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第3272号 2018年5月14日


【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
知っておきたい,病棟でのかゆみの対処

【今回の回答者】鶴田 大輔(大阪市立大学大学院医学研究科 皮膚病態学教授)


 かゆみは痛みと並ぶ,患者さんが最も強く訴える症状の一つと言えます。しかしながら,痛みと異なり「緊急性がない」との医療者側の思い込みが,危険なかゆみを見逃す要因になると考えられます。

 かゆみの原因は,①皮膚疾患によるものと,②全身疾患や精神疾患によるものの大きく2つに分けられます。

 皮膚疾患によるものと判断できるかゆみの治療は比較的容易です。しかし,皮膚疾患ではなく,全身疾患が原因のかゆみや精神疾患に伴うかゆみの場合は対応に難渋することがあるので注意が必要です。たとえ皮膚疾患に伴うかゆみであっても,長期の治療を要する場合には対症療法に習熟しておかないと,患者さんを苦しめる期間が延長してしまいます。

 日々患者さんと接する病棟では,重大なかゆみ以外にも,外来では聞くことのできなかったちょっとしたかゆみの訴えも増えます。研修医や非専門医に知っておいてほしいかゆみの対処の基本をお伝えします。


■FAQ1

病棟で患者さんがかゆみを訴えたら,まず何を見て,どのような判断をすべきでしょうか?

 そのかゆみが,皮膚疾患によるものか否かの鑑別が必要です。皮膚疾患以外のかゆみでは掻破痕(ひっかき傷)のみであり,注意深く見ても皮疹が無いことが特徴です。何らかの皮疹が存在すれば,次に皮膚疾患による皮疹(原発疹)なのか,あるいは掻破の結果生じたびらんに二次的に生じた痂皮(続発疹)なのかなどの鑑別が必要になります。

 皮膚疾患によるかゆみかどうかの鑑別は,皮膚疾患であると確信できる「注意深い観察」こそが全てです。人の目は,「見ようとするもの」しか見えません。「見る気がないもの」は脳がスルーしてしまいます。必ず一度は立ち止まってじっくり観察し,「何か皮疹は無いか」「本当に無いと言えるか?」を確認すべきです。ベテランの皮膚科医ですら,最低10秒間は観察します。初学者や皮膚科医でない方には数十秒間じっと見つめてほしいと思います。トレーニングをしていない目には,残念ながら何も見えません。非専門医であっても,日々観察の練習が必要でしょう。スナップダイアグノーシスの練習ができるアトラス的教科書は多数存在します。一冊入手して時折トレーニングすることをお勧めします1, 2)

 鑑別に当たり,あらかじめ覚えておきたい皮膚疾患として,湿疹・皮膚炎群や蕁麻疹が挙げられます。

 湿疹・皮膚炎群には接触皮膚炎,貨幣状湿疹,アトピー性皮膚炎などがあり,これらはかゆみを伴います。湿疹には①かゆみがある,②多様性がある,③点の要素があるといった特徴があります。

 また,蕁麻疹も強いかゆみを伴います。蕁麻疹は「1日以内に消える」特徴があります。皮膚科に紹介する際には,マジックなどで皮疹に印を付けて,スマートフォンのカメラなどで,当日と翌日の写真を撮って添付するとよいでしょう。

Answer…皮膚疾患によるかゆみか否かを鑑別します。「注意深い観察」が大切で,数十秒間じっくり見つめ判断しましょう。

■FAQ2

皮膚疾患以外が原因と考えられるかゆみには,どう対処すればよいでしょうか?

 皮膚疾患以外から生じるかゆみと判断すべきポイントを紹介します。

 かゆみを訴える患者を注意深く観察すると,ほとんどの症例で掻破痕を認めます。掻破痕が無い場合は,よほど辛抱強い方か,実際にはかゆくない方ではないでしょうか。かゆみの定義は,「掻きたいという欲望を生じる感覚」3)ですので,普通は掻きます。皮膚疾患が無いことを確認した上で掻破痕が存在した場合には,全身疾患や精神疾患の精査を始めることが肝要です。皮膚疾患以外から生じるかゆみは次の通りです4)

・肝胆道系疾患:原発性胆汁性肝硬変,胆汁うっ滞症,肝硬変,肝炎
・腎疾患:慢性腎不全,血液透析
・内分泌・代謝疾患:糖尿病,甲状腺機能異常,痛風
・血液疾患:真性多血症,鉄欠乏性貧血
・悪性腫瘍:悪性リンパ腫,慢性白血病,内臓悪性腫瘍
・神経疾患:多発性硬化症,脳腫瘍
・精神疾患:神経症,うつ病,寄生虫妄想,心因性
・感染症:HIV感染症,寄生虫疾患
・その他:妊娠,更年期,薬剤,食品

 精神疾患が隠れている場合があることも念頭に置く必要があります。ただし,抗ヒスタミン薬が無効だからと言って,即座に精神疾患と判断してはならないことは言うまでもありません。ルーティンの血液検査で見落としやすい甲状腺機能異常も忘れないよう確認しましょう。

Answer…掻破痕に注目します。皮膚疾患の可能性が無いようであれば,皮膚疾患以外の原因を想定し,精査を進めましょう。

■FAQ3

かゆみを訴える患者さんに対し,研修医や非専門医はどのような治療選択を取ればよいでしょうか?

