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第3272号 2018年5月14日


【座談会】

卒前教育で技能・態度をどう教え,
評価するか
伴 信太郎氏(愛知医科大学医学教育センター長)=司会
鈴木 康之氏(岐阜大学医学教育開発研究センター教授/日本医学教育学会理事長)
清水 貴子氏(聖隷福祉事業団顧問)
山口 育子氏(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)


 近年,日本の医学教育は卒前教育から専門医制度まで改革が及んだ。その背景にはより質の高い医師の養成という社会の求めがあり,国際標準への対応も意識されている。卒前教育では転換がどのように進み,何が課題となっているか。現状を踏まえ,これからの卒前教育はどうあるべきか。

 本紙では,卒前教育に長年携わる日本医学教育学会前理事長の伴氏を司会に,同学会理事長を務める鈴木氏,臨床教育にかかわってきた清水氏,患者・市民の立場で発信を重ねる山口氏の4氏による座談会を企画。診療参加型臨床実習とPost-Clinical Clerkship(以下,Post-CC)OSCEを中心に,卒前教育の現状を整理した上で,その指導内容と評価方法について提言がなされた。


 医学教育は制度の変革が進みました。卒前教育では2000年代に入り,医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コア・カリ)や共用試験(OSCE)が導入されました。近年では医学部に国際基準での認証評価を求めた2010年のECFMG(米国の外国人医師卒後教育委員会)宣言を発端に,臨床実習の在り方を含む議論が活発化しています。卒後教育でも臨床研修の必修化と見直しが進められ,2018年には新専門医制度が始まるという大きな動きがありました(表1)。

表1 近年の医学教育の主な動き(クリックで拡大)

 医学教育を担うセンターがほとんどの医学部に誕生するなど,大学は研究機関としてだけでなく,教育機関としての性格が強まっています。今後も,充実した教育を求める流れはますます進んでいくでしょう。本日は,医学生に何を指導し,どう評価すべきか,それぞれの立場から具体的に提言していただきたいと思います。

臨床実習は量ではなく質,医師としての基礎的能力の涵養を

 卒前教育を規定するコア・カリは2016年度に改訂され,「臨床実習は診療参加型を基本形態とする」と明記されました。今後はどの大学も臨床実習にさらに力を入れることになります。

鈴木 診療参加型臨床実習の必要性が訴えられ始めたのは,医学生が実施できる医行為を定めた旧厚生省の前川レポート(1991年)の頃です。ついにコア・カリに全面的に取り入れられることとなりました。

山口 患者の立場からは,early exposureの教育効果に期待します。見学型実習では得られない経験が医学生としての自覚を促し,倫理的成長にもつながるでしょう。

 一方で,臨床実習に関する議論には懸念もあります。ECFMG宣言の影響を受け,あらゆる大学が臨床実習期間の延長に躍起になっていることです。「臨床実習は72週以上にすればよい」などという,内容ではなく期間に主眼を置いた議論にすり替わってはいないでしょうか。

鈴木 確かに,臨床実習の準備に関する議論では,期間を延ばすための外形的なカリキュラム改革に重きが置かれている印象を受けます。

 72週とはよく耳にしますが,ECFMG代表の言葉によれば,重要なのは期間ではなく,診療参加型臨床実習として十分な内容かどうかです。求められるのは「量ではなく質」とあらためて強調したいと思います。

 しかしながら,診療参加型臨床実習で,医学生に何を提供するかは悩ましいですよね。

鈴木 「診療参加」という言葉から,指導者も医学生も,採血や縫合といった検査・手技をたくさん体験するという意味にとらえがちです。しかし,そうではありません。医療チームの一員として患者や他職種の話を聞き,的確な診察に基づく診療録を作成し,診断とケアプランを自分で考え,指導医とディスカッションすることが,「診療参加」として重要と私は考えています。

