• HOME
  • 書籍
  • 救急画像ティーチングファイル


救急画像ティーチングファイル

もっと見る

LWWの人気シリーズ、Teaching Filesの1冊。「救急の画像診断」をテーマに、よく遭遇する100疾患に関する知識の補充・整理・復習に役立つ。エキスパートの思考パターン(①病歴→②画像所見→③鑑別診断→④最終診断)をなぞりながら、それらを確実に自分のものにするための解説と演習問題(⑤解説→⑥設問:理解を深めるために→⑦読影医の責務→⑧治療医が知っておくべきこと→⑨解答)を収載。症例の100本ノックで読影力を引き上げよう。
編集 Daniel B. Nissman
監訳 船曵 知弘
発行 2019年02月判型:B5頁:306
ISBN 978-4-260-03628-3
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

監訳の序

 近年CTの利便性が高まってきたことに伴い,画像検査の診断の質が求められるようになった.中でも救急領域においてはその迅速性も非常に重要であり,確実な画像診断により,無駄な被曝を伴う検査を省略できたり,早期治療に結び付けたりすることができる.もっとも,それはCT検査のみならず,単純X線写真においても同様である.
 本邦では,放射線科医のみならず,救急を担当する医師にとっても,救急領域における画像の判断が求められる現状がある.したがって,若手放射線科医のみならず,非放射線科医もこのようなティーチングファイルを用いて画像診断を学ぶことは重要である.一般的な書籍は,疾患名を主体に記載されており,その画像所見および解説が記載されていることが多い.しかしながら,救急患者は疾患名がわからない状態で外来を受診している.したがって,臨床所見から検査のモダリティを判断し,画像検査結果を解釈しなければならない.画像の解釈(レポート)を,即座に臨床医に還元する必要があるのか,それとも適切なタイミングで行えばよいのかも含めて理解する必要があり,これについても本書には記載がある.
 また,放射線科と救急診療科とに共通する特徴として,多領域に関する知識,多領域にまたがる疾患を把握していなければならない点があげられる.放射線科医と救急医とは診断領域においては,お互いに近い存在なのである.救急外来には中枢神経系,呼吸循環器系,腹部,筋骨格系など多領域の患者がランダムに受診するので,症例をランダムに並べてある本書の構成は理にかなっている.
 本書の中で,さらに特徴的なのは,報告医にとって必要なこと,臨床医にとって必要なこと,さらに臨床医への設問が設けられていることである.それぞれの立場から必要な事柄が記載されており,単に放射線科医のみならず,救急医にとっても非常に大切な事柄が述べられている.設問の項目があることで,一歩進んだ学習もできる.
 本書は,患者を診療している時に調べるための書籍ではなく,通勤中などの日々のちょっとした空いた時間を利用して読むのに適している.1症例1症例が簡潔に記載されているので,ランダムに読むことも可能である.いずれにしても,本書を片手に生活することで救急領域における画像診断能力の向上は間違いない.

