医学界新聞

2020.11.30



Medical Library 書評・新刊案内


回復期リハビリテーション病棟マニュアル

角田 亘 編
北原 崇真,佐藤 慎,岩戸 健一郎,中嶋 杏子 編集協力

《評者》原 寛美(山梨勤労者医療協会石和共立病院 リハビリテーション科ニューロリハビリテーションセンター長)

回復期リハの総論と専門的各論を俯瞰したマニュアル

 2000年から保険医療制度上新設された回復期リハビリテーション病棟(Convalescent Rehabilitation Ward:CRW)は,現在全国で約2000病院,総ベッド数8万床に及んでいる。急性期治療を終了した患者に対して,その後の機能回復とADLの自立,さらに自宅復帰,復職などを目標とした入院リハビリテーション医療を提供する重要な制度的枠組みである。CRWはわが国の医療上で不可欠なシステムとなっている。本書は,そのCRW医療を担うチームをなす,リハビリテーション科専門医,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,薬剤師,医療ソーシャルワーカーなどに向けて上梓された,総論と専門的各論を俯瞰したマニュアルである。

 CRWの医療では,急性期治療を終えた時期といっても,亜急性期での転院となるケースもあり,さらに基礎疾患や併存疾患の診断と治療が多くの場合に必要とされる。そのために,各種検体検査と画像診断,超音波診断,嚥下障害に対するVE/VF検査などの検査は必須となることから,それらに対応できるハードの整備と医療が求められる。加えて,リハビリテーション医療で汎用されている各種評価法(疾患別重症度評価,運動機能や高次脳機能検査,ADL評価,栄養状態管理評価など)に習熟していること,またリハビリテーション訓練と治療の知識も必要となる。本書ではCRWの対象となる疾患と訓練の概要とともに,CRWの看護とケア,栄養管理,薬剤管理,合併症管理,退院後のリハビリテーション医療を継続させていく準備などについて網羅されている。さらに,多職種がそれぞれの専門性を存分に発揮できるよう,チーム医療としてのアプローチ方法についても言及されている。

 本書は総勢48人の(主に)国際医療福祉大市川病院のスタッフにより分担執筆された力作である。編者の角田亘先生は,脳卒中医療における反復性経頭蓋磁気刺激治療(rTMS)に関する執筆論文が数多く,わが国におけるニューロリハビリテーション医療の旗手でもある。学会のプレゼンテーションでは,いつも卓越した語学力とreview能力を駆使し,キャリアアップのための新しい知見を提供してくれている。氏の指導の下で,さらにバージョンアップされた書籍となることを期待してやまない。

B6変型・頁424 定価:3,740円(本体3,400円+税10%) 医学書院
ISBN978-4-260-04247-5


マークス臨床生化学

Michael Lieberman,Alisa Peet 原著
横溝 岳彦 訳

《評者》栗原 裕基(東大教授・代謝生理化学)

生化学の窓から臨床が見える

 多くの医学生,医療系の学生にとって,生化学は鬼門らしい。特に初学者にとっては内容が膨大と感じられる上に,エネルギーや代謝など病気と直接関連しそうな内容にもかかわらず,臨床とのつながりがなかなかイメージしにくいようである。そうした学生にとって,「マークス臨床生化学」はまさに待望の書である。

 目次を見ると,生体物質とその代謝を中心に生化学の基本に忠実な構成をとっており,シグナルや増殖など,細胞生物学的な内容の多くは割愛されている。ちょうど生命科学教科書の定番であるMolecular Biology of the Cell(邦訳「細胞の分子生物学」)と補完的な関係にあり,このためむしろ「生化学」という分野の基本となる守備範囲がわかりやすく,その学問的位置付けが把握できる。図も見やすく,直観的にわかりやすいシェーマが多い。

 本書の最大の特徴は,臨床的意義を意識した構成にある。各章の始めに数人の患者さんが登場,本文の内容と臨床像とのかかわりがコラムで紹介され,最後に「臨床コメント」として登場した患者さんの病態が生化学的に解説されている。このため,初学者には生化学の基本体系を身につけながら,臨床とのつながりが常に見えやすくなっている。さらには,臨床を学んだ高学年の学生や臨床医にとっても,臨床的視点から振り返ることで理解が深まるし,コラムだけ拾い読みしても楽しめる読み物になっている。また,近年重視されている臓器連関の視点が全体にわたって多く取り入れられており,代謝の全身的な理解が深まるという点でも臨床に大いに役立つ。さらには,各章末の「生化学コメント」などでは最先端の研究への展望が解説され,研究志向の学生にとっても,基礎・臨床両面からのモチベーションが喚起される。

 原書はMarks' Basic Medical Biochemistryのタイトルですでに第5版を迎えているが,邦訳は今回が初めてである。翻訳された横溝岳彦先生は,東大医学部を卒業してしばらく産婦人科医として臨床経験を積んだ後に基礎医学に転身された生化学者で,基礎と臨床両面に深い見識を持つとともに,複数の大学で長年にわたって生化学の教育に携わってこられた優れた教育者でもある。この先生がお一人で翻訳されたため,全体の記述に統一感があり,正確かつわかりやすい。本の帯にあるとおり,まさに「こんな教科書を待っていた!」。初学者のみならず,医療に従事する多くの人にとって蒙を啓かれる必携の教科書である。

A4・頁654 定価:9,350円(本体8,500円+税10%) 医学書院
ISBN978-4-260-04139-3


パターソン臨床アレルギー学

Leslie C. Grammer, Paul A. Greenberger 編
慶應アレルギーセンター 訳

《評者》出原 賢治(日本アレルギー学会理事長/佐賀大教授・分子生命科学)

