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第3243号 2017年10月9日


【対談】

Point-of-Care超音波
何を診る? どう学ぶ?

谷口 信行氏(自治医科大学医学部臨床検査医学教授/
自治医科大学附属病院臨床検査部部長)
亀田 徹氏(安曇野赤十字病院第一救急部長)


 超音波装置の小型化,画質の向上,価格の低下が進み,近年「身体診察の延長」としてベッドサイドで行う超音波検査が,世界中で広く受け入れられるようになっている。

 簡便な手順で,初心者でも一定のトレーニングを受ければ日常診療にすぐ生かせるスキルとして,急性期診療やプライマリ・ケアのさまざまな場面で導入されているPoint-of-Care超音波(以下,POCUS)。本紙では,臨床でどのように活用すべきか,研修医として押さえておきたいポイントをPOCUS研究会の谷口氏と亀田氏にお話しいただいた。


谷口 超音波検査の歴史は長く,日本超音波医学会の前身である超音波医学研究会は1961年に発足しました。当時は基礎研究が主でしたが,約30年前から装置の精度が向上したことで臨床活用が広まりました。

亀田 超音波検査は長年,超音波専門医や超音波検査士といった専門家により系統的に行われてきました。しかし小型の超音波装置の普及により,将来的には1人1台の時代が来るとも言われています。こうした変化を受け,超音波を専門としない臨床医によるベッドサイドでの活用が注目されています。

 今回は,超音波を専門としない臨床医がどのように超音波を活用するかにテーマを絞って話したいと思います。

ベッドサイドで臨床医が行う超音波検査,POCUS

谷口 POCUSは,Point of Care Testing(臨床現場即時検査)のように,ベッドサイドや診察室,時として病院外など,患者さんのいらっしゃるその場で行う超音波検査を指します。

 診断のためには,検査室での精査ももちろん大事ですが,そのためには患者さんに移動してもらう労力と時間がかかります。その場で情報を得られれば診断を絞れ,適切な検査オーダーにも役立ちます。

亀田 私は救急医ですが,特に救急の現場ではバイタルサインが不安定で超音波検査室へ連れて行けないことがあります。病歴聴取や身体診察,場合によっては治療と並行してベッドサイドで実施できるPOCUSは,素早い臨床決断,患者ケアの向上につながっています。

谷口 CTなどの検査結果を待つよりも早く他科へのコンサルテーションの判断もでき,より早く次のステップに進めるのですね。もっと言うとCT検査の件数が減らせるかもしれません。

亀田 日本のCTスキャナ保有台数は世界一です。多くの病院では臨床医の判断でオーダーでき,アクセスは容易です。しかし医療被ばくの問題から,CT検査が繰り返し行われる疾患や,小児,若い女性には特に配慮が必要です。一方超音波検査は,患者さんへの配慮を怠らなければ非侵襲的でほぼ禁忌なく施行できます。短い間隔で繰り返し施行できるので,経過観察にも適しています。

谷口 患者さんとコミュニケーションを取りながら検査できることも利点ですね。

亀田 適宜プローブで圧迫しながら「ここ,痛いですか」と触診や対話をしながら進められます。POCUSにより患者さんの満足度が上がるという研究結果もあります1)

谷口 他の画像診断では別の場所で検査し,結果が返ってくるだけですので,このような経験はできません。

亀田 指導者が立ち会えば,一緒に画像を見ることでフィードバックが受けられます。今後,POCUSはますます身近になると感じています。

研修医はどこまで学ぶべきか,押さえておきたいポイント

谷口 研修医は何をどこまでできればよいのか。これにはまだ答えが出ていません。医学教育モデル・コア・カリキュラムでは,超音波機器の原理とそれによる診断と治療の基本を学ぶこと,心臓・腹部の超音波検査を実施できることが目標として示されていますが, 具体的な基準は定められていないからです。

亀田 現場の実情も,日本では医師によってさまざまで標準化されていません。しかし少なくとも,検査室で行われる超音波検査を全部ベッドサイドで行うのは現実的ではありません。

谷口 そうですね。検査室で行う超音波検査とは着目点と手法を変えて,より短時間で効率的にやるのがPOCUSです。

亀田 POCUSの歴史と実績が最もあるのは米国救急医学会です。米国でも,もともとは超音波検査は放射線科医の独壇場でした。しかし夜間は専門医がいないこともあり,1990年前後から救急医によるPOCUSが使われ始めました。一定のトレーニングをした上で精度を臨床研究で確かめ,その結果を教育に落とし込み,ガイドラインを作ってきたのです。

 例えば,心臓の評価項目は多数ありますが,即座の判断が求められる急性期にすべてを評価するのは現実的ではなく,心臓の専門家以外の医師は手が出せません。心臓のPOCUSでは,専門家でなくてもベッドサイドで迅速に評価できる最低限診るべき項目が絞られ,現在ではFocused cardiac ultrasound(FOCUS)として国際的にある程度合意が得られています(表1)。

表1 Focused cardiac ultrasound(心臓のPOCUS)で評価する4項目

谷口 腹部はいかがですか。

亀田 水腎症・尿路結石,胆石・胆嚢炎,腸閉塞,腹部大動脈瘤,腹腔内出血・腹水においてPOCUSによる評価の妥当性が臨床研究で示されています2)。特に全体像の描出が比較的容易な臓器はPOCUSに向いています。例えば水腎症は,腎内に特徴的な形状の無エコーが観察されるため,rule-in/rule-outが比較的容易で,POCUSが非常に有用な病態です。

谷口 これまで超音波検査室で対象とされていなかった疾患に対してもPOCUSが活用されてきていますよね。

亀田 最近,気胸や肺水腫がPOCUSで迅速に評価できることが示され,海外では積極的に使われるようになっています。日本でも急性期診療で普及してきています。

 救急では骨折の判断に使えます。X線画像を撮れない病院外や災害現場で特に有用です。

谷口 肋骨骨折など,動くと痛いような方が救急で来た場合も,その場で超音波で診断できるとよいですね。

亀田 挿管時の気管チューブの位置確認への活用も2015年のJRC蘇生ガイドラインで取り上げられています。

谷口 逆に,POCUSが活用しにくい領域はあるのでしょうか。

亀田 POCUSの対象に選ばれるのは,頻度が高く,POCUSの結果が次の診療に役立つ疾患です。そして,臓器の正常像が出しやすいもの。例えば虫垂炎はご存じの通り頻度が高いのでPOCUSで診断したいのですが,虫垂は正常像を出すのが難しく,POCUSのみでrule-outすべきではありません。もっとも腫大した虫垂の描出は難しくはありませんので,一定のトレーニングを受ければPOCUSでrule-inは可能という認識は臨床研究を通じて広がってきています3)

 また,POCUSは焦点を絞って検査することが重要です。例えば,深部静脈血栓症が疑われる際は,総大腿静脈と膝窩静脈の2点のみを検査することになっています。鼠径部から下腿まで全ての深部静脈を検査するためには,熟練者でも15~20分程度はかかります。2点であれば,超音波を専門にしない医師でも一定の教育を受ければ5分程度で簡単に確認できます。

谷口 小さな血栓を見逃すおそれはあるものの,呼吸困難や下肢腫脹の原因となる大きな血栓を拾い上げることができるので十分なのですね。

 全体を詳しく評価するなら検査室で精査したほうが確実ですが,POCUSは,病歴・身体所見を基に疾患を推定し,その上で聴診や触診だけではわからない情報を得るために役立つ。

亀田 はい。的確なPOCUSを行うためには,きちんと診断推論し,適切な鑑別疾患を挙げて焦点を絞ることが最も重要です()。

 POCUSを用いた診療の流れ

 外傷の初期診療において,心膜液,血胸,腹腔内出血という多領域をプロトコルに基づいて評価する迅速簡易超音波検査法(focused assessment with sonography for trauma;FAST)のように,将来的には腹痛,呼吸困難,ショックなどでも同様のプロトコルが共有されることが理想です。

課題は質の担保

亀田 医師がそれぞれの裁量で実施し,自分の診療に生かすだけであれば問題ないかもしれませんが,他の医師や診療科と共有するためには精度管理が大きな課題です。超音波検査士や超音波専門医は系統的な教育を受け,一定の能力が担保されています。だからこそわれわれは検査を信頼できるのです。米国救急医学会では2016年改訂のガイドラインの中で12のcore applications(表2)を示し,各領域25~50症例(ガイド下手技は各5症例)の経験とレビューを必要としています。

表2 米国救急医学会の超音波ガイドライン2016年改訂版core applications

谷口 POCUSの結果を有意義に共有できるようにするには,臨床医にも一定の教育が必要ですね。

亀田 しかし日本では指導者も不足しています。各施設でトレーニングしている場合もありますが,統一された教育システムは確立されていません。

谷口 近年各学会で超音波セミナーが開催されていますが,対象となるのは各専門領域の超音波検査のみです。また,ある程度経験を持つ医師を想定したセミナーが多いので研修医は参加しにくいです。

