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DVDブック 医療職のための包括的暴力防止プログラム

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医療職が、被害者にも加害者にもならないためには何が必要なのか? どうすれば患者さんを、暴力衝動の渦から救い出すことができるのか? これまで表立って教えられてこなかった「暴力マネジメント法」を、1時間のDVD付きで徹底解説!
包括的暴力防止プログラム認定委員会
発行 2005年06月判型:B5頁:220
ISBN 978-4-260-33410-5
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

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第1部 理論編
 I 「暴力が問題化されない」という問題について
 II 「包括的暴力防止プログラム」とは何か
 III 「包括的暴力防止プログラム」の構成要素
第2部 実践編--身体介入マニュアル
 IV 運動学的解説
 V ブレイクアウェイ
  Case1 同側の手をつかまれた場合
  Case2 反対側の手をつかまれた場合
  Case3 両手で手首をつかまれた場合
  Case4 髪や耳をつかまれた場合
  Case5 うしろから髪や襟をつかまれた場合
  Case6 前から襟や上腕をつかまれた場合
  Case7 首をつかまれた場合
  Case8 仰向けに倒された場合
  Case9 うつ伏せに倒された場合
  Case10 うしろから抱きつかれた場合
  Case11 叩きかかられた場合
  Case12 蹴られた場合
  Case13 咬まれた場合
VI チームテクニクス
 1 基本姿勢
 2 立った状態のまま動きを制限する方法
 3 腹臥位にして動きを制限する方法
 4 仰臥位にして動きを制限する方法
●補章 このプログラムの使い方
●付録 国際看護師協会「職場における暴力対策ガイドライン」
●文献表

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書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 住吉 蝶子 (東京慈恵会総合医学研究センター医療教育研究部客員教授)
 否定的に捉えられている医療上での暴力というテーマを,本書は事実を事実として受け止め,適切な対応をすることによって患者へのよいケア効果をだす方向性へナビゲートしてくれる。この包括的暴力防止プログラムの書は,明瞭な理論と実践を示しながら,正しく安全な方法で暴力行為を示す患者への医療者の対応と防止を説いた。今日,院内における暴力に悩む関係者にとって,非常にタイムリーな書である。

 本書の特徴は,医療ケアの実践の中で日常的に発生する暴力とそれにまつわる事実上の争点に対面していくための斬新かつ効果的考え方を導いてくれる材料をそろえていることにある。これらの材料がよく組み立てられ整えられた理論的部分,そして基本的技術をわかりやすく示してくれている実践テクニックの部分との双方がまさに包括的に一体化され,論題を追う読者の思考過程を助けている。

◆本書が特に際立っている点

理解:患者の権利とケア提供者の安全性を守る。 特に患者の暴力に視点をおいたアセスメントの重要性と方法。

実践:運動学的解説に基づき整理された実践テクニックの手順と写真でのわかりやすい説明。医療チームの事実への適切な対応方法。

向上:ディエスカレーションの核となるスキル。チーム技術の向上と組織機能の効果的活用。

教育:ディブリーフィング,チーム テクニックス,タイム アウト。

管理:職場における暴力防止と対策ガイドライン(付録)

含蓄:暴力行為を示す患者や,それに関わる医療ケア提供者双方による理解と思いやりあるケアの実践。医療従事者としてベストのケア結果をだすための責任の再確認。

◆将来に向けての課題

 この書は精神科領域での適用に視点が当てられているが,領域を超えて,むしろ一般科における暴力防止プログラムの作成のためにも活用されるべき貴重な書である。一般的な疾病の患者を対象にしたプログラムでは,患者の身体的,病理的アセスメントから暴力防止や対応プログラムを考えることも必要である(例;低酸素,出血状態における患者の精神状態と行動)。

 スタッフ教育は,ケアの第一線にいるものだけではなく,組織全体の職員を対象にして行われるべきであり,そのプログラムが必要である。記録の重要性,暴力(言葉も入る)に直面したスタッフへのカウンセリングなどがその内容としてあげられる。

