医学界新聞

2020.02.10



Medical Library 書評・新刊案内


顔面骨への手術アプローチ

Edward Ellis III,Michael F. Zide 原著
下郷 和雄 監訳

《評者》飯村 慈朗(東京歯大市川総合病院准教授・耳鼻咽喉科学)

頭蓋顎顔面領域の手術アプローチ法に特化した良書

 『Surgical Approaches to the Facial Skeleton』は,1995年の初版刊行以来,米国で頭蓋顎顔面外科を修める医師にとって教科書的な本となっている。本書は,その第3版(Wolters Kluwer, 2018)の日本語版である。本書の特徴は,解剖学に加え技術的要素を詳細に解説し,手術アプローチ法に特化している点である。きれいな良い手術は的確なアプローチから成り立つものであり,一つのアプローチ法しか知らないと対処できる部位は狭められ無理をした手術となってしまう。例えば耳鼻咽喉科医である私は,眼窩底骨折へのアプローチは内視鏡下経鼻内法もしくは経上顎洞法が主であった。しかし本書第2部に記載されている経眼窩法を行うと,驚くほど眼窩底骨折前方の処置が簡単であった。眼窩底後方の骨折に対しては内視鏡下経鼻内法のほうが処置しやすいが,前方に対しては経眼窩法のほうが格段に容易である。病変部位によってアプローチ法を変えることの重要性が実感できる。

 顔面骨格の手術においては,切開する際に顔の審美性,表情筋とその神経支配,感覚神経の走行を考慮しなければならない。そのため病変部位に対するアプローチ法は,引き出しが多いほうが良い。その点,本書はそれぞれの長所と短所を列挙し,ある特定のアプローチ法を推奨しているわけではない。各アプローチ法の長所と短所を理解した上で選択できれば,対処できる部位の幅が広がり,治癒率の向上につながる。そのため本書を頭蓋顎顔面領域の手術に携わる全ての外科医にお薦めする。本書を読めば,顔面骨格のあらゆる箇所に自信を持ってアプローチできるようになり,外科医としてランクアップするであろう。

 さらに私は,本書を中堅以上の耳鼻咽喉科医にお薦めしたい。われわれ耳鼻咽喉科医は,鼻閉に対する手術として鼻中隔中央部を切除する術式を伝統的に施行してきた。そして外鼻形成術は鼻閉と関係のない話であり,形成外科医の役割と考えていた。しかし鼻という一つの器官は必要な鼻機能が外鼻形態を形成しており,鼻の手術を行う際には,機能的手術と形態的手術の両方をバランス良く治療することが望まれる。鼻外アプローチ(第7部)の手術手技が求められるようになり,現在では実際に施行する耳鼻咽喉科医も増えている。本書は,鼻外アプローチの手術手技に対しても解剖を基本に置いた上で,豊富なイラストと写真を使用し,丁寧に手術手技の手順を解説している。本書を理解することで鼻閉に対する手術の合併症を限りなく減らし,満足度の高い治療を行えるようになるであろう。間違いなく今後の外科医人生に役立つ良書であり,ぜひ読破することをお薦めする。

A4・頁272 定価:本体20,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03951-2


高齢不妊診療ハンドブック

森本 義晴,太田 邦明 編

《評者》菅沼 信彦(京大名誉教授)

「高齢不妊治療」という臨床現場の最重要問題に答える

 近年の不妊治療において,体外受精をはじめとする生殖補助医療技術(ART)が発展し,多くの不妊患者に福音をもたらしていることは周知の事実である。日本においてもART出生児は年間5万6617人(2017年)に及び,少産化が進むわが国においては全出生児の17人に1人となっている。しかしながらARTによっても児を得られないカップルが存在する。その主たる原因が「高齢不妊」である。特に女性の加齢による卵子の質的・量的変化は著しく,臨床現場では苦慮する場合も多い。本書は「高齢不妊診療」に焦点を当て,基礎から臨床に至るまであらゆる問題点を考察し,まさに現在の不妊治療に必須の項目が網羅されている。

 まずは第1章の「高齢不妊診療のための基礎理論」において,加齢による妊孕性低下のメカニズムが統計を含め詳細に述べられている。一般臨床医にとっては見逃しがちな本質が明解に記載されている。続く第2章では,卵子提供も含む「高齢不妊診療の実際」が具体的に示されており,外来現場でそのまま役に立つ情報が満載である。さらに第3章は,本書の特徴ともいうべき「統合医療的アプローチ」が紹介されている。これまでの不妊治療専門書では,サプリメントなどの解説は僅少であったが,実際に患者さんが服用している場合も多く,その説明に非常に役立つ。また第4章の「ケーススタディ」は,このパートのみを読んでも日々の臨床症例として興味深い。

