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コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために

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コミュニケーションスキルはすべての医師が習得すべき基本的臨床能力である。本書では、これまでに開催されたCSTコースの講師陣が、そのノウハウのすべてを公開。これまで体系的に学ぶ機会がなかった医師や、臨床研修の指導に不安を感じている医師、開業を志す勤務医に最適。コースで実際に使用したシナリオや、コース運営のポイントも掲載。自習テキストとしても活用できる。
編集 松村 真司 / 箕輪 良行
発行 2007年09月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-00450-3
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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松村真司 箕輪良行

 「研修医たちが卒前に習っているコミュニケーションスキルを,学んだ経験がないベテラン医に伝えて身につけてもらうことができないだろうか?」「盛業中の開業医が仕事を休んで,わざわざ受講料を払ってでも医療面接のコースを受けるほどに価値のあるトレーニングコースを提供できないだろうか?」
 これらが編著者らが本書のテーマである「コミュニケーションスキル・患者満足訓練コース(CSTコース)」を開発したいと考えた出発点である。ベテラン医師を対象としたコース開発にあたって,1997年から救急医療の標準化(ACLS,PTLS)コースを開発,運用してきた経験はとても役に立った。それは標準化された診療内容を成人学習と問題解決型学習という教育手法を用いて,診療経験が豊富な医師でも新しい考え方を抵抗なく学ぶことができるコースの普及活動であった。少人数グループでの実技学習,フィードバックの時間を多くとることによって,学習者の自主的な気づきを大切にすることによって,「もう二度と来たくない」というものではなく,「また来てもよい,できれば仲間にも薦めたい」というものを開発することがゴールであった。
 国外では80年代からビデオ録画とそのフィードバックを医学教育に活用していた。国内でも編著者らも含め卒前教育に利用している施設があった。CSTコースではこのビデオ録画とそのフィードバックをコミュニケーションスキルの修得に十二分に活用することを目指した。
 標準化を推進するうえで重要なのは,開発されたCSTコースが科学的な根拠のある有用性をもって多くの医師に受け入れられるかどうかである。この点を実現するために,コースの教育的効果の測定を前向きに実施することが求められた。コミュニケーションレベルでのそのような研究モデルは,おそらく『慢性うつ病の精神療法-CBASPの理論と技法』(MaCullough JP著,古川壽亮,他監訳,医学書院,2005)で詳述されているCBASPであろうが,編著者らも小規模ながらそのモデルを目指した。
 以上のような開発コンセプトを踏まえ,2001年から関,舘,長谷川,前田,松村,箕輪,本松らがプロジェクトを始めた。同時に模擬患者は乳がん患者会のあけぼの会に協力の了解を得た。コンテンツである講義概要,模擬診療の症例シナリオ,評価表とスコアリングガイドライン,コースの教育効果測定のための調査研究プロトコール作成といったものを準備した。また実施会場の条件として,受講に遠方から来る医師にとってアクセスが良い,遮音性の良いスペースがあり,広い講義室もある,できれば安価で利用できるといったことをクリアできる施設を考えた。操作が容易で手軽に設置できて,再生画面がきれいなビデオ機材と卓上ディスプレイを選択した。このようなものの作成,探索,相談交渉,資金獲得に約2年弱を費やし,ようやく2003年6月に第1回のコースを実施することができた。
 あけぼの会の病院ボランティアの方々の協力,(株)日本医療事務センターの本社ビルの借用,地域医療振興協会の財政支援,ベテラン医師のトライアルコースへの参加とデータ収集協力が揃って初めて開催できた。この紙面をお借りして大きな謝意を表したい。
 コースの有用性の検討には,受講した医師のデータ収集が3回必要となった。調査結果は2005年京都で開催されたWONCA AP2005(世界一般医・家庭医学会アジア太平洋学術集会)をはじめ学会で報告した。この試行段階を経て,第4回以降いくつかの修正を加えながら,現在もコースを定期的に開催している。
 本書はこのCSTコースのテキストとしても利用できることを想定して編集した。もちろんCSTコースを実際に独力で実施しようと計画される方にそのノウハウを全面的に提供することを目指している。
 本書の限界のひとつとしては,新しいコミュニケーション学に基づいたアプローチが不足している点である。『医療者のためのコミュニケーション入門』(杉本なおみ著,精神看護出版,2005)に代表されるような,コミュニケーション・プロセスのコンテクストをシンボル,メッセージ,フィードバックの視点から分析していくことが十分にはなされていない。本コースはまだまだ発展の途中であり,編者らはこれらを今後の課題と考えている。
 最後になったが,今までのコース開発にあたり次のような多くの方が大変に協力してくださったことを記して感謝したい。あけぼの会のワット隆子,宇田川光子,小川いずみ,荻原淑子,北川圭子,下川恵子,千島里香,富樫美佐子,二家純子,塙洋子の各氏をはじめ模擬患者を引き受けていただいた,灘光洋子,植田栄子,山本泰子,千種あや,小林摩利子,三橋洋美の各氏,(株)日本医療事務センターの中村澄子相談役,荒井純一氏,スナッジ・ラボ(株)の徳田茂二氏,試行コース参加,ビデオ録画,調査に協力いただいた藍沢隆雄,木村琢磨,菅野圭一,中島章,寺下雅洋,関根良介,西村富久恵,井上大輔,玉城浩巳,馬場広,藤本恭士,清水映二,中泉博幹,高島典宏,白神悟志,木村耕三,松島俊裕,諸井裕美,黒田昭,本田宣久,富塚太郎,岩本浩,高橋雅司,藤原真治,松井直樹,北西史直,雨森正洋,鈴木将玄,古屋聡,藤井幹雄,川嶋修司,室林治,小田倉弘典,村山善紀,矢部正浩,越村勲,松村榮久,小関雅義,千葉大,野本優二,神谷厚,永田美智子,宮田雅史の医師の皆さん,そして,なにより臨床医として私たちをここまで育ててくれた患者さんたちに感謝の意を表したい。
 2007年 8月

