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DSM-Ⅳ-TR ケースブック 【治療編】

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DSM診断を学ぶための副読本として定評のある『DSM-IV-TRケースブック』(医学書院刊)より29症例を抜粋、新症例も5例加えた計34症例に対し、米国の第一線で活躍する精神科専門医が治療的なアプローチを執筆。ケースブック掲載の有名症例に対し、当該領域のオーソリティが最先端の治療アプローチを提示する。DSMケースブックの愛読者はもとより、世界標準の治療を目指す精神科医に好適の書。
編集 Robert L. Spitzer, et al.
髙橋 三郎 / 染矢 俊幸 / 塩入 俊樹
発行 2006年05月判型:A5頁:320
ISBN 978-4-260-00236-3
定価 6,050円 (本体5,500円+税)
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マティーニマン
ハイカー
骨と皮
タイムトラベラー
何にでも手を出す
ジェットコースター
まだ学生の1人
エレファントマン
ディスコのD嬢
コカイン
不貞の妻
うつ病か,にせ病か?
経営者の卵
お人形遊び
いら立つ電気技師
泣いて下さい
僕のファンクラブ
マクベス夫人
耐え忍ぶ
小児精神科医
フラッシュバック
妄想的で危険
毒のある隣人
ひどい生活
監視下
エミリオ
遅咲き
暖炉のそばに座って
お人よし姉さん
完全な照合表
欲求不満の図書館員
マイク・デバーデレベン
まぬけ
病弱
付録A:症例名による索引
付録B:考察者による索引
付録C:診断名による索引
付録D:項目索引

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臨場感あふれる症例で治療手法の適応を学ぶ
書評者: 井上 新平 (高知大学理事(研究担当))
 本書は1981年にはじまったDSMケースブック・シリーズの最新版である。このシリーズには診断・診療計画を扱ったものと治療を扱ったものがあり,DSM-IV-TRによる前者の症例集は,同じ訳者によりすでに邦訳されている(『DSM-IV-TRケースブック』医学書院,2003)。今回出版された【治療編】では,この症例集にある235例から29例が選ばれ,さらに新たに5例を加えた34例についての治療が紹介されている。疾患的にはほぼ網羅されているが,気分障害圏,神経症やパーソナリティ障害,児童青年期の障害が多く,逆に器質性精神障害が少ない。米国の一般の精神科医が遭遇するケースを中心にしているのだろう。構成としては,症例要約とDSM-IV-TR診断のあとに治療方針が書かれているが,その著者は当該分野の第一人者で,統合失調症の症例のホガティ,境界性パーソナリティ障害の症例のガンダーソンらである。オーソドックスな治療法の解説とともに,この症例ではどうするかということが,時にかなり具体的に提示され,また同一症例で複数の専門家がまったく異なった立場から論じているのもあり(境界性パーソナリティ障害,パニック障害など),その記載には臨場感がある。

 中味を通して,生物心理社会的モデルに基づく評価と治療計画の重要性が随所に強調されているのが目に付く。その一つとして,Engelが1977年にScienceに寄せた論文が紹介されている。わが国では,このモデルは統合失調症などで主に扱われているが,ここでは「生物学的治療の成否は心理社会的要因とそれに対する共同的アプローチ次第」(パニック障害の治療)という見解が随所に出てくる。精神医学が他の医学分野に貢献できるモデルであるという米国精神医学の主張が底流にあるのだろう。

 併存症としてのうつ病の多さとSSRIの適用の広さも目を惹く。中には,うつ病治療でfluoxetineを服用し寛解状態になったが,副作用と思われる性機能不全が起こった,さてどうするか,(1)fluoxetineを減らすか耐性ができるのを待つ,(2)性的副作用のより少ない薬剤に変える,(3)バイアグラのような薬剤を追加するという問いかけがあり,思わず主治医となった気分で読まされる。

 米国の保険診療の実態も折々に触れられている。「重症の過食行動と下剤乱用がある摂食障害の患者の入院には著しい電解質異常か著明な心電図異常が必要」(第三者支払い機関)という実情や,統合失調症のリハビリテーションに対するmanaged careの無理解などが生々しく紹介されている。

 本書で紹介されている治療手法については,訳者も言われるようにわが国でも広く行われているものがほとんどである。しかし,その適応や実際の手法については大変参考になることが多い。また前述したような精神医療の基本姿勢や医療状況なども含めて参考になる事柄が要所要所に書かれている。今日の米国精神科医療を知るうえでも大変役立つ書であろう。

DSM-IV-TRに基づく見事な臨床検討記録
書評者: 大森 哲郎 (徳島大教授・精神医学)
 経過を聞き,所見を取り,診断を立て,治療方針を考える,この作業をわれわれは日々行っている。本書では,精神疾患各種34症例の経過と症状が記述され,DSM-IV-TRにしたがって診断が鑑別され,さらに症例によってはその後の経過までもが提示されている。これによって,それだけ読んでも具体的なイメージがわきにくいDSM-IV-TRの診断基準が,実例に即して生き生きと伝わってくる。ここまでは,すでに出版されているDSM-IV-TR ケースブックと同様である。

