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第3239号 2017年9月11日


【座談会】

内科外来サバイバル
踏み外さない診療戦略

濱口 杉大氏(福島県立医科大学附属病院 総合内科部長)
岸田 直樹氏(北海道薬科大学客員教授/総合内科医・感染症医)=司会
西垂水 和隆氏(今村総合病院 救急・総合内科主任部長)


 内科外来を担当するのは,その道で修練を積んだ総合診療医ばかりではなく,他の領域を専門とする医師であることも多い。そうした医師にとっては,内科外来において「踏み外さない」ことが切実な問題だ。

 本紙では,3人の総合内科医にお集まりいただき,内科外来を担当することになった研修医に向けて,意識すべきポイントや見逃しやすい症例をご紹介いただいた。


岸田 内科外来は初期研修で経験することはほぼありませんが,後期研修に入ると専門外でも任されることが多くなります。今回は,ドキドキしながら内科外来の診療をしているであろう研修医の先生方に向けて「踏み外さないための診療戦略」をお話しします。

内科外来のピットフォール

岸田 まず,注意すべきピットフォールからスタートしたいと思います。内科外来でしばしば出合うのは,軽症だと思って判断を先延ばしにしていたら実はけっこう重症だったという「見た目軽症,実は重症」な例です。

 例えば,「風邪だと思う」と言って受診される患者さん。内科外来にはよく来ますよね。主訴にだまされがちですが,実際は風邪ではないことがあります。「内科外来はしょせん風邪ばっかりだし」という意識で診察していると見逃してしまいます。

濱口 インフルエンザに混じって来る尿路感染症などもありますよね。軽症患者さんが大多数な中に,ごくまれに注意すべき方が混じっているので足をすくわれやすいです。

西垂水 内科外来で診るのは歩いて来られている患者さんなこともあり,軽症しか来ないだろうという意識を持ちがちです。それも見逃しを招く原因の一つです。重症者の頻度は少ない上に,来院時にはバイタルも落ち着いていることが多いですから,より病歴に重きを置いて,発症時の様子を聞き出すことが大切です。

濱口 重傷者が紛れているかもしれないと身構えていれば,そうした患者さんに気付きやすいですよね。しかし常に気を張っているわけにはいかないと思いますので,緩急を付ける必要があります。

岸田 特にどういった患者さんに注意すべきでしょうか。

西垂水 高齢者,糖尿病患者,精神疾患患者は,元気そうに見えても安易に判断せず,一歩踏み込んだ検査をする意識を持ったほうがよいです。本人の自覚症状がないだけでなく,重症なのに見た目もバイタルも正常なことさえあります。

濱口 内科外来では「99歳,男性,咳」というだけで,要注意のスイッチが入りますよね。感覚麻痺がある方も,麻痺部分では通常見られるべき疼痛や圧痛が自覚されにくいので注意を払います。

岸田 見逃しやすいシチュエーションはありますか。

濱口 見逃しは病歴聴取や身体診察をスキップしてしまった時に多いと考えます。例えば,心窩部痛を主訴に来院した方の例を聞いたことがあります。内視鏡検査,心電図検査,腹部エコー検査では問題がなかったのですが,実は下壁の心筋梗塞だったそうです。

 多忙な内科外来では,まず検査をして,その結果が出てから患者と面接することもあると思います。私も忙しい時には検査に頼り,結果が正常だから問題ないと判断してしまうことがあります。病歴や症状をしっかり聞き,バイタルサインや見た目を手掛かりにして異変を感じ取ることが大事です。

西垂水 忙しくて病歴を聞かなかったり,患者さんは言っていたのに聞き逃したりということは私にもあります。1か月続く頭痛を主訴とする方で,苦痛の表情はなく,亜急性頭痛として腫瘍などを考えました。しかし,きちんと病歴を取ると頭痛はある日突然生じたことがわかったのです。椎骨動脈解離でした。

