熱血講義!心電図
匠が教える実践的判読法

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心電図の達人とは、心電図だけですべてを語る人ではなく、心電図の異常所見を拾い上げたうえで、患者の訴えと他の所見を総合して病態を把握し、的確な治療につなげられる人のこと。「Vサイン!ABCDE法」をかけことばに、代表的な不整脈・波形異常から病態を考える熱血10講義をクリアすれば、臨床力アップは間違いなし。「小笹流 私はこう読む」でポイントを整理して「確認テスト(解答と解説つき)」を終えるころには、あなたも心電図が読みたくなっているはず。 『熱血講義! 心電図―匠が教える実践的判読法』へのお問い合わせはこちら
執筆 杉山 裕章
執筆協力 小笹 寧子
発行 2019年02月判型:A5頁:400
ISBN 978-4-260-03603-0
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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巻頭言

 本書には『熱血講義!心電図』というタイトルをつけました。心電図のよみ方,活用法を多くの人に伝えたい自らのライフワークの一つにしている活動ですが,そんな私の強い気持ちがまた一つ結晶化しました。通算6冊目にあたる本書のスタイルは,既に上梓した書籍のような会話形式ではなく,僭越ながら私が直接読者の皆さまに語りかけ,レクチャーをするという格好をとっています。

 心電図を勉強中の医学生や研修医,循環器レジデント,さらには,循環器を専門とはしていないけれど,日々の診療で心電図と接する機会の多い実地医家の先生方を主なターゲットに設定しています。ナースや臨床検査技師・臨床工学技士などのコメディカルの方でも,循環器疾患に興味がある人,これからいろいろ頑張っていきたい,そんな熱意のある方に適した読み物です。

 講義は全部で10回。10章のうち,半数の5つを「不整脈」,残り半分を主に「波形異常」から病態を考える内容としました。

 もちろん,毎回,基礎的な内容も解説していますが,全体的に中級レベルとなっており,一部,上級な内容も扱っていて,ワンランク上の循環器診療を目指す方を刺激する意図もあります。

 講義は10回と言っておきながら,実は最後に『第0章』を追加しました。全部で11章(笑)。

 ただ,はじめ(0章)は軽めの準備の章。心電図を見る時,紙一枚のみを眺めるのではなく,その他の情報も統合して考えるクセをつけましょう。魔法の呪文“Vサイン!ABCDE法”は最低限チェックすべき項目を教えてくれます。

 1章のテーマは「心房細動」。最初の講義には,親しみやすい題材を選びました。抗血栓療法やカテーテル治療(アブレーション)など,循環器業界でもホットな分野です。
 R-R間隔・f波(細動波)・心拍数にさえ着目すれば,意外にエイエフ(AF)の診断って簡単なんだなぁと気分を良くして下さい。合間に入れた心拍数を概算する“検脈法”や洞調律を判定する“イチニエフの法則”も参考になるでしょう。後半は“例外”の話。「心房細動なのにR-R間隔がレギュラー」という状況は日常臨床でも散見されますし,長期間続いた“末路”であるファイン心房細動や心房静止という病態は知っておいて損はありません。

 2章は心電図電極のつけ間違いの話題です。皆さん,心電図クイズや試験問題でよく目にするかと思います。
 “事件は試験会場で起きてるんじゃない。臨床現場で起きてんだ!”
 単純なケアレスミスから知識や経験の不足,そして緊急時のパニック・焦りなど,“事件”は思いの外,われわれの周りで頻繁に起きています。“医療ミス”というのは言い過ぎかもしれませんが,間違って記録された心電図を見て診断・方針決定をするのは,別人のプロファイルを見ながら診察をするようなものです。本章では,最も多い上肢の電極の左右取り違えを中心に学んでもらい,自身で正しく記録するのはもちろん,他人のミスに気づいて対処できるようになってもらいたいです。

 3章で扱ったのは「narrow QRS tachycardia」。オリジナルの“ASAP法”を使って,頻拍の読み解き方を解説しています。心房細動と洞頻脈まではいいとして,残りの心房頻拍・粗動と発作性上室頻拍をどう区別していくか。波形その他,少々ハイレベルな話もしましたが,“患者層”に着目すると意外に違いがあって,診断の補助となります。心電図を“総合力”で判読していく力こそ私が最も得意とするもので,その一端を感じてもらえたら最高です。