 その姉妹編である本書の眼目は実はその先にある。それぞれの症例について,その疾患の名だたる専門家が,一般的な治療指針にとどまらず,自分ならどのように治療するかをかなり踏み込んで率直に語っているのである。あまりに操作的であるがゆえに,研究目的の診断確定には有用でも実際の臨床には不向きと思われがちなDSMシステムであるが,そんなことはないことが臨場感を持って納得できる。むしろ,現在の代表的な治療法がDSM診断体系に基づいて研究されているからには,この診断体系との照合なしに,治療を論じることはできないのである。本書は34症例の見事な臨床検討記録となっている。

 診断分類の理想は,診断が樹立されれば治療方針も自ずと決定するような,原因や病態に基づく分類であるが,精神疾患にとっては現時点では望むべくもない。DSM分類が,原因を棚上げした分類であるからには,診断名だけでは治療方針に直結しないのはむしろ当然である。それぞれの専門家は,それぞれの症例において,症状の特徴を整理し,家族歴や成育歴を参照し,身体的ならびに精神科的な併存症の有無を考慮し,慎重に診断を確定している。その上で,支持的対応,薬物療法,認知行動療法,社会的サポートなどに至るまで幅広く見渡し,自分ならこうするという治療方法を述べている。

 読者は,興味のある疾患からでも,名前に馴染みのある専門家が担当している症例からでも,どこからでも読み始めることができる。専門家たちは,ときに慎重に,ときにはずいぶん大胆に,しかしおしなべて率直に本音を語っているようにみえる。研究論文の無機質な記述よりは,症例の治療方針を語るときに,考え方や個性がのびのびと表現されるらしい。一例を挙げると,診断確定が遅れ,薬物治療が変転したのち1年たってようやく寛解した精神病性の特徴を伴う大うつ病症例に対する,ECT(電気けいれん療法)の大家のマックス・フィンク博士のコメントは,「彼の行動を評価した精神科医達のばかさ加減を見よ」,「なぜ彼はそれほどひどい治療を施行されたのか」,「ECTを施行しなかったことに弁明の余地はない」という激しい調子である。

 境界性パーソナリティ障害,パニック障害,統合失調症様障害の3症例では,2人の著名な専門家のコメントを競合させるという読者の興味を引く仕掛けもある。また,別々の慢性統合失調症を語る2人の専門家は,期せずして経済優先の医療制度に対する批判の声をそろえる。DSM-IV-TRに準拠した臨床検討記録を読みながら,米国精神医学の実情と層の厚さを垣間見る思いにもかられる。初学者からベテランまで,さまざまな読み方が可能な,興味の尽きない良書である。

精神医学・問題に関わる医療・教育・福祉関係者に
書評者: 西村 良二 (福岡大教授・精神医学)
 客観性の点で優れた操作的診断分類DSMは本邦でも普及しつつあるが,わが国の精神科の臨床家は必ずしもこの診断分類のみに頼っているわけではないことも指摘されている。その理由の1つとして,まだ多くの臨床家が伝統的な診断分類に対してある種の魅力を感じていることがあげられよう。伝統的な診断分類に対しては,患者との間に生じる初診時の情動体験やラポールの形成を含めた診断面接の進め方が,その後に続く治療に結びつくという思いがあるからに違いない。たしかに,伝統的診断分類法には,優れた先輩の診断法をじっくりと見て,考え,それを取り入れ,自分のものにしていくという営みがあり,また診断の後の治療の進め方についても,師匠の手法の実際を見ておぼえていくといった修練ともいえるものがあった。米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)は,操作的診断分類DSMのケースブックの一連の出版を通じて,わが国の臨床家たちも感じていたこの種の“もの足りなさ”を補っているように思える。

 さて,本書は,APAから出版された『Treatment Companion to the DSM-IV-TR Casebook』(2004)の翻訳書である。本書では興味深い34症例があげられ,それぞれの症例に対して,その分野の専門家が治療法を語るという形式をとっている。たとえば,強迫性障害にはジュディスL.ラポポート博士,性的サディズムにはマイケル・ストーン博士,境界性パーソナリティ障害にはジョン・ガンダーソン博士など,わが国でも名が知られた専門家が,鑑別診断も含めて,どのように診断を進め,いかに対応するか,さらには治療プランまでを語っている。あたかも直接の指導をしてもらっているかのようである。こうして,本書には,臨床家をとらえて放さない魅力,すなわち,“人を知るという生きた感情”を体験できる楽しみがある。

 実際の面接では,ラポールを育成しながら,情報を得,まだ理解できない部分も焦らず治療経過のなかで明らかにしていこうという側面がある。こうした,今までのDSMに関する書物には余り見られなかった側面が本書には盛り込んである。

 ところで,APAは,DSMの21世紀システムとして,さらに軸を増やして8軸にすることを検討しているという。新たな3軸とは,「治療動機と意味」,「行動の生物学的・遺伝的要因」,「心理社会的治療,薬物療法についての治療プラン」の3つであるらしい。そうすると,本書はそれへ向けての一歩なのかもしれない。

 それはともかく,読者は,本書を読んでDSM診断分類が身近に思えるのではないだろうか。本書は訳がこなれていて読みやすいし,読んでいるとケースカンファレンスに参加している臨場感がわく。このようにすばらしい本書は,精神科医,精神医学に関わるすべての臨床家,精神科看護スタッフ,作業療法士,心理士,精神科ソーシャルワーカーは言うまでもなく,精神的問題に関わる教育関係者,福祉関係者の人たちにもお薦めしたい1冊である。

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