 2019年1月
 船曵知弘

開く

CASE 1 25歳女性.Crohn病に罹患.嘔気,脱水,頭痛を訴え受診
CASE 2 55歳女性.倦怠感
CASE 3 50歳男性.車との交通外傷
CASE 4 45歳男性.車で木に衝突.救出に時間を要し,ER搬送まで低血圧が続いていた
CASE 5 6歳女児.抗菌薬および圧均等化チューブ留置にもかかわらず,弛緩熱,
      左耳の腫脹,両耳の膿性耳漏をきたした
CASE 6 67歳男性.胸痛,血圧低下,好中球の上昇あり
CASE 7 18歳女性.歩行者対車の交通外傷
CASE 8 41歳男性.スキー外傷後の膝痛
CASE 9 28歳男性.自動車衝突事故後の腰痛,下肢筋力低下
CASE 10 71歳女性.胸痛,慢性咳嗽
CASE 11 80歳男性.急性発症の腹痛および腹部膨満感
CASE 12 人工関節置換術後の患者.同側の股関節痛,腫脹,発赤,発熱を主訴に受診
CASE 13 57歳女性.初発の部分痙攣発作を起こした.3年前に乳癌の治療歴あり
CASE 14 31歳女性.呼吸困難
CASE 15 36歳女性.腹部全体の痛みを訴え救急外来受診.最終月経は9週間前.
       最近異所性妊娠を疑われ子宮内膜掻爬術を受けたが,子宮内に
       絨毛膜絨毛はみつからずメトトレキサートの投与を受けていた.
       まず経腹超音波検査が行われたが,所見に基づき経腟超音波を
       行うこととなったため経腹超音波は中断された
CASE 16 10歳男児.落馬後の右肘の痛み
CASE 17 79歳女性.腰痛,下肢筋力低下,排尿障害にて受診
CASE 18 22歳男性.ハイスピードの乗用車の交通事故後.右胸腔ドレーンからの
       持続するエアリークと右肺の再拡張の消失
CASE 19 73歳男性.ヘテロ接合性の第V因子ライデン変異があり,最近深部静脈血栓症に
       対し抗凝固療法を受けていた.拡大する腹部腫瘤を訴え受診
CASE 20 25歳男性.スノーボード事故後に疼痛
CASE 21 29歳男性.交通事故に遭い,頭部を打撲したことは覚えていないが,
       右頬骨弓と上顎部の痛みを訴えている
CASE 22 39歳女性.全身倦怠感
CASE 23 48歳女性.急性発症の腹痛と腹部膨満感
CASE 24 外傷後に肩の痛みと可動域制限が出現
CASE 25 5歳女児.汎下垂体機能低下症がある.最近ウイルス感染症に罹患.
       口周囲に湿った嘔吐物が付着し,反応がない状態で両親に発見された.
       救急隊により現場から心肺蘇生が開始された
CASE 26 29歳女性.自動車横転事故による受傷.右胸郭の奇異性呼吸
CASE 27 30歳女性.高速自動車事故後に頸部痛がある
CASE 28 21歳男性.氷上で転倒
CASE 29 27歳男性.1週間前からの咽頭痛,発熱と頸部痛を伴う
CASE 30 30歳男性.胸腔穿刺後の呼吸困難
CASE 31 16歳男性.急性発症の陰囊痛を呈している
CASE 32 28歳女性.交通外傷により手関節痛を訴えている
CASE 33 8歳女児.自動車の正面衝突に巻き込まれた.患者は後部座席で
       シートベルトを着用していた.背部痛を訴え受診
CASE 34 69歳女性.胸痛
CASE 35 36歳.精神疾患のため入院中の患者.カミソリの刃8枚とペンを飲み込んだ.
       また別の日には電池を6本飲み込んだ
CASE 36 20歳女性.乗用車と衝突し救急搬送された.左下肢と腰部に痛みがある
CASE 37 63歳女性.失神様エピソード後の頭痛,悪心で救急外来を受診
CASE 38 41歳女性.食欲不振と咳嗽を訴えている
CASE 39 24歳男性.右上腹部痛
CASE 40 63歳女性.トラックの後ろから落ちた.左足から着地してから立てなくなった
CASE 41 20歳男性.6日前より悪化する左側頭部痛と左眼瞼の発赤・腫脹.数日前に
       救急外来でセフジニル®(セファロスポリンの経口薬)および
       prednisone®(本邦ではヒト用医薬品としては未承認)が
       処方されていたが,症状が悪化
CASE 42 36歳男性.交通外傷後
CASE 43 11歳女児.急性発症の左下腹部痛
CASE 44 2段ベッドからジャンプした後の足の痛み
CASE 45 23歳男性.突然発症の左上肢筋力低下,左顔面下垂,構音障害
CASE 46 62歳女性.胸痛.大動脈解離の評価目的にCTA施行
CASE 47 25歳運転手.車の事故で閉じ込められた
CASE 48 高エネルギー交通外傷で頸部痛,首の可動制限,上肢の痺れと筋力低下を認める
CASE 49 65歳女性.家で転倒し,反応がなくなった.救急外来到着時,