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第1章 コミュニケーションスキルと患者満足度
 1. なぜコミュニケーションスキルが必要なのか?
 2. ベテラン医師が達成しているコミュニケーションスキルの現状と課題
 3. 患者満足度とは何か
 4. なぜ患者満足度を重視するのか
第2章 患者に選ばれるために必要なコミュニケーションスキルとは
 1. 外来診療の7群のコミュニケーションスキル
 2. 医療面接の構造
 3. 医療面接の実際
第3章 コミュニケーションスキルの実際
 1. オープニング
 2. 共感的コミュニケーションスキル
 3. 傾聴・情報収集
 4. 説明・真実告知・教育
 5. マネジメント
 6. 診断に必要な情報の授受
 7. クロージング
第4章 コミュニケーションスキル・トレーニングの実際
 1. CSTプログラムの構成
 2. シナリオ作成の方法とポイント
 3. 模擬患者(SP)の養成プロセス
 4. ビデオ録画と再生の実際と工夫
 5. 評価とフィードバックの標準化
 6. アセスメントとプログラム評価
文献
索引

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患者とのコミュニケーションを今一度,見直す機会に
書評者: 江口 成美 (日本医師会総合政策研究機構)
 日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である。それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションに関わる教育を受ける機会がなかった。本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニケーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である。前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている。ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる。編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である。

 病気になれば誰しも不安で心細くなる。医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる。一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる。

 本書は,診療を進める際に必要とされるコミュニケーションを「オープニング」「共感的コミュニケーション」「傾聴・情報収集」「説明・真実告知・教育」「マネジメント」「診断に必要な情報の授受」「クロージング」という7つの局面に分けて整理している。そして,それぞれの局面で日常の診療に必要な言動や対応の実践例を示している。トレーニングコースで実施した模擬診療場面の例を用いて,専門用語の多用や会話のさえぎりなど好ましくない対応や,その改善法を具体的に解説している点に大きな特徴がある。また,患者の不安に対する共感の表わし方や,患者が必要とする情報の適切な提供法など,目の前にいる患者といかに向き合うかという課題にも応えている。「……たとえ医師がその(患者の)不安を理解できたとしても,理解した旨を表現し患者に伝えられなければ患者の満足度は当然上がらない」という基本的な考え方も記されている。

 いうまでもなく,医師と患者という立場の違いをはじめ,近年の多様な患者層,限られた診療時間など診療の現場を取り巻く環境は厳しく,コミュニケーションの向上は決して容易でないし,その評価も難しい。また,医師側だけでなく,当然,患者側の対応の問題もある。しかし,本書を読むことで,これまで実践してきた患者とのコミュニケーションを,今一度,見直すきわめてよい機会になるであろう。より多くの先生方に一読をお勧めする。
患者満足の側面からも医療従事者に読んでほしい書
書評者: 有賀 徹 (昭和大学教授・医学部救急医学)
 このたび松村,箕輪両氏の編集による『コミュニケーションスキル・トレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために』が出版された。その帯には「ベテラン医師を対象とした云々」とある。患者面接などに関する実践的な手法については,最近の医学部での教育や臨床研修医の採用において用いられていて,自らもおおよそのことを知ってはいたが,「ベテラン医師」から見ても確かに一読するとうなずくところが多々ある。

