皮膚病理診断リファレンス

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皮膚疾患の病理診断を行うためには、疾患の本質および定義と、それを反映する病理所見の理解が欠かせない。本書では「病理診断の決め手」という項を設けてこれを端的に示し、診断上の疑問に明確に答えている。皮膚疾患診療では臨床診断がわかったうえで病理診断を下すことが多いという実情に即し、疾患名から病理像を検索できる構成とした。美しい病理写真を多数収載した、皮膚科医、病理医必読の1冊。

安齋 眞一
発行 2020年07月判型:A4頁:530
ISBN 978-4-260-04140-9
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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はじめに

 最初に,本書のコンセプトと私が想定している使い方について記します.
 本書の書名である『皮膚病理診断リファレンス』は,病理報告書を作成したり,病理標本を前にその診断をしているときに,さっと手にとって確認できる本という意味です.つまり,皮膚病理検体を前にして診断が決まらないとき,あるいは,「この疾患ってこういう病理組織像だっけ?」とか,「こういう所見ってこの疾患であってもよいんだっけ?」とか,「この病理組織像は,この疾患に似ている気がするんだけど,鑑別すべき類縁疾患や類似疾患にはどういうものがあるんだっけ?」などという場面で役に立つ本を目指しました.したがって,本書の読者として想定しているのは,実際に皮膚病理標本をみて自分で診断をくだす立場の先生方です(もちろん初学者にも有用なものになるように書きましたが).そのため,総論部分でも,初心者向けの正常組織像や,用語の説明など,他書をみていただければ済むものに関しては,極力これを省略し,疾患の病理組織像を多く載せるようにしました.私はいまでも,病理報告書作成時には,この本の原稿をすぐにみられるようにしています.本書を手にとっていただけたなら,できれば,顕微鏡のそばに置いてかわいがっていただけたら,これにまさる喜びはありません.もちろん,本書をいわゆるcover to coverで読んでいただいても結構ですが,私自身そういうことをしない性格なので,そのような目的に沿えているかどうかは保証の限りではありません.
 本書で扱うのは,主に「皮膚病理診断学」です.その類縁語に「皮膚病理学」があります.言葉の定義からいえば,「皮膚病理学」とは,皮膚疾患の本質,原因,異常状態の進展,病的過程による構造上および機能上の変化を取り扱う医学です.つまり,疾患の発症機序の解明が大きな目的の1つとなります.一方,「皮膚病理診断学」は,皮膚における正常と異常とを区別し,共通した特徴をもつ異常を系統的に分類することによって,疾患名を特定することを追究する学問です.両者の目的は,皮膚疾患を正確に診断してその治療や予防に結びつけることであり共通ですが,その手法がやや異なります.本書は,前述のように基本的には「皮膚病理診断学」に関する書籍ですが,できるだけ,現在判明している疾患の原因などに関しても記載するように努力しました.
 病理組織診断に至る過程に関しては,以下に示すような2つのアプローチがあります.

