体験学習の展開

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本書では、人は体験からどのように学ぶのか、体験から大きな学びと深い記憶が生じるためにはどのような支援が必要なのか、その原理を丁寧に記しながら、看護教育で行われる体験学習を効果的に支援する方策を紹介する。本書は臨地実習だけを体験学習ととらえず、ロールプレイやシミュレーション教育、さらには学校行事など学生のあらゆる体験を学習の場とし、そこからの学びを促すために教員に何ができるのかを考えている。
*「看護教育実践シリーズ」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 看護教育実践シリーズ 5
シリーズ編集 中井 俊樹
編集 高橋 平徳 / 内藤 知佐子
発行 2019年08月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-03920-8
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって(中井俊樹)/はじめに(高橋平徳・内藤知佐子)

「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって

 看護教員を対象とした研修を担当すると,参加者の教育に対する情熱に圧倒されることがあります。学生が就職してからも困らないように,教室の内外においてさまざまな試行錯誤をしていることがわかります。教育に対する思いや情熱は最も重要なのかもしれません。しかし,思いや情熱だけでは効果的に教育することはできません。
 「看護教育実践シリーズ」は,看護教育に求められる知識と技能を教育学を専門とする教員が中心となって体系的に提示することで,よりよい授業をしたいと考える看護教員を総合的に支援しようとするものです。つまり,教育学という観点から,看護教員の情熱をどのように学生に注げばよいのかを具体的にまとめたものです。
 読者として想定しているのは,第一に看護学生を指導する教員です。加えて,看護教員を目指す方,看護教員の研修を担当する方,病院で看護学生を指導する方にも役立つと考えています。看護分野の授業文脈で内容はまとめられていますが,他分野の医療職教育などにかかわる方にとっても役立つ内容が含まれています。
 看護教育のシリーズ本はこれまでにも刊行されてきました。医学書院で刊行された「わかる授業をつくる看護教育技法」や「看護教育講座」のように看護教育の方法を体系的にまとめたシリーズ本です。これらは,看護教員の教育実践の質を高めることに大きく寄与しました。本シリーズは,これらの貴重な成果を踏まえ,近年の教育学や看護教育学の理論と実践の進展に対応することで,新たな形にまとめたものです。
 本シリーズは全5巻で構成されています。『1 学習と教育の原理』『2 授業設計と教育評価』『3 授業方法の基礎』『4 アクティブラーニングの活用』『5 体験学習の展開』です。それぞれが,1冊の書籍としても読めるようになっていますが,全5巻を通して読むことによって看護教育の重要な内容を総合的に理解できます。
 本シリーズを作成するにあたって,各巻の全執筆者との間で執筆の指針として共有したことが3点あります。第一に,内容が実践に役立つことです。読んだ後に授業で試してみたいと思うような具体的な内容を多数盛り込むようにしました。第二に,内容が体系的であることです。シリーズ全体において,看護教育にかかわる重要な内容を整理してまとめました。第三に,内容が読みやすいことです。幅広い読者層を念頭に,できるだけわかりやすく書くことを心がけました。つまり,役立つという点では良質な実用書であり,網羅するという点では良質な事典であり,読みやすいという点では良質な物語であるようなシリーズを提供したいと考えて作成しました。
 本シリーズが多くの読者に読まれ,読者のもつさまざまな課題を解決し,看護教育の質を向上させる取り組みが広がっていくことを願っています。