 本書は医療ケアの中にある患者とケア提供者の間の暴力という厚い壁を,ガラスの壁に変え,双方が互いに見合うことができるような方法を示してくれた。

(『看護教育』2005年12月号掲載)
理想論に逃げず目をそらさず暴力と向き合うスタートに (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 岡田 慎一郎 (介護支援専門員・介護福祉士)
 知的障害者施設へ研修に行っていた時である。入浴後の男性利用者にしゃがんで靴下を履かせていると,突然胸元を蹴り上げられて,文字通り吹っ飛ばされた。そして彼は周囲の利用者へ次々とフルスイングの平手打ちをはじめた。彼は身長 180 センチ,体重 80 キロ以上。私は起き上がり,叩かれ蹴られながらも彼の胴に組み付き,足をかけて倒し,必死になって押さえ込みながら嵐が過ぎるのを待った。

 後日,彼の母親と話す機会があった。「家でも時々突然手を上げることがあります。相談をすると,受容と共感の気持ちを持って……と精神論に行ってしまいます。確かにそれも大事だと思いますが,かかってくる人間を目の前にしたら,理想論だと感じてしまいます」

 誰もが重要と認識していたにもかかわらず,デリケートな問題故にうやむやとなっていた問題,それが「現場での暴力」である。本書は理想論に逃げず,暴力に向き合った画期的な試みと言えるだろう。主に精神医療の現場を中心に展開されているが,他の医療,福祉スタッフ,そして家族にも有益なヒントをもたらしてくれるはずである。

 まず,暴力に対してのさまざまな角度からの考察が的確になされている。あくまでもスタッフ,当事者,双方が暴力によって傷つかず,信頼関係を築くための方法論が根底に流れている。

 それを踏まえた上で本書の最大の特徴というべき,暴力への介入技術が示されている。そして,その技術すべては DVD の映像によっても見ることができる。しかも別角度からの映像もあり,大変わかりやすく,かつ理論的に解説されている。

 手首を握られたり,服をつかまれたり,噛みつかれたりといった状況に対して,「ブレイクアウェイ」とよばれる,ダメージを与えることなく離脱する技術が紹介されている。特に在宅訪問をする職種においては,単独で活動するために暴力の危険性にさらされやすい。これらの技術が参考となる機会も多いのではないだろうか。

 そして,すべての介入が功を奏さない場合に 3 名以上のチームを編成して,安全に抑制,移動する「チームテクニクス」がある。冒頭の体験のように興奮状態で対応していた自分自身を振り返り,もし,このプログラムを知っていたら,お互いが持った「気まずい」思いをもっと軽く出来たのではと考えさせられた。

 もっともこれらを学べば万全というわけではない。現場での展開は予測もつかないことばかりであるから。しかし,うつむきもせず,かといって上を向き理想を語るでもなく,直面する現実の「暴力」に対して,顔を上げて目をそらさず語れる「スタート」を本書は提案してくれた。

 今後,さまざまな現場,職種での議論がなされ,より,支援者と当事者にとって最適なプログラムとして発展することを期待したい。

(『訪問看護と介護』2005年11月号掲載)
本を読むとき (雑誌『精神看護』より)
書評者: 加納 佳代子 (医療法人心和会顧問/前・八千代病院看護部長)
 「暴力」。なんとも、おぞましい言葉である。

 人間社会の歴史でもあり、今も社会に歴然とあり続ける「暴力」。看護職のもつケアの論理の反対側にある「暴力」。しかし医療の現場には厳然と存在する「暴力」。

 精神科医療は、「暴力」という表現だけでは言い表せないさまざまな歴史的エピソードを引きずっている。私たちはいったい、暴力というものをどのように考えたらよいのだろうか――。

 暴力という言葉は、さまざまなかたちで揺れる〈当事者―援助者〉関係を、一義的な〈加害者―被害者〉関係に閉じ込めてしまう。だから精神障害者に寄り添いたいと願う援助者は、暴力という言葉を耳にすると戸惑うほかない。

 一方、当事者にとっても暴力といわれるものは、実は自分の身を守る手段の1つでもある。であればこそ当事者は、その「衝動」のもっていきように戸惑う。医療現場で使われる暴力という言葉には、当事者・援助者双方の戸惑いが塗り込められているように私にはみえる。

 私はかつて、衝動行為とか暴力といわれるものを「不適切なコミュニケーション手段」と表現してみたことがある。いや、「エスカレートしたパフォーマンス」とか「爆発」のほうが、不安と恐怖にかこまれた世界でもがく精神障害者の何ともしようがない行為にふさわしい表現であろう。

