看護のための教育学

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看護職者は、患者やその家族、新人や後輩、実習生などへの指導の場面で教える機会が多い。そのため、人の発達や学習について理解し、相手の理解力や立場に合わせて教えられるようになることが求められる。看護と教育学は無関係ではない。本書は、なぜ看護に教育学が必要なのかを丁寧に述べたうえで、看護で必要になる教育学の基本的知識をわかりやすく解説している。
編著 中井 俊樹 / 小林 忠資
発行 2015年12月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-02438-9
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 看護師を目指しているのになぜ教育学を学ぶ必要があるのでしょうか。このような疑問をもつ人もいるでしょう。そのような人に対しては,看護師を目指しているからこそ教育学が必要であると強く主張したいと考えています。
 多くの看護師養成機関において,教育学の授業が開講されています。それは,看護師にとって教育学が重要であると考えられているからです。看護師は人の学習や発達を理解することが求められます。また,患者さんや家族への指導,後輩への指導,実習生への指導などの場面において,看護師は指導者としての役割を担っています。さらに,看護師は専門職として自分自身の学習について理解し,キャリアを拓いていくことが求められます。このような職業上の理由から,看護師にとって教育学を学ぶことは重要なのです。その上,教育学は子育てや趣味としての学びなどにも役立ちます。
 本書は,看護師になるために必要な教育学の知識や技能をまとめたものです。看護師養成機関における教育学の授業を想定して執筆しました。したがって,本書が第一に想定する読者は,看護師養成機関の学生です。学生が読んで理解できるように心がけて執筆しました。看護師養成機関の学生以外にも,看護師や看護教員など教育にかかわる多くの看護関係者にとって役立つ内容になっているのではないかと考えています。
 本書の執筆の動機は,看護師養成機関における教育学の授業に適した教科書が見あたらなかったことにあります。看護師を目指す学生のための教育学の内容は,教員や教育研究者を目指す学生のための教育学の内容と異なるにもかかわらず,多くの既存の教科書はその違いを明確にできていませんでした。そのため,看護学生が教育学を学習する意義が十分に伝わっていなかったのではないかと考えています。看護学生向けの適切な教育学の教科書がないという課題は,『看護教育』51巻9号(2010年)などの専門誌においても指摘されてきました。
 このような背景のもと,看護師になるために必要な教育学とはどのようなものかについての検討を重ねて,本書をまとめることができました。書名である『看護のための教育学』にふさわしい内容になったのではないかと自負しています。本書を通して,教育学は役立つ,教育学はおもしろい,教育学をもっと知りたいと考える読者が増えればと願っています。
 本書が作成できたのは執筆者の力だけによるものではありません。草稿段階では,多数の関係者から的確で有益なアドバイスをいただきました。その一部の方を執筆協力者として巻末に列挙しました。小川幸江氏(名古屋大学事務補佐員),東岡達也氏(名古屋大学大学院生),星野晴香氏(愛媛大学大学院生),大内洋子氏(愛媛大学技術補佐員)には,資料の作成や書式の統一などにご協力いただきました。医学書院の藤居尚子氏,木下和治氏,南村雄也氏には,本書の企画のきっかけをいただき,編集,レイアウトデザイン,イラストなどさまざまな点でお力添えいただきました。多くの方のご協力を得て,ようやく本書の出版にこぎつけることができました。この場をお借りして,みなさまに御礼申し上げます。

 2015年10月
 中井 俊樹

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はじめに
本書の構成と使い方

第1部 人の発達と学習
 1章 学ぶことと教えること
   1 なぜ教育が大切なのか
   2 生涯学習社会を生きる
   3 教える準備に取りかかる
 2章 人の発達を理解する
   1 人の発達の特徴
   2 認知能力の発達を理解する
   3 自己の発達を理解する
   4 対人関係の発達を理解する
 3章 学習の原理を理解する
   1 学習の特徴を理解する
   2 知識の学習を理解する
   3 技能の学習を理解する
   4 態度の学習を理解する

第2部 指導の基本
 4章 指導者の役割と姿勢を理解する
   1 指導者にはさまざまな役割がある
   2 指導者の6つの役割
   3 指導者としての姿勢
 5章 指導を設計する
   1 指導の設計を始める
   2 わかりやすい学習目標を設定する
   3 適切な指導方法を選択する
   4 教材を準備する
 6章 効果的に指導する
   1 効果的な指導の型を理解する
   2 導入で学習の準備を整える
   3 展開で学習内容を深める
   4 まとめで学習を定着させる
 7章 学習を評価する
   1 評価の目的を理解する
   2 評価の構成要素を理解する
   3 目標に適した評価方法を選択する
   4 評価の効果を高める工夫

第3部 さまざまな指導の工夫
 8章 学習意欲を高める技法
   1 動機づけの基本原理を理解する
   2 動機づけの理論を理解する
   3 学習意欲を高めるさまざまな技法
 9章 コミュニケーションの技法
   1 気軽に話し合える関係を築く
   2 非言語的コミュニケーションを活用する
   3 思考を深める質問の技法
   4 学習効果を高める指示
 10章 ディスカッションの技法
   1 ディスカッションを理解する
   2 ディスカッションを準備する
   3 ディスカッションを導く
   4 ディスカッションを活性化させる工夫

第4部 学習とキャリア開発
 11章 看護師としての学習を理解する
   1 学習の3つの形態
   2 専門職としての学習
   3 自分自身の経験から学ぶ
   4 主体的な学習者を目指す
 12章 キャリア開発に向けて学習する
   1 看護師のキャリアとは
   2 看護師のキャリアの課題
   3 看護の専門性を高めていく
   4 キャリア開発のための学習