濱口 専門分野を持っている場合,検査や手技を用いてその専門分野の疾患を想定したり,除外したりということが行われますが,専門分野の疾患しか想定していないと,検査などで異常がなかった場合のアセスメントが難しくなります。

西垂水 自分の専門分野の疾患を想定しがちなのはある程度仕方のないことです。専門領域に引っ張られて見逃さないようにするコツは,病歴をきちんと聞いて自分の得意疾患のストーリーに合致するかどうかを意識することだと思います。

岸田 専門外の主訴の場合,「とりあえず」の検査を絨毯爆撃的にしがちですよね。そうしないためにも,しっかりとした問診が大切です。

西垂水 型通りに面接すれば見逃しは減らせるので,まずは型を学ぶべきです。

 その上でわからない場合には,専門科にコンサルトすることが大切です。きちんと病歴を聴取できたとしても専門外の病気を診断するのは難しいです。しかし,紹介先から結果を聞き勉強していけば,どんどんできるようになります。

救急外来とどう違う?

岸田 研修医が初めて内科外来を経験するとき,初期研修で経験した救急のノウハウで対応しようとしがちです。

西垂水 基本的には,まずは救急の知識を生かし,緊急性のあるものを見逃さないようにすることが大事です。私たちもそうやって育ってきました。

 ただ,内科外来の特徴の一つに,救急と比べて病歴が長いことがあります。救急患者は数日単位の発症が多いですよね。病歴が短ければ原因もわかりやすいですが,発症から数か月,数年を経ていると,他の症状が混ざり病態が複雑なことがあります。

岸田 臓器別の専門内科がある病院では,「内科外来」に来ている時点でセレクションが掛かっていることも意識すべきです。明らかに胸が痛い方は循環器科,腹部症状がある方は消化器科に回されます。内科外来に来るのは,主訴や原因が不明瞭で他科に振り分けられない,診断学的に難しい方です。

西垂水 一方,内科外来の良い点は,緊急性のあるものさえ除外できればその場で診断がつかなくてもよいことです。しばらくしてから再受診してもらうなど,繰り返し診る時間があるのです。その間に誰かに相談したり,経過を見たりできます。

岸田 わからない時は他の先生に振るのも一つの手ですよね。患者さんが話す内容が変わって,「なんで自分にそれを言ってくれなかったんだ?」となることもあります(笑)。

濱口 私が研修医に外来初診を経験させるときには,その後に振り返りのカンファレンスをします。経過観察とする患者さんには,診察後にチームで検討し,その結果気付いたことがあれば後から電話で連絡する可能性があることをあらかじめ伝えておきます。このようにしておくと,たとえ見逃しがあって電話連絡することになっても,患者さんは「皆で考えてくれているんだな」と感じ,むしろ感謝されるが多いです。

岸田 でも,内科外来といえども,先延ばしにできないケースもありますよね。西垂水先生から以前教わったのは,オンセットがsudden,hyper acuteな場合は落ち着いているように見えても,精査すべきということです。

西垂水 それが1か月前でも,オンセットがはっきりあるなら要注意です。例えば,2週間ほど食欲がなく,下痢をしている高齢者の例がありました。消化器系疾患か悪性腫瘍を疑いましたが,食欲低下のオンセットが急でした。精神疾患もあるため精査したところ,心筋梗塞でした。

濱口 最近,喉の痛みを訴える高齢者の例がありました。救急に来院し,初回は風邪薬が処方されました。しかし痛みが取れず再び救急受診しました。心電図,X線,採血でも問題がなかったため帰宅となりましたが,さらに症状が続くため救急を再受診し総合内科に紹介となりました。そこで病歴を聞いたところ,喉はある朝突然痛くなったと言うのです。しかも,咽頭発赤はありませんでした。発症時に少し冷や汗をかいたとの情報も得られ,大動脈解離を疑いました。CT検査で確定診断が得られ,緊急手術になりました。オンセットの聴取は本当に重要です。

