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第3296号 2018年11月5日


【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
てんかん学を効率的に勉強するには?

【今回の回答者】兼本 浩祐(愛知医科大学精神科学講座教授)


 てんかんや認知症のようなcommon diseaseは,さまざまな医師や関係者がさまざまな立ち位置で,自分のできる範囲で疾患にかかわる必要がある。そのため,診療に必要な情報量は人によって大きく違ってくると思われる。てんかんであれば,新生児,乳幼児,学童 ,成人,高齢者で必要な情報は大きく違う。例えば,NICUで必要なてんかんの知識と高齢者診療で求められるてんかんの知識はほとんどオーバーラップしないだろうし,脳神経外科医が必要とする知識と精神科医にとってミニマムな知識にも大きな違いがあると思われる。 そうなると,それぞれの医師,関係者にとってオーダーメイドな学習法が必要となる。立ち位置による学習法について,よくある質問への解説を試みた。


■FAQ1

てんかん診療を専門に行うのは難しい環境です。てんかんが疑われる患者を前にしたとき,てんかん診療の経験が少ない医師でも最低限行うべきことは何でしょうか?

 急がば回れであるが,重要な第一歩は,自分が治療しようと思っている状態が本当にてんかんかどうかを立ち止まって考えることだろう。この質問者の場合,けいれんしている患者を診療する状況が一番考えられる。けいれんしない発作はすぐに対処を迫られることは少ない。そうであればより知識を持った誰かのアドバイスを聞く余裕があるはずである。

 急に転倒し,その後に短く何秒かけいれんする場合,失神発作の除外診断は最低限必要だろう。てんかんの場合,発作中は開眼している例が多いのに対し,てんかんでない失神発作では,多くはほぼ閉眼しているが,よく見るとうっすらと開眼していることもまれではない。

 もっぱら,最初の症状が立位からの転倒である場合,循環器医に依頼して心原性失神の除外診断を済ませておくのは必須である。てんかんよりも心原性の発作のほうが,緊急度が上だからである。心因性の発作も治療を開始する前に除外診断する必要があるが,症状が多様で初心者には鑑別が難しい。また,すぐには生命に直結しないので心原性失神よりも優先度は落ちる。

 てんかんの治療には,発作型によらず有効性があり,しかも重篤な副作用が少ないレベチラセタムが汎用される傾向にあり,それはそれで間違っていないと思われる。しかし,一番大事なのは,「症状がてんかんかどうかには確信は持てないが,次の発作時に受傷する可能性もあるから,とりあえず処方をするのが安全と考える」と今の状況を率直に患者・家族に告げることだろう。しかし,てんかんの診断の重さを考えると,当座の処置はそれで良いとしてやはり可及的速やかに専門医の受診を勧めるべきであろう。

Answer…失神様の発作に遭遇した場合,生命に直結する心原性失神の除外診断は必須です。そうでなくとも,可及的速やかに専門医の受診を勧めます。

■FAQ2

てんかん患者を自分で担当できる程度に本格的に学びたいです。しかし,勉強時間が限られています。

 てんかんを本格的に,しかしミニマムに勉強するにはどうすれば良いか。具体的なステップを考えてみたい。①最低限の用語の理解,②「4大分類プラス2」の理解,③脳波を読むミニマムの能力,④それぞれの立ち位置による,症候群への最低限の習熟の4つが必要だろう。①と②がてんかん学への参入の準備,③と④は実践編になる。学習の所要時間は,①~④の全行程でおよそ3~4時間であろうか。

 学習は実際の臨床例から始めるのが近道である。症例に当たったときに,①と②からてんかん学全体におけるその症例の位置付けを習得し,実臨床的にはその事例に必要な脳波所見(③)と,特徴的な臨床症状,それに対応する治療(④)を調べるという手順になろう。

 このようにして5~6症例を体験すれば,「ミニマムてんかん学」はすでに習得されている。最初の1事例は3~4時間の学習が必要だと思われるが,次の事例からは30分~1時間程度でおおよそ大丈夫と言えよう。「ミニマムてんかん学」への道は決して険しくはない。

Answer…3~4時間の勉強と,5~6症例の経験で最低限の診療に必要な「ミニマムてんかん学」は身につきます。

■FAQ3

では,「ミニマムてんかん学」の①と②で必ず知っておくべき内容の範囲を教えてください。

①最低限の用語の理解
 てんかん学を習得するためには,最低限の準備としていくつかの用語を覚える必要がある。しかし,どうしても覚えなければならない用語はごくわずかである。

◆焦点性発作と全般発作
 てんかん発作開始時に大脳皮質の片側からてんかん放電が始まる場合を焦点性発作,てんかん発作開始とほぼ同時に脳の両側からてんかん放電が始まるものを全般発作と言う。片側から始まり,これが両側へ伝播してもそれは焦点性発作である。