清水 同感です。当事業団は大学から選択実習として1~2週間の臨床実習を受け入れますが,基本的にはコミュニケーションを重視して進めます。この実習では初期研修医と同様に,患者さんからの病歴聴取と,その後の検査・治療計画の立案までを行います。基本的な医療面接と身体診察から必要情報を得る重要性を卒前に実感してほしいとの思いからです。

 診療参加は手技に傾倒するのではなく,医師―患者間コミュニケーション能力などを身につけてほしいと私も思います。

鈴木 診断・治療技術は卒後の集中的な訓練で習得できますから,医学生にチームの一員としての役割と意識を持たせることを臨床実習では目標にしてほしいですね。

山口 提案ですが,医学生が到達するべき最終目標と,そこに至る目標を段階的に医学生に示せば,コミュニケーション能力の系統的な養成につながりませんか。医学教育の現状では,コミュニケーション教育は「行き当たりばったり」感が否めないので,このような方法があるとよいと感じます。

鈴木 医学教育は「何を教えるか」から「どういった医師を育てるか」というアウトカム基盤型教育(Outcome-Based Education)に変わってきたので,最終目標とそこまでのステップを記した文書は各大学に存在するはずです。それを臨床実習の内容と対応させ,実習目標に落とし込んでいくことで,臨床実習でのコミュニケーション教育をより系統的にできるのではないでしょうか。

Post-CC OSCEだけに頼らない,学生の評価方法が求められる

 臨床実習前,4年次に行われるOSCEは,医学生が臨床実習を行える水準にあることの担保を目的に行われます。臨床実習後に行うPost-CC OSCEは,臨床実習の成果を測り,医学部を卒業させてよいかを判断する試験の一部に位置付けられようとしています。Post-CC OSCEは技能・態度を評価する試験として,2020年度から全大学での導入に向け,現在は一部の大学で試行されています。

 OSCEとPost-CC OSCEの位置付けについて,率直な考えをお聞かせください。OSCE導入時から実施にかかわり,現在は医療系大学間共用試験実施評価機構理事でもある山口さん,いかがでしょうか。

山口 OSCEは臨床実習前の「仮免許」として一定水準にあるとはいえ,臨床との隔たりが大きい点は課題です。特にコミュニケーションでは「マニュアル通り」過ぎる点が,OSCEの医療面接の改善点だと考えています。

 2017年度から試行が始まったPost-CC OSCEの医療面接の内容はOSCE未満にとどまっているのではないでしょうか。OSCEの医療面接は10分間の課題であるのに対し,Post-CC OSCEでは単独項目ではなく,医療面接+身体診察を12分間,そして指導医に報告するまでを合計16分間で行う課題です。それだけに,医療面接の内容が薄くなってしまっています。

鈴木 Post-CC OSCEでは臨床推論が重視されています。その関係で,コミュニケーションの優先順位が相対的に下がっているように感じられます。

山口 ですので,医療面接でのコミュニケーションをPost-CC OSCEでしっかり評価すべきです。独立項目として,臨床に近いレベルのコミュニケーション能力を測る試験を行う必要性を感じます。医師国家試験は知識のみを評価する試験です。技能・態度はPost-CC OSCEでしか評価できないことを考慮しなければなりません。

清水 Post-CC OSCEは,自大学の医学生が医師として患者さんの前に出てよいかどうか,大学側が判定することを目的に導入されます。いわば,育てた医学生が医師として国民の前に立つことができるか,各大学が責任を持って判断するという関門です。

 臨床研修に十分な技能・態度を医学生が持ち合わせているかどうか,大学に判断させるPost-CC OSCEが導入される以上,大学のオートノミーに高い水準が求められていると感じます。

 その中で,Post-CC OSCEは,あくまでも実技評価の一部を担うという位置付けにすることが大切です。卒業判定材料として導入されるとはいえ,その結果だけが技能・態度の評価として卒業の可否に影響を及ぼし過ぎてしまうと,医学生はPost-CC OSCE対策ばかりに追い込まれるでしょう。すると医学生は,臨床実習で医療面接の技能を鍛え,ベッドサイドで患者の話を聞く態度を養うという本来めざすべき方向ではなく,付け焼き刃のスキル習得へと走る事態に陥る可能性もあります。