 しかし、本書はあえて「暴力防止」と大きな字で表現した。誰もが誤解と偏見の再生産を恐れて手を付けることができなかったテーマに、真正面から挑戦している。そして、「医療者には、暴力による不幸な連鎖を断ち切る仕事が求められている」と、私たちに語りかけている。

 「攻撃性」や「暴力性」は、人間が生き延びるのに必要な属性である。つまり攻撃性という〈抗原〉も、これをコントロールする〈抗体〉も、誰もが持ち合わせていると私は思っている。抗体がわずかしかなければ「攻撃性抗原」の増殖に太刀打ちできないだろうし、逆に、さまざまなかたちの「コントロール抗体」をつくっていくことで、何とか増殖する抗原の勢いを収めることができる。そういうものなのではないだろうか。

 つまり、攻撃性を「暴力」というかたちで表現せざるを得ない当事者にも、それを受け止めようとする、あるいはかかわらざるを得ない援助者にも、「攻撃性抗原」と「コントロール抗体」は備わっている。このことを忘れてはならないと思う。

 援助者自身の「攻撃性抗原」が引き出されてしまい、それが増殖し、自己嫌悪に陥ることもあるだろう。自分の未成熟な「コントロール抗体」を実感し、無力感に打ちひしがれることもあるだろう。また、援助者にとっては受け入れがたい事実であろうが、治療や看護という名の行為がストレスや脅威となり、これが当事者の「攻撃性抗原」を増殖させることもある。彼らの尊厳を踏みにじるような病棟生活が増殖をもたらすこともあるだろう。いずれにせよ、当事者の「病状」とは、そのとき勢いをもつ「攻撃性抗原」と無力な「コントロール抗体」との戦いなのである。

 このように考えていくと、「暴力のリスクを評価・予測する、回避する、対応する、ケアする」というプロセスは暴力の当事者にとってだけでなく、暴力に対峙し援助者たらんとする者にとっても必要なプロセスなのだとわかってくる。このプロセスをとおして暴力を包括的に予防し防止するプログラムが我が国で開発され、研修用テキストが登場した。これは画期的なことである。

 暴力への対処法は、海外では保健医療に携わる者が当然身に付けるべきスキルとしてプログラム化されているにもかかわらず、国内では体系化されてこなかった。しかし、だから本書が画期的なのではない。暴力によって援助者と当事者が引き離されることを最大限防ぎ、できるだけ早い時期の関係修復が可能になることを志向している。そして何よりも、当事者自身に「暴力的な行為を回避する力をつけたい」という主体性が育まれることを追求している。この点が画期的なのである。

 暴力を他者が抑えるのではなく、自らが「暴力を回避していく力を付けたい」という主体性をもって、「コントロール抗体」を共に増やしていくことが援助者の役割だ。その立場から始めることが、「暴力」の連鎖を断つ瞬間なのだ。本書は、そう語りかけているように思えた。

 今から4、5年前、患者さんも守れて職員も守れる「暴力への実際的な対処法」がないかと考えた私は、地域で少林寺拳法を教えている方たちに相談にいった。患者さんからの暴力でやむなく痛い思いをしながらも、患者さんが悪いわけじゃないからと言って「大丈夫です」と我慢してしまう職員たちを、そのままにしておくことはできなかったのだ。欧米でプログラム化されている身体介入法は合気道を取り入れているようだと聞き、少林寺拳法を「看護者らしい技術」として教えていただけないかと頼みにいったのである。

 その方たちは、私たちが患者さんへ日々どうかかわっているかという話を熱心に聴いてくださった。そして最後に、「私どもでは、暴力をふるう相手をいうなれば悪者だと想定しており、その裏返しで対応するように組み立てられています。ですから相手が患者さんだと聞いて、どう考えていいのか戸惑いました。しかし立ち方、距離のとり方、間合い、重心の移動や、下半身の安定、上半身のリラックスなど、看護師さんたちのからだの動かし方のテクニックは自分たちの技術と共通点があります」と言ってくれた。