 4章は私自身の失敗談から「P波の見かた」について述べました。当たり前のようにQRS波の直前に“あるはず”という認識でいると,“自由人”的なP波は時にわれわれを裏切ります。P波は自分から“探す”――普段からそういう心がけでいることが大切なんだと気づいてもらうキッカケになればと,自分の身を削ったレクチャーにしました。あわせて「5mm=1mV」の,いわゆる“ハーフサイズ”で記録された心電図に注意せよ,とのメッセージも読み取ってもらえるのではないでしょうか。

 5章は「wide QRS tachycardia」がテーマ。ここが前半戦最後の“花形”です。
 narrow QRS tachycardiaに比べて患者さんの状態が悪いことが多く,普通は循環器医を即コールでOKとは思いますが,題材にした症例は私が一般内科当直中に経験した方です。つまり誰しも遭遇しうる病態で,一定の知識をもっておくことはアナタの助けになるはず。
 wide QRS tachycardiaは,基本的に「上室性(SVT)かもしれない」と考えるものではなく,「やっぱブイティー(VT:心室頻拍)でしょ」とシンプルに考えればいいことを知って下さい。80%をいかにして100%に近づけるのか,ごくごく限られた時間で判断する手法を,オリジナルの“今日読むタイミングか?”という語呂とともにお届けしています。
 自身でも実践している,全部で1分以内にチェックできる項目を厳選したつもりですが,これでも“too much”と感じる方がいるかもしれません。そういう方は,無理せず,波形云々よりも血行動態や病歴・患者背景を優先させて下さい。
 講義でも強調していますが,中途半端な知識の“生兵法(なまびょうほう)”なら,かえってないほうがマシ。現実世界でwide QRS tachycardiaをどうするか,最後に述べた私なりの“本音”に共感する人がきっと多いと信じています。

 後半戦最初の6章では「房室ブロック」を取り上げています。
 “123分類”のうち,心電図を読むのが一番難しい「2度」を中心に話題を展開しました。
 準備の一環として紹介した「P波の見つけ方」。これは4章にも通ずるところがありますが,オススメの“T-QRS(ライン)法”で始める一連の流れは,不整脈心電図を読みこなすための基本として役立つことでしょう。
 本題の「2度房室ブロック」は,定義の説明が明確になされています。
 また,ウェンケバッハ型とモビッツII型。頻度や危険性など臨床的意義に加えて,心電図でどう区別するのか。それが大切です。PR(Q)間隔をただ素直に前から後に追いかけるのではなく,少し心電図から距離をとって,QRS波が脱落する直前と直後とを比べる俯瞰(ふかん)的な見かたを是非ともマスターしてほしいです。
 「○:○」という「房室伝導比」の概念も理解できたら,もはや皆さんは“房室ブロック・マスター”かも。本章を何度か読めば,難しく敬遠されがちな内容もスカッと理解できるでしょう。
 なお,本当は「補充収縮・調律」も取りあげたかったのですが,紙面の関係で断念しました。また,別の機会を狙ってみようと思います。

 7章では「肺塞栓と心電図の関係」が議論されています。“肺塞栓の心電図所見”を改めて整理してみると,10個近くあるんです。
 私が今よりもずっと若く,循環器病学を学びたての頃,ずいぶんとこの所見たちの暗記や理解に苦しめられました(笑)。
 シーテフ(CTEPH)と略される,やや特殊な疾患を選んで肺塞栓の心電図所見を解説している点もユニークだと思います。
 続いて典型例とともに,心電図所見に乏しい中年女性の例を取り上げることで,話は佳境へと突入します。最も有名であろう「S1Q3T3(SIQIIITIII)パターン」をはじめ,どれ一つをとっても肺塞栓に特異的な所見はないのだという“心電図屋”としては若干悔しい結論に着地したのも,前から伝えたかった点です。肺塞栓という疾患では,ウェルズ(Wells)スコアしかり,バイタルサイン,理学所見や背景疾患や血液検査(Dダイマー)などのほうが重要で,心電図はあくまでも“脇役”なんだという認識が伝わる“正直”な講義構成としたつもりです。

 8章は胸痛をきたす急性疾患の話からはじめて,いわゆる“ステミー”(STEMI:ST上昇型心筋梗塞)が本題です。ここも臨床心電図学の“花形”の一つですね。
 ST計測のしかた,方向性(“方角”)を意識した誘導セットと左室壁との位置関係など基本を解説した後,最後の最後で“死角・盲点”となりやすい左室「後壁」の心筋梗塞はどんな心電図になるかを扱います。
 通常は心電図の電極を貼らない背中側の誘導を,前側に映ったミラー イメージ(鏡面像)から推察するという,初心者にはトリッキーに思える手法も,よくよく説明を聞けば理解できると思います。最後に,実際の後壁がらみのステミー症例を2つ用意したので,知識の総括に利用して下さい。これも私が“いつか・どこかで使いたい”と思っていた印象的な症例です。

