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第3338号 2019年9月16日


【寄稿】

関節リウマチのメカニズムからみた骨免疫学

高柳 広(東京大学大学院医学系研究科免疫学教室 教授)


 骨は運動を可能にし,内臓を守る硬組織であり,運動器の一部だと考えられてきた。しかし,骨髄は造血幹細胞を維持するニッチ細胞を有し,必要に応じて分化を促し胸腺や末梢に細胞を送り出す一次リンパ組織でもある。

 骨免疫学とは,骨による免疫制御,免疫系による骨制御をはじめとした骨と免疫の相互作用や共通分子機構を研究する分野であり,免疫組織としての骨に目を向ける契機を提供した学際領域である1)。すなわち,骨免疫学の視点なくしては,免疫系の全体像を解明することも骨代謝の全貌を理解することも難しい。

 このように,近年重要性を増す骨免疫学を,関節リウマチ研究の発展を通して振り返ってみたい。

骨免疫学の発展の歴史

 免疫系制御因子が骨代謝細胞を制御することは1970年代に報告されていたものの,免疫系と骨代謝の相互作用に注目が集まるようになったのは,T細胞による破骨細胞制御の論文2)に対して2000年にNature誌が“Osteoimmunology”(骨免疫学)という呼称を用いてからであった3)。つまり,破骨細胞研究は免疫系制御因子とともに発展してきたと言っても過言ではない。

 免疫系の活性化に伴う骨破壊は,関節リウマチなどの自己免疫疾患,歯周病や骨髄炎などの感染症の際に頻繁に観察される。本稿のテーマとなる関節リウマチでは,骨破壊が起こる原因として,われわれを含む多くの研究グループが破骨細胞分化因子(receptor activator of NF-κB ligand;RANKL)が炎症滑膜で高く発現して破骨細胞を増やすことを示してきた4)

 他方,RANKL欠損マウスを作製すると,破骨細胞の欠損と同時にT細胞分化異常やリンパ節形成不全を呈することが明らかとなり,RANKLは破骨細胞だけでなく免疫系でも必須であることが証明された。また,関節リウマチの炎症滑膜にはT細胞が集積することが,従来より報告されていたため,T細胞に関連した研究結果を基に,活性化T細胞がRANKLを発現して破骨細胞を増やし骨を壊すという「T細胞RANKL仮説」が発表された5)

 一方で,この仮説に対しわれわれは,T細胞はRANKLの作用を調節するサイトカインを産生することで,RANKLのみによらない精妙な破骨細胞形成制御が行われていると考えた2)

関節リウマチによる骨破壊

 実際,当時判明していたほとんどのT細胞が培養系では破骨細胞分化を抑制した。では,どうやって関節リウマチ滑膜ではT細胞が集積し破骨細胞を誘導して骨を破壊しているのであろうか。次の課題は「破骨細胞誘導性T細胞」の同定であった。

 さまざまなサブセットのT細胞を破骨細胞形成系に添加することで,Th 1やTh 2細胞はIFN-γやIL-4など破骨細胞分化抑制因子を出すために破骨細胞分化を抑制すること,唯一Th 17細胞だけが主に間葉系細胞にRANKLを誘導して破骨細胞分化を誘導できるサブセットであることがわかってきた6)

  T細胞による破骨細胞誘導の際には,滑膜線維芽細胞のような間葉系支持細胞の介在が必要であった。そこでわれわれは,炎症性骨破壊におけるRANKL産生細胞は滑膜線維芽細胞であると考え,「滑膜細胞RANKL仮説」を提唱した。十数年を経て,われわれは滑膜線維芽細胞特異的RANKLコンディショナルノックアウトマウスの作出に成功し,「滑膜細胞RANKL仮説」がついに証明された7)

 すなわち,関節リウマチの骨破壊は,①滑膜に浸潤したTh 17細胞が産生するIL-17などにより滑膜線維芽細胞にRANKLが誘導されると同時に滑膜炎が増悪,②滑膜マクロファージなどから産生されたTNF,IL-6がさらにRANKL誘導と破骨細胞前駆細胞の活性化を促し,過剰な破骨細胞形成が誘導されると理解できる。

