内視鏡下下垂体腫瘍手術
 はじめに
 術前評価
 手術手技
 術後処置
 治療成績
 キーポイント

14 内視鏡下眼窩減圧術 眼球突出,急性眼窩内出血,眼窩骨膜下膿瘍への対処
 はじめに
 甲状腺眼症
 眼窩内出血
 眼窩骨膜下膿瘍に対する眼窩減圧術
 キーポイント

15 内視鏡下視神経減圧術
 はじめに
 薬物治療
 外傷性視神経症に対する外科的治療
 治療成績
 キーポイント

16 上顎洞,翼口蓋窩,側頭下窩進展腫瘍に対する内視鏡手術
 はじめに
 上顎洞,翼口蓋窩,側頭下窩へのアプローチ法
 内視鏡手術における解剖
 上顎洞,翼口蓋窩,側頭下窩に進展する腫瘍
 内反性乳頭腫に対する内視鏡手術の治療成績
 巨大な若年性上咽頭血管線維腫(JNA)
 翼口蓋窩および側頭下窩の腫瘍に対する2 サージャンアプローチ
 JNAに対する内視鏡手術の治療成績
 術後管理について
 おわりに

17 耳管および後鼻腔の内視鏡切除
 はじめに
 解剖
 手術手技
 術後管理
 症例提示
 キーポイント

18 内視鏡下頭蓋底手術に必要な蝶形洞周囲の臨床解剖
 蝶形骨の解剖
 トルコ鞍の解剖
 トルコ鞍の側壁
 海綿静脈洞の解剖
 Vidian神経の解剖
 斜台の解剖
 上顎神経(V2)の解剖

19 斜台・後頭蓋窩腫瘍に対する内視鏡下切除
 はじめに
 斜台,後頭蓋窩,海綿静脈洞の解剖
 斜台・後頭蓋窩領域の手術手技
 症例提示
 おわりに

20 内視鏡下前頭蓋底腫瘍摘出術
 はじめに
 前頭蓋窩の解剖
 前頭蓋窩の血管解剖
 手術手技
 頭蓋底の再建
 症例提示
 おわりに

21 頭蓋頸椎移行部の内視鏡手術
 はじめに
 適応疾患
 解剖
 術前準備
 軸椎歯突起への内視鏡アプローチ
 キーポイント

22 内視鏡手術中の内頸動脈・大血管損傷への対応
 はじめに
 内頸動脈損傷の危険因子
 出血時の対応
 術後合併症
 手術トレーニングコース

略語一覧
索引

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頭蓋底手術に携わる医師に必読の手術書
書評者: 寺坂 俊介 (社会医療法人柏葉会柏葉脳神経外科病院理事長・院長)

 私は脳神経外科医として顕微鏡手術を学び,現在も手術を継続している。北大脳神経外科で初めて内視鏡手術が行われたのは,下垂体腺腫の手術だったと記憶している。私の部下が初めて下垂体腺腫に対して内視鏡手術を行ったときのことは今でも鮮明に覚えている。私は術衣に着替え顕微鏡と共に手術室内に待機した。手術が難航した際には顕微鏡手術に切り替えるつもりだったからだ。当時の内視鏡は今よりも解像度が低く,内視鏡手術用の道具も限られていた。顕微鏡手術の倍の手術時間と出血量を要したが,私は一度も手術を替わろうとは思わなかった。自分がどんなに工夫しても顕微鏡下手術では見えなかった海綿静脈洞壁や鞍上部がモニターに映し出されていたからである。

 ウォーモルド先生が執筆された本書には内視鏡下手術の利点,特に優れた可視性を最大に生かした手術手技が網羅され,しかもその1つひとつが細部に至るまでしっかりと書かれている。例えば内視鏡下髄液漏閉鎖術の章で紹介されるバスプラグ法などは脂肪の採取の部位,糸のかけ方,使用する道具,術後の管理,腰椎ドレーンを入れた場合はその排液量までが細かく記載されている。「賛否が分かれるかもしれないが」とただし書きをつけた上で,ウォーモルド先生の手技が紹介されている。本書を読んでいると,このような細かな手術手技や術後管理を学びにかつてはお金と時間を費やして海外にまで行ったのに,と思われる諸兄も多いはずである。

 1990年代,本邦の頭蓋底手術は世界をリードしていた。しかし当時の日本には手術に必要な外科解剖を学ぶ方法が少なかった。われわれは海外のカダバーラボに在籍して毎日微小外科解剖の勉強をし,来るべき手術に備えて解剖学的指標をアナログ写真に残していった。本書の特筆すべき点は,献体を使った高画質の微小外科解剖写真がふんだんに使用されていることである。例えば頭蓋底手術では手術の手順に沿って,蝶形骨洞,海綿静脈洞や斜台の解剖学的指標が明確に示され,それらはCT写真やナビゲーション画像と連動してわれわれを安全な手術へ導いてくれている。スマートフォンでQRコードを読めば動画で手術道具の使い方や止血方法が解説される。微小外科解剖が安全な手術を行うためにいかに重要であるかを熟知した外科医の書いた手術書である。高画質の頭蓋底微小外科解剖が提示されているという点においては顕微鏡,内視鏡を問わず,頭蓋底手術に携わる多くの医師にぜひ読んでいただきたい手術書である。