 Post-CC OSCEという標準化された試験も必要ですが,臨床実習中の技能・態度の適切な評価がより重要であるという認識を忘れてはいけません。日々の臨床実習での技能・態度こそが評価されるべき対象なのです。大学は臨床実習評価を中心にPost-CC OSCEも組み入れた総合的な評価法を設計し,卒業の合否を判断すべきでしょう。

「責任ある主観」のもとで,mini-CEXの活用を検討すべき

 臨床実習中に用いる評価法としては,mini-CEX(簡易版臨床能力評価法)を用いるのがよいと考えています。Mini-CEXは,臨床実習中の医学生と患者さんの実際のやり取りを教員などが評価し,フィードバックするものです(表2)。

表2 Mini-CEX評価票の項目(主なもの)(クリックで拡大)

 愛知医大の小児科はmini-CEXを臨床実習に取り入れています。合否判定ではなく,到達目標を示し,「患者さんに正しく伝えるにはこう話したほうがよい」「目線はもう少し下げて話すように」など,前向きなフィードバックを行っています。

鈴木 実際に患者さんと医学生が対面する場面での評価,助言は教育効果が大きいです。各科で繰り返し行えばそれだけ貴重なフィードバックの機会が増えます。また,卒業の可否を判定する際も,複数回の結果を判断材料にできるのは好都合です。評価される医学生にも,評価する大学側にも適したものと言えます。

山口 何かを経験したという尺度ではなく,医学生と患者の実際のやり取りから到達度を教員が見る点は評価できます。しかし,回数が増えれば結果は平均的になるとはいえ,評価者の能力は大事です。評価にはできる限り患者の視点を入れてもらいたいです。

 例えば,医学生による患者への説明場面にも,落とし穴があります。医療者視点では,たくさんの情報を伝えられるほうが上手な説明に見えがちです。ところが患者視点では話を聞いてもらえなかったと映り,むしろ不満足となる可能性もあります。

 そのような視点も入れながら,評価基準を明確化すべきですね。

鈴木 評価の精度を高めるのは難しい課題です。コミュニケーション能力などの技能・態度は,知識と違って量的に評価できないので,客観的評価が難しいからです。ですから,評価者には主観的でありながらも責任を持って判断する「責任ある主観」の意識を持って,学生を評価していただきたいです。

医学生にプロフェッショナリズムを育む教育方略を

 ここまで,診療参加型臨床実習の目標設定や卒前教育の成果の評価方法について,医療面接を中心に議論が及びました。その背景にある課題は医師としての技能・態度について,どのような教育方略を取るべきかです。この点は臨床実習前からの教育も重要です。卒前教育全体の視点から,どのような教育が求められるでしょうか。

清水 コア・カリにも示されている「プロフェッショナリズム」に関する教育の拡充がポイントだと思います。臨床研修の到達目標の見直しと合わせ,卒前・卒後の一貫性が図られました。卒前から医師として求められる基本的価値観と資質を教える体制が重要です。

 特に卒前教育では,「生涯を通して医師に求められる資質は何か」を考える機会を継続的に作ってもらいたいです。すでに講義等で教育の機会はありますが,そこからさらに一歩踏み込んで,プロフェッショナリズムが医師の全ての行いの土台として欠かせないことを,医学生には理解してもらわなければなりません。

 学生時代を通して身につけなければならない医学生物学的知識は圧倒的な量です。入学時に持っていた医師としての理想や希望を,試験や臨床実習に追われるうちに忘れてしまうこともあるでしょう。医学生の感性に訴える機会が必要だと思います。どのような手立てがあるでしょうか。

