神経眼科学を学ぶ人のために

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神経眼科臨床・研究の第一線で長年活躍する著者による、待望の決定版テキスト。解剖生理、診察・検査・診断から治療まで、明快かつシンプルな記述で臨床に必要な知識を網羅。圧巻のカラー図版・症例写真・画像所見を掲載したビジュアルなレイアウト。基礎知識から最新知見まで、読者の知りたい情報にたどりつきやすい紙面構成。眼科医、神経内科医、視能訓練士など神経眼科臨床に携わる、すべての医療関係者の必携書。
三村 治
発行 2014年11月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-02022-0
定価 9,900円 (本体9,000円+税)

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 神経眼科学というと眼科学の中でも難解なもの,特別な知識が必要なものと思われる方が多いかもしれない.しかし,神経眼科学は決して難解なものでも特別な知識が必要なものでもない.いくつかのコツを覚えれば,その診断は容易になり,読者にとって大変役に立つ面白い領域であることがわかるはずである.
 本書は3つの目的別の記述から構成されている.第一は医師や視能訓練士でこれから神経眼科学を学ぼうとする人たちに,神経眼科学の基礎知識の整理をしていただくための記述である.そのため,評価のほぼ確定している事実や覚えておくべき知識を本書中に太字で記載してある.第二に,これから神経眼科疾患の治療の説明や実施に役立つ情報をさらに深く知ろうとする人たちのための記述である.これは項目別に箇条書きで記載してある.第三に,神経眼科疾患に関する新しい知見や未確定の情報などで興味深い項目や,筆者の自験例での結果などをCloseUpとして別項に記載した.これらの情報も参考にして頂ければ幸いである.
 本書にはもうひとつの特徴がある.これまで神経眼科学の成書というと主に診断中心のものがほとんどであったが,本書では第1章の解剖・生理から始まり,第2章には神経眼科診察法を記載し,さらに第3章以降の各疾患編には治療と予後を,薬剤名と用量や手術術式などをできるだけ具体的に記載するようにして,初歩的な検査・診察の手順から最終的な治療まで一連の流れを理解できるようにした.本書が眼科領域,神経内科領域の医師にはもちろんのこと,視能訓練士の方々にも大いに役立ち,神経眼科領域の理解と進歩がもたらされることになれば,筆者として望外の喜びである.しかしながら,OCTや遺伝子解析,さらには免疫療法など神経眼科領域の最近の情報はあまりにも膨大で,かつ本書は筆者の単著であるため,内容的にはまだまだ不十分な点・最新ではない点があると思われるが,これはひとえに筆者の責任である.今後,読者諸氏のご指摘,ご批判にしたがい,改訂時に改めていきたいと考えている.
 最後に,本書の執筆にあたって多くの症例を提供していただいた木村亜紀子准教授はじめ兵庫医科大学眼科学教室の多くの新旧教室員や学外の先生方に謝意を表したい.また,数々の画像の提供とご教示をいただいた兵庫医科大学放射線線医療センター安藤久美子准教授にも厚く御礼を申し上げる.また,8年前に本書の企画に賛同し刊行をお引き受けいただきながら,私の遅筆でご迷惑をかけたにもかかわらず最後まで諦めず支えてくださった医学書院の方々の熱意とご尽力に深謝する.

 2014年10月
 三村 治

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1 神経眼科の解剖と生理
 A 視覚路
  1 網膜
  2 視神経,視交叉,視索
  3 外側膝状体(LGN)
  4 視放線
  5 大脳皮質視覚領
 B 眼球運動系
  1 中枢経路
  2 最終共通経路
 C 対光反射経路
  1 瞳孔
  2 対光反射

2 神経眼科診察法
 A 問診
  1 発症状況
  2 疼痛の有無
  3 日内変動と発症後の経過
  4 家族歴
  5 手術歴
 B 視診
  1 歩行状況
  2 頭位
  3 顔貌,容貌
  4 眼球突出度
  5 眼瞼の状態
 C 眼位・眼球運動検査
  1 Hirschberg法
  2 交代遮閉試験・プリズム試験
  3 向き運動検査
  4 眼球運動記録
 D 視神経乳頭の見方(検眼鏡および眼底写真による)
  1 乳頭サイズ
  2 境界
  3 色調
  4 陥凹
  5 乳頭内・近傍短絡血管
  6 乳頭周囲網膜神経線維の浮腫混濁
  7 血管の拡張・多分岐
 E 瞳孔・対光反射の観察
  1 瞳孔サイズ,瞳孔不同,形
  2 対光反射
 F 中心フリッカ値の測定
 G 視野の測定
  1 Goldmann動的視野計
  2 Humphrey自動視野計(HFA)
  3 眼底視野計
 H 色覚検査
  1 パネルD-15テスト
  2 Farnsworth-Munsell 100-Hueテスト
 I SD-OCTによる観察
  1 黄斑・乳頭周囲網膜神経線維層厚の観察
  2 網膜神経細胞層厚の観察
  3 網膜外層の観察
 J 自発蛍光検査
 K 電気生理学的検査
  1 網膜電図(ERG)
  2 視覚誘発電位(VEP)
  3 眼電位図(EOG),電気眼振図
  4 外眼筋筋電図(EMG)
 L 放射線画像検査
  1 CT
  2 MRI
  3 MRA
  4 fiber tracking
 M 遺伝子診断
  1 視神経疾患
  2 眼球運動異常
 N 髄液検査
  1 髄液圧
  2 細胞数
  3 細胞の種類
  4 蛋白
  5 その他
 O 特殊自己抗体検査

3 視神経・視路疾患
 A 視神経に腫脹をきたす疾患
  1 乳頭腫脹
  2 うっ血乳頭
  3 視神経炎
  4 視神経周囲炎
  5 乳頭血管炎
  6 虚血性視神経症
 B 遺伝性視神経症
  1 Leber遺伝性視神経症(LHON)
  2 優性遺伝性視神経萎縮(DOA)
 C 外傷性視神経症
 D 圧迫性視神経症
  1 甲状腺視神経症
  2 鼻性視神経症
  3 その他の圧迫性視神経症
 E 栄養欠乏性視神経症
 F 中毒性視神経症
  1 エタンブトール視神経症
  2 メチルアルコール中毒性視神経症
  3 シンナー中毒性視神経症
  4 薬剤性視神経症
 G 悪性腫瘍による視神経症
  1 浸潤性視神経症
  2 悪性腫瘍随伴視神経症
 H 放射線視神経症
 I 視神経萎縮
 J 視神経の先天異常
  1 朝顔症候群
  2 乳頭傾斜症候群
  3 視神経乳頭コロボーマ
  4 透明中隔視神経異形成
  5 鼻側視神経低形成(NOH)
 K 視神経の腫瘍
  1 視神経鞘髄膜腫(ONSM)
  2 視神経膠腫
 L 視交叉の異常
  1 視交叉部腫瘍
  2 視交叉部の炎症・外傷
 M 視交叉以降の視路病変
  1 視索病変
  2 外側膝状体病変
  3 視放線・後頭葉病変
  4 可逆性白質脳症(PRES)
 N 視神経疾患と間違えやすい網膜疾患
  1 急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)
  2 多発消失性白点症候群(MEWDS)
  3 錐体ジストロフィ
  4 視神経網膜炎

4 眼球運動障害
 A 核上性眼球運動障害
  1 側方注視麻痺(水平注視麻痺)
  2 垂直注視麻痺
  3 内側縦束(MLF)症候群(核間麻痺)
  4 One-and-a-half症候群
  5 斜偏位とocular tilt reaction(OTR)
  6 眼球運動失行症
  7 単眼上転麻痺(DEP)
  8 Fisher(Miller Fisher)症候群
  9 進行性核上性麻痺(PSP)
  10 開散麻痺
  11 輻湊痙攣
  12 眼球運動クリーゼ
 B 核および核下性眼球運動障害
  1 動眼神経麻痺
  2 滑車神経麻痺
  3 外転神経麻痺
  4 複合神経麻痺
 C 眼運動神経先天異常
  1 Duane症候群
  2 Möbius症候群
 D 神経筋接合部障害:重症筋無力症
 E 筋原性眼球運動障害および機械的眼球運動制限
  1 甲状腺眼症
  2 眼窩筋炎
  3 強度近視性進行性内斜視(固定内斜視)
  4 慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)
  5 外眼筋線維症(CFEOM)
  6 Brown症候群

5 眼振・異常眼球運動
 A 眼振の定義と分類
  1 眼振の定義
  2 眼振の分類
 B 先天眼振
  1 律動眼振
  2 振子様眼振
  3 周期性交代眼振(PAN)
  4 新生児点頭痙攣
 C 後天眼振
  1 下向性眼振
  2 上向性眼振
  3 輻湊眼振
  4 シーソー眼振
  5 後天律動眼振
  6 反跳眼振
 D 眼振様運動
  1 オプソクローヌス
  2 眼球粗動
  3 矩形波様眼球運動(SWJs)
  4 上斜筋ミオキミア