 残る2つ。9章のテーマは「電解質の心電図」。なかでも,頻度も高いカリウムを題材に取り上げました。
 血中カリウム値が高い場合と低い場合,それぞれで出現しうる心電図所見について,実例を用いた解説をしています。実は,こんな例のほうが少ないんです。探すの大変だったんだから。皆さん,うすうす気づいてるとは思いますが,感度・特異度的な観点から言っても,“そうじゃない”例のほうがきっと多いはずなんです。
 世間では,「テント状T波」をはじめ,とかく波形異常とカリウム値の高低をリンクさせてとらえがちな点にも喝!不整脈との関係も意識せよとの論調にしました。高カリウムも低カリウムも,おおまかな重症度と波形異常,不整脈をまとめた2つの図は秀逸だと思うので,是非とも参考にして下さい。もちろん,これは絶対的なものではないことにもご注意下さい。でもね,知識として知っていて絶対に損にはなりませんからね。
 基本コンセプトは7章の肺塞栓と同じ。やっぱ電解質異常は採血するのが一番だよと,ここでも“心電図屋”らしからぬ私の素直なメッセージを感じとって下さい。本章で学んだ後,心電図所見からカリウム値を推定しようとする人は“モグリ”です(笑)。

 そして,最後の10章。
 R-R間隔が整(レギュラー)なwide QRS tachycardiaは5章で扱いましたが,稀ながら不整(イレギュラー)なパターンもあるんです。
 “心房細動+α”の+αは「心室内変行伝導」や「WPW症候群」など,非専門医にはややハードルが高いのではと思います(だからファイナルの章で扱った)。特にWPW症候群の患者さんに心房細動が起こるケースは「偽性心室頻拍」とも呼ばれ,時に血行動態の破綻を伴います。治療法も含めて一度キッチリ聞いておけば,とっさの判断に役立つのではないでしょうか。


 既に上梓した著作も含め,多くのテキストでは「推薦のことば」が巻頭にあることが多いと思います。でも今回は,それをあえてやめました。これも新しい“試み”かもしれません。

 とにかく“単一著者”にこだわって執筆してきたため,巻頭でも自分自身の言葉で“水先案内”をするほうが良いのではないか,純粋にそう感じたからです。ですから,巻頭言で1~10章のすべてに自分なりの“講評”をつけました。少し“しゃべり過ぎ”な感もありますが,本書を読み始める前,そして読み終わった後に見返していただくと要点が整理しやすいかと思います。

 ただ,正確に言うと,本書の著者は“単一”ではありません。盟友である小笹寧子先生に参加いただいているからです。

 各章の感想やポイントを解説いただいただけでなく,原稿や章末の確認テストの細部にまで目を通していただき,たくさんの有益な御教示をいただきました。超ご多忙の中の図々しいお願いであり,「執筆協力」というクレジットだけでは足りない気もしています。

 小笹先生は,京都,いや国内で既に押しも押されぬ心臓リハビリテーション,そして心不全の第一人者です。私と同じ循環器の専門医ながら,平素から不整脈専門医とは異なった視点で心電図に接しておられる点が魅力的でした。

 私が得意とする心電図判読や不整脈の教育・啓蒙に関して,広い視点で有機的に語り合える医師仲間はにわかに見つけがたく,京都でお願いするなら,小笹先生以外には考えられませんでした。

 医学書院の中根冬貴氏にも,企画,執筆の各段階からお世話をいただきました。2017年秋に久しぶりに横浜で再会して,今回の企画の骨子が固まりました。20万字・150点を超える原稿や図表の作成は一筋縄ではいかない“苦行”でしたが,温かい励ましや的確なアドバイスをいただけて嬉しかったです。私のワガママで仕事をせかしてしまったこともお詫びします。また,同社制作部の高口慶輔氏への感謝の意もここに忘れずに記したいと思います。循環器,特に心電図や不整脈に関する執筆においては一切の妥協を許さない,普通の著者とは一線を画す私の姿勢が大きなプレッシャーとなったことは否定しません。ただ,同氏の努力で初校に比べて驚くほど“進化”した形で完成の運びとなりました。中根・高口両氏の頑張りなくして,本書の完成はなかったでしょう。そう言えるくらいの“プロの仕事”だと思います。
 また,破天荒な私を陰でずっと支えてくれる家族にも感謝したいと思います。関西に来て,右も左もわからず心細い毎日を送っていた私にとって,妻や我が子,義父母や義兄・姉や姪っ子たちは,自身の両親・妹などとともに皆かけがえのない存在です。