 かゆみに対し患者は,「掻きたい」という欲望を持ちます。少々掻く程度であれば良いのですが,掻破により,①バリア破壊による外界からの抗原物質,病原微生物の侵入,②軸索反射やサイトカインの産生による皮膚病変の増悪を招きますので,必要以上の掻破は避けなければなりません。

 皮膚疾患によって生じるかゆみであれば,皮膚疾患を治療することが必要です。この場合,皮膚疾患の治療は皮膚科医によって行われることが肝要です。経過に対する患者への説明責任がありますし,誤った診断から取り返しのつかない事態につながることがあるからです。皮膚疾患を疑う場合には,皮膚科に紹介したほうがよいでしょう。

 皮膚疾患以外によるかゆみ,つまり,掻破痕しか認めない場合は全身検索を進め,原因治療を行います。ただし,全身検索から疾患確定までにはどうしても時間がかかります。この間,皮膚を傷めることなく,できるだけかゆみを抑える必要があります。皮膚が乾燥して,神経刺激を起こしている可能性があれば,保湿剤の塗布は有効です。乾燥により,表皮内神経伸長を来しますので,特に推奨されています5)

 ヒスタミンの刺激によるかゆみは蕁麻疹などの皮膚疾患以外にもヒスタミン遊離物質を含む食物(タケノコ,ホウレンソウ,サトイモの他,チョコレート,ココア,赤身の魚なども報告されている)でも起こるので,摂取回避が必要です。透析患者や肝疾患患者のかゆみにはナルフラフィンが有効である可能性があります。

 また,冷却は,知覚神経閾値を上昇させることでかゆみの抑制効果を発揮します6)。ぜひ試してみてください。

Answer…皮膚科医へのコンサルトが肝要です。疾患の確定までかゆみを抑えるには,保湿剤の塗布や冷却による方法が有効です。摂取を回避すべき食物もあわせて覚えておきましょう。

■FAQ4

専門医へコンサルトすべき症例とその判断のポイントは何でしょうか?

 皮膚疾患は多岐にわたるため,皮膚疾患が疑われれば,どんな症例でも一度は皮膚科医に相談してください。また,皮膚科は現在,治療の選択肢が最も広がっている診療科でもあります。最新最善の治療を提供するためにも,コンサルトの必要度は高いでしょう。皮膚疾患以外のかゆみが疑われる場合も同様です。原因精査を進めつつも,やはり皮膚科医に紹介したほうがよいでしょう。たとえ臨床経験が豊富な専門外の医師であっても,見落としかねない疾患が隠れていることもあるからです。特に,伝染する可能性のある疥癬などは要注意です。

 なお,コンサルトを受ける皮膚科医は,受診時に撮影された写真があると大変助かります。スマートフォンのカメラなど簡単に撮影できる方法でよいので,なるべく記録するようにしてください。また,可能であれば,患者さんに受診前の写真があるかも一言聞いてください。その後役立つことがあるからです。

Answer…皮膚疾患は多岐にわたるため,必ず専門医にコンサルトしましょう。受診時や受診前の写真があるとスムーズです。

■もう一言

 皮膚疾患とそれ以外の原因からかゆみの対処の仕方をご紹介しました。皮膚疾患によるかゆみには皮膚疾患の治療,「透析や肝疾患に伴うかゆみ」の場合はナルフラフィン,その他「乾燥に伴うかゆみ」の場合には保湿外用薬が基本です。しかし,このルールに従わないかゆみが多数あることを強調したいと思います。書籍『皮膚科レジデントマニュアル』(医学書院)では,研修医向けに日常診療で出会う可能性の高い疾患を紹介しています。各種皮膚疾患,全身疾患,精神疾患の適切な診断,病態の把握を行うことで,より適切な治療へとつなげていきましょう。

参考文献
1)清水宏.あたらしい皮膚病診療アトラス.中山書店;2015.
2)出光俊郎編集.内科で出会う 見ためで探す皮膚疾患アトラス.羊土社;2012.
3)JAMA. 1964[PMID:14188877]
4)江畑俊哉.痒みを主徴とする皮膚疾患.塩原哲夫,他編集.今日の皮膚疾患治療指針第4版.医学書院;2012.
5)宮地良樹.なぜかゆみは止めなければならないか? 宮地良樹,他編集.かゆみ最前線.メディカルレビュー社;2006.
6)生駒晃彦.かゆみと他の感覚の関係:どの感覚がかゆみを抑えるか? 宮地良樹,他編集.かゆみ最前線.メディカルレビュー社;2006.


つるた・だいすけ
1992年阪市大医学部卒,99年同大大学院博士課程修了。2000年米ノースウエスタン大細胞分子生物学教室ポストドクトラル・リサーチフェロー,05年阪市大講師,11年久留米大准教授などを経て13年より現職。専門は自己免疫性水疱症(天疱瘡・類天疱瘡),乾癬,創傷治癒。『皮膚科レジデントマニュアル』(医学書院)を編集。