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第3297号 2018年11月12日


スマートなケア移行で行こう!
Let's start smart Transition of Care!

医療の分業化と細分化が進み,一人の患者に複数のケア提供者,療養の場がかかわることが一般的になっています。本連載では,ケア移行(Transition of Care)を安全かつ効率的に進めるための工夫を実践的に紹介します。

[第1回]ケア移行,ケア連携,ケア統合がなぜ重要なのか?

小坂 鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科,救急・集中治療科)
松村 真司(松村医院院長/東京医療センター臨床疫学研究室研究員)


 近年,高齢化と医療技術の高度化に伴い,疾病は慢性化・複雑化の一途をたどっています。これに対応すべく医療・保健・介護職の分業化も進み,そのケア内容の細分化も進んでいます。昨今では一人の患者に複数のサービス提供者がかかわることが一般的になり,その間の連携を調整・統合し,重複や無駄を減らしながら治療に当たることは医師の重要な役割と見なされています1, 2)

 このような背景から院内・院外を問わず,連携をいかに安全・効率的に行うかは重要な課題です。病院外との連携では,主として診療情報提供書を通じた情報交換がこれまで行われてきました。しかし,入院期間の短縮に伴い,早期からの集中した入退院支援が求められるようになっています。診療報酬上の後押しもあり,多くの急性期病院には退院支援室・在宅療養支援室など,専任部署による連携が行われるようになっています。しかし,これらの支援や体制の改善に伴って,担当医の負担が増しているのもまた事実です。

 解決のためには,遠隔医療やAI(人工知能)の導入をはじめとしたさまざまな工夫が必要と思われます。しかし,それと並行して,基礎となるコミュニケーションやマネジメントについてのノンテクニカルスキル(Non-Technical Skills)を見直すことも必要です。私たちはケアの連続性を保つためにどのような工夫が必要なのか,特にケア移行,ケア連携,そしてケア統合といった観点から活動を続けてきました。本連載ではこれらについて体系的に学ぶことが少ない研修医向けに,外来や病棟で出会うケースをもとに,実践的に伝えていきたいと思います。

ケア移行とは?

 ケア移行(Transition of Care)とは,療養場所の変化に伴って短期間で集中的に行われるケア・プロセスのことです。これまでさまざまな定義が提案されていますが3, 4),米国の政府関連の保健医療の質評価・研究機関であるAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)は「継続的な加療を要する患者が,医療サービスを受ける医療機関や療養の場が移行し,ケア提供者が変わること」という定義を用いています。

 もちろん,ケア移行の代表的な場は,病院・診療所・介護施設間などの施設間ですが,院内における救急を含む外来から入院に至る際や,一般病棟や手術室,ICUの移動といった転床・転棟,主治医/担当医交代による引き継ぎなどの場面もケア移行に含まれると考えます。具体的には,外来受診を経て入院後,一般病棟やICUでケアを受け,回復期施設を経て自宅などの療養環境に帰るという一連の流れのそれぞれに,ケア移行の場があります(図1)。

図1 患者の旅路(Patient Journey)におけるケア移行の俯瞰と質改善のためのキーワード(筆者作成)(クリックで拡大)

 これらの場面で,医師から多職種への指示簿,カルテ記載やプレゼンテーション,情報共有のカンファレンス・回診,場所や時間が変わる際のサインアウト(申し送り),患者教育のための療養計画書/帰宅指示書や退院サマリー・診療情報提供書といったコミュニケーションツール,また,Team STEPPS(Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)のようなチーム医療を組織で推進する戦略手法をうまく用いることで,ケア移行の質を改善することが重要です。

ケア連携とは?