 そして最後に。題材として取り上げさせてもらった方だけでなく,すべての患者さまは私にいろいろなことを教え,そして気づかせてくださる最高の“教科書”です。これからも真摯な態度で医療の道に精進してゆきたいと思います。

 春を待つ京都北山より
 杉山 裕章

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0章 Vサイン!ABCDEと唱えよう 心電図だけで考えるなかれ
 心電図“以外”を見なきゃ
 “Vサイン!ABCDE法”見参
 Vサイン――何と言ってもまずはコレ
 Ageの「A」――年齢
 Backgroundの「B」――背景疾患
 Complaintの「C」――主訴+冠危険因子
 Drugの「D」――服用薬剤
 ECGの「E」――やっぱり心電図
 まとめ
  小笹流 私はこう読む――0章

1章 心房細動いろいろ スタンダードから“例外”を学ぶ
 不整脈の“筆頭”としての心房細動
 ベタな症例が一番
 チェックは3つだけ!
 診断ポイント① R-R間隔が不整
 診断ポイント② 頻脈(拍)傾向
 心房細動の心拍数計算検脈法のススメ
 心房細動での心拍数表現はザックリ
 洞調律を知れ――“イチニエフの法則”で簡単チェック
 診断ポイント③ 洞性P波がない代わりのf波
 f波の見つけ方
 前半戦のまとめ
 例外① R-R間隔が整な心房細動
 どうしてレギュラーになるの?
 例外② 頻脈じゃない心房細動
 例外③ f波がない心房細動
 さいごに
  1章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――1章

2章 電極のつけ間違いにご注意 一歩間違えば“医療ミス”
 見慣れない技師の名前
 こう聞かれたらわかるかも?
 まずは正しく電極をつけよう
 右手⇔左手のつけ違い
 右手⇔左手ミスを疑うヒント所見
 右胸心だけ除外すべし
 冒頭の症例で確認しよう
 その他のつけ違い①――足電極の左右
 その他のつけ違い②――手電極と足電極
 胸部誘導のつけ違い①――肋間のズレ(高さ間違い)
 胸部誘導のつけ違い②――色間違い
 電極ミスの防ぎ方
  2章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――2章

3章 narrow QRS tachycardiaセミナー開講 “ASAPメソッド”で考えるクセを
 不幸な患者さん
 はじめにVサイン!ABCDE法から
 鑑別すべき頻拍リスト――“ASAP法”
 まず心房細動の“A”――不整脈の王様
 洞(性)頻脈の“S”――原因にも思いを馳せる
 残り2つは心電図以外がキメテ
 心房粗動と心房頻拍について――2つ目の“A”
 心房粗動の伝導比もカンタン
 2:1伝導だから難しい
 心房粗動=整(レギュラー)はウソ?
 「粗動か頻拍か」問題
 残った発作性上室頻拍――“P”には何の特徴もなし
 冒頭症例の顛末
 さいごに
  3章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――3章

4章 P波の正確な認識ってダイジ イチニエフと唱える前に
 とっておき(!?)の失敗談
 クセモノ!術前コンサルト
 症例提示:Aさん
 心電図どうでしょう?
 いつもの手順で――調律わかりますか?
 心電図のスケールに注目
 検査室からの電話
 反省から見えた課題
 誰もがはまる“落とし穴”かも?
 最後の教訓
  4章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――4章

5章 実例で学ぶwide QRS tachycardia 理想と現実の狭間で
 患者さんは突然に
 wide QRS tachycardiaの可能性
 私はこう考える①――心電図以外の情報から
 私はこう考える②――心電図のみかた
 はじめの症例に戻って
 種明かしと実際の対応
 現実世界ではどうなの?
 全体のまとめ(総括)
 最後のさいご
  5章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――5章

