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Advance Care Planning のエビデンス
何がどこまでわかっているのか?

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「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人と家族、医療者が繰り返し話し合うプロセス」=ACP。でも不確実な将来を話し合うことは、誰にとっても難しい。どうやって話し合いのきっかけを作るか、どうすれば患者と家族の希望に沿った医療・ケアを提供できるか、国内外で積み重ねられてきたエビデンスが、ACPを深めるためのヒントを与えてくれる。患者と家族の幸せにつながるACP実践のために、知っておきたいことがある!
森 雅紀 / 森田 達也
発行 2020年10月判型:B5頁:204
ISBN 978-4-260-04236-9
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに

「行きましょう,最後のところまで,一緒に」
 研修医だった頃のことです。当直中,担当させていただいていたある高齢患者さんのもとに呼ばれました。真っ暗な大部屋の隅で私の手を握ると,肩で息をしながら何度も繰り返されます。がんの病名も,あと数日かもしれないという見通しも知らされていない彼女に,どう答えればよいのか。汗ばんだ顔で見つめられながら,ただ蹲うずくまって耳を傾けるほかありませんでした。私にとって,今でいう「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」への道が,その時始まりました。
 「ACP」─言葉は広まっても,それは依然として模糊としており,「行うは難し」です。2000年代,筆者の一人(森)は,米国の臨床の場に身を置きました。一般病棟や集中治療室でも,外来や在宅でも,緩和ケア病棟でも,患者さん・ご家族から今後の治療や見通しに対する不安を何度も伺いました。「あとどのくらい生きられますか?」「ケモかホスピスか…君が僕ならどうする?」。本人中心に家族・多職種チームが話し合いを重ねる日の連続でした。不確実な将来を前に暗中模索を続けるという感覚には,日米の差をあまり感じませんでした。後になって,この一連のプロセスが「ACP」だと知りました。
 ことを進めるに際し,大まかな経緯やエビデンスの流れを理解しておくことは重要です。ACPの実践にあたっても,それらを把握することでぐっと視界が開け,より焦点化した課題解決につなげられます。ここ十年間,ACPに関する知見が急増しました。系統的に障壁が同定され,評価方法が提唱され,斬新な介入の効果が検証されました。私たちが臨床で感じる疑問の多くが,世界に共通する課題だとわかってきました。国内外でACPの活動・研究のネットワークが広がり,日常臨床にACPを取り入れる試みや市民への啓発も進められています。
 本書では,過去30年間に蓄積されたACPの知見が無理なく概観できるよう,主なエビデンスを中心に解説を加えました。網羅的な議論ではなく,大きな流れが見えることを重視しました。また,後半では行動経済学や予後予測とACPの関連など,新たな視点も紹介しました。この本を手に取ってくださるのは,ACPの臨床,教育,研究あるいは体制作りなど,様々な形でACPに関わられる多職種の方々かと思います。患者さん・ご家族の幸せにつながる全国のACPの実践に,本書が少しでもお役に立つことがあれば,これに勝る喜びはありません。
 最後に,本書の執筆にあたっては共著の森田達也先生と編集部の品田暁子さんにたくさんの貴重なご助言をいただきました。また,ACP関連の研究や活動を通じて,諸先輩方,仲間たちに多くの学びをいただきました。ここに深く感謝を申し上げます。

 2020年8月 早朝の夏鶯の只中で
 森 雅紀

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はじめに

Part I ACPを語る上での基礎知識
 1章 SUPPORT研究 すべてのはじまりの古典をしっかり理解する
 2章 ACPの概念 定義を研究する

Part II 次々と登場するACP介入の研究たち
 3章 Overview 全体の見通しをつける
 4章 Respecting Choicesの系譜
 5章 コミュニケーション系研究の応用
 6章 ビジュアル系の研究
 7章 早期からの緩和ケアに続く流れの研究

Part III ACPに関するリアルワールドの研究
 8章 海外のACPの観察研究
 9章 日本のACP研究

Part IV ACPに関わる辺縁の研究領域
 10章 予後予測×ACP 予後予測の精度を高める研究はACPに何をもたらすか?
 11章 行動経済学×ACP 行動経済学はACPに福音をもたらすか?

Part V ACPに関する日本の議論を整理するための雑談

おわりに
索引

Column
 ACPに関係する用語
 予後についての話し合い
 ACPはどこへ向かうのか?

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臨床家にこそ読んでほしい,ACPの概念を整理する本
書評者:田村 恵子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻緩和ケア・老年看護学分野教授)

 アドバンス・ケア・プランニング(以下,ACP)とは,「もしものとき」にあなたの望む生活や医療・ケアを受けるために信頼する人たちと話し合うことであり,超高齢社会の中で重要な役割を果たすものである。日常臨床においてACPという言葉は広まっているが,「死」に関することは縁起でもない話と敬遠され,なかなか切り出しにくいのが実情である。また,疾患により病の軌跡が異なるため,ACPには関心はあるが,何を,どう進めればよいのだろうかと困難を感じている医療者も少なくない。「言うは易し行うは難し」ともいえる行為であろう。こうした状況を打破するための一歩として,ACPについての大まかな経過やエビデンスの流れを理解しておくことは重要であるとの視点から執筆されたのが本書である。