清水 自分のキャリアを考える機会を講義などで定期的に作るだけでなく,患者さんに相対する診療参加型臨床実習を題材として効果的に活用したいものです。臨床実習では,どんな医学生でも患者さんを前にすれば,医師として何が求められるかを自ずと考えます。

鈴木 今後,臨床実習を拡充する際に留意すべき報告があります。Hojatらの研究1)では,医学生の臨床実習前後の共感性をJefferson Scale of Physician Empathyで調べています。共感性はプロフェッショナリズムに通じる指標だと思うのですが,1年間の臨床実習後に低下するのです。こうした懸念を考慮して,丁寧に指導する必要があるでしょうね。

清水 例えば態度では,ベッドサイドで患者さんと話すときには,しゃがんで目線をそろえるといった細かなことから教える必要があるでしょう。教育だけでなく,臨床,研究も行う大学の指導者が忙しいのは重々承知していますが,どんな医師を育てたいかを踏まえ,指導者には教え方を深めてもらいたいです。

 医学生が医師として社会に出るために,医学生へのプロフェッショナリズムの養成教育は欠かすことができません。講義,実習を通じて医師として何が大事かを再認識する機会を設ける工夫が求められるわけですね。

 本日の議論を踏まえ,それぞれのお立場から読者へメッセージをいただけますか。

山口 診療参加型での長期の臨床実習により,入院患者と医学生のかかわりは増えます。患者はその側面では医学教育の協力者です。臨床実習の受け入れを要請するだけでなく,どんな協力が必要か積極的に患者に伝えてほしいです。

清水 医師には診断・治療の高い技術が求められますが,それ以前に基本的価値観としてプロフェッショナリズムを培うことが求められます。卒前・卒後の到達目標の一致が図られた今,プロフェッショナリズムを卒前から生涯にわたって一貫して教育する仕組みの構築を進めるべきと感じます。

鈴木 今日は卒前教育の課題を中心に話し合いましたが,日本の医師の仕事ぶりは世界に誇れるものがあります。改善点の克服だけでなく,日本の医療のよさをさらに伸ばす教育をめざし,臨床実習の充実に努めていきます。

 近年の医学教育システムの大転換をポジティブに生かし,医学生が患者に共感する姿勢と態度が醸成される医学教育を充実させていきたいと思います。医学生の指導に当たる皆さま,これからもよろしくお願いいたします。

(了)

参考文献
1)Med Educ. 2004[PMID:15327674]


ばん・のぶたろう氏
1979年京府医大医学部卒。同大小児科研修を経て,80年米国クレイトン大家庭医学科レジデント。83年国立長崎中央病院にて卒後研修指導医。89年川崎医大に移り,93年より同大助教授,98年より名大教授。2009~16年に日本医学教育学会理事長を務めた。17年より現職。

すずき・やすゆき氏
1980年岐阜大医学部卒。高山赤十字病院,北里大病院を経て,83年より岐阜大小児科助手。89年より小児科講師として臨床実習を担当し,98年同大助教授,2001年同大医学教育開発研究センター教授。08年より同大大学院医学教育学分野主任を務める。16年日本医学教育学会理事長に就任。

しみず・たかこ氏
1981年浜松医大卒。複数の病院を経て,94年聖隷浜松病院神経内科。2002年より総合診療内科部長,03年より副院長・研修センター長を兼任。04年の医師臨床研修制度発足時から長年,プログラム責任者としてかかわった。現在,厚労省医道審議会の部会委員として,Post-CC OSCEと国試,臨床研修制度の改善にかかわる。

やまぐち・いくこ氏
自らの疾患体験から,患者の自立と主体的医療への必要性を痛感していた1991年にCOMLと出合う。92年から相談,編集,渉外などを担当。2002年に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長を経て,11年8月理事長に就任。JACME(日本医学教育評価機構),医療系大学間共用試験実施評価機構理事。18年6月20日に『賢い患者』(岩波書店)を発行予定。