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第3335号 2019年8月26日


Medical Library 書評・新刊案内


こころの回復を支える
精神障害リハビリテーション

池淵 恵美 著

《評者》向谷地 生良(北海道医療大学/浦河べてるの家)

「専門家の無力」を受け容れること,「当事者の力」を信じること

 本書を読み終えた後,私は不思議な感慨に満たされていました。それは,著者と重なる40年に及ぶ実践現場で味わった惨めさや行き詰まりなどを含めた全ての事柄を「わかるよ」と受け止めてもらえたような気持ちになったからです。

 東京の大学病院と北海道の片田舎(浦河町)にある病院という両極端な地域背景と,医師とソーシャルワーカーという決定的な立場の違いを超えて,2つの現場を結び付けたのは,著者らによって1988年に東大病院デイホスピタルに招かれた米カリフォルニア大のロバート・P・リバーマン(Robert Paul Liberman)が開発したSST(社会生活技能訓練)でした。

 私がSSTに最初に触れたのは,30年前に札幌で開催された前田ケイ先生(ルーテル学院大名誉教授)による講演でした。そこで私はSSTの持つ「素性」に限りない可能性を感じ取り,こころが熱くなったことを覚えています。このSSTの登場は,今日の精神障害リハビリテーションの中心概念となっている「リカバリー」の基本理念が,初めてわが国に導入される契機となったもので,精神医療を支えるパターナリスティックな治療・援助構造に根本的な変更を求める要素を孕んでいたと私は理解しています。もちろん,一部には「訓練」という名称へのアレルギーがあり,SSTの持つ理念とは相いれない「SSTもどき」なプログラムも見受けられるという現状がありましたが,依存症や統合失調症などを持つ当事者を主体とした地域ベースでの精神障害リハビリテーションを模索していた私たちにとって,SSTとの出合いは,暗闇の中に差し込んだ一筋の希望の光のようなものでした。このSSTの導入は,1994年の「入院生活技能訓練療法」として,診療報酬に取り込まれ,翌年の「SST普及協会」の設立へとつながります。

 このように著者の池淵恵美先生は,一貫してわが国の精神障害リハビリテーションを国際的な水準へと引き上げるために,さらには臨床と研究の最新情報をわが国にもたらす重要な窓口として尽力されてきました。しかも,それを自ら臨床の場で実践され,机上の理論としてではなく,精神保健福祉の現場で汗をかく臨床家ばかりではなく,家族や当事者も手に取ってみることができる貴重な実践経験として発信され,私たちはそれに励まされてきました。

 このたび出された『こころの回復を支える 精神障害リハビリテーション』には,その豊富な研究者,臨床家としての経験が盛り込まれ,最先端の脳科学や臨床研究の成果と到達点が,その限界を含めて,複雑で多岐にわたる臨床現場に生かしていくための手立てとして,実にわかりやすい形で示されています。その意味でも,臨床家があらためて自分たちの臨床を見直すための鏡として,さらにはこれから臨床をめざして学んでいる学生ばかりではなく,家族や当事者も含めた一般市民も手元に置いて利用できる身近な「セカンド・オピニオン」としても活用できるものです。

 最後に,この本で一番励まされるのは,著者の「失敗や挫折や,どうしてもうまくいかないもどかしさ」の経験,「悪化の勢いが止められないなかで,隔離や拘束をせざるを得ないときの専門家としての無念さ」が率直に語られていることです。精神障害リハビリテーションのプロセスは,「ともに弱くなること」であり,そこに共同創造の可能性が拓かれていくことを教えられます。

A5・頁284 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03879-9

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