All About 開放隅角緑内障

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眼科診療のエキスパートを目指すための新シリーズの1冊。緑内障の標準病型とも言える開放隅角緑内障につき、臨床に必要な基礎研究・疫学の最新知識から、ガイドラインに沿った実地診療の最前線までを網羅した。OCT検査、プロスタグランジン関連薬、チューブシャント手術など最新トピックスも満載。第一線で活躍する執筆陣がエキスパートならではの経験、洞察、哲学を存分に披露した、緑内障診療の新しいスタンダードテキスト。
シリーズ 眼科臨床エキスパート
シリーズ編集 𠮷村 長久 / 後藤 浩 / 谷原 秀信 / 天野 史郎
編集 山本 哲也 / 谷原 秀信
発行 2013年04月判型:B5頁:420
ISBN 978-4-260-01766-4
定価 18,700円 (本体17,000円+税)
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眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって

眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,眼科学の進歩には瞠目すべきものがあり,医用工学や基礎研究の発展に伴って,新しい検査機器や手術器具,薬剤が日進月歩の勢いで開発されている.眼科医は元来それぞれの専門領域を深く究める傾向にあるが,昨今の専門分化・多様化傾向は著しく,専門外の最新知識をアップデートするのは容易なことではない.一方で,quality of vision(QOV)の観点から眼科医療に寄せられる市民の期待や要望はかつてないほどの高まりをみせており,眼科医の総合的な臨床技能には高い水準が求められている.最善の診療を行うためには常に知識や技能をブラッシュアップし続けることが必要であり,巷間に溢れる情報の中から信頼に足る知識を効率的に得るツールが常に求められている.
 このような現状を踏まえ,我々は≪眼科臨床エキスパート≫という新シリーズを企画・刊行することになった.このシリーズの編集方針は,現在眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍を目指すというものである.もちろんエビデンスは重要であるが,本シリーズで目指すのは,エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である.臨床家の多くが感じる日常診療の悩み・疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指したい.
 各巻では,その道で超一流の診療・研究をされている先生をゲストエディターとしてお招きし,我々シリーズ編集者とともに企画編集にあたっていただいた.各巻冒頭に掲載するゲストエディターの総説は,当該テーマの「骨太な診療概論」として,エビデンスを踏まえた診療哲学を惜しみなく披露していただいている.また,企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の先生方である.日々ご多忙ななか,快くご編集,ご執筆を引き受けていただいた先生方に御礼申し上げる次第である.
 本シリーズがエキスパートを目指す眼科医,眼科医療従事者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,これに勝る喜びはない.

 2013年2月
 シリーズ編集 吉村長久,後藤 浩,谷原秀信,天野史郎



 『All About開放隅角緑内障』をお届けいたします.本書は緑内障に取り組んできた私達二人が開放隅角緑内障の本質を日本の眼科医と視覚科学研究者に学んでいただくことを念頭に編集したものです.≪眼科臨床エキスパート≫シリーズの嚆矢をなす本書は,シリーズの編集方針である,「臨床現場で要求される知識を,エキスパートの経験・哲学とエビデンスに基づく新スタンダードとして解説する」ことを第一の方針としました.それに加えて,谷原の希望として基礎と臨床の新知見をふんだんに盛り込み,山本の願望である臨床現場に応用でき患者の予後改善に役立つ知識の整理を目論見ました.その目的達成のため,執筆陣には適材適所の原則で若手からベテランまで配しました.原稿をいただいた後にも厳しい編集意見を出し,時には執筆者からお怒りの言葉を受けながらも,編集者がそうあるべきと考える『緑内障教科書』を目指しました.結果として理想に近いものができたと自負致しております.また,この場をお借りして執筆の先生方に御礼申し上げます.
 緑内障に関する知識は日々進歩しています.それを追いかけるのは随分と大変です.本書を一読するとその多くを身に付けることができます.ぜひとも精読して開放隅角緑内障の本質に迫っていただきたいと思います.
 欧米には版を重ねる眼科教科書がいくつかあります.緑内障に関しては総説の最後に参考書籍として挙げたBecker-ShafferやShieldsが有名です.山本は初学者の頃,恩師北澤克明先生の勧めでBecker-Shafferを購入し,感激し,緑内障だけでこれだけの本ができるのかと驚いたことを思い出します.Shieldsの初版本も随分と参考にしましたし,裏表紙にあるApproaching Darkness(日の入りとは違って緑内障の失明患者には日の出は二度と訪れない)の言葉がいまだに頭に残っています.こうした書籍が長く続くには編集者の不断の努力が重要とされています.例えば,これも有名なAdler’s Physiology of the Eyeの一編集者は各頁に白紙を挟んだ特別版を常に傍らに置き,気が付いた時にすぐ記入できるようにしていたと本田孔士先生の編書に記載があります.私達二人が目指したのはこうした開放隅角緑内障の新スタンダードです.本書により日本の緑内障診療が改善され視覚障害者が一人でも減ることを願っております.
 最後となりましたが,本書制作にあたっては,医学書院の関係者の皆様に大変にお世話になりましたことを付記させていただきます.

 2013年2月
 編集 山本哲也,谷原秀信

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第1章 総説
 開放隅角緑内障の診療概論
   I.緑内障管理の目標
   II.眼圧下降治療を正当化するいくつかのエビデンス
   III.開放隅角緑内障の基本的治療戦略
   IV.検査法と解釈の要点
   V.診断,管理

第2章 疫学と基礎
 I 開放隅角緑内障の分類と考え方
  A 原発開放隅角緑内障
   I.基本病態
   II.眼圧上昇機序
   III.臨床像
   IV.高眼圧症
  B 正常眼圧緑内障
   I.正常眼圧緑内障における乳頭陥凹の成立機序
   II.原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の相違
   III.正常眼圧緑内障における視神経障害の危険因子
   IV.正常眼圧緑内障の鑑別
   V.視神経乳頭部の血流評価
  C 続発開放隅角緑内障
   I.続発開放隅角緑内障の分類
   II.代表的な原因疾患とその特徴
 II 開放隅角緑内障の疫学的特徴
   I.疫学調査における緑内障の診断基準
   II.開放隅角緑内障の有病率
   III.開放隅角緑内障のリスクファクター
 III 開放隅角緑内障のリスクファクター
  A 眼圧異常
   I.眼圧と緑内障性視神経症
   II.眼圧の日内変動,日々変動
   III.眼圧と緑内障の関連
   IV.緑内障発症のリスクファクターとしての眼圧
   V.緑内障進行のリスクファクターとしての眼圧
  B 高齢者
   I.POAGの有病率と高齢者
   II.POAGの発症率と高齢者
   III.疫学研究におけるPOAGの定義と落屑緑内障の扱い
   IV.落屑緑内障と高齢者
   V.高眼圧症からのOAG発症と高齢者
   VI.OAGの進行と高齢者
   VII.加齢がOAGの発症・進行を促進するメカニズム
  Topics
   認知症が緑内障診療に与える影響
  C 近視
   I.緑内障のリスクファクターとしての近視
   II.近視における視神経乳頭の特徴
   III.緑内障の視神経乳頭形状分類
   IV.近視型緑内障の視野
   V.近視型緑内障と視野進行
   VI.近視と循環障害
   VII.画像診断における注意点
   VIII.鑑別を要する先天性視神経乳頭異常
  D 乳頭出血と乳頭周囲網脈絡膜萎縮
   I.乳頭出血
   II.網膜神経線維層欠損
   III.乳頭周囲網脈絡膜萎縮
  Topics
   脳脊髄液圧と緑内障
  E 酸化ストレス
   I.酸化ストレスの一般的概念
   II.開放隅角緑内障における酸化ストレスマーカーの検出
   III.緑内障における酸化ストレス障害の機構
   IV.緑内障に対する抗酸化ストレス治療の可能性
  Topics
   網膜神経節細胞のアポトーシス
  F 開放隅角緑内障の遺伝要因と遺伝相談
   I.緑内障の家族歴
   II.家系調査/候補遺伝子解析期に判明した緑内障遺伝子
     MYOC/OPTN/WDR36
   III.GWASにて判明した緑内障感受性遺伝子
   IV.9p21領域の関連SNPについて
   V.遺伝子砂漠上のSNPを始めとする塩基配列の違い(バリアント)の意義
   VI.遺伝相談を受ける前の基礎知識
   VII.日常診療における遺伝関連の相談事項
   VIII.遺伝カウンセリングについて
   IX.今後の展望
 IV 基礎の裏付け
  A 房水流出の解剖と生理
   I.房水流出路と流出量の割合
   II.房水流出路の構造
   III.Schlemm管内皮の房水流出メカニズム
   IV.房水流出量の調節
  B 緑内障眼における房水流出異常
   I.緑内障眼における房水流出路の特徴
   II.線維柱帯細胞の異常
   III.細胞外マトリックスの異常
   IV.遺伝子の異常:ミオシリン
   V.Schlemm管内腔以降の異常
   VI.緑内障における房水内生理活性物質の測定
   VII.緑内障における房水内生理活性物質の異常
   VIII.続発開放隅角緑内障
  C 視神経の解剖学的,生理学的特殊性と視神経症との関連
   I.視神経疾患としての緑内障
   II.緑内障の視野欠損と視神経走行の関係
   III.視神経乳頭の血管走行と緑内障の関係
   IV.ヒトの視交叉の特殊性と両眼視
   V.網膜神経節細胞のサブタイプと視野検査
   VI.視神経のグリア細胞と視神経炎
   VII.中枢神経組織としての視神経-なぜ再生が困難なのか
   VIII.軸索流と軸索障害・アポトーシス
   IX.視神経のATP要求性とLeber遺伝性視神経症
   X.メラノプシン含有網膜神経節細胞と臨床的意義
  D 緑内障性視神経症の病態と軸索輸送
   I.GONの基礎知識
   II.機械障害説
   III.乳頭循環障害説
   IV.軸索輸送障害説
   V.GONにおけるBDNFの意義
   VI.GONに対するRGC細胞死前の軸索輸送障害の検出