6 眼瞼の異常
 A 眼瞼の位置・形態異常
  1 眼瞼下垂
  2 上眼瞼後退症
 B 眼瞼の機能異常
  1 眼瞼痙攣
  2 片側顔面痙攣
  3 眼瞼ミオキミア
  4 顔面ミオキミア
  5 眼瞼チック
  6 顔面神経麻痺後遺症としての攣縮
  7 眼瞼の異常連合運動

7 瞳孔異常をきたす疾患
 A 緊張瞳孔,Adie症候群
 B Horner症候群
 C 楕円瞳孔
 D Argyll Robertson瞳孔
 E 動眼神経麻痺
 F 前眼部虚血(ASI)

8 眼窩に異常をきたす疾患
 A 甲状腺眼症(GO,TAO)
 B 特発性眼窩炎症
 C 粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALTリンパ腫)
 D IgG4関連眼疾患
 E 頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)
 F 眼窩先端症候群・上眼窩裂症候群
 G 副鼻腔粘液嚢胞・膿嚢胞
 H 眼窩蜂巣炎,眼窩周囲蜂巣炎
 I 眼窩壁骨折(眼窩吹き抜け骨折)
 J 眼窩静脈瘤

9 全身疾患と神経眼科
 A 重症筋無力症(MG)
  1 重症筋無力症
  2 小児の重症筋無力症
  3 高齢者の重症筋無力症
 B 多発性硬化症(MS)
 C 急性散在性(播種性)脳脊髄炎(ADEM)
 D 甲状腺眼症(GO,TAO)
 E 肥厚性硬膜炎
 F 側頭動脈炎
 G 内頸動脈解離
 H 脳腫瘍
  1 脊索腫
  2 嗅神経芽腫
  3 線維性骨異形成
 I Arnold-Chiari奇形
 J 神経線維腫症1型
 K 心因性(非器質的)視覚障害

索引


CloseUp
 M経路とP経路
 プリーの移動や脆弱化で斜視が起こる!
 Humphrey視野は5つのリングで読もう!
 パターンVEPはブラウン管と液晶画面で潜時が異なる!
 北米では多施設治療トライアル NORDIC study が開始!
 ANCA関連血管炎は疾患名も抗体名も名称が変わっている!
 小児の視神経炎は成人とは大きく異なる!
 3種類の血液浄化療法にはそれぞれに長所・短所がある!
 抗MOG抗体
 女性の虚血性視神経症では抗カルジオリピン抗体も原因の1つ!
 日本発のイデベノンがLHONに有効!
 Wernicke脳症
 強度変調放射線療法(IMRT)
 下垂体卒中
 鞍結節髄膜腫でも妊娠で悪化することがある!
 蝶形骨縁髄膜腫
 トルコ鞍空洞症候群
 中心性同名半盲では読書困難が起こる!
 側方注視麻痺と共同偏視
 動眼神経麻痺後には眼瞼に異常連合運動が起こる!
 先天上斜筋麻痺は後天滑車神経麻痺とは別物!
 滑車神経麻痺は確定するまで両側性を疑え!
 下直筋鼻側移動術では内転作用に注意!
 満足度の高い甲状腺眼症の斜視手術!
 眼振は緩徐相が重要!
 眼振の頻度は意外に多い!
 潜伏眼振は乳児内斜視とDVDを合併しやすい!
 Arnold-Chiari奇形では多彩な眼振がみられる
 ボツリヌス療法とは?
 眼輪筋切除には炭酸ガスレーザーを用いるのが便利!
 メラノプシン含有網膜神経節細胞
 散瞳薬点眼試験による交感神経障害部位判定法
 アプラクロニジン点眼試験
 Tolosa-Hunt症候群はステロイドへの反応での治療・診断が可能!
 外眼筋が癒着していない斜視手術はかえって厄介なことがある!
 アイステストの機序
 clinically isolated syndrome(CIS)の診断基準
 日本発のフィンゴリモド

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これほどわかりやすい神経眼科の教科書はない!
書評者: 岸 章治 (群馬大教授・眼科学)
 わが国の神経眼科学の第一人者である三村治教授による単著,『神経眼科学を学ぶ人のために』が上梓された。私が知る限り,これほどわかりやすく親切に書かれている神経眼科の教科書はない。眼科は基本的に形態学であり,病変を見ればだいたいの見当がつく。最近ではOCTのおかげで,診断は格段にらくになった。一方,神経眼科では,病変は検眼鏡では見えず,機能の異常であることが多い。このため訴えを注意深く聴取し,機能異常を分析的に観察し,視野やMRI,さらに遺伝子などの諸検査を適切にオーダーしなければならない。診断に至るには幅広い神経眼科の知識による推察が必要である。神経眼科が敬遠されるゆえんであろう。本書はタイトルが示すように,著者が長年の経験と知識を若い人たちに語りかけるスタイルを取っている。重要な点は太字で強調してあり,著者の意気込みが伝わってくる。

 本書は9章から構成されている。第1章は解剖と生理である。眼球運動には衝動性と滑動性追従運動があり,前者は「随意的眼球運動の大部分を占める急速な眼球運動で,……反射的にみられることもある」,後者は「移動している指標を常に網膜の中心窩に保つために生じる滑らかな運動」と明快に説明されている。第2章は診察法である。問診は発症状況,疼痛の有無,日内変動と発症後の経過,家族歴,手術歴をさまざまな可能性を考えながら聴取する。視診は極めて大切である。歩行状況,頭位,顔貌・容貌,眼球突出度,眼瞼の状態を注意深く観察する。その後,眼位と眼球運動を検査する。本書の知識を活用すれば,問診と視診だけで診断をかなり絞り込むことができるだろう。第3章は視神経・視路疾患である。視神経に腫脹をきたす疾患には,乳頭腫脹,うっ血乳頭,視神経炎,視神経周囲炎,乳頭血管炎,虚血性視神経症がある。乳頭腫脹(disc swelling)は「視神経乳頭が境界不鮮明となり隆起している状態」を指し,さまざまな原因からなる。そのうちのうっ血乳頭(papilledema, choked disc)は頭蓋内圧亢進による乳頭腫脹を指す。英語表記に注意が必要である。視神経炎は抗アクアポリン4抗体陽性など新知見が満載である。第4章から第7章は眼球運動障害,眼振・異常眼球運動,眼瞼の異常,瞳孔異常をきたす疾患など神経眼科の神髄とも言える分野である。MRIが欠かせない。第8章は眼窩に異常をきたす疾患で甲状腺眼症,感染,骨折を扱っている。第9章は全身疾患と神経眼科である。本書にはClose Upというコラムが38項あり,最新のトピックや診断のコツを扱っており,大変役に立つ。

 本書は三村教授一人の手によるものなので,全体の統一が取れている。何より著者の肉声が聞こえてくる記述が素晴らしい。出版社泣かせの低価格は,なるべく多くの人に読んでほしいという著者の思いの表れであろう。この名著を座右の書として,若い学徒だけでなく,一般眼科医まで広く薦めたい。
眼科学の大部分は神経眼科学であることに気付かされる一冊
書評者: 臼井 千惠 (帝京大病院眼科・視能訓練士技師長)
 神経眼科学は,「難解な」とか「敬遠されがちな」といった言葉で形容されることの多い学問である。視能訓練士や看護師など眼科医療に従事するコ・メディカル職の中にも,苦手意識を持つ者は多いと思われる。かくいう私もその一人である。

 学生時代,神経眼科学の講師から「神経眼科学は決して難しい学問ではありません。皆さんに地図をあげましょう。これを手掛かりにすれば,神経眼科領域は容易に理解できますよ」と言われ,A4用紙1枚を手渡された。そこには眼球と脳の視覚野とが入力系・出力系・統合系の線で結ばれた「地図」が書かれてあった。しかし,生来,方向音痴で地図が読めない私には,この地図も読めなかった。それ以降,今日まで神経眼科学に関する分野は暗記と臨床経験でかわしてきた。ただし,手をこまねいていたわけではない。神経眼科学の参考書を購入し,学会にも出席して,自分なりに少しは努力したつもりである。それでも,神経眼科学への「難解な」という形容詞は払拭できなかった。

 このたび,『神経眼科学を学ぶ人のために』が出版された。序文には,「医師や視能訓練士でこれから神経眼科学を学ぼうとする人たち」や「これから神経眼科疾患の治療の説明や実施に役立つ情報をさらに深く知ろうとする人たち」に向けた本であると書かれている。その言葉に背中を押され,神経眼科学をもう一度初心に返って勉強してみようと覚悟を決め,第1章「神経眼科の解剖と生理」をめくってみた。いきなり見慣れた眼底写真とOCTによる黄斑中心窩網膜の層構造が目に飛び込んできた。そうか,OCTの撮像は神経眼科学の検査だったのか……とあらためて思う。その後は多くの参考書に書かれている視神経の構造や視路の解説が続くが,精密で美しい解説図が随所に挿入されているため,絵に促されるように読み進むことができる。第2章「神経眼科診察法」では,視能訓練士になじみ深い検査がわかりやすい写真と図によって次々に紹介され,日々の臨床で行っている検査を神経眼科学に関連した検査として見直すことができるようになっている。そのことで,検査で得られた結果を眼科一般検査としてではなく,神経眼科学の立場からあらためて評価するという姿勢が自然に養われるのではないだろうか。検査結果は,多角的,客観的に評価されることで診断と治療に役立つデータになる。どのような目的で行う検査なのかを知ることで,得られる結果も明確な意義を持つようになると思われる。

