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第3277号 2018年6月18日


Medical Library 書評・新刊案内


造血幹細胞移植ポケットマニュアル

国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科 編
福田 隆浩 執筆

《評 者》豊嶋 崇徳(北大教授・血液内科学)

造血幹細胞移植医療の全てがまとまった一冊

 本書は,わが国の造血幹細胞移植医療をリードする国立がん研究センター中央病院の福田隆浩科長が,移植チームメンバーの協力を得て執筆した実践的なポケット版マニュアルです。造血幹細胞移植医療は他の医療と比べ患者の個別性が高く,また準備から外来フォローまで長期間にわたり,その間さまざまな職種がかかわる,極めて複雑で高度な医療です。そのため,一つの問題を解決するために,さまざまなウェブサイトや成書に当たる必要があります。移植の合併症が全身的であり,かつ多岐にわたるのがその理由の一つです。

 本書の特徴は,造血幹細胞移植医療の全てがこの一冊に盛り込まれている点にあります。例えば,移植後の高血圧に対して推奨される降圧薬が具体的に用量まで記載されています。つまり,エビデンスがあっても実際にはどう対応すればいいのか迷う点にまで踏み込んで記載されています。また編成も移植の準備から,入院,外来フォローと経時的な流れになっており,移植にかかわるさまざまな職種の方が各職種の関与する項目の箇所を調べやすいように工夫されています。また,移植を依頼する立場の血液内科医にとっても移植適応,患者さんへの説明,また移植後のフォローと,座右にあって役立つ書となっています。このように対象とする読者が移植医のみならず,さまざまな医療スタッフ,コメディカル,一般血液内科医と多岐にわたるのも本書の特徴です。

 造血幹細胞移植は複雑であるが故にエビデンスが少なく,ガイドラインも少ない分野が多くあり,各施設でプラクティスが異なる場合もあります。その点においても本書は標準的な記載がされており,各施設で参考になるものと思います。本書はポケットサイズのコンパクトな書籍なため携行に便利で,一見簡潔でありながら,実際は相当深みのある内容となっています。本書は臨床現場にあって,移植医療の向上に資するものと確信いたします。

B6変型・頁500 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03160-8


神経救急・集中治療ハンドブック 第2版
Critical Care Neurology

篠原 幸人 監修
永山 正雄,濱田 潤一,三宅 康史 編

《評 者》西山 和利(北里大主任教授・神経内科学)

神経系救急・集中治療の全てがここにある

 私の尊敬する篠原幸人先生の監修による本書の初版が上梓されたのが2006年であった。当時の私といえば,日本人としてはやや長めの米国留学から帰国し,とある大学病院で脳卒中の急性期治療に携わっていた時期であったが,当然ながら早速本書を手にした。米国のCleveland ClinicやHarvard Medical Schoolで垣間見ることができた神経救急・集中治療の質と量を期待して帰国した私にとって,当時の本邦の状況は物足りないものであった。神経学の臨床能力に優れた神経内科医の絶対数が多くなかった上に,彼らの中で救急医療に取り組もうという者は極めて少なかった。そのような発展途上にあった本邦でも,ようやくこのような神経救急や集中治療に関する本格的な教科書が上梓された,と感銘を受けたものである。実に,本書が本邦における神経救急の初めてと言ってよい専門書であった。

 本書の初版から10年以上が経過したが,残念ながら本邦のこの分野はまだまだ改善の余地があると言わざるを得ない。近年の画像診断の進歩や新規の治療法の出現は,神経疾患の診断と治療を大いに発展させ,それは飛躍的とさえ言えるかもしれない。しかし,非常に多岐にわたる神経救急や神経集中治療に対して,全てを高い専門性をもって遂行できる医師は数少ない。大部分の施設では,神経内科医,脳神経外科医,一般内科医,救命救急医などが,彼らの本来業務との兼務でこの分野の質の維持に奔走しているのが現状である。その観点からも,本書が全面的な改訂を経て第2版を上梓することは,神経系の救急医療に携わる者にとってこの上ない朗報であろう。本書は各領域の多くの専門家の努力によって完成したと聞く。執筆者数は実に73人にも及び,本邦のこの分野の総力を結集したといっても過言ではない。

 今版は永山正雄先生,濱田潤一先生,三宅康史先生の3人が編集された。いずれもがこの分野の第一人者であるので,仕上がった本書の出来栄えは大いに期待して間違いない。神経救急・集中治療の患者さんに日々直面する施設で働く神経内科医はもとより,脳神経外科医,一般内科医,救命救急医,集中治療医,総合診療医,さらにはコメディカルの方々や医学生まで,幅広い読者にとって必携の書である。

 最後に,本書の編集作業の完成を見ることなく志半ばで2015年に急逝された濱田先生について一言述べさせていただく。濱田先生と私とは北里大で同じ釜の飯を食った仲間であった。本書は濱田先生が最後に手掛けられたお仕事の一つであり,その本の書評を担当する機会をいただけたことは私にとっても感慨深かった。濱田先生のご冥福をお祈りしつつ,本書評を閉じたい。

A5・頁672 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01754-1


臨床薬理学 第4版

一般社団法人 日本臨床薬理学会 編
小林 真一,長谷川 純一,藤村 昭夫,渡邉 裕司 責任編集

《評 者》楠岡 英雄(国立病院機構理事長)

臨床家にも使いやすい実用的な構成の参考書

 本書『臨床薬理学 第4版』は,日本臨床薬理学会が総力を挙げて編集・執筆した書籍である。臨床薬理学は,医薬品の開発とそれにかかわる規制科学,薬物の特性決定やそれを用いての治療に必要な薬物動態学,疾患・個人における医薬品を用いた治療学,さらには,薬理遺伝学や集団における医薬品に関するリスク・ベネフィット評価までも含む,極めて広範な領域を対象とする科学分野である。本書はこの広範な対象を,内容を欠くことなくコンパクトにまとめており,臨床薬理学を学ぼうとする方々に必須の教科書であるだけでなく,医師・薬剤師のみならず他の医療職が臨床薬理学的事項を必要に応じ参照する際に有益な参考書でもある。

 これまで創薬は主に製薬企業で行われてきたが,生活習慣病などを対象とするブロックバスター的な医薬品はほぼ開発し尽くされており,現在の創薬対象は難病などのアンメット・メディカル・ニーズへと移っている。その結果,世界的にアカデミアにおける創薬の役割が増大しつつあり,わが国においても日本医療研究開発機構(AMED),橋渡し研究戦略的推進プログラム拠点,臨床研究中核病院などが中心となってアカデミア創薬が進められている。その中で医師主導治験や臨床研究法に基づく特定臨床研究は重要な位置を占めているが,いずれにおいても臨床薬理学的知識は必須である。また,臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会においては,毒性学,薬力学,薬物動態学などの専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家を技術専門委員に擁することが求められている。このように,これまで臨床における日常診療に従事していた方も,今後,医薬品の臨床試験などにかかわる機会も増えると考えられ,その際には本書が助けになると思われる。

 また,日常臨床において治療戦略の構築には薬剤の有効性・安全性を含めた薬理作用の理解が必須であるが,本書は疾患領域ごとに臨床薬理事項が整理されており,臨床家にとっても使いやすい実用的な構成となっている。

 このように,本書は,日常臨床をはじめいろいろな場面で必要とされる臨床薬理学に関する諸事項を効率的にまとめたものとなっており,座右に置いておきたい一冊である。

B5・頁460 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02873-8


BRAIN and NERVE―神経研究の進歩
2018年4月号(増大号)(Vol.70 No.4)
増大特集 Antibody Update 2018

《評 者》犬塚 貴(岐阜市民病院認知症疾患医療センター長/岐阜大名誉教授)

診断,病態解明,治療につながる抗体の確立にかける熱意

 5年前に本誌増大特集として出版された「Antibody Update 2013」をさらにアップデートした増大特集号が,本誌編集委員の山口大神経内科・神田隆教授の企画で出版された。抗神経筋抗体の病因性が分子レベルで語られ始めた1980年代初期から40年近くなるが,この分野における最近の発展がそれだけ目覚ましいということであろう。実際,特集を読むとこの5年間に新たに報告された抗体,抗体の病因性がより確実にされた抗体が紹介されており,治療に直結するようになった例も増えていることがわかる。また抗体を切り口にした疾患分類が進んだ疾患群もある。認識抗原の詳細が明らかにされ,臨床像との対応が明らかにされたものもある。そうした進歩は抗体検索や抗体機能検出における洗練された技術の導入によるものがあるが,何と言っても患者の診断,病態解明,治療に直結させたいと願う医師の熱意のたまものが根底にあることは間違いない。

 特集を概観すると,自己免疫性の脳炎・脳症,大脳基底核障害,視神経脊髄炎,小脳障害,末梢神経疾患,自律神経節障害,神経筋接合部疾患,筋疾患,傍腫瘍症性神経症候群と障害部位が実に多彩であり,症候の切り口から見れば,免疫性疾患とは縁遠いと従来思われた,認知症,てんかん,精神疾患なども,少なくともその一部は免疫介在性の機序で生じているということが示されている。