 さて,日本語はもともと敬語が発達していて,対話する相手との距離などを測りながらそれを巧みに使うことになっていて,そこにこそ言わば教養のなせるわざがある。したがって,医師はこの面でも研鑽すべきだろうと自らは漠然と考えていた。本書にはさすがにそのような言及はないが,それよりもっと基本的な面接などに関する体系的な仕組みについて解説されている。コミュニケーションスキル・トレーニングなどという教育が微塵もなかったわれわれでも,本書にある標準的な仕組みを頭に入れて医療を展開するなら,内科診断学やSings & Symptomsの基本である患者情報をまずは効果的に得ることに役立つ。引き続く治療についても患者に大いにその気になってもらううえで,この体系的な仕組みを実践する意義は大いにあると言うべきであろう。

 そして,それらに加えて,患者の満足という側面で本書がわれわれに教えてくれるものは大きい。まずはサイエンスになりにくいと思われた患者満足というテーマが,コミュニケーションスキルとの関連で解説されている。それが訴訟などの事象にも,十分に関係していることも理解できる。端的に言うなら,評判の悪い医師について何がどのように困った点なのかを分析的に評価することもできるということである。

 以上により,若手の医師らが本書を紐解くことは,自らが受けた教育について体系的な整理を行い,もう一度自らに磨きをかけることに役立つであろう。そのような教育と無縁であった医師やその他の医療職には,患者とのコミュニケーションについてここに示された体系立った標準的な方法論があって,数多くの例示にならいながら,その仕組みを自らの日常に取り入れることが,上記の諸々の側面で有用であろうと考える。このことに加えて,美しい日本語をきちんと使用できているなら,そのような医師,または医療チームは,コミュニケーションスキルにおける“匠の域”に達するように思われる。というわけで,医療に携わる方々にはぜひともお読みいただくことをここに望みたい。
良好な診療関係を築くコミュニケーション技術を学ぶ
書評者: 高久 史麿 (自治医大学長)
 今回,医学書院から『コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度と効果的な診療のために』が発刊されることとなった。編集者の松村真司,箕輪良行の両氏をはじめ,本書の執筆に当たられた方々は,従来からコミュニケーションスキル・患者満足度訓練(CST)コースを開発し,かつ具体的に実施されてこられた方々であり,現在CSTコースを定期的に開催しておられる。本書はこれらの人たちによってCSTコースのテキストとして利用することを想定して編集されたものであり,その内容は「コミュニケーションスキルと患者満足度」,「患者に選ばれるために必要なコミュニケーションスキルとは」,「コミュニケーションスキルの実際」,「コミュニケーションスキル・トレーニングの実際」,の4章から成り立っており,医師が患者と良好なコミュニケーションを持つのに必要なさまざまな調査のデータ,具体的な表現法,ノウハウ等が詳細に示されている。また,模擬患者のシナリオ,CSTの実際について例示されているのも本書の特徴の1つである。

 私が現在勤務している自治医科大学にはUCLAで長年教鞭をとられ,2007年4月から常勤の教授として学生の教育に当たっておられるアメリカ人の方,米国の病院で8年以上働いた後,本学に来られた准教授の方等がおられるが,これらの教員が異口同音に言われることは,日本の医学教育の中で最も欠けているのはコミュニケーションの技術と理学的所見を正確にとる技術の2つであるということである。特に前者のコミュニケーション技術に関しては,欧米では小学生の時代から訓練を受けているとのことであり,コミュニケーションに関する教育を大学入学前に受けたことがないわが国の医学生や臨床研修医が,目前の患者とのコミュニケーションを保つのに苦労するのは当然の結果とも言えるであろう。しかしコミュニケーションの能力が医師にとって最も重要な能力の1つであることは疑いの余地がない。患者からの不満の中でいちばん多いのは,医師が十分に言うことをよく聞いてくれないということである。この様な不満が出るのは医師が忙し過ぎるだけでなく,本来持っているべき患者とのコミュニケーションの技術を医師が身に付けていないことも関係していると考えられる。

 一人でも多くの医師が本書を参考にされて患者と良好なコミュニケーションがとれるようになることを希望して本書の推薦の締めくくりの言葉としたい。

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