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第3283号 2018年7月30日


【interview】

「見る技術」で医療に光を
自由なもの作りで広がる,生体イメージングの可能性

西村 智氏(自治医科大学分子病態治療研究センター分子病態研究部教授)に聞く


 体の奥深くを透視するX線撮影やMRI。肉眼の分解能を超えるミクロな世界を映し出す顕微鏡――。これまでの医学・医療の進歩に重要な役割を果たしてきた「見る技術」は,今なお進化を続けている。

 「見る」をキーワードに,映像技術の医療応用を独自に展開しているのが西村智氏だ。生きたままの組織を観察する「生体イメージング」を研究し,NHKと共同で開発した8K顕微鏡でも知られる西村氏に,発想の原動力や今後の展望を聞いた。


広視野,高解像度で生命現象をとらえる

――「光を使って体を見る」技術を研究・開発してきたそうですね。

西村 生きたままの組織を高解像度でリアルタイムに観察する「生体イメージング」を研究しています。深部の観察に適している「二光子顕微鏡」を改良して,マウスの血管内で血栓ができる様子などを動画で撮影しました。動画は当研究室のウェブサイトでも公開しています。

――とても鮮明で,インパクトのある動画です。

西村 世界に先駆けて,血小板の一つひとつを血栓の中でも血流中でも明瞭に観察しました()。高感度の8K CMOSイメージセンサーを使うことで,従来よりも広い視野を高解像度で観察できるようになりました。従来の顕微鏡で見えるのは0.1 mm四方程度ですが,この8K顕微鏡では5 mm四方程度を一度に撮影することができます。

 血栓形成過程の生体イメージング(クリックで拡大)
レーザー照射により誘発された微小血栓の形成過程。生体イメージングとレーザー傷害を組み合わせることにより,腸間膜の毛細血管において,血栓を誘発し,血栓形成に寄与する単一血小板を可視化。レーザー照射により血小板血栓が発達している。

――撮影方法を教えてください。

西村 麻酔した実験動物に手術で観察窓を開け,そこから撮影します。傷が大きいと本来の生体環境とは異なってしまうので,なるべく低侵襲な方法で撮影することが重要です。私は,5~10 mmくらいの小さな孔からでも撮影できるよう工夫した機器を作りました。これにより,心臓や肺,肝臓など体の深い場所も見ることができます。また,蛍光物質を使って細胞種を染め分けることで,マルチカラーでの撮影が可能です。

――生体イメージングはどう応用できますか。

西村 当研究室では生活習慣病の病態解析を行っています。これまでに血栓形成の他,肥満に伴う脂肪組織の炎症などの生命現象をとらえてきました。広範囲を撮影できる利点を生かして,従来はアプローチが難しかった細胞間相互作用を含め,さまざまな研究への応用が期待できます。

スマホで撮るような手軽さで体の中を見たい

――他にはどんな研究をしていますか。

西村 内視鏡など臨床現場で使う各種撮影機器の開発を行っています。臨床医のニーズを聞いて機器を作り,実際に使ってもらいます。そのフィードバックを受けてどんどん改良を重ね,スピード感のあるもの作りを心掛けています。手術で「この角度の術野が見づらい」などの細かいニーズにも素早い提案ができるのは,医師である私の強みだと思います。

――今後,作りたい機器はありますか。

西村 私がめざすのは,X線撮影やMRIよりも低リスク・低コストで体内を可視化する技術の開発です。それには,X線や紫外線よりも体への傷害が少ない,可視光線や赤外線など長波長の光を使います。安全な光なら動画を撮ることもでき,体の中の様子をよりわかりやすく把握できるでしょう。

 これらの光は産業界でも広く活用されています。その技術を転用することでコストの抑制にもつながるのです。

――例えば,どのような技術でしょう。

西村 これまで私が作った機器には,一般的なデジタルカメラの部品なども使っています。実験用の一点物の機器には8K CMOSイメージセンサーのような超高額な部品を使うこともありますが,臨床用の機器には市販品の性能でも十分な場合が多いのです。

 特に使い勝手が良いのは防犯カメラですね。数千円の安価な防犯カメラを買ってきて,中の部品を取り出して使います。小さいですし,暗所でも撮影できるよう,けっこう感度が高いセンサーが使われているんですよ。

――自由な発想で取り組めば,夢のような技術も現実になりそうですね。

西村 はい。産業界に広く目を向けると,車の自動運転のための赤外線技術など,新たな技術が次々と生まれています。既存の枠組みにとらわれなければ,可能性は大きく広がるのです。将来的にはスマートフォンで撮影するような手軽さで,体の中を見られるようにするのが私の夢です。

スピード感のあるもの作りの秘訣とは

――医学部を卒業後,循環器内科の道に進まれたそうですね。もの作りがメインの研究を始めたのはなぜですか。

西村 もの作りは昔から好きで,中学時代にはいろいろな機器を作るのが趣味でした。医学部卒業後に循環器の研究をする中でも「こういう顕微鏡がほしい」と思ったら自分で作っていました。それがだんだんと発展していき,今の研究スタイルになりました。

――もの作りを本格的に学んだわけではないのですか。

西村 はい。ただ,ゼロからものを作るのは当然難しいので,まずは「壊していく」やり方をするんです。分解して中の原理を見て,改造していく。生体イメージングに使う顕微鏡(写真)も,3台ほどの顕微鏡を分解して部品を取り出し,組み合わせて作りました。ホームセンターやネット通販で調達した部品も使っています。

写真 生体イメージング用の機器の前にて
複数の顕微鏡や部品を組み合わせた手作りの機器。設計図はなく,今でも改良が続いている。

――設計図はあるのでしょうか。

西村 ありません。今でも一部を分解して新しい機能を付け加えるなど,改良を続けています。

――アイデアはどこから生まれるのですか。

西村 秘訣は人とのつながりだと思います。私は年間30回以上も学会に行きますが,ほとんどは初めて参加する学会です。医学に限らず,金属加工の技術者の集まりや企業の展示会などジャンルは多岐にわたります。そこで出会ったさまざまな人と一緒にもの作りをしています。

――顔の見える関係を大切にしているのですね。

西村 はい。私の場合,企業と特別な契約を結ぶことはほとんどありません。さまざまな企業と信頼関係のもとで協力しているんです。契約に縛られないからこそ,自由な発想でスピード感のあるもの作りができています。

医師だからできる自由な挑戦

――生体イメージングを今後,どう発展させていきたいですか。

西村 体の中を「見る」だけではなくて,見えるものを触ったり動かしたりしたいです。今は,1 cmぐらいの短距離なら非常に早いスピードで繊細にものを動かす技術があります。その技術と生体イメージングを組み合わせて,例えば拍動する心臓をリアルタイムで撮影し,拍動と同じ速度で機器を動かします。そうすれば,拍動を止めなくても手術が可能になるでしょう。

 それと,体の「中に入って」周りを見てみたいですね。例えば,赤血球の目線から血管や他の細胞はどう見えているのか。個々の細胞が何を感じ取り,どうやって情報をやりとりしているのかを知りたいです。

――想像するだけでワクワクします。

西村 「何に役立つか」にこだわりすぎないことも研究開発の大事な視点だと思います。純粋な面白さを追求してどっぷり浸かった研究だからこそ生まれるものがあるでしょうし,役立てる方法は後からでもきっと見つかります。

――お話を聞いて,常識にとらわれない自由な発想が先生の原動力なのだと感じました。

西村 幸いなことに,これまで出会った多くの人たちは私の話に快く耳を傾け,もの作りに協力してくれました。私が医師だからという面もあるのではないでしょうか。

 医療には「人間の幸せ」という広い出口がある。だからこそ,社会の中で医師が必要とされる場面はたくさんあります。これからも,既存の学問体系に沿った道だけでなく,さまざまな道で自由な挑戦を続けていきたいですね。

(了)


にしむら・さとし氏
1999年東京大医学部卒。東京大附属病院での内科研修後,2007年東京大大学院医学博士課程修了。東京大循環器内科特任助教(JSTさきがけ研究員兼任),東京大医療ナノテク人材育成ユニット特任助教,東京大システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点(TSBMI)特任准教授などを経て,13年より現職。