 1)臨床情報を得てから標本を観察し,診断する方法
 2)標本を観察し診断してから,臨床情報と照らし合わせる方法

 それぞれに,長所・短所がありますが,1)の場合,臨床診断でよいかどうかの判断になりがちであり,異なる疾患が潜んでいても見逃してしまったり,特に炎症性疾患の場合は疾患を特定した診断になりにくく,「…の病理組織像として矛盾しない」という結論になりやすいという欠点をもっています.しかしながら,臨床所見とかけ離れた診断になることがないという利点もあります.一方,2)の場合,疾患の見逃しは少なく,疾患名を特定した診断ができることが多いという利点はありますが,臨床診断とまったく異なる診断になってしまうことがあるという欠点もあります.
 私は,特に炎症性疾患については,原則的に2)の方法で病理診断をしています.1)の場合,臨床診断に基づいて教科書との絵合わせ診断になることが多いのですが,2)では別の手法を使う必要があります.それは,Ackerman らがはじめて提唱した,パターン分析とアルゴリズムを用いた方法です.この手法は,標本の観察から出発して炎症性皮膚疾患の病理診断を行うためには,非常に有用な方法です.詳細に関しては,炎症性疾患の総論部(⇒2頁),および,他書に譲りますが,この方法とて,最終的には的確な臨床情報がなければ正しい最終診断にたどり着けません.
 通常の皮膚科臨床医は,患者の臨床症状をみたうえで,病理診断をすることが多いので,どうしても1)の状態に近い形で病理診断をすることになりますが,それでも,できる限り臨床情報のバイアスを排除して標本と向き合う必要があります.そのことが,正しい病理診断のために非常に重要です.本来,病理標本から出発して病理診断する場合は,パターン分析の流れで記述する必要があります.しかし,実際の臨床の場では,上述のように臨床診断がある程度わかっていて病理診断をすることがほとんどであるため,本書では,疾患名からその病理組織像を検索できるような記述のほうが有用であると考えました.このような場合,必然的にある程度絵合わせ診断になりますが,鑑別疾患や類縁疾患の記述を充実させることで,できるだけ正しい診断に導けるように記述したつもりです.
 本書を執筆するにあたって,特に重要視したことがあります.それは,私が若いころから常々感じ,最近もいろいろな先生から質問されることで,「教科書に載っている各疾患の病理組織所見は,どれとどれが診断のために必要なのか」という疑問です.本書では,この点になるべく留意し,多くの疾患で「病理診断の決め手」という項を設けて端的に示すようにしました.また,腫瘍性疾患では,さらに「定義および概念」という項も設けて,できるだけ,各疾患の病理診断に必要な所見を明示するようにしました.いずれにしても,皮膚疾患の病理診断のためには,それぞれの疾患の本質あるいは定義を理解して,それを反映する病理組織所見は何かということを理解する必要があります.
 巻末には,「診断の手がかり」と「用語集」を設けました.主に複数の疾患でみられる重要な診断の手がかりや皮膚病理用語についてアルファベット順に並べてあります.これらを設けたのは,用語が出てくるたびにいちいちその説明をしていると,本文が長くなってしまうため巻末にまとめた,というのが真相です.本文中には,参照頁を記入してあります.お手数ですが,本文を読んでいてわからない用語があったときには,該当の項をご参照ください.
 また,私は日ごろから,ことあるごとに「臨床をみて病理を考え,病理をみて臨床を考える」ことの重要性を強調してきました.特に炎症性疾患の診断では,究極は,臨床像をみれば病理組織像が頭に浮かび,生検をしなくても確実に診断ができるという境地に至ることだと思っています(もちろん,そんな域に達することはほぼ不可能ですが……).そのために,各疾患には,「臨床病理相関」の項も設けてあります.ただし,残念ながらスペースの都合もあり,臨床写真は載せていません.臨床写真は,種々の皮膚科学の教科書にきれいなものがたくさん載っていますので,それをご参照ください.そのかわり本書では,たくさんの病理組織写真を掲載しています.
 本書で述べている知識は,もちろん,その多くを,たくさんの諸先輩方が書かれた種々の教科書から拾っています.しかし,それ以外に本書に記載された内容は,私がいままで学んできた,あるいは体験してきた皮膚病理診断学に関する知識も記載しています.いま,私が,皮膚病理診断学を学ぶ若手の先生方と一緒に標本をみながら話していること,つぶやいていることをまとめて記録している,という言い方もできます.これらの知識は,もちろんある程度はevidenceのある(論文化されているという意味で)ものですが,そのような裏づけのない,経験則あるいは暗黙知的なものも多く含まれています.今回,各記述に対して参考文献は付与していません.それは,どこまで,引用文献をつけるかの線引きがあいまいなことと,本書のスペースの問題が大きな原因です.本文中に「という報告がある」あるいは「と考えられている」と記述がある内容に関しては,ほとんどの場合,文献的裏づけのある記述です.そのような記述に対してより深く確認したい場合には,次頁に記載した参考書籍を参照したり,インターネットで文献を検索したりしてください.このようなことは,以前よりずっと楽に,いろいろなところでできるはずです.
 ただ,以上のようなことをもとに本書を記述しているので,非常に独りよがりで誤った知識も含まれてしまう可能性が排除できませんでした.私が本書を執筆するにあたってもっとも危惧したのは,そのようなものを活字として残してしまうということでした.今回,そのような事態を極力避けるため,お二人の先生に,内容の確認やアドバイスをお願いしました.かつて札幌皮膚病理研究所(現 札幌皮膚病理診断科)で机を並べてともに働いた福本隆也先生(福本皮フ病理診断科)と,私が札幌皮膚病理研究所を退職した後に,そこを背負って立っている阿南隆先生(札幌皮膚病理診断科)です.彼ら,日本における皮膚病理診断学の大家の的確なアドバイスがなければ本書は完成していませんでした.両先生には,心から感謝いたします.
 本書で使用した症例は,以前より私がためてきた症例が多いのですが,足りないものもかなりあり,執筆協力者の福本先生や阿南先生からいただいたものも多くあります.また,日本医科大学付属病院および各分院の症例も数多く使わせていただきました.さらには,日ごろいろいろなところでお世話になっている先生方からも貴重な症例をご提供いただきました.福本先生,阿南先生,日本医科大学以外からお借りした症例については,その出所を各図に記載しました.ここで改めてご協力いただいた諸先生方に深謝したいと思います.
 言いわけがましいのですが,本書は1冊で皮膚病理診断学のほぼ全領域をカバーしようとしているため,頁数が限定され,非常にまれな疾患に関しては,まったく掲載されていない,あるいは,文章の記載のみで病理組織像が掲載されていないものもあります.そのような疾患の病理組織像に関しては,参考書籍に示すような,より細分化された皮膚病理学各領域の書籍や症例報告論文を参照していただきたいと考えています.
 最後に,私にこのような書籍の執筆の機会を与えてくださり,それがかたちになるように全面的にバックアップしてくださった医学書院の天野貴洋さんに心から御礼を述べさせていただきます.