岸田 まずは救急でのノウハウを生かして緊急性のあるものを除外した上で,さらに内科外来ならではの注意すべき疾患を除外することが必要ということですね。

「診断の砦」としての内科外来

岸田 表1に例を挙げたように,内科外来に訪れる患者さんは,複数の診療科で診断がつかずたらい回しになって来た方も少なくありません。そういう意味で内科外来は「診断の最後の砦」とも言えます。

表1 内科外来あるある症例(クリックで拡大)

西垂水 たらい回しになっている方は,筋骨格系の疾患が多いです。胸部や腹部の痛みが肋軟骨炎や下部肋骨症候群だったり膵癌疑いの背中の痛みが肋脊椎関節の機能障害だったり。

濱口 検査で異常が出ない疾患もたらい回しになりやすいです。検査で異常がないことはそれ自体が重要な手掛かりの一つでもあるので,それを踏まえた上で一歩進んで病歴や症状をさらに詳しく聞くと原因がわかることがあります。

 また,検査をすれば異常が出るものの,検査されていなかったケースもあります。若い女性の倦怠感として他疾患がほぼ除外された上で,貧血がなくともフェリチンを測ると低値であり,鉄剤使用により倦怠感が改善すれば非貧血性鉄欠乏症であることがわかります。こうしたケースでもやはり患者背景と病歴聴取が重要です。

岸田 1回の診察ではわからない疾患も,フォローしているうちに見えてくることがありますよね。

濱口 私の場合,診断がつかないときには,現時点ではある病気の症状の一部しかまだ出ていない初期段階である可能性を患者さんに伝えます。他の症状が今後出てくるかもしれないので,何か変化があったら必ず来るように言っています。

岸田 よくわからないからと曖昧な診断をつけたり,「風邪だ」とか「大丈夫だ」などと言ってそのまま帰してしまったりせず,現時点ではわからないと素直に伝え,経過を見るのですね。ある程度可能性を絞り込めているのであれば,今後出るかもしれない症状を伝えて,外来で継続的に診られるようにつなぎとめることが大事です。

濱口 現時点では検査結果に異常がなくても,後で症状が出たときに検査をしたら,異常が出るかもしれません。コミュニケーションができていれば,患者さんから見逃しだと非難されることは少ないです。

岸田 救急よりも患者さんとコミュニケーションしやすい状況ですから,まずは良好な人間関係を築き,異常があれば再受診してもらうというアプローチは現実的な戦略ですね。

専門分野の周辺から一歩広げて学んでいこう

岸田 専門性を持つ医師が,スペシャリストでありながらジェネラルに診られるようになるためにはどうしたらいいか。また,そうした医師を育成するにはどうすればいいか。先生方から,何かご意見はありますか。

西垂水 自分の専門科に来る可能性のある,周辺領域疾患の患者さんに対して,「専門分野の疾患ではない」と否定して終わるのではなく,「では何なのか」まで言えるようになると良いと思います。胸痛にも非心原性疾患,腹痛にも非腸管性疾患があります(表2)。

表2 各専門科が知っておくと役立つ周辺領域症例(クリックで拡大)

岸田 そうした学びはスペシャリストとしての能力向上にも役立ちますね。

西垂水 はい。そこまでやってこそ,スペシャリストだと思います。

岸田 究極的には,総合内科医が内科外来を診なくてもいいのですよね。スペシャリストが,周辺領域も診られるようになればいい。

濱口 年配の先生方は若いころに医局派遣などで地方の関連病院に勤務し,専門領域にかかわらず内科一般の診察をした経験がありますが,若い世代ではいったん専門分野に入ると,専門領域以外の疾患を扱う機会は少なくなり,専門分野を突き詰める研修が主となります。しかし,大学病院などの特定機能病院で専門領域のみを生涯にわたって診療し続ける医師は一握りで,ほとんどの医師は開業したり市中病院で定年を迎えたりすることになります。そうした環境では,高齢社会とも相まって専門以外の領域も診ざるを得ません。好むと好まざるとにかかわらず,「誰もがいつかはジェネラリストになる」のです。

 新専門医制度では内科専攻医に初診外来を経験させる期間を作ることになっています。これにより,一般の内科外来を学ぶ機会が増えると予想されます。また,プログラムは地域医療にも配慮して作られるため,小規模な病院にも行くことになる可能性が高いです。小規模な病院では,特定の領域だけでなく何でも診る必要性が生じます。自分の専門外で,あまり知らないものを診るのは不安だと思いますが,最初からジェネラルなトレーニングをしていき,その上に専門を持つ形が良いのではないでしょうか。

内科外来は面白い!