 本書は多数の著者により執筆されているが,各領域の専門家が自らの分野を深く詳述している。しかしながらその内容は決して難解ではなく,臨床現場に従事する者にとっても十分に理解できる。それは多くの図表が駆使され,一見による認識を可能にしているためであろう。その点からは医師のみならず,不妊診療に携わる他の医療者にとっても有用である。さらに各単元に置かれた文献の多さにも目を見張る。それはエビデンスに基づく記載を保証するのみならず,さらなる情報の検索にも有益であろう。同時に,著名な執筆者の本音とも言うべき「コラム」は,一服の清涼剤のような味わいである。

 このように本書は,高齢不妊診療における高度な医学的知識を供給するとともに,不妊診療専門医,産婦人科や泌尿器科の一般臨床医,研修医,胚培養士,看護師などにとっても読みやすく,重要な知識を享受できる名著である。

B5・頁392 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03957-4


眼内腫瘍アトラス

後藤 浩 著

《評者》村田 敏規(信州大教授・眼科学)

経験の少ない眼内腫瘍に対処するための必携バイブル

 後藤浩教授の『眼内腫瘍アトラス』(Atlas of Intraocular Tumor)を外来の診察室に置かせていただき,この本のありがたさを日々痛感しております。

 何よりも,その豊富な眼底写真,前眼部写真,画像診断の所見,病理組織所見に合わせて,具体的かつ的確な解説が全ての症例において記載されています。眼科の日常臨床においては,眼内腫瘍の経験の少ない先生方が大半だと思います。診断名がわからない外来患者がおられたら,まず,『眼内腫瘍アトラス』を手に取り,パラパラと1ページずつ,写真を1枚1枚見比べていきましょう。豊富な症例が記載されていますから,必ず似た所見の写真と解説を見つけることができます。そこから診断治療も含め,かゆいところに手が届く本書の解説を参考に患者さんに説明をしましょう。必要であれば,後藤教授をはじめとする眼腫瘍専門医に紹介することもできます。

 また,眼内腫瘍は,全身疾患の部分症状として現れることも多いのですが,本書にも続発眼内リンパ腫や白血病の眼内浸潤が記載されています。他科の腫瘍診療においては,診断治療の際に内視鏡や外科的な生検による病理診断が必須であり,これにより初めてその患者の診断がつき,治療が始まります。その一方で眼球という組織は,視機能を守る観点から,その一部を採取し病理組織標本で診断をつけることがとても困難です。生検が困難な場合でも,適切な治療をいち早く開始するために,眼内腫瘍がどのようなものであるかということを他科の先生に説明するに際して,従来は根拠となる権威ある教科書がありませんでした。しかし今後は,そのようなときにも,この美しくかつ重厚な装丁で,写真の美しさとわかりやすい説明を併せ持つ本書が手元にあれば,眼内腫瘍を他科の先生に理解いただく上でも,大きな効力を発揮することでしょう。

 このように『眼内腫瘍アトラス』は,医師の先生方が,外来・日常診療で想定していない眼内腫瘍に遭遇した場合に備え,手元に置いておくべき一冊のバイブルです。なお,後藤教授の『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』(医学書院,2017年)も,併せて外来に置いておくと,眼球の内外の腫瘍に“鬼に金棒”な状態を作れることを申し添えさせていただきます。

 後藤教授,ならびに東京医大の先生方,素敵な2冊の教科書を世に送り出していただきましたこと,心より御礼申し上げます。

A4・頁226 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03892-8


がん化学療法レジメン管理マニュアル 第3版

濱 敏弘 監修
青山 剛,東 加奈子,池末 裕明,内田 まやこ,佐藤 淳也,高田 慎也 編

《評者》勝俣 範之(日医大武蔵小杉病院教授・腫瘍内科)

かゆいところに手が届く,がん薬物療法を行う病院には必携のマニュアル

 がん薬物療法剤は,化学療法剤,ホルモン療法剤,分子標的薬と合わせて,現在では150種類を超える数となった。さらに,これらの薬剤は単剤で投与されるのではなく,複数の薬剤を組み合わせて,「レジメン」として投与される。

 がん薬物療法専門医が不足している日本では,まだまだ,がん薬物療法の標準治療がきちんと行われているとは言い難い状況にある。「エビデンスに基づく標準治療の実践」は日本における長年の課題である。がん薬物療法のレジメンとその対応マニュアルは,病院ごとに作成・管理されるものであり,各病院のノウハウが詰まったものである。優れたレジメンマニュアルは,専門医の多い病院では,作成するのはたやすいことであったと思われるが,専門医がいない,少ない病院では,きちんとしたレジメンマニュアルを作るのは困難であった。

