医学界新聞

2018.06.04



Medical Library 書評・新刊案内


神経救急・集中治療ハンドブック 第2版
Critical Care Neurology

篠原 幸人 監修
永山 正雄,濱田 潤一,三宅 康史 編

《評 者》阿部 康二(岡山大大学院教授・脳神経内科学)

神経救急・集中治療の新しいバイブルを手にする幸せ

 2004年度から卒後臨床研修が必修化され,幅広い基本的臨床能力を身につけることを目標として,医学部卒業生が全国の基幹病院へ臨床研修に行く時代となって,15年になる。この間,大学医局を中心としたこれまでの教育システムから,より開かれた研修システムが少しずつではあるが定着してきつつある。すなわち,医学部で受けた教育を実際の臨床現場での研修によって自分のものとすることで,医師としての将来的な発展のための基礎づくりが標準化されたのである。同時に初期研修修了後は,引き続き後期研修を選択する人やより専門的分野への興味を実現したい人など,個々人によってさまざまな選択が可能となり,医師生涯教育の多様化時代といえる。

 「医の原点は救急現場にあり」とはよく知られたことであるが,それまで必ずしも十分に救急や集中治療のトレーニングを受ける機会に恵まれなかった研修医たちにとって,新しい臨床研修制度下で救急現場研修が義務化されたことは歓迎すべきことである。救急現場における神経系の疾患は最も遭遇頻度が高いものの一つであり,脳卒中をはじめ,頭痛,めまい,ふらつき,しびれ,痙攣発作,髄膜炎,脳炎,せん妄など多様な症状から鑑別すべき疾患もまた多様であり,救急患者の意識レベルの判定や,基本的診察手技,脳画像検査,血液ガス分析,腰椎穿刺,脳血管造影など枚挙にいとまがないほど多数の検討項目がある。このような,一見難しいが基本をしっかり体得すればどのような救急・集中治療現場でも意外とすんなり対応できる神経救急について,これまで座右に置く参考書が少なかったのは不思議である。

 編者の永山正雄先生らはこの点に着目して早くから本書初版を出版して救急現場や集中治療現場に貢献されてきた。現代はまさに「新しい戦争」の時代であるといわれているが,19世紀プロイセンの軍人クラウゼヴィッツは不朽の名著『戦争論』の序文において「戦争の問題に関心をもつ人なら,恐らく一度ならず手にしても悔いないような書物を著したかった」と述べている。永山先生らは本書を編集するに際して,おそらく神経救急・集中治療について同様の決意をもって臨まれたものと推察される。実際このたび改訂された第2版を手にしてみると,各項目ともこの分野の第一人者の先生方による充実した執筆となっており,私たちは久しぶりにこの分野の新しいバイブルを手にする幸せに恵まれたという感想を持つ。本書は救急現場で日々苦闘する研修医だけではなく,救急・集中治療を専門とする医師にも極めて有用な内容であり,さらに脳神経外科医や神経内科医,麻酔・蘇生にかかわる医師など臨床医の方々に広く座右に置かれることをお勧めしたい。

A5・頁672 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01754-1


魁!! 診断塾
東京GIMカンファレンス激闘編

佐田 竜一,綿貫 聡,志水 太郎,石金 正裕,忽那 賢志 著

《評 者》矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科医長)

熱い思いがほとばしる臨床推論の指南書

 『魁!! 男塾』(集英社)が連載されたのは1985~91年。まさに私の小学生時代を共に過ごした名作でした。当時,『週刊少年ジャンプ』でまず読むのは『ドラゴンボール』でしたが,時間をかけて読むときは『魁!! 男塾』の門をたたいたのを覚えています。当時,そのあまりの人間びっくりショー的な強烈さに仰天した漫画の一つでした。本書はその世代を過ごした中堅医師たちの熱い思いがほとばしる,会話形式の臨床推論の指南書になります。

 症例が全部で24提示されていますが,まずその冒頭で伝授される「診断塾塾生心得九カ条」は必読です。どの心得も素晴らしく,ここで九カ条全てを箇条書きにしてもよいくらいですが,その中でも特に病歴を重視する姿勢が共感できます。例えば第三条の「病歴を映像化せよ!」などは,評者も普段の臨床やカンファレンスで意識することであり,症状の発症機転(Onset)や詳細な経過を映像化できるほど詳細に確認していくことの重要性を実感しています。痙攣や失神など,ほぼ病歴で勝負がつくような疾患・病態も多く,とにかく困ったら病歴確認をと考えています。また第四条では「患者の主訴1つより,illness scriptで考えるべし!」と主訴のみにアンカーしてしまうような認知バイアスへの対処も促しつつも,第八条で「経過が複雑で困ったときは,患者の解釈モデルに着目せよ!」と患者に聴く姿勢の重要性にも触れています。この部分だけで山ほど語れそうです。

 症例提示自体も会話形式のやりとりに飽きさせない工夫が随所にあり,結構診断が難しい症例も多いのですが,あっと言う間に読めてしまうのも良い点でしょうか。ぼけと突っ込みなど登場するそれぞれの先生のキャラが立っていて,かつ必要な鑑別やパールが満載です。それから,「あとがき座談会」で症例の内容なども振り返っているのですが,この内容が非常に自己省察的で,それぞれの先生方の本音を垣間見ることができました。多くの先生方の手に本書が届くことを願っています。

 最後になりましたが……なぜBEAT CRUSADERS?

A5・頁272 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03194-3


《理学療法NAVI》
臨床の“疑問”を“研究”に変える
臨床研究 first stage

網本 和,高倉 保幸 編

《評 者》木村 貞治(信州大教授・基礎理学療法学)

経験と実績を基盤とした「研究法」のナビゲーション

 超少子高齢社会という情勢において,理学療法には,治療的介入と予防的介入の両面からの対応による,国民の健康や生活の質向上に向けての貢献が求められている。このような中で,安全で効果的な理学療法を実践していくために理学療法士の力源となるものは,対象者の健康や生活の質の向上を願う熱意と,自身の専門性の向上を追求し続けるプロフェッションとしての自律的な向上心である。

 その志を具現化するための第一歩は,対象者の臨床的,心理・社会的特性と,自身が実施した理学療法の内容,そして,その結果に関する正確な記述と振り返りである。このような臨床活動の記述と振り返りという能動的な学びが継続されなければ,臨床実践の経験は,個々の理学療法士の記憶の引き出しの中に,無形の「暗黙知」としてとどまることになる。そこで,理学療法における臨床実践の経験的事実を,可能な範囲で「形式知」として明示化し,経験科学という枠組みの中で体系的に整理していくことが,生涯学習における重要な礎となる。この臨床実践の形式知化を通して,評価・治療・指導方法やその効果に関する疑問などさまざまな臨床的疑問(Clinical Question;CQ)が生じることになる。

 日々の臨床実践から生じたCQを解決するためには,CQに関連したエビデンスの内容,自身の臨床能力(知識,技能,経験則),施設の設備・環境と,対象者の意向や価値観との折り合いをつけながら最適な臨床判断を行うための行動様式である「根拠に基づく理学療法(Evidence-based Physical Therapy;EBPT)」を地道に実践していくことが重要となる。日常の臨床活動において,CQに関するエビデンスも参照しながら真摯(しんし)に対象者に対峙していく中で,次なる疑問が生じることになる。それは,より深く,より科学的に,臨床像を把握したり,理学療法の効果を検証したりするための評価方法や,より安全で効果的な治療方法,指導方法を考究する過程で派生してくる研究疑問(Research Question;RQ)である。このように日常の臨床活動から生じたCQとEBPTの実践,そして,その実践結果との照合から生じたRQを解決していくためには,正しい「研究法」の理解に基づいて,妥当性と信頼性のある臨床研究を地道に積み重ねていくことが,極めて重要な課題となる。

 本書は,編者や著者の方々の長年にわたる臨床経験と研究実績を基盤として,理学療法士が,日々の臨床活動の中でCQやRQに直面したときに,臨床という大海原で,臨床研究の針路を正しく進んで行くために不可欠な「研究法」というナビゲーション(航海術)の全容が,とてもわかりやすく示されている。海図としての本書の内容は,臨床研究の概念・哲学に始まり,研究デザインの分類と実施上の要点,研究倫理,測定機器の特性と実際の測定方法,臨床例を題材とした統計解析の具体的な進め方,研究成果の学会発表や論文化の要点,そして,国際誌への投稿方法までが,図や表も活用しながら,とてもきめ細かに,そして,包括的に解説されている。特に,研究デザインや統計学などの章において組み込まれた「Case」というコーナーでは,代表的な神経疾患や運動器疾患など具体的な理学療法の事例が紹介されているため,理学療法における臨床研究の実際をとてもイメージしやすいように工夫されている。また,要所に記された「用語解説」のコーナーでは,臨床研究を進めていく上で鍵となる用語がわかりやすく解説されているため,研究法を理解していくための大切な道標になっている。

 本書の理解を通して,次代を担う理学療法士の皆さんが,エビデンスを使う臨床活動と,エビデンスを作る臨床研究活動というものを一体化させていくことの本質的な意義をしっかりと感じ取られ,そして,自律的な生涯学習を通して,わが国の理学療法の質を高めていくための力源として活躍していかれることを心から期待したい。

A5・頁296 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03227-8

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