岸田 非総合診療医・非総合内科医 の多くは,内科外来へのモチベーションは,実際はそう高くないですよね。しかしせっかく担当するなら,面白いほうがいい。マニュアル本を片手にドキドキしながら診察しているような先生にこそ,内科外来の面白さをお伝えしたいです。

西垂水 内科外来の醍醐味は,やはり診断です。問診票を見て,まずは頭の中で診断を考え,話を聞く。すぐに病名がわかる場合もあれば,考えたものとは違う場合もある。最終的な診断がつき,「あの時の訴えはこれだったのか」とストーリーがつながる瞬間はとても面白いです。

岸田 先ほど内科外来に来るのは診断学的に難しい方だと言いましたが,その難しさが面白さでもあるのですよね。

西垂水 聞いたことのない主訴と出合うのも面白いです。不定愁訴のように思える訴えも,疾患を探る唯一のヒントです。変な主訴でも,軽い症状でも,局所を限定して「ここが変」という場合,何か疾患が隠れていることが多いです。

濱口 症状の訴え方は患者さんによってさまざまですよね。私は患者さんが何を訴えたいのかをひもとくことに興味を持ちます。最近では,「うつでADLが落ちた」という主訴で紹介され来院した車椅子の高齢女性の例がありました。うつ傾向がもともとあり,夜トイレに立とうとして転倒して以降動けなくなったそうです。しかし,転倒前後の話を詳しく聞くと,関節痛があったとのことでした。また夜立てなくてトイレにいけないことが何度かあったようです。診察により,高齢発症の関節リウマチだとわかりました。夜トイレに立とうとして立てなかったのはいわゆる「朝のこわばり」だったと考えています。

岸田 西垂水先生に内科外来の指導を受けたときに「風邪ばっかりですよね」と愚痴ったら,「面白い症例1例に出合うために,10人以上の風邪を診るものだ」と言われました。「よくいる普通の患者さんの中にinteresting caseが混じっている」と。

 内科外来の経験はきっと自分の役に立ちます。研修医の皆さんにはぜひ,楽しんで内科外来に取り組んでほしいです。

(了)


きしだ・なおき氏
1995年東工大理学部中退,2002年旭川医大卒。手稲渓仁会病院初期研修,総合内科・医学教育フェロー修了。静岡県立静岡がんセンター感染症科フェローを経て,10年より手稲渓仁会病院総合内科・感染症科感染症科チーフ兼感染対策室室長。14年より一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事。17年より現職。編著に『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版』『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた』(いずれも医学書院)など。

にしたるみず・かずたか氏
1992年鹿児島大卒。沖縄県立中部病院シニアレジデントを経て,今村病院分院(現・今村総合病院)勤務。2001年に,365日24時間体制の総合内科である救急・総合内科を立ち上げる。その後,手稲渓仁会病院,JA北海道厚生連倶知安厚生連病院に勤務し,07年より現職。共同執筆に『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版』(医学書院)。

はまぐち・すぎひろ氏
1995年新潟大卒。天理よろづ相談所病院,市立舞鶴市民病院での研修を経て,関西医大心療内科学教室。2001年より北海道の複数の病院でへき地・離島医療に従事。06年よりロンドン大衛生熱帯医学大学院校留学,熱帯医学修士取得。07年に江別市立病院に赴任し,内科医総辞職により危機に瀕していた同院の再生プロジェクトを牽引する。10年には同院内に総合内科医育成センターを創設した。16年より現職。