       対光反射がなく,角膜反射,咳反射,咽頭反射もなかった
CASE 50 10歳女児.胸痛と発熱
CASE 51 91歳女性.転倒後の骨盤痛
CASE 52 5歳児.歩きたがらない
CASE 53 60歳男性.急性発症の左半身麻痺と左顔面下垂.最近新たな
       右側の頭痛を訴えていた
CASE 54 58歳男性.低酸素血症.HIVの既往あり(抗レトロウイルス薬治療の
       コンプライアンス不良症例)
CASE 55 61歳男性.自動車事故による重症腹部外傷
CASE 56 27歳男性.手を伸ばした状態で転倒し,肘と前腕近位の疼痛,腫脹がある
CASE 57 5か月乳児.2週間の間欠熱があり,現在は左頸部と顎の腫脹を認める
CASE 58 30歳男性.自動車衝突事故
CASE 59 68歳女性.急性発症の左下腹部痛,嘔気,嘔吐を訴え受診.身体診察では
       腹膜刺激徴候を認め,腹部全体に圧痛がある
CASE 60 24歳男性.崖から予想より浅い水中に飛び込んだ後,頸部上部の疼痛と
       可動域制限がある
CASE 61 56歳女性.急性発症の激しい頭痛
CASE 62 36歳男性.自動車事故
CASE 63 35歳男性.右下腹部痛
CASE 64 39歳男性.落馬後に手首の痛み
CASE 65 57歳男性.増大する右頸部腫瘤と進行する嚥下障害
CASE 66 57歳男性.衰弱と咳嗽
CASE 67 24歳女性.シートベルトを装着した状態での高速での車の衝突事故
CASE 68 42歳女性.社交ダンスで左足をくじき,その後から左足外側の痛みが出現
CASE 69 27歳男性.バイク対自動車の衝突事故に巻き込まれた.神経学的予後は不良
CASE 70 58歳男性.息切れ
CASE 71 54歳男性.繰り返す下腹部正中の痛みと下痢
CASE 72 10か月男児.右下肢の発赤と痛みを訴えている
CASE 73 26歳男性.車の横転事故にあった.現在,右耳の難聴と顔面神経麻痺を認める
CASE 74 52歳男性.咳嗽,息切れ
CASE 75 41歳女性.右上腹部痛,発熱,嘔吐
CASE 76 47歳男性.自動車衝突事故の後に肩の痛みを訴える
CASE 77 11歳女児.人生最悪の頭痛を訴えて受診.バスケットボールの試合で
       チアをしてジャンプした瞬間から始まり,左の片麻痺としびれを自覚した
CASE 78 26歳女性.気管支鏡検査後,同日の息切れ,左胸痛
CASE 79 35歳女性.急性発症の腹痛.当初は鎮痛薬によって腹痛が軽快したため
       帰宅となっていたが,自宅で食事をしようとしたところ腹痛が再燃した
CASE 80 76歳女性.スーパーマーケットで歩行中,左側へ転倒した.
       臀部痛を主訴に受診した.X線写真では骨折を認めない
CASE 81 42歳.静脈注射薬物乱用の既往あり.数週間で増悪する腰部痛
CASE 82 交通外傷
CASE 83 近距離射撃による銃創
CASE 84 26歳.手を開いた状態で転倒した
CASE 85 37歳男性.新たに出現した著明な下肢筋力の低下と記憶障害で受診
CASE 86 20歳男性.ハイキング中に手を怪我した
CASE 87 36歳男性.精神障害があり異物挿入を繰り返している.排尿障害および
       血尿を訴え受診
CASE 88 43歳女性.全身性エリテマトーデスに対してステロイドを用いた治療を
       受けた既往がある.左膝の痛み,腫脹と熱を訴えている
CASE 89 18歳男性.歩行中に時速約90kmの車と衝突し,約30m飛ばされた.
       事故現場にてPEAで,来院時,瞳孔は散大固定,神経学的な反応は
       みられなかった
CASE 90 40歳女性.胸痛と息切れを伴う左胸部の軽症鈍的外傷
CASE 91 生後6週男児.経口摂取のたびに噴出性の嘔吐が4日間続くため受診.
       吐物は血性や胆汁性ではない
CASE 92 39歳男性.自動車の正面衝突事故後に右股関節痛が出現
CASE 93 8か月女児.急性発症の傾眠と筋力低下.数週間前の軽度の
       上気道炎感染以外の重要な病歴はない
CASE 94 36歳男性.テニス中の突然のふくらはぎの痛み
CASE 95 50歳男性.48時間にわたり増悪する左胸痛,持続する悪心・嘔吐
CASE 96 38歳.バスケットボール中の膝痛
CASE 97 56歳男性.末期腎不全と高血圧の既往歴がある.意識障害,右半身麻痺の
       状態で発見された
CASE 98 80歳女性.緩徐進行性の意識障害
CASE 99 40歳女性.右上腹部痛,悪心,嘔吐を訴え受診
CASE 100 53歳男性.2型糖尿病.右足の母趾足底部にできた難治性潰瘍で受診.
       発熱と右足全体の発赤も伴っている