 加えて,骨破壊に大きく関与する滑膜には抗体産生細胞である形質細胞が浸潤しており,抗IgG抗体であるリウマトイド因子や抗シトルリン化タンパク抗体である抗CCP抗体価は骨破壊予後と相関があることなどが知られる。われわれは,これら自己抗体やB細胞が骨破壊にどのようにかかわっているかに着目し,IgGを含む免疫複合体が破骨細胞前駆細胞のFc受容体を介して破骨細胞分化を促進することを示した8)。こうしてB細胞~自己抗体の経路も骨破壊メカニズムの一翼を担うことが明らかになった。

 RANKLの発見に続くT細胞による破骨細胞誘導メカニズムの解明は,関節リウマチ治療における生物学的製剤の進歩とも同期している。TNFやIL-6の抑制は,炎症抑制のみならずRANKL誘導を抑制し,破骨細胞形成を防ぐため骨破壊も強く抑制できる(図1)。日本では2017年に,骨破壊におけるRANKLの重要性に基づき,骨転移癌や骨粗鬆症で広く用いられる抗RANKL抗体製剤が関節リウマチに対しても適応拡大された。今後,骨免疫学的な視点から関節リウマチの病態解明がさらに進むことで,新たな治療標的が見つかることも期待される。

図1 生物学的製剤からみた関節リウマチ治療

生物の進化からみた骨免疫学

 免疫細胞はあらゆる組織に浸潤して免疫応答を引き起こし,その組織にある細胞と相互作用して局所炎症や組織破壊を起こし得る。その意味で,関節リウマチの病態研究で明らかになった免疫系が骨破壊を及ぼす作用だけでは,骨と免疫が特別な関係とは言えないだろう。しかし,骨髄はたった二つしかない一次リンパ組織のうちの一つであり,免疫器官なのである。骨芽細胞前駆細胞を含む未分化な間葉系細胞が造血幹細胞の維持にかかわり,成熟骨芽細胞はリンパ球の維持に重要である。近年では,骨芽細胞系細胞の中で特定の遺伝子を改変すると,骨髄性白血病が発症することも報告され,骨による免疫制御が注目を集めている1)。つまり,骨と免疫は相互に制御し合う特別な関係にあることがわかる。

 なぜ骨と免疫はこのように深い関係にあるのだろうか。骨免疫システムと脊椎動物の進化の関連を考えてみる。

 骨は,脊椎動物を特徴付ける組織であり,脊椎動物が海から陸に上がり,重力に抗して体を支え運動を可能とするために強固な骨格系として発達したことは容易に想像できる。陸に上がると同時に,海水から豊富に供給されていたカルシウムを体内に蓄積する必要が生じたことから,骨はカルシウムの貯蔵庫として電解質代謝の中心に位置する臓器となった。

 陸に上がると,病原体との戦いも熾烈を極める。多様な微生物が存在する上,表皮バリアの破綻や接触,空気を介して多くの微生物が侵入する可能性があるため,免疫系,特に獲得免疫系の発達が必要であったと考えられる。さらに言えば,紫外線の強い陸上で造血幹細胞のような寿命の長い細胞を守るためには,強固な骨の中に格納する必要があったのではないだろうか。

 すなわち,カルシウム貯蔵,運動・身体保持,造血という3つの骨の機能は相互に関連性が少ないものの,陸に上がった脊椎動物にとって,進化的な必然だったのかもしれない(図2)。

図2 脊椎動物の進化と骨免疫システムの誕生(クリックで拡大)

参考文献
1)Nat Rev Immunol.2019[PMID:31186549]
2)Nature.2000[PMID:11117749]
3)Nature.2000[PMID:11117729]
4)Arthritis Rheum.2000[PMID:10693864]
5)Nature.1999[PMID:10580503]
6)J Exp Med.2006[PMID:17088434]
7)Ann Rheum Dis.2016[PMID:26025971]
8)Nat Commun.2015[PMID: 25824719]


たかやなぎ・ひろし氏
1990年東大医学部卒。東大病院整形外科などで臨床を経験後,関節リウマチ骨破壊と破骨細胞の研究を行うために,同大大学院医学系研究科博士課程に進学し2001年修了。同大免疫学助手,東京医歯大大学院分子情報伝達学分野教授などを経て,12年より現職。19年日本学士院賞受賞。