 「看護教育実践シリーズ」編集 中井俊樹


はじめに

 私たちは日々何かを体験し,それをもとに考え,自分自身をつくっています。読者の皆さまも看護師として,教育者として,また1人の人間として,体験を重ね,今のあなたをつくられているでしょう。そして看護教員として,学生にも豊かな体験を与え成長してほしいと考えて教育に取り組んでおられるでしょう。
 看護職の養成においては,古くから演習・実習という実際に自分自身で体験して学ぶ機会が,ほかの学問分野よりも重視されてきました。しかし,そもそも体験学習とは具体的にどのようなもので,どのように実践していけばよいものでしょうか。体験学習の重要性を実感していながらも,いざ説明や実践となると戸惑われるのではないでしょうか。どのようなことを重要視し,どのようなことに気をつけて行えば学生にとってよりよい学習をもたらすことになるのかと思っておられるでしょう。また,現在体験学習に取り組んでいるけれども,はたしてこれでよいものか,より効果的にはできないだろうかと考えてもおられるでしょう。
 本書では,体験学習の基本的な考え方をおさえ,より効果的に看護教育での体験学習を行えるよう,考え方の枠組みの整理や,具体的な体験学習の準備・実施・評価をするための方法を紹介しています。
 編者の高橋が普段取り組んでいる幼・小・中・高・特別支援学校の教員養成の世界でも,体験学習は重要視されています。3,4学年に2~4週間行われる教育実習はもちろんですが,いじめや不登校についてより深く考えるため,児童生徒や保護者の立場でロールプレイをしたり,児童生徒の問題行動への対処や,保護者からの要求への対応の方法をシミュレーションによって学ぶ活動が多く取り入れられています。また近年特に,学校現場で行う学生の体験学習が強く奨励され始め,教育実習として学年が上がり教員になる直前にはじめて児童生徒にかかわるのではなく,1,2学年のうちから児童生徒にかかわる体験を重ねる「学校体験活動」や「学校インターンシップ」が文部科学省から奨励されています。
 今回,看護教員を対象とした本書を編んでいく過程で,改めて看護職養成と教員養成には似たところがあることを感じています。1人ひとりのことを大切に考え行動できること,しっかりとした知識と技能をもって,さらに自身の体験を振り返りながら学び続けられる専門職であること,そして,患者であれ子どもであれ,その人自身の人生が生きられるよう,寄り添い支えられるようになること。そうした人材を育てるのはなかなか簡単ではありませんが,体験を通して実感し,自分自身をつくっていく体験学習には,そうした人材を育てていく可能性が強くあることを確信しています。
 本書のタイトルに「展開」という言葉を使っているのは,「進展させていく」「発展させていく」という思いも込めているためです。体験は積み重ねてよりよい自分をつくっていくものです。体験学習もそのとき一度では終わらず,教員自身も振り返って改善し,よりよいものとして展開させていくものです。学生も教員も体験学習を通してお互いに,よりいっそう自身を高めていっていただきたく思います。
 本書は,これから体験学習を実践される方にも,今実践されている方がよりよく改善させていくためにも参考になる内容になっていると思います。本書がよりよい学生の体験学習を展開させる一助になることができればこれ以上の幸いはありません。
 本書の刊行にあたり,多くの方々からご協力をいただきました。嶋﨑和代氏(中部大学),服部律子氏(奈良学園大学),森千鶴氏(筑波大学)には,コラムをご執筆いただきました。吾郷美奈恵氏(島根県立大学),加地真弥氏(岡山理科大学),小林忠資氏(岡山理科大学),近藤麻理氏(関西医科大学),常盤文枝氏(埼玉県立大学),富田英司氏(愛媛大学),野本ひさ氏(愛媛大学),松尾睦氏(北海道大学),水方智子氏(松下看護専門学校),屋宜譜美子氏(前 了徳寺大学),山口乃生子氏(埼玉県立大学),山本容子氏(関西医科大学),横山千津子氏(松山看護専門学校)には,本書の草稿段階において貴重なアドバイスや各種資料を提供していただきました。また,濱口愛美花氏(前 愛媛大学教職大学院学生),野村夏奈氏(前 愛媛大学医学部看護学科学生)には,資料の作成や書式の統一などにご協力いただきました。そして,医学書院の藤居尚子氏,木下和治氏,大野学氏には,多岐にわたる有益なアドバイスを伺うことができました。この場をお借りして,ご協力いただいた皆さまに御礼申し上げます。

 2019年7月
 編者 高橋平徳・内藤知佐子

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「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって
はじめに
本書の構成と使い方