 過去30年間に蓄積されたACPの知見が概観できるようにエビデンスを中心に解説されており,本書を読むことでACPの大きな流れを正しく理解することができる。著者は,聖隷三方原病院の緩和ケア医である森雅紀医師と森田達也医師のM&Mコンビである。お二人についてはあえてご紹介するまでもないが,緩和ケア医として,研究者として日本の緩和医療をリードされている。私はさまざまな場面でご一緒させていただいているが,尊敬し信頼できるお二人である。本書はこうしたお二人の初の共著であり,おのずと期待は高まるばかりである。

 本書は5パート,11章から構成されている。Part Iは「ACPを語る上での基礎知識」として,全ての始まりであるSUPPORT研究を踏まえてACPの概念研究を紹介している。Part IIは,その後に続くACP介入研究を概観した後に,4つの分類――Respecting Choicesの系譜,コミュニケーション系研究の応用,ビジュアル系の研究,早期からの緩和ケアに続く流れの研究――を用いてわかりやすく説いている。このパートを読み込むことによって,ACP介入研究についての知識がぐっと深まり,整理されること間違いなしである。Part IIIでは,「ACPに関するリアルワールドの研究」として,米国で行われた大規模な2つの観察研究とそこから見える治療やケアの課題と,日本における過去30年間のACP研究と日本文化に沿った研究の必要性と課題が述べられている。これを受けてPart IVでは,ACP研究を発展させていくための新たな研究方法論が,予後予測と行動経済学の2つのキーワードに基づいて紹介されている。普段聞き慣れない用語もあるが,じっくり繰り返して読めば「なるほど!」と納得されるはずである。そしてPart Vはお二人の執筆者による「ACPに関する日本の議論を整理するための雑談」と題された対談が掲載されている。お二人の人柄が伝わってくる論議で,かなりわくわく感を感じつつ読み進めることができる。私が面白いなと思ったのは「ナウ・ケアプランニング問題」である。「ナウ・ケアプランニング」とは,今(ナウ)意思表示ができる状態で現在や今後の健康状態などを話し合うことを指し,従来のACPよりも範囲が広い。確かに,日常臨床では,こうした「ナウ・ケアプランニング」的な取り組みやケアもACPと表現されている場面によく遭遇する。ACPの「アドバンス」をどう捉えるかというコアの部分につながる課題であろう。

 上記のような課題も含めて,ACPという想像以上に複雑な概念を,本書は研究に基づいてわかりやすく説明している。各章のはじめにあるエッセンスにはその章の内容が端的にまとめられており,ほとんどの研究紹介には図表が示されている。エッセンスや図表を参照にしながら読むとポイントが明確になり,効率よく理解することができよう。また,それとともに,本文中に登場する可愛いリス(と思っていたらプレーリードックらしい)が発するメッセージやつぶやきにも目をとめながら読み進めていくと,よりACPへの関心が深まっていく。ACPに関心のある研究者はもちろんのこと,患者さんやご家族の幸せにつながる臨床をめざしている臨床家の方にもぜひともお読みいただきたい一冊である。


なぜか前向きで温かな気持ちになる,不思議なACPの本
書評者:木澤 義之 (神戸大病院特命教授・緩和支持治療科)

 10月の爽やかな週末に,旅のお供として本書を持ってでかけ,楽しく読破させていただきました。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の始まり,歴史,定義,エビデンス,最新の研究の動向を包括して学習できる良書だと感じました。

 本書には,著者である森雅紀先生(聖隷三方原病院緩和支持治療科)の,誠実で前向きなお人柄が溢れ出ています。ACPという重くなりがちな話題を,穏やかな気持ちで読むことができ,そして重要な研究は子細に検討され,著者とのインフォーマルなやり取り,豊富な臨床経験に基づきプラスアルファの情報が書き込まれています。著者の米国と日本での豊富な臨床経験と,書く力に基づいた記述は素晴らしく,特に英語に関して言えば,本書に出てくる複数のやりとり(例えばJoanne Lynn先生やRachelle Bernacki先生)の時には,実は私も同席していたのですが,アルコール(?)の影響も手伝って内容があやふやで,本書の記述を読んで「あぁ,それを話してたのかぁ」と思い至ることもあり,あらためて森先生の能力の高さと見識の深さに感銘を受けました。

 参考文献については若干がん領域に偏っている傾向はありますが,重要な文献がカバーされており,これだけ読んでおけばまずまず大丈夫,と言っていいのでは? と思いました。

 また,巻末の森先生と共同執筆者の森田達也先生の軽妙なやり取りも,実際に会議でお会いしたり,Web会議で話したりしているときのご様子がそのまま書かれているかんじで,両先生の自由さと気質,リラックスしたコミュニケーション,学び合う姿勢,お互いに対する尊敬の気持ちが手にとるように感じられました。ここでは“雑談”と称し,「ACPって医療上のことだけでなく,人生全体のことなの?」「家族が反対していても,本当に患者の意思に従える?」など,ACPを巡る素朴な,でも大切な疑問が取り上げられています。お二人のやり取りを通じて,日頃抱えている疑問が解ける読者も多かろうと思います。

 特にACPの臨床や啓発普及に深く取り組みたいと思っていらっしゃる方,そして研究や発表を考えている方は必読と思います。私自身は,散漫になりがちだった雑多な知識が統合され,なぜか不思議に前向きで温かい気持ちになります。本にも心があるのだと,本当に不思議な気分です(森先生に心より感謝します,あ,森田先生にもね)。関係の皆様のご一読を心よりお薦めいたします。

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