 2020年5月
 COVID-19による非常事態宣言のなか,著者記す

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はじめに
参考図書
略語一覧

非腫瘍性疾患
  炎症性疾患総論
 炎症性疾患
  紅斑症
  薬疹
  血管炎/血管炎類似疾患
  膠原病および類症
  水疱症
  遺伝性角化症
  炎症性角化症
  非炎症性角化症
  肉芽腫性疾患
  物理化学的皮膚障害
  色素異常症
  皮下脂肪組織疾患
  付属器疾患
  感染症
 代謝異常症(沈着症)

腫瘍性疾患および類症
  皮膚腫瘍病理診断総論
 上皮性腫瘍および類症
  表皮腫瘍
  汗器官腫瘍
  脂器官腫瘍
  毛器官腫瘍
  その他
 色素細胞腫瘍
 軟部腫瘍
  脂肪細胞腫瘍
  線維芽細胞/線維組織球性腫瘍
  末梢神経腫瘍
  筋組織腫瘍
  周皮細胞腫瘍
  脈管系腫瘍
  その他
 造血器系腫瘍
  悪性リンパ腫
  その他
 転移性腫瘍

診断の手がかり
用語集
索引

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1人の師匠に出会えたに匹敵する学びの多い一冊
書評者: 田中 勝 (東女医大東医療センター皮膚科部長)
◆すごい本だということ!

 第1に著者がすごいし,執筆協力者もすごい。この本は分担執筆ではなく,1人の皮膚病理専門家(大家の中の大家!)が執筆した単著である。もちろん,著者がすごいのは,経験を積んだ多くの皮膚科医・病理医には説明不要なのだが,若い先生方,特に後期研修医や医局で毎週のようにカンファレンスを通して研鑽を積む立場にある先生方には少し説明が必要かもしれない。これから皮膚科専門医試験を受ける後期研修医は,皮膚病理を苦手とする人が多いと予想されるが,この本さえしっかりと読み込んでおけば,試験問題もやさしく感じられるに違いない。そして,医局の中心となり学会発表の指導をする立場の先生方にとっても本書は間違いなくバイブルと言える皮膚病理教書である。

 さらにすごいことに,著者を支える執筆協力者の2人も,皮膚病理という領域の中では,大家と呼べる2人なのだ。すなわち,「皮膚病理診断」を専門とし,毎日のように標本を見て診断することを職業とする,つまり皮膚病理で開業している数少ない日本人なのだ。したがって,自分の専門領域以外はわからないということはなく,ほとんど全ての領域にわたって詳しいのである。