6章 房室ブロックの正しい理解 “真ん中”が一番ムズい?
 相談からはじまるストーリー
 房室ブロックの“分類”わかってます?
 悩んだら心電図は長くとれ
 P波は“ある”んじゃない――“探す”んだ
 房室ブロック心電図の本質
 2度房室ブロックはこう理解せよ
 2度房室ブロックの“その先”機序までわかれば満点
 ウェンケバッハとモビッツの心電図の特徴
 幻のモビッツII型
 素直に“前から見る”なかれ
 ○:○は房室伝導比と理解せよ
 答え合わせ――はじめの症例はどう考える?
 まとめ――理想の先輩像とともに
  6章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――6章

7章 肺塞栓症における心電図の立ち位置 “脇役”に過剰な期待するなかれ
 肺塞栓の心電図所見とは?
 肺塞栓の心電図の特徴
 慢性血栓閉塞性肺高血圧に学ぶ
 実際のCTEPH症例
 残った所見――特にS1Q3T3パターン
 肺塞栓症例1(81歳,女性)どう考える?
 なんちゃらスコア多すぎ!
 肺塞栓症例2(45歳,女性)どう考える?
 この後どうなった?――転帰
 肺塞栓は頭に思い浮かべてナンボ
 肺塞栓の心電図まとめ
  7章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――7章

8章 ステミー(STEMI)心電図の落とし穴 “死角”まで見通す目を養え
 胸痛の患者さんに出会ったら
 どの疾患が大事?――やっぱ心筋梗塞?
 急性冠症候群の病態と診断
 ST上昇の読み方
 12誘導の意義再考――方角で考える
 心筋梗塞の部位診断
 “死角”の後壁どうする?
 反対側にも映ってます――対側誘導
 後壁を“鏡越し”に見よ
 実際の症例――その1(難易度:★★)
 実際の症例――その2(難易度:★★★)
 最後のまとめ
  8章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――8章

9章 電解質異常と心電図の関係 イオンのことは血に聞くべし本音を語る
 一度は覚えたはず?
 カリウム異常と重症度
 カリウム値のみで判断するなかれ
 高カリウム血症の心電図
 高K血症の心電図――典型例(その1)
 高K血症の心電図――典型例(その2)
 テント状T波と述べる時は慎重に
 テント“級”T波は巷にゴロゴロ
 文献に見る高カリウム心電図の“真実”
 低カリウム血症の心電図
 QT間隔チェックをおさらい
 低K血症と不整脈
 カリウム値がさほど低くなくても
 いざ実践!低K血症――典型例
 もう一つの典型例(低K血症)
 “そうじゃない”例もあるんです
 最後のまとめと“結論”
  9章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――9章

10章 変わり種のwide QRS tachycardia R-R不整なワイド頻拍で考えること
 ただならぬ雰囲気
 これってwide QRS tachycardia?
 患者のバックグラウンド――“Vサイン!ABCDE法”
 カワリダネ特有の鑑別診断
 (心室内)変行伝導という概念
 なぜいまWPW症候群?
 心房細動・粗動が危険となる理由
 治療どうしますか?
 悩みに悩んで出した結論と転帰
 おわりに
  10章の確認テスト
  解答例とコメント
  小笹流 私はこう読む――10章

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引き込まれるように心電図の世界に織り込まれていく
書評者: 中川 義久 (滋賀医大教授・循環器内科)
 心電図学習に目覚め,確実に判読できるようになりたいと志す者は多い。しかし,その多くは挫折し,心電図が嫌いになり去っていく。そのような迷える子羊に希望を与えてくれる素晴らしい書籍が登場した。その名も『熱血講義! 心電図―匠が教える実践的判読法』である。心電図の初学者を対象とした書籍は多い。本書は従来のどれとも明らかに異なる。一言で言えば「熱い!」のである。これでもかと,微に入り細に入りわかりやすく解説する著者の杉山裕章氏の情熱がダイレクトに伝わってくる。退屈することなくページがどんどん進んでいく。ウーン,素晴らしい!