 私はそのとき、移動の技術などをお見せして「このようにからだを構えて、相手の力を使ってボディメカニクスに則って行なうのです」と説明したのだった。それを見て彼らは、「もう看護師さんたちは、すでにからだでやっているではないですか」と言われたのだった。そして、「力には力という対応をするのではなく、相手の力を利用して、いかにずらすかを考えれば、ちょっと応用するだけじゃないですか」とも言われた。

 その数か月後、病院の体育館のなかで、「髪の毛をひっぱられたとき」「手でたたかれたとき」など、いつくかの場面を想定しての実技演習を行なった(その頃の様子は『精神看護』2002年7月号に載っている)。率直に言うと「果たしてこのような研修をしていいものだろうか、役に立つのだろうか、看護者として取り組むものと胸を張れることだろうか」と逡巡する思いもあった。しかし、その方たちが最後に言われた言葉でストンと心に落ちた。「こうやって行ぎょうを重ねることで、大丈夫だという安心感が生まれてくる。この余裕が力を生み出すんですよ」。

 本書を開くと、突発的に襲われた際に適切に逃げるための方法や、暴力行為に対してチームで身体介入をはかる方法に目が行ってしまう。ボディメカニクスに基づく説明を聞けば、なるほどと思う。それらが写真やDVDで詳細に説明されている。しかし、これは一部にすぎない。攻撃性に対するリスクアセスメント、怒りを静めるための方法や、暴力が収まった後のアフターケアなど、すべてを包括したプログラムとして組み立てられているところに、本書の特徴があるのである。

 今後、このテキストをもとに研修会が全国各地で開かれるだろう。実際の臨床場面でどのくらい役立つかは未知数だが、これだけは言えると思う。このプログラムが私たちの「拠って立つ位置」を明らかにしてくれるだろうこと、ほんの少し心の余裕をもてるようになるだけで当事者と援助者が加害者にも被害者にもならずに、共に「暴力の連鎖」を絶っていく一歩が踏み出せるようになるだろうということ、である。

 葛藤しながらもこのテキストの発行に尽力された方々の勇気に感謝したい。そして、多くの現場の看護者の手でさらに洗練された技術として発展していくことを願っている。

(『精神看護』2005年9月号掲載)
「気をつけてね」では済ませられない (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 村中 峯子 ((社)全国保健センター連合会・企画部企画研究室長)
 看護学生の時だった。夜勤実習の明け方,男性入院患者に突然,胸を触られたことがある。反射的に,私は彼の左頬にヘビー級の平手打ちをお返ししてしまった。

 「あっ!」と気がついたときには遅かった。自己嫌悪と後悔で目の前が真っ暗になった。そんな私を婦長さんが慰めてくれた。

 「平手打ち,強烈だったんだって?あとは私が対応するから,大丈夫よ」

堪えていた涙がどっと溢れた。とっさの時,看護職として,何を大事に行動するのか,のちのちも自分なりに考えつづけるきっかけになった。

 もしもあの時,「我慢すべき」「隙があった」と,私の不適切な対応について,あるべき論で叱責されただけだったなら,私には本書を手に取る意欲も,酩酊している男性が大暴れしている家庭や,攻撃性の高まった統合失調症の家庭に,援助者として訪れつづける覚悟は生まれなかったと思う。適切にアフターケアされない暴力は,した側にもされた側にも,さまざまなかたちで後を引くものだろう。


◆気配りや観察だけでは防げない

 本書は主に精神医療における暴力介入に焦点をあて,暴力を「危害を加える要素をもった行動(言語的なもの,自己への攻撃も含まれる)で,容認できないと判断されるすべての脅威を与える行動」と定義する。そして,「暴力は治療やケアによって予防や対応が可能であり,適正な暴力コントロール技術によって好ましい治療関係を導くことができる」ことを認識し,その理論や方法を身につけることが大切だと一貫して主張する。援助者の気配りや観察だけでは暴力の前兆を把握し,防ぐのは困難であるとしている。 


◆密室性の高い訪問こそ危険

 言うまでもなく,これは病院内に限ったことではない。保健師はもちろんのこと,さまざまな職種によって,地域で展開される訪問支援にいたっては,密室性も加わるのであるから,暴力の危険性やその対応については,本来,もっとつまびらかに語られることが必要ではなかったかと思う。「気をつけてね」で済ませていては解決できない。