◆てんかん発作,てんかん症候群,てんかん大分類
 てんかん発作とは,観察できる,あるいは実際に体験されて訴えられる症状のことを言う。具体的には欠神発作,強直間代発作などである。てんかん症候群とは,いくつかの特徴的なてんかん発作と,それに対応するてんかん性脳波異常,および発症年齢などが組み合わさった疾患単位であり,具体的には若年ミオクロニーてんかん,側頭葉てんかん〔ただし,現在の国際分類(国際抗てんかん連盟「てんかん,てんかん症候群および関連発作性疾患分類」)では症候群とは認められていない〕などである。てんかん大分類とは,例えばウェスト症候群,レンノックス・ガストー症候群などのいくつかの症候群を総括するものであり,2017年の新国際分類ではこれらは全般・焦点混合てんかん群(後述)の名称のもとにまとめられている。

②「4大分類プラス2」の理解
 成人てんかんに限れば,1989年の国際分類で定義された4大てんかん分類(年齢依存性焦点性てんかん群,特発性全般てんかん群,年齢非依存性焦点性てんかん群,全般・焦点混合てんかん群)に加えて,失神発作および心因性非てんかん性発作の6つを区別できれば,てんかんを主訴として来院する患者・家族の7~8割に,発作予後と第一選択薬のオリエンテーションができる。

◆年齢依存性焦点性てんかん群
 幼児期から学童期前半に発症し,思春期には発作は自然に治癒する疾患群である。具体的にはいわゆるローランドてんかんとパナエトポラス症候群がこの分類に含まれる主要なてんかん症候群である。

◆特発性全般てんかん群
 学童期から思春期に発症し,具体的には小児欠神てんかん,若年ミオクロニーてんかんがこの分類に含まれる代表的なてんかん症候群である。バルプロ酸が特効的に有効だが,催奇性の問題からレベチラセタムも最近汎用される。基本的には大きな発作は薬物でコントロールできることが多い。

◆年齢非依存性焦点性てんかん群
 0歳から超高齢者まであらゆる年齢で発症する。交通事故や脳血管障害など脳が損傷を受けて発症するてんかんの多くはこのてんかん群である。部位に応じて側頭葉てんかんや後頭葉てんかんなどと言い,これが他の大分類における症候群に当たる。「三振アウト」の法則が成り立ち,焦点性てんかんに有効とされる,ナトリウムチャネル遮断薬を含む3つの薬剤を投与して発作が止まらなければ,その後どの薬剤を足しても発作が止まる確率は4~6%にとどまり,寛解率は6~7割である。

◆全般・焦点混合てんかん群
 新生児期から乳幼児期に初発し,てんかん発作が通常は日単位から週単位で頻発し,次第に知的障害が伴ってくるもので,寛解率は1~2割である。具体的には先ほども指摘したように,ウェスト症候群やレンノックス・ガストー症候群が含まれる。

 この4大分類と失神発作,心因性非てんかん性発作がおおよそわかれば,てんかん学の枠組みを理解したことになる。2017年の新国際分類では,年齢依存性焦点性てんかん群および特発性全般てんかん群が大分類から抜け落ちたが,新国際分類の全般てんかんからは,全般・焦点混合てんかんという形で,ウェスト症候群やレンノックス・ガストー症候群は除外されており,実質的には特発性全般てんかん群と近似したてんかん大分類となっている。年齢依存性焦点性てんかん群も,自己終息型焦点性てんかん群という名前で使用しても良いというただし書きが付けられており,1989年分類と2017年分類は実質的には大きな齟齬なく一致させることができる。

 以上を踏まえ,実際の症例を診ながら,③脳波を読むミニマムの能力,④それぞれの立ち位置による,症候群への最低限の習熟が次のステップとなる。

Answer…用語に関しては,焦点性てんかんと全般てんかんの区別,てんかん発作,てんかん症候群,てんかん大分類を理解する必要があります。臨床的には,さらに「4大分類プラス2」を考えます。

■もう一言

 ある病気について学ぼうと考えるときに,原則から学ぶか事例から学ぶかはなかなかに選択の難しい問題と思われる。全体がわからないことには,自分が今どこにいるのかのオリエンテーションはつかないが,目の前にある事例の問題を解決するには,単に全体としての原則がわかっていても手の付けようがない。知らないことを知るためにどこから始めるかはなかなかに難しい。

 もう一つ,考えなければいけないことがある。その病気を勉強するのにどのくらいのタイム・コストをかけることが自分に許容できるのかという問いである。学生であればあまり問題にならないだろうが,すでに医師として働いているのであれば,自分の専門分野や今の自分の立ち位置から,勉強しようとしている疾患がどの程度の優先順位を持っているかで,勉強にかけることができるタイム・コストはおのずから決まってくるはずである。


かねもと・こうすけ氏
1982年京大医学部卒。86年より独ベルリン自由大神経科外人助手,92年国立療養所宇多野病院精神神経科医長。97年京大大学院博士課程修了(医学博士)。2001年より現職。日本てんかん学会理事,日本精神病理学会理事。2013~17年国際てんかん連盟精神科部門委員長。18年10月に『てんかん学ハンドブック(第4版)』を刊行。