 この『がん化学療法レジメン管理マニュアル』は,日本でも有数のがん専門病院の薬剤師が中心となって,これまであまり公開されることのなかった各病院のノウハウが詰まったレジメンマニュアルをコンパクトに,標準化,公開してくださった。このような本は,一般病院にとっては,喉から手が出るほど欲しかったのではないか。

 このマニュアルの優れているところは,各薬剤について,溶解液,投与時間まで丁寧に書かれているところである。また,投与前基準,減量・中止基準,治療再開基準,副作用対策まで書かれているため,このマニュアルをそのまま,院内のレジメン審査委員会に提出しても,問題なく承認されるであろう。また,肝機能障害時,腎機能障害時での投与量減量基準にも詳細に記載されているため,薬剤師だけでなく,専門医にとっても役立つ情報が載せられている。抗がん剤を溶解液に調製してしまったが,すぐに使う必要がなくなった際に,どれくらいまで薬剤がもつかどうか,希釈後の安定性についても書かれていて,おまけに,経口摂取できなくなった患者さんに胃チューブから投与しなければならなくなった際の経口抗がん剤の懸濁可能性についてまでも書かれている。まさに,かゆいところに手が届くマニュアルとなっている。

 このマニュアルのウィークポイントを強いて挙げると,現行の標準治療のレジメンを全て網羅しているわけではないということである。全ての標準レジメンを記載するとなると,もはやこのサイズと分量の本にはできなくなってしまう。多くのレジメンは薬剤が重複していたり,類似した薬剤が使われていたりするので,そのあたりは各自応用していただければよいと思う。

 この『がん化学療法レジメン管理マニュアル』は,かゆいところに手が届く,がん薬物療法を行う病院には,必携のマニュアルであると言ってよい。このマニュアルを皆に手に取っていただいて,がん薬物療法が安全かつ正しく行われ,全てのがん患者さんの治療が適切に遂行できるようになることを願う。

B6変型・頁638 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03837-9


《ジェネラリストBOOKS》
“問診力”で見逃さない神経症状

黒川 勝己,園生 雅弘 著

《評者》田妻 進(JA尾道総合病院病院長/広島大大学院客員教授)

“神経症状に強い”プライマリ・ケア医になる!

 身体の異常,その謎解きのカギは持ち主の言葉の中にある!

 そんなメッセージを発信し続ける著者の神経症状シリーズ連載が一冊の書籍となって登場した。その名も,『“問診力”で見逃さない神経症状』。第一線でさまざまな症候に向き合うプライマリ・ケア医,病院の総合外来・ER担当の総合診療医・総合内科医に薦めたいピットフォールを意識したポケットサイズのメモファイルである。

 プライマリ・ケアの現場における著者自身の症例経験に基づく神経症状の謎解きは,私たち臨床医にとって悩ましい,「頭痛」,「めまい」,「しびれ」11例に加えて,「一過性意識消失」2例を含めた総計20症例の診たてで組み立てられている。それに先立つ,総論という名の基本のおさらいも親切なお膳立てとしてありがたい。

 一般臨床のプロセスが,①病歴聴取,②身体診察,③臨床推論,④検体検査・画像診断,または④から③へと進む中,疾患領域別の診察後・検査前診断率は心臓血管系67%,神経系63%,呼吸器系47%,消化器系27%(Am Heart J. 1980[PMID:7446394])とされており,神経症状は循環器症状とともに

“問診力”がものをいう世界である。40年前から指摘されていながら,医療環境の著しい変化を越えてなお,医療者のわざ(技・術)が機器に優先される神経疾患領域の診療,そこに向き合う著者の本書に注ぐ情熱が随所に垣間見える。

 病歴聴取の具体的な手法として,Walk-inに対してはOPQRST(Onset, Provocation/Palliative, Quality, Related/Radiation/Region, Severity, Time course),救急医療の現場ではSAMPLE(Symptom, Allergy, Medication, Past history, Last meal, Event)が汎用される中,迅速に的確に“攻めの問診”でCriticalかCommonかを見分けたい。その教科書的なテクニックを本書の貴重な例示に当てはめながら検証するのも妙である。紙面上に再生されたリアルな診療を繰り返し繰り返し振り返るとき,そのVirtual診療を通じて著者が意図した問診力が読者諸兄に醸成されているに違いない。

 デジタル情報が主体の現代にあって,ポケットサイズの本書に思い切り手垢を提供した,“神経症状に強い”プライマリ・ケア医の誕生を楽しみにしている。

A5・頁150 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03679-5

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook