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第3243号 2017年10月9日


【interview】

自信を持って当直に臨みたい君に
坂本 壮氏(順天堂大学医学部附属練馬病院救急・集中治療科/西伊豆健育会病院内科)に聞く


 将来いずれの科に進むにしても,当直は研修医なら誰もが通る道だ。限られた医療スタッフのもと迅速・適切な対応を求められ,判断に迷ったり,予想外の経過に冷や汗をかいたりすることもあるだろう。そんな経験から,当直に苦手意識を持っていないだろうか。救急医としての経験をもとに『ビビらず当直できる内科救急のオキテ』(医学書院)を執筆した坂本壮氏に,当直の何が難しいのか,何を心掛けるべきかを聞いた。


――坂本先生の普段の当直の状況について教えてください。

坂本 順天堂練馬病院では月に5~8回ほど当直しています。3人の研修医と一緒に,一晩で十数台の救急車で来院する患者を受け入れながら,入院患者の急変にも対応します。また,非常勤の西伊豆健育会病院でも月に数回勤務しています。

――救急外来ではどんな患者さんが多いのでしょう。

坂本 近隣に救命救急センターが存在しないため,3次救急の患者も来院しますが,内科疾患が原因の2次救急患者が最も多いです。内科疾患への対応は救急の基本ですから,研修医の皆さんにはしっかりと学んでおいてほしいですね。

Commonな疾患の非典型例を見逃すな!

――坂本先生は当直に慣れないころ,どんな気持ちでしたか。

坂本 当初は不安でいっぱいでした。卒後3年目,救急・集中治療科に入局して半年後からひとり当直を任されるようになり,責任の重さを感じました。

 夜間の救急外来では日中に比べて,緊急度が高い患者さんや,初めて診る患者さんが多いです。そのぶん,対応に迷う場合や処置に1分1秒を争う場合が多く,不安も大きかったです。

――どうやって自信をつけていったのでしょう。

坂本 出合う頻度の高い症候の鑑別と対応を徹底的に学びました。“Common is common”です。例えば呼吸困難の高齢患者だったら,肺,心臓,神経,精神などについて疑わしい疾患を考えていきます。肺なら肺炎や肺血栓塞栓症,心臓なら心不全や不整脈などと鑑別がすぐに挙げられるようになると自信がついてきます。

――よく出合う症候への対応を学ぶ上で気を付けるべきことは何ですか。

坂本 当直医が一番心配するのは「重篤な疾患の見逃し」です。見逃しは,珍しい病気だけでなく,虫垂炎や心筋梗塞などcommonな疾患でも起こり得ることに注意すべきです。

 例えば,胸痛は心筋梗塞の典型症状ですが,実は糖尿病の高齢女性などでは痛みがほとんど出ないことがあります。この場合,胸痛ではなく呼吸困難や脱力,失神,冷や汗,めまいなどを主訴に来院します。こうした非典型例については知識として頭に入れるだけでなく,日ごろから意識していないと見逃しにつながってしまいます。

 Commonな疾患については,さまざまな入口から想起できるようにしておくべきです。

病歴・身体所見から確定診断をめざそう

――非典型例も含めるとさまざまな疾患が考えられ,取るべき対応に迷ってしまいそうです。

坂本 確かに難しいところです。迷ったときに研修医はつい検査に走ってしまいがちです。そして結果が陰性だと「怖い疾患は否定的」としてホッとしてしまいます。ところがそれでは患者さんの安心には不十分なんです。

――どういうことですか。

坂本 例えば胸痛を主訴とする患者さんを考えてみてください。心筋梗塞を疑って急いで心電図をとったけれど,典型的な所見がなかったとします。「怖い病気ではなさそうですね。今日はいったん帰ってください」と医師から言われたらどうですか。

――こんなに痛いからわざわざ夜に来たのに,一体何なのだろう……と不安な一夜を過ごすことになりそうです。

坂本 そうなんです。例えばそこで,「高齢者だし,帯状疱疹の可能性もあるな」と考えて皮疹をチェックできるか。背中を見てみると水疱がある。よく聞くと昨日くらいからビリビリしていて,だんだん波のある痛みになったらしい。そうとわかれば,帯状疱疹と診断し,患者さんが安心できるような具体的な説明や治療ができますよね。

――怖い疾患の否定で終わらず確定診断をめざすことで患者さんの安心につながるのですね。

坂本 ええ。確定診断に向けて行うべき努力とは速やかな検査ではなく,丁寧な病歴聴取や身体診察です。疾患のサインの多くは病歴や身体所見から見つかります。こうして得た手掛かりをもとに疾患の当たりをつけた上で,あくまでも検査は「答え合わせ」として行うものです。

意識と呼吸は要チェック

――『ビビらず当直できる内科救急のオキテ』では,特に重要なバイタルサインとして「意識」と「呼吸」が挙げられています。それはなぜでしょう。

坂本 理由は2つあります。1つは,意識と呼吸の異常はモニターに出ないため,注意していないと見落としてしまうからです。2つ目は,脈拍・血圧・体温などのバイタルサインは薬の影響を受けやすく判断が難しいからです。特に高齢者では抗不整脈薬や降圧薬,解熱鎮痛薬を使っている人が多く,こうした薬剤によって頻脈や発熱がマスクされていることがよくあります。

――意識について確認のポイントを教えてください。

坂本 「普段との違い」を押さえることです。ぼんやりしている高齢患者に対しては,認知症や発熱のせいと決めつけてしまいがちですが,「意識障害」の見落としにつながります。意識障害は中枢神経や循環器の異常を示す危険なサインですから,家族や介護施設の方に「普段との違い」を必ず聞くようにしています。

――呼吸についてはどうですか。

坂本 呼吸が速いのに酸素飽和度が95%しかない場合,代謝性アシドーシスや肺血栓塞栓症などを疑います。呼吸数は時間を取って計測するのも大事ですが,素早く判断するコツとして私は,患者さんの呼吸様式をまねるようにしています。そうすると「これは速いし,ちょっと浅いな」などと瞬時に異常を感じ取ることができるのです。また,研修医が対応している患者さんを遠くからパッと見て,呼吸が速そうであれば「危ないかも」と判断してサポートします。

――意識と呼吸の異常に素早く気付くことが大事なのですね。

坂本 はい。逆に,意識清明で呼吸が落ち着いていれば,1分1秒を争う事態ではない場合が多いと考えて良いでしょう。

研修医の指導はベッドサイドで

――当直中や救急の忙しい現場で,研修医を指導する際には何を心掛けていますか。

坂本 まず,「忙しいから教えない」というのは大間違いです。忙しいからこそ,早く一人前になれるように育てるべきです。私は研修医や同僚と「共に学び,乗り越えていく」という仲間意識を大切にしています。

 私の場合,研修医への指導はベッドサイドでの問い掛けが中心です。例えば痙攣の患者さんが来たら,「痙攣で最初に気を付けるべきことは何?」と研修医に尋ねます。このようにして,症候や疾患ごとに理解しておくべきことを具体的に指導しています。

――患者さんがいない時間にまとめて教えるのではないのですか。

坂本 当直や救急ではまとまった時間が取れないことも多いですし,休める時には休み,次の患者さんの診療に備えることも必要です。診療を進めながら教えるのが一番だと思います。

 研修医にとっても,困っている場面で教わるのはメリットが大きいと思います。強く印象に残り,必死で覚えようとするからです。次の機会には1人でも対応できるよう,なるべく実践的に指導をするようにしています。

――当直に臨む研修医へのメッセージをお願いします。

坂本 当直の回数や研修医に任されることは施設によってさまざまですが,今日話したポイントはどんな現場でも必ず役立つはずです。基礎をしっかりと固めて,帰してはいけない患者を見逃さないための着眼点を養い,自信を持って当直に臨んでほしいですね。

(了)


さかもと・そう氏
2008年順大医学部卒。順天堂練馬病院での初期研修を経て,10年に同院救急・集中治療科入局。11年,13年ベストチューター受賞。「何でも診られる医師」になるための経験を積むべく,15年より西伊豆健育会病院に勤務(現在は非常勤)。17年より現職。救急科専門医,集中治療専門医,総合内科専門医,ICLSインストラクター。著書に『救急外来ただいま診断中!』(中外医学社),『ビビらず当直できる内科救急のオキテ』(医学書院)がある。