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第3337号 2019年9月9日


地域で学ぶ効果と魅力を伝えるには

高村 昭輝(金沢医科大学医学教育学講座講師)


 三重県名張市立病院の総合診療科立ち上げを手伝うため,私は2012年9月に同院に赴任しました。時期を同じくして同院は,4週間にわたる三重大の地域臨床実習の受け入れを開始しました。その際にスタッフで話し合ったのは,①真の診療参加型臨床実習にする,②学生が患者さんに責任感を持つようにする,③医師は,多職種チームの中の一員にすぎないと自覚してもらう,の3点です。

 ①の真の診療参加型とは,単に診察や手技を経験させるのではなく,主治医である指導医と看護師,その他の職種で行われるチーム医療の中で役割を持たせることです。私たちが日常行っている診療の中で学生に正当な役割を与え,学生がいないと日常診療が滞る状況をあえて作った,とも言えます。極めてチャレンジングな試みだったものの,医学教育として重要な意味を持ちます。それは,②の責任感を持って患者さんに接することにもつながるからです。そして,毎朝行われる医師同士の医学生物学的なカンファレンス,週に1回多職種による医療社会的なカンファレンスについて,それぞれ目的の違いを意識させながら学生自ら主導してもらうことで,チーム医療の認識を図ることも週間のスケジュールに埋め込みました。1年後,同院は学生に人気の実習病院になったと聞いています。

卒前に4か月間の長期臨床実習を経験する意義

 何でも素直に吸収する初学者のうちに地域の実情を経験することは重要です。将来,自分が医師として求められることを認識して研鑽を積むことは内的動機付けにつながり,教育学的にも有用とされます。地域の現場は純粋な医学の視点だけではなく,都市デザイン,環境地理学,文化人類学などの要素が医療と密接にかかわっていることを体感できる場であり,大学病院に比べ社会の全体像が見えやすいのも特徴です。しかし,地域での教育の成果は短期間で実を結びません。海外の卒前教育では1診療科当たりのローテート期間が以前より延びています。

 ある国では,最初の1年間の臨床実習は医療内容を学ぶことよりも「医師としての態度」を身につけることを重視し,半年ごとに希望の2診療科しかローテートしない大学も出現しました。1年間にわたり地域で過ごす大学もあります。

 初学者はある一定期間,同じ状況下にいることで場に慣れ,本来学習すべきことに目が向くようになります。地域に限らず大学病院も同じで,ローテート実習が短期であるとその学習効果は限定されてしまいます。大学に長くいて地域は短い……ではなく,地域に長くいることで,その地域ならではの医療者へのニーズについて背景を含めて理解できるはずです。

 三重大は2014年4月から,日本初の長期臨床実習(LRCC)として,県内の3つの病院(名張市立病院,県立志摩病院,紀南病院)にて4か月間の長期地域臨床実習を開始しました。4か月の期間である理由は,より地域密着の実践が期待されるのはもちろん,国際的にLRCCは16~20週以上が目安とされ,学生が臨床現場で戦力に変わるのに最低でも1か月を超える期間が必要という論文も出ているからです1)。現在は三重大6年次に選択制で行われている4か月のLRCCを受けた卒業生が,今後どのような地域や診療科に進むか成果が待たれます。

 地域基盤型医学教育における真の効果と可能性は十分に示し切れていません。将来の地域での労働力確保につながることを示す論文(文献2など)も増えてきていますが,科学的根拠は不十分と言わざるを得ません。地域では医学生物学的なことに加え,それに深くかかわる社会的要因を色濃く学べるはずです。医療者教育資源としての地域が医学教育にどのような役割を果たすか,医療の枠組みをも越え,科学的に分析する必要があります。地域枠の学生が地域に残らない原因は単なる制度や学生の未熟度の問題ではなく,大学,地域,そして臨床教育に携わるわれわれが6年間のカリキュラムの中でその魅力と期待を伝えきれていない教育の問題も大きな要因と切実に感じています。

参考文献
1)Acad Med. 1993[PMID:8397632]
2)Rural Remote Health. 2001[PMID:15869365]


たかむら・あきてる氏
1998年富山医薬大医学部卒。2008年豪フリンダース大教育学修士(臨床医学教育)修了。09年より同大のRural Clinical Schoolに教員として勤務後,12年三重大医学部伊賀地域医療学講座講師。14年より現職。