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第3344号 2019年10月28日


【視点】

働く場を移動する看護職の採用とキャリア形成支援のつながり

草柳 かほる(東邦大学看護学部基礎看護学研究室 講師)


 看護職は専門職であるがゆえに,一般職に比べれば働く場を移動すること(労働移動)は容易で,一見して新しい職場でもこれまでの経験や能力をそのまま発揮できるように思える。

 しかし実際には,さまざまな境界(壁)に阻まれ,自身の能力を発揮できないまま,早期に再び離職してしまう看護職も多く,労働移動してきた看護職のキャリア形成,また彼らに適した能力開発の方法を見つけ出すことは,人材確保,ひいては安全で安心な医療提供を行うためにも不可欠である。こうした課題への取り組みは各施設で試行錯誤の段階にあるのが現状だ。

 そのため私は,2017年より労働移動する看護職(特に既卒者,中途採用者)の能力を見極め,その力を伸ばせるような支援を探索する科研費調査「働く場を移動した看護職の臨床実践能力再開発支援プログラムの構築にむけて」を進めてきた。2018年には,「働く場を移動した看護職への組織的なキャリア開発支援の実態の解明」と題し,大小10病院に対して既卒者(中途採用者)の採用窓口となる看護部長および人事採用担当者と,採用後のキャリア支援を主に担う病棟師長に半構造化インタビューを実施し,現状と工夫を調査した。本稿では,その調査結果の一部を紹介する。

 まず,採用窓口の看護部長・人事担当者の特徴から報告する。

 採用担当は,採用したい人材を「集める」「留める」ことに注力することが特徴として挙げられる。採用時には病院に合う採用基準の作成や,応募者の希望を確認した上で病院の現状や看護部の働き方を正直に伝えるなど,採用後のミスマッチを少なくして離職を減らす工夫を施していた。また,看護部長・人事担当者は採用者を定着させるための配置決定や働き方の整備を主に担っており,病院の事情を踏まえた戦略的な採用や配置が求められていた。

 その一方で,採用そのものにかかわる病棟師長はほとんどおらず,配属されるまでは新規雇用者の情報を知ることができない。にもかかわらず,多くの病院で新規雇用者の教育支援が配属先の病棟師長に一任されており,多様な背景を考慮した上で,与えられた人材が病棟になじむように教育支援を独自に実践していた。また,病棟師長は中途採用者のことを「良くも悪くも職場に及ぼす影響が大きい人材」と考えており,師長自らの経験も織り交ぜながら彼らに新しい部署のルールやしきたりを教えることで病棟スタッフチームの一員になることを促していた。

 こうした師長の考えの根底には「同じ病棟で働く一人ひとりが大切なスタッフであるために,病院を辞めていくのは阻止したい」との思いがある。そのため,病棟師長から採用担当への期待として,「いい人をとってほしい」「配属予定の人材情報は前もって共有した上で受け入れの準備をしたい」との声も聞かれた。しかし,配属先を主に決定する看護部長の心中には,「病棟師長には新規配属者に対する先入観を持たせないよう情報を制限したい」「新規配属者を任せることで病棟師長の統率力を育成したい」との考えもあり,このギャップをどう埋めるかが課題として見えてきた。

 ここまでに記載した採用と配属の問題は,病院の特性や現場における人材育成とも密接に関連する。今後さらに研究を推進し,キャリア形成・就業継続支援へ具体的な提案ができればと考えている。


くさやなぎ・かほる氏
国立福岡中央病院附属看護学校卒。九大病院等での勤務を経て,1995年福岡市医師会看護専門学校で看護基礎教育に従事する。その後,聖母看護学校,東京女子医大看護学部講師を経て,2019年4月より現職。この間,09年法政大経営学研究科キャリアデザイン学専攻修士後期課程修了。17年同大大学院政策創造研究科博士課程満期退学。日本手術看護学会指名理事。