第3章 開放隅角緑内障の診断
 I 眼圧測定・管理のコツと落とし穴
   I.眼圧測定
   II.Goldmann眼圧計での眼圧測定のコツ
   III.眼圧計の選択
   IV.眼圧の変動
 II 眼底所見の画像診断
   I.走査レーザー断層法
   II.走査レーザーポラリメトリー
   III.光干渉断層計(OCT)
   IV.眼底写真
  Topics
   新世代OCTの展望
 III 視野の評価と進行判定
   I.治療開始を判断する視野の評価
   II.治療の変更や追加を考える視野の進行判定
  Topics
   新しい視野検査,特殊な視野検査

第4章 開放隅角緑内障に対する治療
 I 開放隅角緑内障の治療原則
   I.緑内障治療の目的
   II.治療の原則
   III.眼圧下降の有効性と緑内障発症あるいは緑内障進行の危険因子
   IV.眼圧下降以外の緑内障治療
   V.新たに緑内障と診断された患者の診療手順
   VI.眼圧下降薬1剤で眼圧下降が目標眼圧を達成しないとき
   VII.アドヒアランスからみた点眼処方の原則
   VIII.レーザー療法
   IX.手術療法
 II 薬物療法
  A ガイドラインに準拠した薬物治療の考え方
   I.ガイドライン第3版に準拠した薬物療法
   II.眼圧下降点眼薬のEBMとガイドライン
   III.点眼薬による緑内障進行抑止効果の実情
   IV.RCTの矛盾とEBMの限界
  B 単剤治療の考え方
   I.単剤治療の原則
   II.薬物各論
  Topics
   上眼瞼溝深化(DUES)-PG製剤の副作用
  C 多剤併用と合剤の考え方
   I.2つ目の点眼薬は?
   II.3つ目の点眼薬は?
   III.4つ目の点眼薬は?
   IV.多剤併用の問題点
   V.ジェネリックの問題
   VI.合剤に変更する前に考えること
   VII.合剤の位置づけ
   VIII.PG関連薬とβ遮断薬の合剤
   IX.CAI点眼薬とβ遮断薬の合剤
   X.PG合剤かCAI合剤か?
   XI.多剤併用のままか,合剤に替えるか?
  D アドヒアランス改善を目指した工夫と生活指導
   I.コンプライアンスからアドヒアランスへ
   II.緑内障点眼治療とアドヒアランス
   III.アドヒアランスに影響を与える因子
   IV.アドヒアランスの評価方法
   V.患者教育の基本姿勢
   VI.行動変容のステージと患者教育
   VII.アドヒアランス向上のための生活指導
   VIII.チーム医療の構築
  Topics
   新しい緑内障治療薬の展望
 III レーザー療法
  A レーザー線維柱帯形成術の適応,術式,成績
   I.適応と禁忌
   II.術前処置
   III.手技の実際
   IV.術後管理
   V.合併症と対策
   VI.術後成績
 IV 手術療法
  A トラベクレクトミーの適応と術式
   I.開放隅角緑内障に対する手術適応
   II.極端な高眼圧に対する手術適応
   III.長期的な眼圧コントロール不良に対する手術適応
   IV.術式の選択
   V.術式
   VI.術後管理
  B トラベクレクトミーの合併症とトラブルシューティング
   I.術中合併症
   II.術後早期合併症
   III.術後晩期合併症
  Topics
   非穿孔性トラベクレクトミーの位置づけは今?
  C チューブシャント手術
   I.チューブシャント手術実施の適応と留意点
   II.GDDの種類
   III.Baerveldt® Glaucoma Implant
   IV.EX-PRESS® Glaucoma Filtration Device
  D トラベクロトミーの適応,術式,手術成績
   I.トラベクロトミーの確立
   II.トラベクロトミーの手術手技
   III.トラベクロトミーの合併症
   IV.トラベクロトミーの手術成績
  Topics
   新しい流出路再建術
  E 毛様体破壊術の適応,術式,手術成績
   I.歴史
   II.適応
   III.手術手技
   IV.術後管理
   V.術後経過
   VI.合併症
   VII.手術成績

第5章 開放隅角緑内障の生活指導とロービジョンケア
 I 緑内障患者のQOL/QOV
   I.QOVとQOL
   II.緑内障によるQOLへの影響
   III.QOV低下による主要な訴え
   IV.QOVとQOLの評価
   V.視野障害とQOLの相関
   VI.簡単にできる視野障害のシミュレーション
 II 緑内障眼の視機能障害とそのケア
   I.緑内障の視覚障害の特徴
   II.視野障害の評価
   III.QOLの評価
   IV.緑内障の見え方
   V.緑内障ロービジョンケアの導入
   VI.緑内障のロービジョンケアの方法
   VII.羞明には遮光眼鏡,帽子で対処
   VIII.読書障害とタイポスコープ
   IX.中心視野障害には偏心視訓練
   X.視野障害には大きすぎない適切な拡大
   XI.末期緑内障のロービジョンケア
   XII.緑内障と夜盲
   XIII.緑内障ロービジョンケア成功のコツ
   XIV.症例呈示
 III 緑内障患者に対する生活指導
   I.眼圧下降の原則とアドヒアランスの臨床的な重要性
   II.眼圧の評価と変動要因
   III.眼圧に影響を与える生活習慣
   IV.緑内障発症リスクと生活習慣
   V.緑内障進展リスクファクター
  Topics
   緑内障患者の自動車運転

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エビデンス+αの臨床の知恵が詰まった教科書
書評者: 松村 美代 (関西医大名誉教授/永田眼科)
 緑内障の本といえば,すべての病型を網羅するのが普通だった。開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障,続発緑内障は全く別の病気なのに,考えてみればおかしなことだが,もともと緑内障という疾患が「眼圧が高い」という共通項でくくられていた歴史があってのことだったのだ。この本は開放隅角緑内障(もちろん同じスペクトラムとしての正常眼圧緑内障を含む)だけというのがまずユニークで,考えてみれば自然な成り行きだが静かなブレイクスルーである。

 この眼科臨床エキスパートシリーズでめざすのは,「エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である」とシリーズ編集者が述べている。本書はまさにそれで,エビデンス+αの部分が非常に面白く,著者達が臨床現場で積み重ねてこられた情報,数字になる情報も,数字にはならないが現場で役に立って納得できる情報もあふれるほど詰まっている。

 まずは,導入部分の総説「開放隅角緑内障の診療概論」を熟読してほしい。緑内障管理の目標,その考え方を支えるエビデンスを冒頭に簡潔に示した上で,診察現場でのやり方が示されている。あれもよし,これもよし,といった教科書によくある総花的な書き方(これは読者に役立たない)とは対極の,著者の基本的態度に則った一本の方法をばっさり書く,というスタンスがいい。眼圧測定は,隅角検査は,眼底検査はこうしなさい……,正常をたくさんみる,生理的変異を知る……ともかく多数をみる,手間を惜しまずに散瞳する,検査データの信頼性をみる,長期経過をみるには簡便な記録法(例えば立体写真より普通写真),まさにそうだ! まだ経験不足だと感じている人もいない人もここをしっかりたたき込んでほしいと思う。開放隅角緑内障は超慢性経過,倦むことなく日々の丹念な管理が数十年後の予後を決める,という著者の認識と覚悟がにじんでおり,心から敬意を表したい。

 教科書を出版するということは重い責任を背負うことである。元のコンセプトを継承しながら改訂を続ける,編集者の世代が変わっても続ける義務を負うということなのだ。緑内障では,編者も述べているBecker-SchafferやShieldsのような,その意味でのお手本がある。この本もぜひ,と願う。

 導入部分で感動して紙面がつきてしまったが,優秀な著者をそろえ,それぞれがエビデンスに基づいて,基礎,疫学,臨床と現在の最高レベルの開放隅角緑内障「学」を記述してくれている。特に最近多くの情報がもたらされた疫学研究の成果や,基礎研究の成果,多面的な視機能評価とロービジョンのセッション,アドヒアランスと生活習慣,遺伝カウンセリングと,狭い意味でのサイエンスにこだわらない,初めての本格的な教科書だと思う。ぜひ手元において,総論はじっくりと,各論はその都度,何度もこの本を開いてほしい。
診療に必要な最新知見のすべてがまとまった1冊
書評者: 根木 昭 (神戸大学理事/副学長)
 本書は,わが国の緑内障学の牽引者である山本哲也氏と谷原秀信氏の編集による開放隅角緑内障についての最新の知見をまとめた400ページ余の大著である。本書は医学書院による「眼科臨床エキスパート」シリーズの一巻であり,シリーズの方針は「臨床現場で要求される知識を,エキスパートの経験・哲学とエビデンスに基づく新スタンダードとして解説する」ことにある。この基本方針に加えて,「基礎と臨床の新知見をふんだんに盛り込み」,「患者の予後改善に役立つ知識を整理」することを目的として編集された。

 内容は5章からなり,第1章の「総説」では山本哲也氏の豊かな経験に基づく緑内障診療のすすめかたの哲学と管理における着目ポイントが箇条書きに簡潔にまとめられている。第2章は「疫学と基礎」で,有病率やリスクファクター,遺伝要因や基礎的裏付けについて重要な情報が全体の約40%の紙面を費やして詳細に記載されている。第3章は「開放隅角緑内障の診断」について眼圧測定,眼底所見,視野検査の留意点とともに発展著しい光干渉断層計,視野解析方法の最新の知見が紹介されている。第4章は「開放隅角緑内障に対する治療」であり治療原則から新しい点眼薬やチューブシャント手術に至るまで実践的に記載されている。特に日常診療の主体である薬物治療に約50ページが割かれている。第5章では「開放隅角緑内障の生活指導とロービジョンケア」が症例を挙げて示されており,全体として現在の開放隅角緑内障管理のスタンダードのすべてが網羅されている。

 緑内障管理のガイドラインは大規模疫学調査や多施設共同臨床試験の結果に基づいているが,それぞれの研究により対象症例や診断基準,評価基準が異なっておりすべての症例に一律に適応されるものではない。しかし,実際には各研究結果の一部分だけが切り取られてエビデンスとして流布している。第2章ではこのような各種臨床試験の詳細について比較検討がなされており,その適用の限界が注意深く言及されている。また,基礎的裏付けとして緑内障性視神経症や房水流出機構の最新の研究結果がわかりやすい図解で示してある。本章は本書の特色を形成している部分であり,多忙な臨床家にとってエビデンスの本質を理解し,最新のサイエンスをキャッチアップするのに最適である。

 薬物治療は緑内障管理の基本であり近年多種多様の眼圧下降薬が市販されている。これに配合剤やジェネリックが登場し臨床現場に混乱を招いている。第4章では第1選択薬から第4選択薬の選び方,配合剤の位置付け,ジェネリックの問題が実践的に理路整然と解説されている。アドヒアランス改善の実際も記載されており,症例ごとに個別に対処せねばならぬ臨床家に明瞭な判断根拠となる情報を提供している。

 気になった点としては,開放隅角緑内障,原発開放隅角緑内障,広義,狭義といった語句の使用が全体として統一されていない感があった。続発開放隅角緑内障についての記載は限定的であり,原発開放隅角緑内障と銘打ってもよいのではないかと思った。また汎用されている画像解析をどのように日常管理に生かしていくか,日常迷うことの多い近視眼における管理やlow teen眼圧症例の管理などについて明瞭な指針を示してほしい欲求を覚えたが,これは未だスタンダードとして記載できる段階にはない課題であろう。

 本書はAll Aboutと命名されているように開放隅角緑内障の診療に必要な最新の知見のすべてが偏り無く,わかりやすくまとめられており,編集の目的が十分に達成されている。「緑内障治療の最高責任者」としての自負が伝わってくる作品であり,すべての眼科医のよりどころとなる著書である。
臨床と基礎の現在が体系的に理解できる1冊
書評者: 新家 眞 (関東中央病院病院長/東京大学名誉教授)
 《眼科臨床エキスパート》という新シリーズが医学書院から新たに刊行されることとなり,『All About 開放隅角緑内障』がそのシリーズ嚆矢として出版された。このようなシリーズ本は,かつて『眼科プラクティス』(文光堂)などいくつかが刊行されたが,本シリーズの竜骨はその道のエキスパートの経験とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく〈解説する〉ことにあるとされている。従来このようなシリーズ本では,例えば眼科プラクティス「緑内障診療の○△……」というようなタイトルで,緑内障全体が一冊にまとめられるのが常であったし,また医学書院より2004年に刊行された北澤克明岐阜大名誉教授監修の教科書『緑内障』でも開放隅角緑内障についてはその約十分の一が費やされていたにすぎない。しかるに本書『All About 開放隅角緑内障』は開放隅角緑内障に的を絞って約400ページの大部である。眼科の中の一疾患群のさらにその中の一疾患に対して「All About」と題するために400ページ一冊を要するということは,近年の開放隅角緑内障に対する新知識・新知見の集積の速さを実感させられる。しかも,編者が序で述べているように,本書は開放隅角緑内障に関する,最先端も含めた知識のすべてを詰め込んだ百科事典的レビューをめざしたものではなく,精読すべき教科書として上梓されたとある。ページを開いてみると,いわゆる「明日からの臨床にすぐに役立つ」○△シリーズ本とは,少し趣きを異にしている。まず最初に全体の45%の頁数が,開放隅角緑内障という眼疾の本態の理解のために費やされている。この前半を読了しない者は,次の診断,治療の項を読む資格がない。すなわち開放隅角緑内障患者を外来診療する資格がないとまでは言わぬとも,常に病態の本質をわれわれが現時点でどこまでかわかっており,どこからがわかっていないかを理解した上で,患眼を診察・治療すべきという編者の緑内障研究者としての矜持が伝わってくるようである。このような順序で読み進めていけば,診断のために近年開発されたいくつかの新しい方法論の必要性と限界,およびそれらにより得られた所見も理解しやすく,種々薬物や術式の選択の必然性もおのずと読者が理論的に納得できるのではないだろうか?

 診断,治療の項を読みつつ,常に前半を参照すれば,開放隅角緑内障の実際臨床と基礎の現在進行形が,より体系的に理解できるようになると思われる。本書により,40歳以上で約4%の有病率と考えられている開放隅角緑内障患者のわが国における診断と治療のレベルが一段とステージアップすることはもちろんとしても,「もっと原発開放隅角緑内障がわかりたい」と思う若い眼科医も増えるのではないかという期待もできそうである。

 よい教科書というのは,その内容をよく読者に理解させてくれるだけでなく,内容に対して読者の興味と好奇心をも刺激するものでなくてはいけない。2人の編集者の方の労が大賀さるべく,本書が広く活用されることを望みたい。

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