 AHRQによる定義では,ケア連携(Care Coordination)とは「ヘルスケアサービスの適切な提供を促進するために,患者ケアにかかわる2人以上の担当者間で行われる患者ケア活動の熟慮した組織活動」とされています5))。ケア連携の主たるゴールは,患者のニーズと希望に合致する,質の高い医療を提供することです。そのためには,患者のニーズと希望を把握し,適切なタイミングで適切な人々に伝達することが必要です。これらの情報は適切に伝達されることで,より安全で,適切で,効果的なケアの提供につながります。

 Valentijnらは,このような連携には3段階があると提唱しています(図2)。ニーズの把握と伝達の基礎となる第1段階がケア・リンケージ(Care Linkage)=コミュニケーションです。患者ニーズを把握した上で,意思決定をきちんと行い,ケア移行の際も適切に情報伝達がなされ,それぞれの組織が一体となって責任を持ったケア連携がされるようになった最終段階を,ケア統合(Care Integration)と呼んでいます。

図2 ケア・リンケージ=コミュニケーション,ケア連携,ケア統合の関係性(文献6,7) (クリックで拡大)

ケア移行時に生じ得る問題とその解決策

 2000年以降,ケア移行に関する知見が蓄積されています。特に急性期病院とプライマリ・ケア医の間のコミュニケーション不足が著しいことが繰り返し指摘されてきました。Kripalaniらによると,急性期病院において入院時の担当医とプライマリ・ケア医間で直接コミュニケーションが取られるのはごく少数(3~20%)で,退院後の初回外来受診までに退院サマリーがプライマリ・ケア医の手元に届くという基本的な事項が達成できているのも少数(12~34%)です8)。さらに,たとえ診療情報の提供がなされていても,その内容は不十分であるとも指摘されています。

 これらの情報の欠落は,退院後の再入院率,不要な救急受診,有害事象の発生の増加や患者満足度の低下と関連しているのです4)。退院後の有害事象の中で最も頻度が高いのは薬剤に関する問題であり,うち半数は事前に予防可能なものでした9)。プライマリ・ケア医と病院担当医とのコミュニケーションが向上すると,その後の入院ケアの質が向上するという報告も散見されます10, 11)

 入院中の問題についての研究は国外でも多くはないのですが,医師―患者関係はもちろん,入院中の医師―医師関係,医師―看護師関係が向上すると患者満足度やQOLが上がるという報告は多数見られます。私たちは,本連載を通じてケア移行のプロセスを考え直すことで院内外の業務フローを改善し,最終的に患者さんや医療者の笑顔につなげたいと考えています。

POINT

●医療・ケアの分業化と細分化が進行し,ケア移行時の情報の不連続性が患者不利益につながっている。
●院内外を問わず,ケア移行時の引き継ぎの十分性を保つことが必要である。
●問題解決の第一歩は,多職種間コミュニケーションの質改善・活性化とそのためのツール活用,文化醸成にある。

つづく

:成木は,Care Linkage の訳語に「ケア連携」を当て,Care Coordinationには「ケア協調」の訳語を用いることを提唱しています(成木弘子.地域包括ケアシステムの構築における“連携”の課題と“統合”促進の方策.保健医療科学.2016;65(1):47-55.)。しかし本連載では,Coordinationの「共通の目標を達成するために各機関が協調して行動すること」という意味を重視し,また本邦においてすでに地域連携,多職種連携など多くの場面で連携がCoordinationの意味で一般的に用られていることを鑑み,Care Coordinationを「ケア連携」,より連絡の度合いが低いCare Linkageを「ケア・リンケージ=コミュニケーション」と訳出しました。

参考文献・URL
1)N Engl J Med. 2008[PMID:18322289]
2)Fam Pract. 2011[PMID:21436204]
3)AHRQ. Chartbook on Care Coordination:Transitions of Care.
4)新森加奈子,他.我が国におけるケア移行という概念――病院を退院した患者の診療所外来へのケア移行を中心に.日プライマリケア連会誌.2018;41(1):18-23.
5)AHRQ. Care Coordination.
6)Int J Integr Care. 2013[PMID:23687482]
7)筒井孝子.地域包括ケアシステム構築のためのマネジメント戦略――integrated careの理論とその応用.中央法規出版;2014.
8)JAMA. 2007[PMID:17327525]
9)Ann Intern Med. 2003[PMID:12558354]
10)J Gen Intern Med. 2009[PMID:19101774]
11)J Gen Intern Med. 1995[PMID:8770722]

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