 病因となる自己抗体が満たすべき条件として,①抗体が患者群で特異的に検出される,②抗体が標的となる抗原と反応する,③抗体の投与により病態が再現される,④対応する抗原の免疫により疾患モデルが作成できる,⑤抗体の力価低下により病態が改善することが以前から挙げられている。特集で取り上げられた疾患に伴う抗体は,これらの条件を全て,あるいは部分的に満たしている。そして今なお,残る条件を満たす証明を求めて研究が進行中である。著者らがわかりやすくクリアカットに著述しており,表にきれいにリストされた抗体を見て,読者は抗体が全てを取り仕切ってくれると思うかもしれない。しかし著者らがあえて書いていない抗体そのものの悩ましさも大きい。さまざまな疾患や症例において,おびただしい種類の抗体が検出されているが,同じ臨床像の患者群で検出されない場合や,対照群にも検出される場合もあり,病的意義が不明で立ち消えになることも多い。抗体検出のカットオフの設定や染色性の判定などで悩むことも多い。また同名の抗体であっても認識部位によって意義が異なる場合もある。一方で臨床像が多様でも,ある抗体の存在が疾患単位を形作る場合もある。また表面上同様の臨床像であっても,抗体によって合併症や予後が異なる疾患群もある。なかなかよい動物モデルができない場合もある。このような耐え難い苦労を経て作られたリスト上の抗体名を見ると,拝みたくなるような気持ちにもなる。

 依然残されている基本的な問題として,自己組織に対する抗体産生機序,抗体の血液脳関門の越え方,細胞内抗原へのアクセス,神経筋の組織傷害機序,患者側の免疫状態,特に細胞性免疫との関連,診療に使える容易かつ迅速な抗体の検出・測定システムの構築などがある。免疫学,細胞生物学,分子生物学,分子遺伝学などから新しい技術の応用がさらに進み,抗体の機能と病態へのかかわりが明らかにされ治療法が確立していくことを願っている。

一部定価:本体3,800円+税 医学書院


精神診療プラチナマニュアル

松崎 朝樹 著

《評 者》森 康浩(愛知医大准教授・精神科学)

全患者が世界標準の精神科診療を享受できるために

 著者の松崎朝樹先生とは,ある事件をきっかけに懇意になった。某所で窮地に追い込まれていた私の前にまるで白騎士のように颯爽と現れ,私を窮地から救い出してくれた。それも暴力ではなく,彼が最も得意とする「言葉」という武器を使って。

 精神科医にとって言葉は武器だ。彼ほどその武器に磨きをかけている精神科医はいない。彼の発する一言,彼の書く一文は見事なまでに無駄な言葉がそぎ落とされ洗練されている。そんな彼が執筆したのが『精神診療プラチナマニュアル』である。白衣の胸ポケットに入る大きさを特長とするこの本は,その大きさ故,無駄な言葉が入る余白が一切ない。最小限の言葉で最大限の情報を伝える必要がある。彼にとっては,まさに独擅場なのだ。

 研修医や他科の医師から「精神科はマニュアルがなく,わかりにくい」と言われることが多い。しかし,「マニュアル」「ガイドライン」というと拒否反応を示す精神科医もまた多い。そんな精神科医に限って,どこで身につけてきたかわからない自己流で独り善がりな診療を行っている。確かに精神疾患には多様性があり,患者個々に応じたオーダーメード診療は必要である。しかし,それはあくまでエビデンスを踏まえた上でのオーダーメードであるべきだ。彼は言う。「個人的な経験に頼った記載を控え,各種ガイドラインや論文,専門書などに基づく,より正しい情報の記載を心がけた」と。筑波大でベストティーチャー賞を受賞するほどの教員である彼が,徹底的に調べ上げたエビデンスを基に書き上げたこの本には,現代の精神科診療の世界標準が詰め込まれている。彼は執筆当初,研修医や看護師,医療スタッフにもわかりやすい内容にするつもりであったようだが,それを実現すると同時に,「精神科医が手にしても十分に価値ある内容を盛り込んだ」ものが完成している。精神科専門医でもこれを胸ポケットに忍ばせておけば,PubMedや医中誌を引く手間から解放されるだけでなく,診療が自己流に陥っていないかどうかの検証を(老眼鏡さえあれば)臨床現場ですぐに行えるのだ。

 私には20歳の息子がいる。もし息子が精神疾患を発病したら,私は迷わず彼に診療を依頼する。それは彼が「ゴッドハンド」を持っているからではない(「マジックハンド」は持っているようだが)。彼に任せれば,必ず世界標準の診療を息子に施してくれると確信しているからだ。精神疾患を発病した患者は,発病時にどこの医療機関を受診するか,そこで誰が主治医になるかでその後の患者人生が大きく左右される。精神科ほど「診療の均てん化」が遅れている診療科は珍しい。エビデンスに基づかない自己流で独り善がりな診療を,多くの患者がそうとは知らずに受け続けている。こんなことがあって良いはずがない。どこの医療機関を受診しても,そこで誰が主治医になっても,全ての患者が世界標準の診療を受けられるべきなのである。

 全ての患者が世界標準の精神科診療を享受できるために,研修医,精神科専門医はじめ多くの医療関係者の手に,この『精神診療プラチナマニュアル』が届き,活用されることを祈っている。

三五変型・頁224 定価:本体2,000円+税 MEDSi刊
http://www.medsi.co.jp

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