 書名には「熱血講義!」,「匠が教える」といった魅力的なキャッチコピーが躍っている。『人は見た目が9割』などキャッチーなタイトルの書籍も存在する。まさに「書名は見た目が9割」である。本書のタイトルは内容の充実度に見合うもので,決して過剰な表現ではない。「匠」とは,優れた技術を持った職人を指す言葉である。著者の杉山氏は,まさに心電図判読の「匠」に相応しい技を惜しげもなく皆に開示している。説明には,「杉山流かけことば」と命名された記憶しやすい呪文が散りばめられている。正常心電図の洞調律の定義の項での「イチニエフの法則」などが好例である。こういった躍動感あふれる「かけことば」によって,心電図学習は難しいという敷居の高さを解消し,読者を楽しい世界に引きつけていく仕掛けである。さらに,執筆協力者の小笹寧子氏による「小笹流 私はこう読む」というコラムが本書の活力を高めている。斬新な切り口のコメントが多く,単調に陥りがちな心電図学習にアクセントを与えている。著者の「杉山流かけことば」が経糸(たて糸)となり,執筆協力者の「小笹流 私はこう読む」が緯糸(よこ糸)となって,心電図学習という強靭な布地を構成している。心電図への苦手意識を抱いていた者も,引き込まれるように心電図の世界に織り込まれていくのである。執筆者と執筆協力者の目的意識と情熱が融合することによって誕生した,まさに「熱い!」一冊が本書である。本書の成功の鍵は,著者が,この素晴らしい協力者を得たことであろう。

 本書は,心電図学習をはじめようとする入門者に最適であることは当然である。そして,1つ上のレベルでの理解を求める者,さらには心電図判読法を初学者に教えるべき立場にいる者にもお薦めしたい。なぜなら,本書を通読することによって心電図のベストティーチャーへと成長できるからである。さあ皆さん,熱血講義に参加して,「匠」の技に触れてみませんか。「熱い!」一冊だけに,ヤケドにご注意あれ。
患者を前にして心電図をいかにひもといていくかがわかる,世界一受けたい授業
書評者: 佐田 政隆 (徳島大大学院教授・循環器内科学)
 心電図はWillem Einthoven先生が100年以上前に発明し,ノーベル賞受賞につながった素晴らしい医療機器である。その当時とほぼ変わらない記録法であるが,超音波,CT,MRIなどが発達した現代であっても,聴診器と並んで,日常診療には欠かすことができず,多くの情報をもたらしてくれる。しかし,その「読影」にはチョットしたコツが要り,「心電図は苦手」という学生,研修医や循環器非専門医の声をよく聞く。

 本書の著者である杉山裕章先生も「心電図は元々大の苦手」だったそうであるが,誰よりも心電図を愛し,悩み苦労しながら,周りの大家の意見を参考にして,「匠の技」を磨いていったことが本書でよく理解できる。

 大体の心電図の教科書は,心電図の原理,刺激伝導系の解説から始まり,それぞれの波の意味や不整脈,虚血の心電図について解説されているが,本書は全く違う。どのような状況で,その異常心電図の波形を手にして,著者が,患者と心電図のどこをどのように診て,診断していったかが詳細に解説されている。中には,初診時に誤って診断して,どのようにして正解にたどり着いたかについての体験談もある。いろいろな鑑別診断が考えられる中,ヒヤヒヤしながら抗不整脈薬を注射して,自分の読み方が正しかったとわかりホッとする状況が臨場感をもって記述され,親しみが持てる。診断の遅れが生命予後を大きく左右するST上昇型急性心筋梗塞や肺塞栓なども,患者を前に心電図をいかに生かしていったかがよく理解できる。また,電極のつけ間違いに関しても丸々1章を割いて対処法が解説されているのも驚いた。ほとんどの心電図学の教科書にはまず書いていないが,実臨床では時々遭遇し対応が必要な「異常心電図」である。

 本書は,0章から10章までがオムニバス形式で書かれており,どこから読んでも,各章ごとで完結することができる。巻頭言に「すべての患者さまは私にいろいろなことを教え,そして気づかせてくださる最高の“教科書”です」と書いてあるように,患者に真摯に向き合い,心電図を奥深く読んでいく,著者の日常臨床が垣間見られる。私も,ハラハラドキドキしながら,思わず一気に読み上げることができた。

 本書には,いろいろなところに他の教科書には見られない工夫がされているのも特徴である。一枚一枚の心電図にはQRコードがついており,高解像度でダウンロードできることもありがたい。また,各章の後ろには確認テストが用意されていて,理解を深めることができる。そして,各章,小笹寧子先生の「小笹流 私はこう読む」という別の循環器内科医としての所感を読むことができることも興味深い。

 全ての章が平易な言葉と非常にわかりやすい図で解説されており,まさしく,患者を前にして,心電図をどのように読んでいくべきかについて熱血講義を受けていることを実感できる型破りの心電図教科書である。心電図を苦手に思っている人にも,心電図に自信がある人にもお薦めの名著である。本書を読んだ後は,全ての読者がより心電図を愛することになるであろう。

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