 最後に,しびれるような手術書を上梓したウォーモルド先生に敬意を表するとともに,日本語版の出版に尽力された北大耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医局員の先生方に心から感謝を申し上げたい。
初学者から鼻科専門医まで学ぶことの多い至高の一冊
書評者: 藤枝 重治 (福井大教授・耳鼻咽喉科)

 内視鏡下鼻副鼻腔手術のバイブルであるP.J. Wormaldの原著『Endoscopic Sinus Surgery』の初の邦訳が本書である。P.J. Wormaldは世界でも屈指のrhinologistとして名高く,彼が心血注いで書き続けている原著は第4版まで刊行され,改訂されるごとに手術アプローチやコンセプト,周術期管理に至るまで進化を続けている。もちろん,本書は最新の第4版の邦訳である。内視鏡やナビゲーションなどデバイスの進歩とともに内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術における知識や技術のアップデートが必須であるが,原著を十分に理解するには,多忙な臨床医にとって『言語』という壁が敷居を高くしていた。このたび,P.J. Wormaldのspirit(魂)を受け継ぐ北大の先生たちの手によって待望の訳書が発刊されると聞き,彼の金言をより身近なものとして感じられることに胸が躍った。

 あえて紹介するまでもないかもしれないが,P.J. Wormaldはオーストラリアを中心にworld wideに活躍するtop surgeonである。また彼は手術のみならず研究者の顔も持ち,国際誌に330以上の論文を掲載している類まれなるrhinologistでもある。

 本書はFESS(内視鏡下鼻副鼻腔手術)や鼻中隔矯正術など広く市中病院で行われている手術から,前頭蓋底手術など限られた医療施設でしか経験できない手術まで網羅されている。また下垂体腫瘍,前頭蓋手術など経鼻内視鏡下手術を行う脳神経外科医にとっても必要な解剖や手術手技が細部に至るまで書かれている。初学者から鼻科専門医まで非常に学ぶことの多い至高の一冊と言える。

 他の手術書と異なる本書の特徴として以下の3点が挙げられる。つまり,(1)前頭窩に複雑に存在する蜂巣をブロックで3次元的に表現することで,排泄路同定を容易にするbuilding block concept,(2)解剖学者との協力の下作成された鮮明な手術視野のカダバー画像,そして(3)個々の医師による経験則ではなく客観的データ(エビデンス)に基づき手術法を評価している点,である。これらの特徴により,読者は解剖についての理解が深まり,合併症を回避しながら世界標準の手術を提供できるようになる。

 本書は初学者にとっては歩むべき道を照らす道標として,鼻科専門医にとってはより高みをめざす心強い相棒として,後進を育てる指導医にとっては客観的データを基にした優れた指導書として,その力をいかんなく発揮するだろう。そして,日常診療において『即戦力』としてわれわれに恩恵をもたらしてくれることを確信している。

 昨今のコロナ禍において,実際に海外へ渡りP.J. Wormald自身から教えを乞う機会は今まで以上に稀有なものとなってしまったが,幸いなことに本書を通じてP.J. Wormaldの真髄を身近なものとして迎えられることに感謝したい。
平易な日本語に訳された鼻科手術のバイブル
書評者: 丹生 健一 (神戸大教授・耳鼻咽喉科)

 ついに,日本の多くの耳鼻咽喉科医が望んでいた本が出版された。

 言わずと知れた内視鏡下副鼻腔手術の世界的権威であり,現在のわが国の手術方法の原点と言っても過言ではない,P.J. Wormaldの著書「Endoscopic Sinus Surgery」の日本語訳版である。原著が素晴らしい本であることはわかっていたが,やはり英語なので完全には理解しにくかったという先生方にとって垂涎ものである。

 図や写真も含め原著第4版がそのまま翻訳された形となっているため,Wormaldの理論がじかに吸収でき,各セルの位置関係をCGで3次元的に再構成する,かの有名なBuilding Block Conceptのほか,Axillary flapアプローチや前頭洞の解剖や手術における国際分類についての理解が深まる。そして鼻腔手術や各副鼻腔の基本的な開放方法だけでなく,副鼻腔拡大手術や頭蓋底手術,副損傷の対処方法まで網羅されているため,これから鼻科手術を始める若い先生方のバイブルとしてはもちろん,すでに多くの手術を経験されている先生方の理論の確認やさらなる技術向上につながるだろう。また手術手技だけでなく,臨床解剖に基づく術前CTの読影方法や術後管理の方法まで,そこも教えてほしかったという内容が盛り沢山である。

 手術動画に関しては近年の流行が取り入れられ,QRコードを読み取るタイプなので,スマートフォンで簡単に閲覧することができるのも嬉しい。

 これだけ膨大な量の英文をここまで自然な日本語に翻訳してくださった,本間明宏先生をはじめとする北大耳鼻咽喉科・頭頸部外科の先生方に感謝と敬意を表するとともに,この本がより多くの耳鼻咽喉科医の先生方の本棚に並び,わが国全体の内視鏡下副鼻腔手術のレベルアップにつながることを切に願っている。

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