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第3301号 2018年12月10日


【取材】

外来診療力を上げるビデオレビュー
Windows Methodでポジティブな研修の場に


 外来診療の研修方法として,診療を録画し指導医と共に振り返る「ビデオレビュー」が注目されている。ビデオレビューは患者とのコミュニケーションスキルなど外来診療に求められる実践的な力の向上に効果的だ。その一方で,自分の診療を見られることの恥ずかしさや「ダメ出しを受けるのでは」との不安から,抵抗感を持つ研修医は少なくない。

 本紙では,ビデオレビューの心理的ハードルを低くし,よりポジティブな振り返りにするために「Windows Method」1)という手法を取り入れている福島県立医大地域・家庭医療学講座の研修を取材した。


 「今回,皆さんに見ていただくのは,もっと何かできたのではないかという“不全感”が残ってしまった診療です」。

 家庭医療専攻医3年目の森薗健太郎氏(福島県立医大地域・家庭医療学講座)が,ノートパソコンのモニターを前に切り出した。森薗氏は患者背景やこれまでの診療の経緯を説明した後,診療ビデオを再生した。指導医や実習中の医学生を含めた5人は,約10分間の映像を熱心に見ながら,時折,手元の紙にメモを取っていく(写真)。

写真 Windows Methodを用いたビデオレビュー。診療ビデオを見ながら,気付いたことを各自ワークシートに記入する。視聴後,ワークシートの10項目に沿ってコメントする。

ビデオレビューで脱・自己流の外来診療へ

 外来診療の質向上は研修医の大きな関心事だろう。しかし,疾患に関する医学的知識の教育に比べると,患者とのコミュニケーションスキルや臨床判断能力に関する教育は体系化されていないのが現状だ。

 診察室という指導医不在の空間で,ともすれば自己流になりがちな外来診療。ビデオレビューは,診療を客観的に振り返り,指導医から実践的なフィードバックを受けられる研修方法として注目を集めている。2018年に始まった新専門医制度における総合診療専門医の研修プログラムでも,ビデオレビューなどを用いた外来診療の教育が重視されている。

 同大地域・家庭医療学講座の研修協力診療所である喜多方市地域・家庭医療センターでは週に1度,午後の診療の前の30分~1時間程度を使ってビデオレビュー研修を行っている。その週の特定の時間帯で,同意を得られた患者全員の診療を録画する。これは,カメラを意識せず普段に近い様子を撮影する工夫だ。患者は診察前に,看護師から撮影の目的と拒否しても不利益はないとの説明を受ける。説明と諾否の聴取を看護師に任せることで,患者が断りづらい雰囲気にならないよう配慮しているという。

Windows Methodを使えばダメ出しになりにくい

 2018年4月には,さらに効果的な研修にするためにWindows Methodを導入した。Windows Methodの特徴はビデオを見ながら各自が記入するワークシート()。診療を担当した医師(研修者)が記入する5項目と同僚・指導医が記入する5項目の合計10個の窓(Windows)があり,ビデオの視聴後,窓の番号順に一人ずつコメントする。

 Windows Methodで用いるワークシートの10項目(文献1を元に作成)

 「従来のビデオレビューでは,研修医へのダメ出しに終始してしまうことがありました」と話すのは,指導医の菅家智史氏(同講座講師)。一般的にビデオレビューの手法は体系化されておらず,指導医の裁量に任されている。特定の場面を取り上げて,「ここはもっと〇〇とすべきだ」「なぜ□□のような対応をしたのか」と指導医に指摘され続けると,研修医は萎縮し,ビデオレビューへの抵抗感を高めてしまう。

 一方,Windows Methodでは研修医と同僚・指導医が交互にコメントするため,研修医は診療で困っていることを率直に発言しやすい。また,同僚・指導医が記入する5項目は,「もし自分が研修者の立場だったら」との視点でコメントする形式であり,一方的なダメ出しになりにくい。皆で10個の窓に沿ってコメントし合うことで,良かった点や次の診療に活かせる建設的なアドバイスを短時間で効率よく共有できるのだ。