◆「防力」のためのプログラム

 誤解のないように記せば,本書は暴力を物理的な力で押さえ付けるノウハウの伝達を目的にしているのではない。精神障害者を「危険」と捉えるそれでもない。包括的暴力防止プログラムとは,暴力を防ぐ「防力」として,援助者がどう予防的に対応するのが適切なのか,暴力が起きた時は具体的にどうするのかについて段階別に科学的に開発された,援助者のためのプログラムなのである。

 暴力のリスクアセスメントとは何か,怒りや攻撃性をどう和らげるか,してはいけないことは何か,逃げ方,アフターケアについてなどが,詳細に論じられている。

 暴力をふるった側,ふるわれた側をどうケアするかについても,必読の価値がある。身体動作解説DVDが付き,写真も豊富だが,見よう見まねの手技を推奨するのではない。


◆恐れず侮らず貶めず,元気に仕事をするために

 本書を手にしていると,一筋の道に向かい,すっくと立ち上がった清々しいエネルギーが伝わってくる。人間の尊厳を守りたいのだという,敬虔な姿勢がそこにある。

 恐れず侮らず,自らを貶めず,今日も仕事をするために,援助者される側・する側双方の幸福に向かい,職場全体で共有したい本である。

(『保健師ジャーナル』2005年8月号に掲載したものに一部加筆)
暴力の連鎖を断ち切る,画期的な提案
書評者: 加納 佳代子 (八千代病院・顧問)
 画期的な書籍が世に出た。このことがあらゆる分野の看護職に伝わってほしいと思う。

 医療の世界に公然と存在しているにもかかわらず,誤解と偏見の再生産を恐れて手をつけることができなかった「暴力」というテーマ。しかし今や,それに真正面から取り組み,その不幸な連鎖を断ち切る仕事が医療者に求められている。この書籍の登場は,私たちにそう語りかけている。

◆看護教育にどれほどの影響を与えるか

 包括的暴力防止プログラムは,「暴力」という不適切なコミュニケーション手段をとらざるを得なかったもっとも苦しんでいる当事者を守る。同時に,「暴力」の被害者となることから逃れ当事者を守りたいと葛藤する援助者を守る。本書は,その「考え方」と「具体的技術(スキル)」を紹介する1時間のDVD付き研修用テキストである。

 まず強調しておきたいのは,本書が「暴力」によって援助者と当事者が引き離されることを最大限防ぎ,できるだけ早い時期の関係修復が可能になることを志向していることである。そしてなによりも,当事者自身に「暴力的な行為を回避する力をつけたい」という主体性が育まれることを追求している点が“画期的”である。

 「患者さんと同じ立場にたって援助する」という視点でものを見ることのできる看護専門職であれば,このテキストがこれからの看護教育にどれほどの影響を与えるのかが理解できると思う。

◆ボディメカニクスの応用技術

 「実践編―身体介入マニュアル」のDVDをみてすぐに気がつくのは,ボディメカニクスの視点から説明がなされていることである。美しく,なおかつ最小限の力で最大限の患者の力を引き出すことができるのは,それが合理的な身のこなしとなっているからであろう。

 移動技術に用いられるボディメカニクスは今では介護・看護教育では基本となっているが,残念ながら現場のあらゆる援助者が身につけるには至っていない。身体技法としての移動技術が身についている者にとっては当たり前かもしれないが,合理的で詳細な説明がなされているのがいい。

◆DVDで見るだけでなく

 腕をつかまれるとか,髪の毛をつかまれるとかの暴力行為は,どの分野の看護職も経験する。このプログラムは精神科医療において開発されたものであるが,攻撃のサイクルモデル(穏やか―不安―怒り―攻撃―怒り―不安・抑うつ―穏やか)のなかでのリスクマネジメント,治療関係の構築,観察,環境調整,ケアプランの調整,認知療法などを包括している点で,精神科以外でも使いやすいのではないか。DVDで視覚的に訴えられやすい「身体介入技術」を単にやり方として模倣するのではなく,自分の身体に覚えさせて身につけることが,他の援助技術のスキルアップにもつながっていくものと思われた。

 暴力への対処法は,海外では保健医療に携わる者が当然身につけるべきスキルとしてプログラム化されているにもかかわらず,国内では体系化されてはこなかった。本書が登場したことを契機に,今後さらに現場の援助専門職の手で洗練され,改定されていくことを期待している。

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