実臨床に基づいた記載がふんだんに盛り込まれた書

 アレルギーの診療に携わる臨床医,あるいはアレルギー学を追究する研究者や学生にとっての待望の書が発行されました。アレルギーの領域では長きにわたり高い評価を得ている“Patterson's Allergic Diseases”の和訳書が,遂に発行されたのです。世界的な評価を得ているアレルギー学の教科書としては,初めての和訳書になるかと思います。これにより,アレルギー学に関する最新の,かつ学問的に公認された知識を,容易に獲得できるようになりました。この大事業を成し遂げられた慶應アレルギーセンターのご尽力に,心から敬意を払いたいと思います。

 アレルギー学は免疫学の発展とともに進化を遂げてきたと言って過言ではありません。本書では,まず,IgEの発見から始まり,ここ最近の免疫学の進歩により明らかにされたパターン認識受容体,自然リンパ球,制御性T細胞などの基礎的内容がわかりやすく解説されています。そして何よりもアレルギー学に関する臨床的な内容の充実ぶりに目を見張ります。アレルギー領域における主たる疾患である喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,食物アレルギーはもちろんのこと,それ以外のアナフィラキシーと各種過敏反応,過敏性肺炎やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症を含めた呼吸器免疫疾患,鼻ポリープや副鼻腔炎などの上気道疾患,アレルギー性結膜炎を主とするアレルギー性眼疾患,接触皮膚炎や蕁麻疹などのアトピー性皮膚炎以外の皮膚アレルギー疾患と,アレルギーに関する疾患が広く網羅され,詳しく解説されています。また,好酸球性食道炎といった消化器疾患,睡眠障害,心理的側面からの患者管理,画像的診断など従来のアレルギー学にはなかった新興的なアレルギー領域も扱われています。そしてさらには,近年アレルギー領域に登場し,また,今後さらに期待されている生物製剤を含む新規免疫学的治療についても,それを利用するのに必要な個別化医療の概念とともに紹介されています。このように,実臨床に基づいた記載がふんだんに盛り込まれているのが,『パターソン臨床アレルギー学』の特徴と言えるでしょう。

 “Patterson's Allergic Diseases”は1972年に初版が発行されて以来,版を重ね,前回の第7版から7年ぶりに第8版が2018年に発行されました。その間,アレルギー学の教科書として常に高い評価を得てきました。そして,これまで和訳本の発行が望まれながらもかなわなかったところ,今回ようやくそれが実現いたしました。このように,『パターソン臨床アレルギー学』は,アレルギーに関心を持っておられる臨床医,研究者,学生がぜひ持っておくべき一冊であり,心よりお薦めいたします。

B5・頁1032 定価:17,600円(本体16,000円+税10%) MEDSi
http://www.medsi.co.jp


あたらしい人体解剖学アトラス 第2版

佐藤 達夫 訳

《評者》坂井 建雄(順天堂大特任教授・理学療法学)

クールでスマートな人体解剖アトラス

 今回第2版となった『あたらしい人体解剖学アトラス』の新しさは,どこにあるのだろうか。

 人体解剖のアトラスには,1543年のヴェサリウスの『ファブリカ』以来の長い歴史がある。その間に数多くの発見があり,時代に合わせて意匠を新たにした解剖アトラスが生み出されてきた。力感のある木版画から,細かな線描で表現する銅版画を経て,19世紀にはリトグラフにより多色多階調の表現も可能になった。そして20世紀に登場した写真製版の技術では,ありとあらゆる画像を切り取ることが可能となり,白黒ではあるが正確さで定評のあるトルト,多色できらびやかなゾボッタ,解剖標本を実写したグラント,解剖標本の写真を用いたローエンと横地など,個性的な解剖アトラスが続々と登場した。そして21世紀に登場したプロメテウスの解剖図が迫真の精細さで大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。

 『あたらしい人体解剖学アトラス』の「新しさ」は,これまでの解剖アトラスの歴史に見られるような,印刷技術の革新がもたらした新しい表現でもなければ,解剖標本の写真やコンピュータグラフィックスといった画像そのものの新規性でもない。本書の新しさは,何といっても,解剖の画像情報を学習者にどのように伝えるかを徹底的に配慮した,教育的な視点によるものである。

 どこかのページを開いてみよう。重要な部分を際立たせようとするクールな仕掛けがふんだんに盛り込まれている。目に飛び込んでくる全ての部分が一様に強調されるのではなく,注目されるべき部分のみが多色で,他の部分が淡い単色で描かれている。また骨や筋肉や血管や神経など体壁のあらゆる場所に広がる構造や,頭部・胸部・腹部など局所に集まる内臓も,穏やかな色使いと陰影で軽やかに描かれている。部分を取り上げてクローズアップする際にも,オリエンテーションをつけやすいように,身体の輪郭や周囲の構造を描き加える工夫が随所になされている。

 その一方で,学生を困惑させる過剰な情報の押しつけは,スマートに控えられている。教育熱心な解剖学者たちはついつい多くの言葉を費やして説明しようとするが,本書では解剖図には解説文をつけず,また各章末に筋肉についてのまとめの表を載せるのみにとどめている。解剖図の数も手頃な範囲に抑えられて,かつ図のネームの数も極めて抑制的である。そういった配慮の結果,本書のサイズは変形A4判で約500ページと,持ち歩くのにあまり負担とならないコンパクトなサイズになっている。

 解剖学の学習はかつて,膨大な解剖学用語を誇りにして,記憶力を駆使する難行苦行を学生に強いるように思われていた。現代の解剖学の教育は,重要な所に焦点を当ててわかりやすく楽しく教えている。本書はまさにクールでスマートな現代の解剖学の見本というべきものである。

A4変型・頁512 定価:7,700円(本体7,000円+税10%) MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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