◆どこから読んでもわかりやすい

 この本の最大の魅力はそのまとめ方にあると思う。多くの皮膚病理教書は,特に洋書は文章が長くてポイントがわかりにくい。本書は所見が箇条書きになっており,ポイントがひと目でわかる。そして「病理診断の決め手」が短くズバリと書かれていることも特記すべきである! さらに,「病期による違い」「臨床像との関係」「類縁疾患・鑑別疾患との違い」が簡潔にまとめられており,迷ったときに,鑑別点が何かをストレートに検討すればよいので,実際の診断においてとても助かるのである。

◆全ての皮膚科医・病理医必携の書

 本書には著者の長年の経験が惜しげもなく織り込まれている。「言いたいことは全て書いた」という達成感に溢れている。だからこそ,本書から学ぶことは,1人の師匠に出会えたに匹敵するものであり,継続して読み続けることの恩恵は計り知れない。ぜひとも読み倒していただきたい本であり,著者の渾身の思いを少しずつでもよいので,汲み取ってほしい。

◆重いけど,学会にも携帯する価値がある!

 本書は毎日持ち運ぶには重いかもしれない。でも,毎週のカンファレンス前日はもちろん,カンファレンス当日にも持ち込んで読みながら議論をしてほしいと願う。さらに欲を言えば,毎月の学会(地方会や支部総会など)にも持ち込んで調べながら聞き,できるだけ広範囲の項目を継続的に読み進めてほしい。
皮膚病理診断のための究極のリファレンスブック
書評者: 鶴田 大輔 (大阪市大大学院教授・皮膚病態学)
 日本皮膚病理組織学会理事長である安齋眞一氏の著書最新刊が発売された。ずっしりと重く,持つだけで賢くなれそうな1冊である。

 安齋氏の著書は常にエキサイティングである。皮膚病理診断学は極めて膨大な学問分野であるので,その書籍は辞書的な1冊とならざるを得ない。しかし,安齋氏はこれまでストーリー性に富んだ斬新な書籍を手がけてきた。例えば,制作責任者を務められた『実践! 皮膚病理道場』シリーズ(医学書院)は,書籍では初めてのバーチャルスライドを用いた皮膚病理診断学を試み,大成功を収めている。また,皮膚軟部腫瘍や皮膚付属器腫瘍というプロフェッショナルでなければ診断できない領域のアトラスも見事に作った。

 今回,彼が挑戦したのは,初学者から名人まで,これ1冊を顕微鏡の横に置いておけば,確定診断に至ることができる皮膚病理診断のためのマニュアル本の作成である。本書は,安齋氏の単著であり,序文には,通読は想定しておらず,「顕微鏡のそばに置いてかわいがっていただけたら」とある。

 本文を見てみると,まず,「炎症性疾患および類縁疾患の病理診断の考え方」に掲載されている炎症性疾患のパターン診断の表が極めてわかりやすい。これに従えば一直線に診断に至ることができるだろう。安齋氏は,炎症性疾患の診断過程として,まず病理のみをみて診断し,その上で臨床情報を加味して確定診断に至ると書いている。この表はそのようなアプローチにおいて極めて有用であろう。

 また,炎症性疾患の各項では,「病期による所見の違い」という項目も立てられている。これにより経時的変化の把握に弱い病理診断学の弱点を補うことができる。

 「腫瘍性疾患および類症」では,冒頭に「皮膚腫瘍の病理診断の考え方」が書かれている。良性・悪性腫瘍の鑑別の要点,免疫組織化学で用いられる抗体に関するまとめの表や,表皮や付属器上皮細胞の分化所見などをまとめた表が掲載されており,すぐに使えて有用である。

 腫瘍性疾患の各項では,全ての腫瘍にわたって,弱拡大から強拡大まで多数の明瞭な写真が掲載されている。弱拡大でパターンを把握して,強拡大で疾患を鑑別し,確定診断に至ることができるだろう。

 個別の疾患では,「臨床病理相関」の項目が立てられている。これにより,病理→臨床→病理診断確定というプロセスを踏むことができる。「病理診断の決め手」の項目も複数の鑑別診断がある場合には嬉しい。

 しかし,何といっても白眉であるのは,「コメント」の項であろう。目からウロコの落ちるコメントが満載である。

 本書の最後に掲載されている「診断の手がかり」と「用語集」も写真入りできれいにまとめられており有用である。

 本書「皮膚病理診断リファレンス」は他の追随を許さない,究極のリファレンスといえよう。

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