 第3章からいよいよ神経眼科疾患の診断,病因,治療と予後が解説されるが,ここでも最新検査機器で得られた典型的な検査結果が鮮明な画像や写真で挿入され,しかも評価のほぼ確定している事実や覚えておくべき知識が太字で記載されているため,ポイントを押さえてビジュアル的に学ぶことができる。疾患ごとに紹介される参考文献やClose Upも,著者からワンポイントアドバイスを直接教えていただいているような気持ちになる。

 本書を読み,眼科学の大部分は神経眼科学であることにあらためて気付かされた。本書は神経眼科学の参考書であるが,同時に眼科学の参考書でもある。神経眼科学を学ぶ人はもちろん,眼科学を初めて学ぶ学生にもぜひ推薦したい一冊である。最初に本書で勉強すれば,神経眼科学は決して敬遠する学問ではなくなるだろう。
読みやすく簡潔でありながら新しい情報にも意を払った臨床の幅と深さを増す一冊
書評者: 若倉 雅登 (井上眼科病院名誉院長)
 日本広しといえども,神経眼科の大看板を掲げた主任教授のいる教室は,現在兵庫医科大学しかない。その人,三村治教授が八年をかけて渾身の神経眼科学の教科書を上梓した。

 視覚は眼球だけでは成り立たない。対象物に視線を合わせて明視するという瞬時の作業は脳と眼球の共働で行われ,このときに,眼球運動,調節や瞳孔の運動が生じている。こうして適切に網膜に入力された視覚信号は視路を経て,大脳皮質視覚領に到達し,さらに高次脳へ至って情報処理される。神経眼科とは眼球そのものだけでなく,それと共働作業をしている大脳皮質や脳幹,小脳も含めた視圏で,視覚に関する生理,病理を捉える学問で,その源は20世紀前半にある。その後の一世紀の間に,神経学を支える学問群の目覚ましい進歩とともに,神経眼科はおびただしい臨床経験をした。三村教授は,日本の神経眼科学の草創期メンバーである井街譲,下奥仁兵庫医大両教授の下に学び,1998年に第3代教授に就任した。この経歴からも,日本で最も豊富な神経眼科の臨床経験を有した現役医師かつ教育者であることが知れる。

 本書はこうした背景の中で著された集大成で,今日の臨床神経眼科学の一つの到達点を示した歴史的著書といってもよいだろう。しかも単著である。単著は多数の著者による共著がどうしても統一性に欠け,時に専門的すぎたり,重複や欠如項目が出やすい弱点があったりすることからも,読者としては望ましい形である。ただ,広い範囲を一人だけでカバーしなければならない単著は,その重圧と費やされる時間の膨大さから避けたいのが人情である。それをやってのけた三村氏にまず敬意を表したい。

 最近は字数を減らしイラストなどで目に訴える手軽な教科書が好まれるあまり,通り一遍の説明に終わり,深みが追及されていない書が多い。そんな中で本書は,読みやすい簡潔な記述法を用いながらも,新しい情報にも十分意を払った一冊になっている。例えば抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎や鼻側視神経低形成に独立した項目を与えたり,最近次々と発見されている眼底所見の乏しい網膜疾患を「視神経疾患と間違えやすい網膜疾患」として取り上げたりしているところなど,類書には見られない慧眼である。

 しかし,三村氏の永年の臨床経験の成果が最も顕著に表れているのは,「眼瞼痙攣」「甲状腺眼症」「重症筋無力症」の三項目であろう。それぞれの疾患に,5,7,9ページを割き,文献的記載だけでなく,症例を多数診てきた者でなければ気付かない内容が含まれ本書を特長付けている。この三項目は眼科医がもっと理解を進め,積極的に扱うべき疾患だと評者もずっと思ってきただけに,わが意を得たりである。

 神経眼科に関心のある眼科医,神経内科医,脳外科医らにとっては,座右に置いて大いに価値のある書である。神経眼科の問題は,眼科臨床の中に平気でずけずけと入り込んでくるので,厄介に思う眼科医も多いようだが,本書を読めばそれは杞憂に帰し,むしろ臨床の幅も深さも増すことになろう。そういう意味では,とりわけ一般眼科医にお薦めしたい一冊である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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