亀田 私の場合は1年半救急の現場を離れて検査室に通い,超音波指導医と超音波検査士に教えていただきました。ただ,全ての臨床医がそうすることは不可能です。何年もかけて技術をマスターするのではなく,短期間のトレーニングと日常業務での繰り返しにより技能を獲得・維持するかたちが望ましいと思います。

谷口 POCUS研究会では,①心臓,②肺・気道,③腹部,④神経・血管,⑤運動器について,それぞれ半日のハンズオンセミナーを行っています。これに加えて,次の第4回からは頸部領域が加わります。研修医には領域横断的に一定レベルを網羅することが求められるため,それを考慮したコースを今後用意したいと考えています。今年度中には最初の案を作りたいです。

亀田 研修医の場合,まずはPOCUSの対象となる臓器・領域別の描出技術と疾患ごとの所見をマスターするのが目標ですね。

谷口 超音波を施行したことがない方は精神的ハードルもあると思いますので,ハンズオンセミナーなどで実際に自分で超音波のプローブを持つ機会が重要です。

亀田 超音波検査って,特に心臓などは専門家しかしてはいけない雰囲気がなんとなくありますよね(笑)。1人で勉強するのは難しいですから,教育を受けた方に手法を学ぶのが近道です。

谷口 超音波装置の機能が向上し,装置のプリセットで細かい調整をする必要はなくなりつつありますが,それでも一定の検査技術は必須です。うまくプローブを当てないときれいな超音波画像になりません。まずは実際に装置を使いながら正常像をマスターすると良いと思います。正常像をうまく出せるようになれは,異常像のマスターも容易になります。

亀田 例えば心臓では,FOCUSの4項目をしっかり評価できるようになれば,得られた所見は同僚や他科の医師との間で共有できると思います。

学部教育でのPOCUS

亀田 超音波が手軽に使えるようになり,欧米では医学部教育での取り扱いが議論されています。今までは超音波を使いこなすために,あらためて解剖学・生理学を勉強していましたが,発想の逆転で解剖学・生理学の勉強に超音波を活用するようになっているのです。例えば,僧帽弁や大動脈弁が閉まる様子をエコーで見ながら心臓のⅠ音,Ⅱ音を学ぶ。さらに,触診が正しいかどうかの判断など,身体診察のスキルを向上させるためにもエコーが活用されています。こちらには,触診で肝脾腫が疑われた場合やMurphy signを超音波で確認することなどが該当します。

谷口 将来的には聴診器のように,診療の精度をより向上させるためにPOCUSを普通に用いる時代になるのではないかと期待しています。ぜひ学生,研修医のうちから超音波に慣れ親しんで,さらに専門に進んでからもうまく活用してほしいですね。

(了)

参考文献
1)J Emerg Med. 2014[PMID:23942153]
2)J Intensive Care. 2016[PMCID:PMC4983797]
3)Acad Emerg Med. 2017[PMID:28464459]

第4回Point-of-Care超音波研究会
日時:2018年1月13~14日
会場:株式会社内田洋行ユビキタス協創広場CANVAS東京(東京都中央区)
詳細の問い合わせは以下まで。これまでの実績は研究会のHPをご参照ください。
E-mail:pocus2015@jichi.ac.jp(メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)


かめだ・とおる氏
1996年北大卒。札幌と東京で救急・集中治療の研修,超音波検査室で1年半の研修を経て,2009年より現職。2000年頃に普及し始めた携帯型超音波装置と出合う。検査士が短時間で病変を見事に描出する様子に衝撃を受け,超音波を本格的に学び始める。日本超音波医学会指導医・代議員,日本救急医学会指導医・評議員。『総合診療』誌で「診察で使える! 急性期Point-of-Care超音波ベーシックス」を連載中。

たにぐち・のぶゆき氏
1980年自治医大卒。学生時代,伊東紘一氏(自治医大名誉教授)によるセミナーで超音波と出合う。卒後,出身地の鳥取県立中央病院で研修,内科医として県内の病院,診療所に勤務。地方の中小病院,診療所ではCT検査がオーダーしにくく,超音波が診療の要となった。2006年より現職。アジア超音波医学会議元会長,日本超音波医学会副理事長,日本乳腺甲状腺超音波医学会監事,POCUS研究会代表世話人。