用語集
参考文献
おわりに
執筆者プロフィール
執筆協力者
索引

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実践者である看護職や教員が手元に置いて活用すべき書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 杉原 多可子 (公益社団法人 大阪府看護協会教育研修部長)
 「看護のための教育学」とは,何の変哲もないタイトルだが,中身は「看護師こそ教育学を学ぶ必要がある!」という強いメッセージが一貫して構成の根底に存在する。

 著者の1人,中井俊樹氏は大学における教授法や,教職員のディベロプメントに多数の業績をもつ教育学のプロフェッショナルである。

 中井氏は,2007年,当時勤めていた大学の附属病院看護部から臨地実習指導者への教育手法の伝授を依頼されたことを端緒に,認定看護師教育課程,県看護協会,看護師養成校への講義を担うことで,看護職になるために必要な教育学とはどのようなものかについて検討を重ねてきた経緯があり,看護への造詣が深い学識者の1人である。

 看護職が遭遇する臨床現場の体験のなかには,新人教育・患者指導など教える場面が非常に多いにもかかわらず,とかく暗黙知が多い看護実践では,教育者は長年,経験的に教えることを身に着けてきた。そのことが当たり前であった時代は終わったと感じさせてくれるのがこの本だ。

 本書は,一般の大学教員ではなく,実践者である看護職が教育学の知見を活用する方法を説くテキストである。内容は,4部で構成されており,いずれも教育学の理論を平易な言葉で解説し,多すぎず,しかももれなくダブりなく知っておくべきことが網羅されている。第1部〈人の発達と学習〉では,対象を理解するための基本的な知識から視野の拡大を導き,自己の発達へと関連付けている。次に第2部〈指導の基本〉,第3部〈さまざまな指導の工夫〉では,より具体的な指導設計や評価方法,さらに双方向の学習技法について示されていて,すぐに使えるノウハウが満載である。第4部〈学習とキャリア開発〉は,看護学生に未来の自身を描くことを方向づけており,ぜひとも加えてほしかった内容となっている。さらに,各章の最後にワークが設けられていて,個人およびグループで活用すれば学習の補完,強化ができるようになっている。

 読者の想定は,臨床に出る前の準備(レディネス)として看護学生を対象としているが,ここが重要である。なぜなら,看護とは,患者1人ひとりの固有の人生の物語に寄り添う仕事であり,これらの学習が,対象理解を深め,実践者としての自身の体験を内省し,学び続ける姿勢すなわち自己教育力の萌芽となるからである。このことは生涯学習・キャリア開発を志向する心が折れない看護職を育てる意義も併せもつ。

 本書の役割や効果から,私はむしろ看護師養成機関の看護教員や施設の教育担当者の手元に置いて活用してもらいたい。特に,看護教員が1年を通した授業設計に,教育学について学習する機会を組み込むうえで,最適のテキストであろう。

(『看護教育』2016年3月号掲載)
生涯手元に置きたい,教育学の虎の巻
書評者: 内藤 知佐子 (京大病院総合臨床教育・研修センター)
 「看護師を目指しているのになぜ教育学を学ぶ必要があるのでしょうか。このような疑問を持つ人もいるでしょう。そのような人に対しては,看護師を目指しているからこそ教育学が必要であると強く主張したいと考えています。」これは,「はじめに」の中で中井先生が書かれている最初の一文です。若い頃の疎かだった自分の考えをズバリ指摘され一喝された,そんなインパクトを受ける印象的な一文でした。確かに,看護師をめざすのになぜ教育学? と思う方もいるでしょう。しかし,看護師だからこそ教育学が必要であることを,人生の経過とともに強く実感している人も多いのではないでしょうか。

 以前,中井先生との対談(『週刊医学界新聞』 第3151号 2015年11月23日付) の中で,看護師が教育学を学ぶ必要性を三つ教えていただきました。一つ目は教える場面の多い看護業務を効果的に展開するため,二つ目に患者理解など学習者である対象への理解を深めるため,そして三つ目に自分自身の生涯学習のためです。

 看護業務では,患者・家族指導のみならず学生指導や新人看護師指導など,多様な教える場が存在します。しかし,それらの指導法については,先輩らのやり方を真似ながら,あるいは試行錯誤しながら,その多くは個々の努力によって習得しているのが現状ではないでしょうか。

 本書は看護学生を対象に,看護師に必要とされる教育学のエッセンスを四つのパートに分け,平易な言葉でわかりやすく紹介しています。第1部「人の発達と学習」では,発達段階のみならず学習を通して獲得できる三つの能力,知識・技術・態度を習得していくそのプロセスが解説されており,アプローチの方法をロジックに考えることを助けます。続く第2部「指導の基本」,第3部「さまざまな指導の工夫」では,学習目標の立て方など指導の設計方法やコミュニケーション技法について書かれているため,実習中における患者指導の場面を多角的に捉え考えられる材料になると感じました。なお,欲を言えば,コミュニケーション技法に関しては,学生が時に難渋する実習先のスタッフとのコミュニケーション技法についても書かれていると,学生と指導者および教員の三者を助けたかもしれません。

 最終の第4部「学習とキャリア開発」では,学生の目線をスッと未来へと向け,卒業後の自分をイメージさせる章立てとなっています。また,看護師が直面する壁として,リアリティ・ショックやバーンアウト,ライフイベントについても記載されているため,予備知識として学習者の将来を助ける内容になっていると感じました。

 学生時代に,このような素敵な書籍に出会える現代の若者をうらやましく思います。が,安心してください。皆さんも,遅くはありませんよ。教育に興味を持った人が,まずは手にしたい一冊です。教育学のエッセンスが凝縮された本書を,ぜひ手に取ってみてください!

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