第1部 体験学習の理論と特徴
 1章 体験学習の意義を理解する
  1 体験学習の起源をたどる
   1 為すことによって学ぶ
   2 行うことではっきりわかる
   3 滲み込み型の教育を理解する
  2 体験の特徴を理解する
   1 体験とは何か
   2 3種類の体験を理解する
   3 体験には連続性がある
   4 体験では周りとの相互作用が生まれる
   5 体験は個人によって意味が異なる
   6 体験は非日常的である
  3 体験学習とその効果を理解する
   1 振り返りを通して体験が学習になる
   2 体験で知識を深める
   3 体験で技能を高める
   4 体験で態度を養う
   5 体験で課題対応能力を高める
   6 体験で自己管理や社会性のスキルを高める
 2章 体験学習の原理を理解する
  1 基盤となる学習観を理解する
   1 自ら行い学び高めていく
   2 学習者中心主義の教育
  2 体験を積み重ね能力を高めていく
   1 専門家の能力開発のモデル
   2 実践することで深い理解を促す
   3 できるようになることを目指す
   4 技能を習得する
   5 体験を学習に変えるサイクル
   6 アンラーンによって持論を捨てる
  3 他者とかかわり合って能力を高めていく
   1 かかわり合って学ぶ
   2 人は集団のなかで学ぶ
   3 人とのかかわりで認識が変容する
   4 協力し合えばより高い学びが得られる
   5 専門が違う人から学ぶ
 3章 体験学習を促す教育方法を理解する
  1 体験学習を促す指針を理解する
   1 最終的には自律して学べるようになること
   2 次の世代の担い手を育てる
   3 学生を信じて任せる
  2 体験学習を促すための理論を理解する
   1 1人でできるように段階を踏む
   2 背伸びする機会を与える
   3 没頭する課題を与える
   4 振り返りを上手に支援する
  3 体験学習における教員の役割を理解する
   1 教員は幅広い役割を担う
   2 学び合う同行者でもある