 「誰も傷つかない,絶妙な構成になっている」と語る森薗氏。当初は診療を録画すること自体に恥ずかしさがあったが,ポジティブなフィードバックがもらえる安心感と得られる学びの深さから,今では積極的にビデオレビューに取り組んでいると研修の意義を強調した。

上級医や指導医のビデオレビューも効果的

 喜多方市地域・家庭医療センターのビデオレビューでは,研修医の診療だけでなく上級医や指導医の診療も題材にする。忙しい現場で実際の外来診療を見学する機会を設けるのは難しいが,上級医・指導医の診療ビデオからは,言葉の選び方や表情など実践的なテクニックを学べる。また,Windows Methodを用いれば,研修医・上級医・指導医の上下関係なく,誰もがフラットな関係でより良い診療のための意見交換が可能だ。ビデオレビューは上級医・指導医にとっても外来診療力アップの貴重な機会になっている。

 ビデオレビューは患者とのコミュニケーションスキルや臨床判断能力,外来診療全体の組み立てに関する教育に適した研修方法である一方で,一例の振り返りには30分~1時間程度の時間がかかり,多数のケースを扱うのは難しい。医学的知識の習得には診療録レビューを用いるなど,各教育方法の特性を理解し,複数の方法を組み合わせた研修を実施すべきだろう。

 近年の録音・録画技術の進歩で,ビデオレビューに必要な機材は容易に手に入るようになった。しかし,機材はそろっても,研修医の心理的ハードルを下げることなくして,効果的な教育の場を築くのは難しい。ビデオレビューをいかにポジティブな研修の場とするかが,今後の外来診療力アップの鍵となりそうだ

参考文献
1)Neighbour R, et al. The windows method:a fresh approach to video case discussion. Educ Prim Care. 2017(2):111-4.


【interview】

菅家 智史氏(福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座講師)に聞く


――Windows Methodを取り入れた経緯を教えてください。

菅家 当講座の研修プログラムではビデオレビューを必修としていますが,具体的な実施方法は体系化されていませんでした。何か良い方法はないかと考えていたところに,当講座の葛西龍樹教授の友人で英国家庭医学会元会長のRoger Neighbour先生が,Windows Methodを紹介してくださいました。Neighbour先生は,『The Inner Consultation』(邦訳=『Inner Consultation――内なる診療』)などの著書があり,外来診療の教育に造詣が深い方です。

――Windows Methodを使うとダメ出しになりにくいのは,なぜでしょうか。

菅家 体系化されていない方法では,つい研修医の行動に注目した改善点の指摘が多くなります。それを研修医はダメ出しと受け止め,萎縮してしまうのです。

 一方,Windows MethodではI(アイ)メッセージ,つまり「私が研修者の立場だったら」との視点でコメントします。しかも「調子の良い日」という条件付きです。研修医ができなかったことを責めるのではなく,「こういう方法もあるよ」との提案が自然にできるよう工夫されたワークシートになっています。

――ビデオレビューではどのような力がつきますか。

菅家 患者さんの話をどのように引き出すか,医師側の考えをどう伝えるのかなどのコミュニケーションスキルの向上に最適な教育方法だと思います。私自身も他の医師の診療ビデオを見て,「この言い回しは使えるな」とコミュニケーションの引き出しを増やしています。

――ビデオレビューを実施する上で,指導医に必要な心掛けは何でしょうか。

菅家 研修医の抵抗感を減らす工夫を惜しまないことです。本人が「やりたくない」と思ってしまうと,そもそも録画してくれませんし,研修の質も下がります。私は研修医の心理的ハードルを低くするために,初回のビデオレビューでは指導医の診療を題材にし,振り返りの方法をおさらいしてから実施するようにしています。

 2020年度からの初期研修では,一般外来の研修が必修となる見込みです。ビデオレビューは外来診療力を向上させるパワフルな教育方法ですので,特性を理解した上でうまく活用していただきたいです。