最終診断のまとめと参考文献

索引

開く

症例の100本ノックで読影力を引き上げて「決断のできる救急医」になろう
書評者: 志賀 隆 (国際医療福祉大准教授・救急医学)
 「救急医にとって最も大事な能力は?」
 この答えの選択肢はさまざまだと思います。しかし,「情報に基づいて決断する」ということが救急医にとって最も大事な能力であることを否定する人は少ないでしょう。そして,現在の救急医療においてその決断の大きな支えとなるのが画像診断です。日中の診療時間帯は,救急医は読影時に放射線科医という頼もしいパートナーがいます。夜間や休日は救急医が“放射線科医になって”読影をする必要があります。

 そのため,救急医にとって「正常な所見を記憶している」「典型的な異常像を記憶している」「主訴に基づいて読影を進めることができる」「臓器別に網羅的に読影をすることができる」という4つの能力が必要になります。ただ,初期研修を終えた時点でいきなり上記の4つの能力を有している,ということは難しいものです。ではどうしたらいいのか? もちろん臨床現場で救急科専門医や放射線科専門医と共に読影をしていくことが王道です。ただ,24時間365日そんな恵まれた環境で仕事をできるわけでもありません。

 「じゃーどうしたらいいんだー!」
 そんな皆さんに朗報です! 船曵知弘先生たちが今回翻訳された『救急画像ティーチングファイル』が頼もしい味方になります。この本の著者の多くが勤務しているノースカロライナ大は,「救急のハリソン」ともいえる『Tintinalli’s Emergency Medicine』という分厚い教科書の編者たるJE Tintinalli先生が率いる施設です。外傷からさまざまな内因性疾患まで年間7万名の救急患者さんを診療しているレベル1の外傷センターです。

 評者は2004年に1か月間研修でお世話になりましたが,その当時も巨大な医療センターに大規模な救急外来がありました。この大規模センターに所属する歴戦の放射線科医の皆さんが,「救急の画像診断」をテーマに,外傷から内因性疾患までよく遭遇する100疾患について執筆したのが本書です。単に画像のポイントを示すのではなく,エキスパートの思考パターン(①病歴→②画像所見→③鑑別診断→④最終診断)をなぞり,自分のものにするための解説と演習問題(⑤解説→⑥設問:理解を深めるために→⑦読影医の責務→⑧治療医が知っておくべきこと→⑨解答)が収載されています。

 いかがでしょうか? 症例の100本ノックで読影力を引き上げ「決断のできる救急医!」になりませんか? ぜひ手に取って頼もしい武器として当直や救急外来の業務に使っていただければと思います。
「語り継がれるべき経験」を蓄積したTeaching File
書評者: 佐藤 朝之 (市立札幌病院救命救急センター部長)
 知らなければならないけれども,「知らなければならないこと自体を知らない」(だから,知ろうとする行動自体が起こらずに,いつまでたっても知らないまま)ということがある。

 適切なtermさえわかれば自由に検索ができて,さまざまな情報を獲得可能な現在ではあるけれども,検索されない情報は触れることができない。

 日々の臨床で患者さんに向き合いながら,自分の知らないこと,できないことに向き合っては学んでいく中で医師として経験を積むわけだけれど,経験には個人差があるし,「知らなければならないことを知らない問題」は常に付きまとう。

 先輩の医師はそれを知ってか知らずか,時折若い医師に自分の経験を語ってくれる。エビデンスの世の中ではあるが,一例の経験が教えてくれることは少なくない。「語り継がれるべき経験」は蓄積されて,Teaching Fileになる。そこには(全てではないにせよ)自分がまだ知らないことへの学びのきっかけや,経験のばらつきを埋めてくれる材料が詰まっている。

 救急という単語が醸す意味にはさまざまあるけれど,診療科に関係なく,「そのときその場にいる者が適切に判断を下して時間の制約のある中で治療的介入をしていかなければならない」という差し迫ったものを多くの人は感じとるのではないだろうか。治療的介入は必ずしも急ぐものばかりではないけれど,「急ぐか,急がないかの判断は,急ぐ」のである。判断を下すときに,画像診断の力は欠くことができない。

 本書は画像診断の能力を高めることに目的があるものではない。ある程度画像が読めるくらいの経験を積んだ上で,ページに挙げられているkey filmの意味を味わうことができるようなレベルでの使用が最も好ましい。

 私たちは,画像をオーダーするときも読むときも,病歴や症状,外傷の時は受傷機転から,「ここにこういう所見があるはずだ」という正しい先入観を持ってこれに臨むが,本書では,あえて病歴や受傷機転は最小限にとどめられている。一方で,救急外来では所見を取ってある程度鑑別を挙げたら,適切な専門医とともに診療に臨むけれども,本書はその所見を取った先の解説が手厚くなされている。放射線科の視点からの画像の読影の表現,画像上なぜそのような所見を生じるか,病態あるいは損傷一つひとつの機序や分類などが記載されている。自分が「ある」と認識した所見を適切な言葉で表記できるようになることは,各診療科とのコミュニケーションを実りあるものにしてくれるし,そのような所見を呈した背景を知ることは,読影の応用力を上げてくれるだろう。

 「100本ノック」の並びの順番は内因,外因の区別なく,重症度緊急度,解剖学的にもランダムである。さまざまな傷病者が次から次にやってくる救急室のありようそのまま,ということなのだろう。
救急外来で診療する全ての医師に!
書評者: 野田 英一郎 (福岡市民病院 救急科科長)
 本書は米国の放射線医によるティーチングファイル集を翻訳したものである。ティーチングファイルとは放射線科による教育方法の1つとされており,典型的な画像,珍しい画像を集積し,学生や研修医教育だけでなく,放射線科レジデントや非放射線科専門医に読影のポイントなどを指導する際の症例集である。日本でも放射線科医の常勤する病院の多くで,症例集までは作らずとも,勉強会などで取り入れられている手法と思われるが,原著出版社の序文によれば,本書のような包括的なティーチングファイルの出版はアメリカでも珍しいそうである。

 監訳者の船曵知弘先生は日常診療の傍ら,DMAT隊員として災害時対応,教育,またJPTEC,ITLS,JATEC,ICLS,JMECC,MCLSなど,救急関係の各種off-the jobトレーニングコースの世話人やインストラクターを務めるとともに,放射線科領域でもDIRECT研究会を主催し,世界中から救急IVRでの講演を依頼される,日本の救急のみならず,救急放射線科領域を牽引する第一人者である。

 しかも数多くの著作の執筆もしてきた船曵先生が選んだ本書が面白くないはずがない。そう思って本書を手にしてみた。目次を見ると,この手の書籍によく見られる疾患名や病態による分類がなされておらず,症例番号と主訴のみである。各章は年齢性別,簡単な既往症と現病歴の記載しかなく,いきなり画像が数枚並んでいる。読み進めると診断名,鑑別疾患,読影のポイント,病態の解説,読影医や治療医へのアドバイスまで記載されている。しかも症例はランダムで,疾患別や画像の種類別に並んでいるわけではない。臨床現場で体験しているかのごとく読み進めることができる。

 船曵先生も序文で記しているように,診療時に調べるための書籍ではなく,空いた時間を利用して読むのに適している。(診察時に調べられるような書籍はすでに船曵先生自身が執筆している。『救急画像診断アトラス』[ベクトル・コア,2007]。刊行当時,船曵先生は医師10年目そこそこ,30代半ばだったことは驚きである! しかも症例ベースで読みやすい!)本書には全部で100症例が掲載されており,それぞれが救急外来で遭遇することの多い疾患であり,画像も厳選されている。救急外来を担当する全ての医療人にお薦めの書物である。

 残念だったのは症例情報が,上述した年齢性別と1~2行程度の簡単な既往症,症状,受傷機転,現病歴だけ(中には交通事故や,胸痛だけの症例も)だったことである。救急外来ではバイタルサイン(異常があれば処置を同時施行),可能なら問診の後に画像検査を行うことが多いため,この点は原著者が放射線科医で,簡単な病歴や症状が書かれた撮影,読影依頼書を元に読影している現状を表していると想像される。救急医である小生からは,救急医の視点がもう少し入っていれば良かったように思われた。ただし,これは原著者の意図であり,翻訳の船曵先生のせいではないことを申し添えておく。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。