第2部 体験学習の方法
 4章 体験学習を計画する
  1 体験学習を計画する意義
  2 学びにつながる体験を計画する
   1 カリキュラムでの位置づけを確認する
   2 学習目標を設定する
   3 評価方法を決める
   4 教育資源を確認する
   5 スケジュールを決める
   6 補助教材を準備する
   7 リスクを想定する
   8 学生が計画に参加する
  3 協力者との連携を深める
   1 学習目標や活動内容を共有する
   2 学生の状況を共有する
   3 役割を明確にする
 5章 振り返りを通して学習する
  1 振り返りを理解する
   1 振り返りの重要性を理解する
   2 振り返りは前向きに行う
   3 振り返りの意義を理解する
  2 効果的に振り返りを促す
   1 リフレクティブサイクルに沿って支援する
   2 言葉にすることを支援する
   3 学生の様子を観察する
   4 個々の学生にあわせる
   5 体験からの学びを理論的枠組みと結びつける
  3 記述によって振り返りを導く
   1 記録シートを活用する
   2 リフレクション・シートを活用する
   3 プロセスレコードを活用する
  4 グループでの振り返りを導く
   1 グループで振り返る意義を理解する
   2 発表会を活用する
 6章 コーチングで体験学習を支援する
  1 体験学習におけるコーチングの意義
   1 コーチングは体験学習と相性がよい
   2 指導にコーチングを取り入れる
  2 学生が話しやすい関係を築く
   1 ラポールを形成する
   2 学生が話しやすい環境をつくる
   3 学生の話をしっかり聞く
   4 学生の言動を承認する
   5 非言語コミュニケーションを読みとる
  3 コーチングによって体験からの学びを促す
   1 さまざまな発問を活用する
   2 リフレーミングで前向きな気持ちに変える
   3 教員の提案を伝える
   4 目標に向けて実行を決心させる
 7章 シミュレーションを通して学習する
  1 シミュレーションの特徴を理解する
   1 シミュレーション教育とは
   2 意味づけされた行動を促す
   3 臨床現場を再現した環境で学習する
   4 シミュレーション教育の類型を理解する
   5 シミュレーション教育は3つのパートで構成する
  2 シミュレーションを準備する
   1 作成するシナリオの質を高める
   2 学習要素を焦点化する
   3 患者を設定する
   4 事前学習を決定する
  3 シミュレーションを実施する
   1 学習環境を整える
   2 ブリーフィングで方向づける
   3 シミュレーションを開始する
   4 デブリーフィングで学習を深める
 8章 ロールプレイを通して学習する
  1 役割を与えられると人は気づく
   1 ロールプレイとは
   2 役割を演じる意義を理解する
   3 観察者にとっても意義がある
  2 ロールプレイの場面を設定する
   1 学生ができる役を理解する
   2 場面設定を明確にする
   3 実習での場面を再現する
  3 ロールプレイを実施する
   1 登場人物と配役を決める
   2 役割を演じることに集中させる
   3 実演させる
   4 振り返りで学習を深める
   5 ロールプレイで学んだことを整理する
 9章 臨地実習の体験を通して学習する
  1 臨地実習はどのような体験学習なのか
   1 本物体験ができる
   2 背伸びする体験で成長する
   3 安全安心な場づくりが求められる
  2 他者とのかかわりから学習する
   1 患者との意図的なかかわりをみせて学習を支援する
   2 患者との関係性を築き患者の本質をとらえる
   3 患者との関係性を調整し,求められている看護を見いだす
   4 学生の思いを患者に伝える
   5 さまざまな医療従事者との関係から学習する
   6 地域における実習から学習する
   7 個人情報の取り扱いを徹底する
  3 1人でできることを目指す
   1 熟達者を見学する
   2 言葉で指導する
   3 支援のもとで実践する
   4 段階的に支援を減らしていく
  4 現場の体験を振り返る
   1 学生の感情を受け止める
   2 学習効果を高める振り返りを支援する
   3 よかった点から伝える
   4 カンファレンスで振り返る
   5 実習記録を通して振り返る
 10章 体験を通して幅広い成長を促す
  1 体験の場は授業に限らない
   1 授業外にも体験の場がある
   2 授業外の体験を学びにつなげる
   3 複数の体験から学ぶ
  2 体験学習でキャリア意識を高める
   1 看護職のキャリアを知る機会をつくる
   2 ロールモデルをみつける
   3 自分自身を知る体験を準備する
   4 キャリアアンカーについて考える
  3 社会人としての資質を身につける
   1 学生は幅広い側面で成長する
   2 社会人として求められるスキルや態度を身につける
   3 看護職としての市民性を育成する
  4 学び方を学ぶ機会を与える
   1 学び方を学ぶ意味を理解する
   2 知識の生成方法を習得する
   3 自律的な学習者を育てる

付録 授業に役立つ資料
 1 シミュレーションガイドの例
 2 ロールプレイのシナリオの例
 3 実習指導要項(一部)の例
 4 用語集

参考文献
執筆者プロフィール
索引

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生涯学び続けられる人を育てるための参考に
書評者: 鈴木 啓子 (名桜大教授・看護学)
 本書は看護基礎教育における豊かな感性と実践知を育むための体験学習についてコンパクトにまとめられている。大きく2部構成になっており,第1部では,体験学習の起源,特徴,理論的枠組みが非常にわかりやすく整理されており,われわれ看護教員がすでに日常的に実践している体験学習の理論的な背景をあらためて理解する上で役立つ。また,第2部は体験学習を実際に行う際に欠かせない計画,必要資源および環境の準備,振り返りの具体的方法,コーチングによる学生への関わり方が丁寧に,しかも読みやすくまとめられており,忙しい教員にとってはどこから読んでも活用しやすい構成になっている。

 授業に対して学生が,「あまり興味がなくても単位を楽にとれる授業がよい」(54.8%),体験学習より「教員が知識・技術を教える講義形式の授業が多い方がよい」(83.3%)とする割合は高い(ベネッセ教育研究開発センター,2012)。評者も学生時代に実習終了後提出したレポートに「反省美人にならないように」との教員からのコメントに,どきりとしたことを今も覚えている。「教師の喜びそうなことを書いておけば,文句も言われまい」くらいに考えていて,自分自身と向き合っていなかったのだ。このような学生の傾向を踏まえた上で,体験学習の主人公である学生が自らの学びに意欲的に,責任をもって取り組める仕組み作りが必要である。

 本書では,そのための教員の役割を「ともに旅をする仲間」すなわち同行者とし,その重要性を述べている。教員が実際に同行する臨地実習は,毎回が一つの小旅行ともいえる。そこでは,時に学生が想定された枠を越えた学びを得ることがあるが,それこそが体験学習の醍醐味といえる。このような実習における「主体的で深い学び」(ディープアクティブラーニング)は,学生にとってはもちろんのこと,かかわる教員,臨床指導者にとっても看護の可能性や奥深さをあらためて実感させてくれる。このような学びが起こる看護における体験学習の可能性や広がりについてはさらに知りたいと思う。

 また,体験学習の振り返りが「未来志向のプロセス」であるとの本書の指摘により,振り返りによって自分の可能性にチャレンジできる学習意欲を高めることにもつながることを再確認できた。

 看護は実学であり,看護基礎教育において体験を通して学習することは,ナイチンゲール以来本質的には変わっていない。評者も長く教員として看護基礎教育に携わっているが,当たり前のように実践してきた自身の教育活動について,今回,本書を通して振り返ることができた。指示された課題をこなす受け身の学習から,自分に必要なことを見極め生涯学び続けることのできる学習者として学生の成長を支える教員にとって,本書はその基礎から実践方略まで簡潔に明確に示した好書といえる。
豊かな体験をしてほしい、と願う看護教員へ(雑誌『看護教育』より)
書評者: 高塚 由香里 (ハートランドしぎさん看護専門学校)
 「豊かな感性」と「臨床の知」を育む看護学生にとって、経験が非常に大きな意味をもつといえます。経験はそれぞれの体験に意味づけがなされて蓄積されていくことや、体験には実感・発見・感動があることに鑑みると、学生にとってのより豊かな体験を意図的に準備することが、私たち教員には求められます。

 看護実践能力の育成のために、体験の機会を多くもち、振り返りを充実させることの必要性は常に言われており、看護教育の現場においてさまざまな体験学習の方法が活用されています。そのなかでも、臨地実習は代表的な体験学習の場であり、患者・家族・他の医療従事者の方々とのかかわりから学習を深めることのできる最も貴重な体験です。しかし、やり直しのきかない本物の体験であり、リスクを伴うことになるため、多くの学校では事前にロールプレイやシミュレーションを実施しています。私の勤務する看護学校においても、ロールプレイやシミュレーションによる演習を体験することで、学生は安全を保障された環境のなかで自身の行動のイメージができ不安の軽減につながっているようで、必要な学習方法であると実感しています。

 本書は、第1部で体験学習の理論をふまえてその意義や特徴の理解を得て、第2部で体験学習の具体的方法を学ぶという2部構成になっています。また、付録ではロールプレイのシナリオやシミュレーションガイドなどが掲載されており、具体的な教員用実施要項があるため、授業案を作成する際の参考書としても活用できることと思います。

 第2部の体験学習の方法では、計画や振り返りについて詳しく述べられているとともに、シミュレーション、ロールプレイ、臨地実習という代表的な体験学習について実践に役立つように整理されています。さらに、第10章では「体験の場は授業に限らない」として、学生のカリキュラム外のさまざまな体験全体を広く学習の場ととらえて成長を支援する準正課教育についても示されています。「単位にかかわる授業だけを学生の学習経験ととらえるのではなく、学生のさまざまな経験全体を広く学習の場ととらえて、成長を支援するのです」という著者の考えは、自由度の少ないカリキュラムのなかにあっても、学生に広い視野をもって豊かな体験をさせたいという思いが伝わってきました。私自身も、学校行事やボランティア活動などの学生のあらゆる体験が看護師になるうえで貴重であると確信していますので、とても共感しながら読み進めることができました。

 「未来の看護を担う看護学生に豊かな体験をしてほしい」と願い、その方法を模索している看護教員の皆さまにぜひ読んでいただきたい1冊です。

(『看護教育』2019年11月号掲載)

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